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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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【別視点】裏側

【アルテ】


「嬢ちゃん! まずいぞ! こっちに大軍が向かってる!」


「わ、分かりました! ワイバーンはもういませんね!?」


「さっきので最後だ! 敵さん、俺らを先に叩きにきたぞ!?」


「流石に騎士と真正面からやるのは不利だよねぇ?」


 冒険者さん達の報告や声を聞きながら、私は早鐘のように音を立てる心臓を押さえるように胸に手を当てた。


 顔を上げれば視界一杯に迫ってくるイェリネッタ軍の兵士達の姿と、耳を覆いたくなるような怒号、地鳴りのような突撃の音が聞こえてくる。




「イェリネッタ軍を迎撃します! バリスタ、機械弓を攻撃の要としますので、他の皆さんは盾を構えて防衛に徹してください!」


「うぉおっす!」


 指示を出すと、野太い声が返ってくる。


 皆が私なんかの言葉に従い、行動してくれる。本当に有難い。


「アルテ様。魔術を使用して足止めしますよ?」


 プルリエルさんが確認してくれた。それに頷き、こちらに向かってくる敵軍を見る。


「足元を凍らせたり出来ますか? その場で動けなくさせることが出来たら……」


「範囲が限られるけど、この正面に限れば大丈夫。でも、あの人数でぶつかられたらあっという間に潰されちゃいそうですよ」


「お願いします。ほんの少しでも足止め出来たら……!」


 頭を下げて頼み込むと、プルリエルさんは困ったような顔で頷いた。


「ヴァン様もそうだけど、最近は貴族の印象が変わってばかりね」


 小さく何か呟き、プルリエルさんはオルトさん達に振り返る。


「皆、足止めに尽力して動こう。どう考えても、接近を許したら負けるわ」


「こっちの弓矢が届く距離は相手の弓矢も届く! 足止めするにも限界があるぞ!?」


「……エスパーダ殿を連れてきていたら」


「馬鹿言うな」


 不安からか、冒険者の皆さんが大騒ぎしながら準備している。


 やはり、ヴァン様のようにはいかない。戦いの知識も足りないし、震える足を止めることもできやしない。


 ならば、せめて私が出来ることは全てやらなければ。


「オルトさん! 指揮をお願いします!」


「そ、そりゃ良いが、どうするつもりですかい?」


「私は、前線に出ます!」


「へっ!?」


 驚愕の声を上げるオルトさんから視線を外し、中心にある馬車を見上げた。御者席にはヴァン様の機械弓隊に所属する男性が座している。


「人形をお願いします!」


「分かりました! どれにしますか?」


 男性は笑みを浮かべてそう言うと、馬車の壁面を開けて振り向いた。


 奥にはミスリル製の人形があるが、あれでは魔力の消費が激しい。とてもではないが長時間戦うことは出来ない。


 その隣に並ぶ鉄やミスリルの鎧を着たウッドブロックドールならば、長時間動かすことが出来る。操作は雑になるかもしれないが、頑張れば二体同時に動かすことも出来るだろう。


