冒険者の街拡大計画1
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アルテと一緒に行ってもらっていた団はその場で解散とした。後でエスパーダから報酬を受け取ってほしいと伝えると、冒険者達は笑いながら騒がしく散り散りになっていく。
機械弓隊は整列して戦果を報告後、セアト村に向かった。どうやらかなり頑張ってくれたようだ。最後に、そっとアルテのことを褒めてくれと頼まれたのだが、機械弓隊の面々はアルテのことを気に入ってくれたのかもしれない。
ちなみに、アルテはそのまま僕の隣に残った。
「この通りに何か作るのですか?」
不意に、アルテが口を開いた。それに顔だけ振り返って頷く。
「そうだね。冒険者の街は旅人や行商人に関しては殆どが素通りしてセアト村を目指すだろうから、必ず通る中心の通りに店舗や宿屋、飲食店を配置したかったんだ」
そう説明してから、成る程と頷いているアルテに苦笑を返す。
「大丈夫かい? まだ帰ってきたばかりなんだから、今日は休んでたら良いのに」
心配してそう言うが、アルテは微笑みながら首を振る。
「ご心配、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。私の我が儘で機械弓部隊や冒険者の方々を雇っていただきましたから、今度は絶対にヴァン様の助けになるように頑張ります。そのためにもヴァン様が何をしようとしているのか、どんなことを考えているのか分かるように、お傍で一緒にお仕事を見ていこうと思いまして」
と、珍しくアルテは自分の意思を明確に示してきた。それも僕の目を真っすぐに見ながらである。
「そうか。でも、きつい時は言ってね? 椅子も用意してもらおうかな」
「ありがとうございます。でも、一緒に歩きます」
そう言って、アルテは胸の前で小さな握り拳を作る。どうやら決意は固いらしい。そう思って見ると、表情までいつもより凛々しく見える。戦場を経験したことで何か心境の変化があったのかもしれない。
十歳で大したものだと感心するが、疲労感は隠せていない。それに微笑みながら、ティルに小さい一頭立ての馬車を用意させた。人力車みたいなサイズだ。
「じゃ、僕は馬車で移動しようかな? 僕の仕事について一緒に考えてくれるなら、隣にいてくれると助かるけど」
そう言って一足先に馬車に乗るとアルテは目を瞬かせたが、やがて柔らかく微笑を浮かべた。
「……ありがとうございます」
お礼を言いながら馬車に乗ろうとするアルテに手を差し出し、手助けをした。ティルがものすごく奇妙な笑顔を浮かべてジッとこっちを見ていたが、意地でも気にしないことにする。
というか、馬車に二人で座った途端、周りの人々も笑顔でこちらをチラチラと見ているではないか。少し気恥ずかしい。
さて、ニヤニヤしている観衆は放置して、現状すべきことを思い出すぞ。
「お店を作るにしても、現在の商店の数でもベル達が限界みたいだから、商業ギルドやメアリ商会から応援が来るまで自前で何とかするよ。まず、新たに村人になった人たちから商人だった人を探してきて」
「はい!」
僕の指示に、カムシンが良い返事をして素早く動き出した。その後をエスパーダが「では、今回は少し基準を甘くして人数を確保しましょう」とか言いながら付いていった。まぁ、人員確保は二人に任せて良いだろう。
そして、改めて通りを眺める。
「さて、まずは新しく宿屋を準備しよう。食事も提供するなら一階が食堂の方が良いね。人数がどれくらいになるか分からないから大き目で作ろうかな? 冒険者の町は範囲が狭いから三階建てか四階建てにして上に大きくした方が良いね」
そう言って、さっそく町の中心近くで宿屋を作る場所を選定する。
「位置は……やっぱり入り口からそこそこ近い方が良いかな」
そう言って通りの中央から左右の道沿いに空いている土地を選定しようとした。その時、馬車の後方から見慣れた人物が顔を出す。
「ヴァン様、何をするんですか?」
プルリエルだ。先程は大勢の冒険者と一緒だったので、全体に向けて労いと感謝の言葉を述べただけだったが、オルト達に関しては後でバーベキュー大会をして改めてもてなしたいと思う。
「今から宿屋を作りますよ。この前要望があって、宿屋を経営したいって言われたんです」
そう答えると、プルリエルの後ろでオルトの隣に立っていたクサラが首を傾げた。
「え、宿屋ですかい? あっしもちょい前に……」
困惑気味に呟くクサラに頷き、空き地を指差す。
「うん。クサラが宿屋したいって言ってたから作るところだね」
そう答えると、プルリエルとオルトがクサラを振り向いた。
「え? あっしの宿屋?」
驚くクサラに首肯を返す。すると、オルト達に見られながら、クサラは慌てて前に出てくる。
「え、あ、今から宿屋を、作っていただけるんですかい? そ、そりゃあ嬉しいですが、ちょっと懐具合的にも確認したいことが色々と……一年前からしたら比べ物にならないくらい稼いでやすが、それでも店を買うなんてしたことがないんでさ」
そう言うクサラに、片手の手のひらを左右に振った。
「いや、今回はサービスで金貨五十枚で良いよ。ついでに家具までつけてあげる」
そう答えると、クサラは白目を剥き、オルト達は顔を引き攣らせた。
「み、店を新築すると思ったらそれくらいは掛かるでしょうが、ちょいと冒険者稼業の俺たちには厳しい額ですね」
「……パーティーメンバー全員で出し合っても半分くらいかも」
そんな会話をするオルト達に、そういえば感覚が麻痺していたかもしれないと思い直す。しかし、今後も誰かが店を出したいと言ってくる可能性がある。その際に毎回無料で作っていたら時間も取られるし、タダならと発注が相次いでしまうかもしれない。
なら、金貨三十枚くらいまで値下げするべきか。
そう思っていると、クサラが額から汗を流しながらこちらを見た。変質者のように鼻息荒く口を開く。
「わ、分かりやした……! 今は持ち合わせがありやせんが、五年で稼いでみせやすぜ!」
威勢よくそう叫ぶクサラに、オルト達が顔を見合わせ、誰からともなく吹き出して笑った。そして、全員が僕を見る。
「ヴァン様、俺たちも出します。何とか、足りない分は借金という形で……」
「お願いします」
オルトの言葉をプルリエルが引き継ぎ、頭を下げた。それに、僕も片手を挙げて苦笑する。
「別に問題ないですよ。じゃ、早速作ろうかな」
そう言ってから、準備してもらっていたウッドブロックを使って建築を始める。イメージはクラシックなデザインのゴシック建築ホテルだ。
大きさが大きさなだけに、それなりに時間はかかる。よくあるワイン保管庫も作りたかったので、地下室を完備。ロマンだよね。
「かなり広く地下一階、後は一階を食堂と厨房、フロントで、二階と三階を客室……建材が無くなっちゃったから家具はまだ作れてないけど、そこらの宿屋には負けないものが出来たはずだよ」
そう言って振り返ると、クサラは目を丸くして固まっていた。そして、オルトは遠い目をして顎を引く。
「……そうでしょうね」




