圧倒的なるセアト村の設備
このバリスタでドラゴンを倒しましたと言うと、アポロは顔を引き攣らせたまま苦笑いを返してきた。
「……このような恐るべき兵器は、他国でも見たことがありません。これは、いったい誰が開発を?」
「僕ですが」
答えると、アポロの顔は引き攣った。
「この、不思議な城壁の形は……」
「わざと角を作ってるんですよ。こうすることによって……」
と、城壁や物見の塔、建物の素材などに答えながら、今度はベルランゴ商会へと案内する。
途中で合流すると思っていたベルが、いまだに顔を見せていない。恐らく、ギリギリまで商会内の書類を確認しているのだろう。
若干不安になりながらも平静を装い、店舗の中に入る。店内はいつも通り賑わっており、店員は客の相手に奔走していた。
「ベルさんはいる?」
近くの元奴隷である女商人に声を掛けると、奇声に近い返事をして頭を下げ、奥へと走っていった。
何となく心情が理解出来るのか、ディアーヌとロザリーは苦笑している。揃って立ち尽くす形になってしまったが、ディアーヌとロザリーが店内の様子に意外そうな表情を作った。
「……想像以上にお客がいますね」
「冒険者ばかりじゃなくて住民の姿もあるみたいです。貧乏な村では見られない光景ですね」
二人が話しているのを聞いていると、ベルが来るまでの間に時間が出来たと判断したのか、アポロも店内の商品を物色し始めた。店員は客である冒険者や住民にかかりきりになっており、必然的に商品説明は僕の役目だ。
「この、見事な剣は……」
「僕が作りました」
「……この鎧や盾は、不思議な素材ですね」
「原材料は木、ですね。一応」
と、答える度にアポロの表情が曇っていく。
これは信用されていないな。
そう判断して、実際に作製するところを見せようかと材料を探した。
「お、お待たせしました! ベルランゴ商会のベルと申します!」
そこへ、額に汗をかいたベルが登場する。ベルはいつも以上に丁寧な挨拶をする。アポロ、ディアーヌに挨拶をすると、ロザリーと二言三言会話をしてからこちらを振り向く。
「で、では、ヴァン様。書類等は夜、宿で確認されるそうなので、一緒に倉庫へ向かいましょう。申し訳ありませんが、ヴァン様がいないと説明が難しくて……」
済まなそうにそう言うと、ベルはアポロを先導するように魔獣の素材倉庫に向かった。
その後に続いていくと、ロザリーがカムシンにそっと声を掛ける。
「……生活はどう?」
小さな声で聞かれたのだが、カムシンは真面目にしっかりと答える。
「ヴァン様も皆もお優しいですし、毎日美味しい食事が食べられます。ただ、ヴァン様を守るために毎日訓練をしてますが、まだまだ弱いままで……」
と、久しぶりにカムシンが悩みのようなものを口にした。珍しい。
そう思って横目で見ていたが、ロザリーはそんなカムシンの頭をなでまわした。
「幸せみたいだね。じゃあ、思い切り頑張って、強くなりなよ」
ロザリーがそう言うと、カムシンは真剣な表情で頷く。
ふむ。そんな悩みがあるなら僕に一番に言ってもらいたいが、守る対象である相手には言えないのだろうか。
複雑な気持ちで顔をあげると、ティルがお姉さんのような顔で微笑んでいた。
なんか恥ずかしい。
「こちらが、魔獣の素材専用の倉庫になります」
と、そんなやりとりをしている間に目的地へ到着していたらしく、ベルが緊張した面持ちで説明を始めていた。
「以前、緑森竜をヴァン様が討伐されたことがありますので、大型のドラゴン二体から三体分の素材を保管することが出来る大きさになっております。ただ、それでも今は毎日持ち込まれる魔獣の素材で許容量を超えそうですが……」
疲れを感じさせる笑みと声でそう前置きしてから、ベルは倉庫の扉を開ける。大型の魔獣の素材用にかなり巨大に作った両開き扉を開き、中の様子をアポロ達に見せた。
その光景に、アポロだけでなくディアーヌ達も声を失う。
目の前には大人二人並んで通れる程度の幅のスペースがかろうじて空いており、その左右には山と見紛うような素材たちが堆く積まれていた。それも、どう見ても希少な魔獣の素材ばかりである。
「これは……」
掠れた声で何か呟くアポロに、ベルは浅く頷きながら先導する。
「入り口付近に運搬が困難な大型の魔獣の牙や骨、皮などを置いております。そして奥は運搬が楽な小型の魔獣の素材です」
「ば、馬鹿な……これほどの希少な素材の数々を一度に目にする日がこようとは……」
ベルの説明を聞いているのか、いないのか。アポロは目を見開いて素材の山を見回している。
「ほ、本当に、これだけの魔獣を……?」
ロザリーが目を瞬かせながら素材の山を見上げ、呟く。
「そうですよ。最近はこの街を拠点とする冒険者の人達が大量の魔獣の素材を納品してるみたいで、ベルが日に日にやつれていくんですよね」
笑いながらそう言うと、ベルが疲労を滲ませて愛想笑いを返した。一瞬の間が空き、ディアーヌがこちらに笑顔を向けて口を開く。
「……そこにある甲殻亜竜の皮は随分と綺麗に切り分けられていますが、どのような刃物で……」
そんな質問に、僕は微笑みを浮かべて頷いた。
「はい。木や鉄を材料にした大型のナイフを準備してるので、それを使って……」
質問に対して誠実に解答していくが、段々と三人の顔が曇っていく。
また嘘だと思われているのかもしれない。目の前で実演するべきだろうか。
そんなことを思っていると、それまで静かに付いてきていたティルとカムシンが静かに素材を持ってきた。
丸太や鉄鉱石を手に、二人は怒ったような顔でこちらを見ている。言いたいことは痛いほど伝わってきたため、苦笑を返して首肯した。
「では、一度やってみましょうか」
そう言って、まずは丸太を手にして意識を集中。魔力を込める。
ウッドブロックは目を瞑れば作り方が思い浮かぶほど作ってきた物だ。だから、作製までの時間は僅か一、二秒程度。
丸太が分解されていく端からウッドブロックへと作り替えられていき、アポロ達の息を呑む声が響く。
そして、三人が声を発する間も与えずに、次はウッドブロックをナイフへと加工していく。ダガーに近い大型のナイフだ。
鍔の部分は無いが、装飾も緻密に施した代物だ。土産物屋に置いても人気になるに違いない。
そのナイフをカムシンに渡すと、カムシンは恭しく受け取り、静かに甲殻亜竜の皮に刃の部分を当てた。
スッと音が聞こえ、皮の端が切り落とされる。
「……え?」
その光景にアポロ達は目を見開いて固まり、ロザリーが疑問符を浮かべて変な声を発した。
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