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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】アルテの帰郷と調査員

【アルテ】


「……いいんですかい? 親御さんに会わなくて」


 オルトさんにそう聞かれて、私は困ったように笑う。


「私が帰っても困らせてしまうだけですから……」


 そう告げると、オルトは複雑そうな顔で一つ後ろを進む馬車を見た。馬車の幌は無く、そこにはボロボロになった人形二体が静かに座っていた。


 鎧は無残に剥がれ落ち、変形してしまっている。そして、人形本体も至る場所に傷が刻まれていた。


 それを横目に見て、オルトは溜め息を吐く。


「あの二体とバリスタのお陰であの街は救われたんだ。その街の領主の娘であるアルテ嬢がそれをしたと知れば、領民は大喜びですよ? 親御さんだって……」


「……どうでしょう。母は、私の傀儡の魔術を忌み嫌っていましたから……私の魔術を認めてくださったのは、ヴァン様だけです」


 目を伏せて答えると、オルトは押し黙る。


 実際、私が帰ったところで喜ぶとは思えなかった。それに、フェルディナット伯爵家の旗を掲げて敵軍を撃退するという目標は達成したのだ。


「……さぁ、帰りましょう。ヴァン様が待っています。私にとって、帰る場所はもうヴァン様のお側だけですからね」


 明るくそう告げて笑うと、オルトは目を瞬かせたが、すぐに吹き出すように笑った。


「そうですか。まぁ、アルテ嬢が良いなら俺らは何も言いませんよ。そんじゃ、ヴァン様に戦勝報告といきましょう。多分、バーベキューでお祝いしてくれますよ」


「ふふ、そうですね。楽しみです」


 そんな会話をして、私は帰路についた。


 不思議と、肩が軽くなったような気持ちだった。これまで常に感じていた、母への申し訳なさや自らの惨めさ、自己の存在意義についての悩みが、とても軽くなった気がする。


 母に会いたい、褒めてもらいたいという気持ちは少しあるけれど、今は何よりヴァン様に会いたい。会って、私は頑張った、やり遂げたと伝えたい。


 だから、私は振り返ることも無く、ヴァン様の待つセアト村を真っ直ぐに目指したのだった。







【フェルディナット】


 謎の援軍がイェリネッタ軍を圧倒的な力で瓦解させて去っていった。


 旗は我がフェルディナット伯爵家のものだった。


 それらの情報を聞き、フェルディナット家の城内では大きな騒ぎとなっていた。


「いったい何者でしょうか」


「伯爵家の派閥に入る近領の貴族では?」


「馬鹿を言うな。飛竜まで連れたイェリネッタの大軍を少数で撃破するなぞ、誰にでもできることではない」


 至る場所で騎士や家令、メイドまでもが話をしている。


 一方、奇跡的に生き残ったことを理解したアルテの母や姉は、呆けたように窓から外を眺めていた。


 暫くして、アルテの姉が口を開く。


「……いったい、誰が助けにきてくれたのでしょう……」


 そう呟くが、アルテの母は返事もなく、外をジッと見ていた。城下町の城壁は無残に崩されており、一部からは煙も上がっている。普段の平和な街の姿からはかけ離れた光景だ。


 そこへ、去っていく援軍を見送った騎士団の一人が報告にきた。


「報告いたします。防衛に向かった騎士団の内、約千人が死亡。重傷者は千五百人です。ただ、援軍のお陰で奇跡的にも領民の被害は今のところ少ないと予測されます」


「そうですか」


 返事を聞き、騎士が一礼して去ろうとすると、アルテの姉が振り向いた。


「あの援軍について、何か分からないの?」


 そう問われて騎士は立ち止まり、一瞬答えづらそうにしたが、やがてアルテの母に向き直り口を開いた。


「……はい。現在、分かっていることは四つ。一つ目は援軍がフェルディナット伯爵家の御旗を掲げていたこと。二つ目は鎧や装備に統一性が無かったとの報告から傭兵か冒険者の集団であったこと。三つ目は援軍の現れた方向と去っていく方向がフェルティオ侯爵領の方角であったこと。そして……」