「こちらの人形、二体を動かします! 武器は出来るだけ長い物を!」


「二体ですか? 長いのはこちらの長剣ですが……」


「ありがとうございます!」


 驚く男性に急ぎ感謝を伝え、魔術を行使した。


 動き出した人形二体は普段より僅かに動きがぎこちないが、何とか剣を握って立ち上がり、馬車から降りてきた。


「よろしくお願いします」


 私が人形に声を掛けると、二体は騎士のように剣を前で立て、一礼する。


 その様子を御者席に戻った男性が唖然とした顔で見ていた。


 恥ずかしい。自身で操る人形と会話する場面を見られてしまった。思わず顔が赤くなるのを自覚する。


「行ってきます!」


 慌てて踵を返し、人形を連れて走る。


 一気に最前列へと行き、戦場がよく見える場所に立った。


「アルテ嬢!」


 オルトさんがすぐに側に走ってくる。その目はすぐに私の後ろに立つ人形達に向いた。


「成る程、こいつらが前線に行くのか!」


「はい!」


 返事をして、人形達を動かす。剣を構えて走り出した人形は、左右に分かれるようにして敵軍の中へと消えた。


「敵を蹴散らして、一対の銀騎士(アヴェンタドール)!」







 大きな盾を構えながら前進する歩兵達は、敵を魔術師の一団と想定し、緊張感を滲ませていた。


 歩兵同士のぶつかり合いも恐ろしいが、遠距離から上級魔術による攻撃を受けるのは更に恐ろしい。歩兵も弓兵も騎兵も気を抜かなければ、そして運が良ければ生き残る。


 しかし、魔術は別だ。自分の元に炎の上級魔術など飛んでくれば、間違いなく焼かれ死ぬ。


 敵の喉元まで辿り着けるかは本当に運に支配されるだろう。


 だから、歩兵達は丘の上の敵援軍を攻撃するに当たり、極度の緊張に震えていた。飛竜が一撃でやられたのを見た直後なのだから尚更だろう。


 だが、そんな歩兵達の中の一人が、予想外の光景を目にして驚きの声をあげた。


「……単身で向かってくるぞ!」


「まさか、馬もなく一人で!?」


「囮か!?」


 困惑しながらも、兵達は一斉に盾と槍を構える。指揮官の一人も我が目を疑っていたが、すぐさま片手を挙げて指示を飛ばした。


「一人で戦いを挑むとは愚かな! 前衛部隊、槍で突き殺せ! 後方は弓矢と魔術に警戒せよ! こちらを足止めする為の策だ!」


 指揮官のそんな指示に、兵達は慌てて動き出す。確かに、事情を知らなければ銀の鎧の騎士二人は囮と考えるだろう。


 目立つ二人が常軌を逸した突撃を行い、混乱して動きを止めたところを魔術で大きく数を削りにくる。


 それが普通だ。


 ところが、実際に起きたのは更に予想外の事態だった。


 槍を構える歩兵の壁に衝突した瞬間、無残に弾き飛ばされたのは重量級の盾を構えた歩兵達だったのだから。


 まるで破城槌などの攻城兵器が高速で衝突したかのような激しい衝撃と轟音。そして、冗談のように吹き飛ばされる鎧を着た兵士達。


 イェリネッタ軍の両サイドでほぼ同時に起きた信じられない光景に、軍の足は完全に停止した。


「と、止めろっ!」


「魔術師はどうした!?」


 指揮官達は隊列を切り裂いていく銀色の騎士達を止めようと必死になっているが、それと相対する兵士達はたまったものではない。


 意を決して槍を突き込むが、確実に刺さった筈の槍が柄の半ばからへし折れる。盾で銀騎士の大剣を受けて止めようにも、盾ごと真っ二つになってしまう。


「ば、化け物だ!」


「くそ! こっちに来るぞ!?」


「ど、退け! あんなの止められっか!」


 戦争の真っ只中とは思えない悲鳴の響き渡る戦場に、指揮官の一人は冷や汗を流しながら歯を嚙み鳴らした。


「……これは、戦争ではない。ただの虐殺の場だ。それも、たった二人による……」


 そう口にした瞬間、風を切る音と地響きにも似た激しい音が響き渡り、指揮官の胸部に穴が空いた。鎧の有無も何も関係無い。まるで紙を針で突くように、あっさりと身体に穴をあけて死んだ指揮官。


 馬から力無く落下する死体を見て、兵士達の戦意は瞬く間に喪失してしまった。


「くそ! 俺は逃げるぞ!?」


「馬鹿、押すな!」


「退けよ、この野郎!」


 悲鳴、絶叫の中に罵声や怒鳴り声が混じり始めた時には、もうイェリネッタ軍は軍として機能していなかった。


 それを見て、アルテ率いる一団は足止めに使っていた魔術や機械弓、バリスタを攻撃に切り替える。


 敵の中を縦横無尽に駆け巡りながら敵兵を薙ぎ倒していく銀騎士達に遠距離攻撃が加わり、イェリネッタ軍は完全に瓦解した。


 散り散りに逃げるイェリネッタ軍に、丘の上からは大歓声が響き渡ったのだった。







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