 報告の途中で、アルテの母も窓から視線を逸らし、騎士を横目に見た。


「……四つ目は、先頭で馬に乗り、指揮をとっていた者が、白い髪の幼い少女のようだったと噂されていること。以上です」


 そして、最後の報告を聞き、びくりと肩を震わせて再度、窓の外に顔を向ける。


「……まさか、そんな……」


 小さく震えるような声で何か呟き、アルテの母は何も喋らなくなってしまった。そんな母の背を、アルテの姉は何も言わず、ただ見つめていた。






【調査員】


 スクーデリアに、異常な収益を上げる新商会が誕生した。なんと、その商会は王都ではなく、辺境の小さな村に拠点を置いているらしい。


 有り得ない。何か裏がある。ギルド職員の間では即座にそんな噂が広まった。


 商業ギルドでは様々な国と所属する商会の情報が集まる。商業ギルドに属していれば、様々な国の輸出入品の詳細や価格の一覧が手に入る。更に、ギルド会員間の協力により遠く離れた場所への書状のやり取りや、初めて立ち入る国や街でも商売相手を紹介してもらうことが出来る。


 これは複数国に根を張る大商会でなければ不可能なことである。そのため、大半の商会はまず商業ギルドに加入するのだ。商業ギルド会員の利点は他にも無数にあるが、大半は販路拡大や他国の商品の情報を知るために加入するだろう。


 しかし、商業ギルドに加入すると商会の規模に応じた年会費だけでなく、売り上げの一部を支払う必要もある。


 それらを嫌がり、これまでにも何度も売り上げや規模を誤魔化す商会が現れたものだ。


 その規律違反を行った商会は違約金を払った上に除籍処分となるが、大概がその通りにはしない。調査員を口封じに殺害しようとする輩までいる始末だ。


 だから、我々のような調査員が派遣される時は十分な自衛能力を持つ一団を引き連れての大移動となる。


 各国の王都には商業ギルドの支部が置かれているため旅程は少ないが、その大人数での移動のせいでかなりの費用が掛かる。


 今回は偶々王都に拠点を持つメアリ商会が協力してくれることになり、目的地を同一にするキャラバンに同行させてもらえることになったが、それでも商業ギルドと繋がりのある冒険者十名を雇っている。


 場所が辺境であることも考慮すると、今回の調査も費用は中々といったところだろう。


「……アポロ様? 何か、険しいお顔をされているようですが……?」


 と、声を掛けられて、私は思考を中断する。


 顔を上げて正面に座る二人を見た。一人はこの馬車の持ち主であり、若くしてメアリ商会の商会長を務めるトリエンフ姉妹の三女、ディアーヌ・トリエンフ。赤い髪に緑を基調としたワンピースを着た愛嬌のある少女だが、その実力は商業ギルド内でも時折話が上がるほどだ。


 その隣に座る三十歳前後の女性はロザリー。メアリ商会の王都の一店舗を任せられている店長だ。二人の会話を聞く限り、初代商会長の一族であるトリエンフとは一切関係ない外様の人間であり、商人見習いの更に下働きから始めて店長まで成り上がったという稀有な人間だ。


 つまるところ、メアリ商会が誇る商才豊かな二人といったところだろう。


 私はそれぞれ別々の感情の下同じように眉根を寄せる二人を見返し、口を開いた。


「いえ、商業ギルドの調査員をしていると、考えたくないことばかり考えないといけないなと思いましてね……いや、申し訳ない」


 苦笑混じりにそう告げると、ロザリーが頷く。


「それは私どもも同じですよ」


「そうですか。いや、そうですね。確かに、貴女がたの立場は私と似たような悩みを抱えるのでしょう」


 そう答えると、二人は困ったように笑う。当たり障りの無い会話をしているように見えて、二人の目は私の腹の内を探ろうとしているのが分かる。


 それはそうだろう。今から向かう先は元メアリ商会の会員が新たに立ち上げたベルランゴ商会だ。調査の目は、場合によってはメアリ商会にも向く。


 立ち上げたばかりの商会とは思えない利益を上げるベルランゴ商会が手を組んでいるのは、果たしてメアリ商会なのか。それとも、フェルティオ侯爵家なのか。


 最悪、王国が絡むことも考慮しなくてはならないかもしれない。


「……まったく、考えたくないことばかりですよ」


 そう呟き、私は乾いた笑い声を上げた。下手をしたら周りが敵だらけになる。覚悟を決めておかなければならない。






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