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お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜  作者: 赤池宗


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悪いことはしていません

 悪い事をしたわけではないけれど、色々と疑われたら面白くない。


 そう思い、資材や魔獣の素材などを整理整頓し、数えやすくしておく。


 ヴァン君の統治は透明性が売りである。公明正大、明朗会計、正直経営、画竜点睛、美味佳肴がモットーだ。


 まぁ、よく分からないが、全て開示して「さぁ、どうぞ」といけば大体は大丈夫だろう。そうすれば「なんて堂々とした態度だ。こんな正直な人が横領だの脱税などする筈がない!」となるに違いない。


 ヴァン君の計画に狂いは無いのだ。


 そう思ってテキパキと準備を終え、いつでも来いと言えるようにする。


 しかし、日に日に表情が暗くなるベル。そして、倉庫内に並べても並べても後から後から出てくる魔獣の素材。


石鱗大蛇(ロックスケイル)黒羽天魚(フライデルヘッジ)森の巨人(ジャイアントトロール)……あ、赤刃虎(レッドサーベル)まである。うわ、黒亜龍(ブラックドレイク)!? 下位のドラゴンじゃないの!」


 段々と大型の魔獣の素材が姿を見せていき、最後にはドラゴンまで出てきた。


 僕が驚いていると、ベルが小さな声で呟き始めた。


「……その、これら魔獣の素材などは、まだ王都どころか商業ギルドにも報告できておらず……」


「へ? なんで?」


 疑問符を上げると、ベルが泣きそうな顔になってこちらを恨めしそうに見る。


「……冒険者達は馬鹿みたいにダンジョンで魔獣を狩ってくるから、冒険者ギルドでも捌けずに我が商会へ。アプカルル達も税金のつもりなのかヴァン様宛に希少な鉱石を持ってくるから、エスパーダ様が選別して一部は我が商会に……さらに、ヴァン様がほいほい作る武器や防具には冒険者が殺到します……そんな中、街の防衛で乱獲される魔獣の素材までは、手が追い付かず……頑張っても素材の剥ぎ取りまでしか出来ない有り様ですよ……」


 と、ベルは多忙さをアピールしてきた。確か、従業員の採用の話が毎週報告書に上がっていた筈だが、それでも人手が足りないのか。


 よく見れば、ベルの目の下にはクマがあり、若干痩せたように思う。


「可哀想に」


「……あまり、心が篭ってないような……」


 僕の同情の声に、すっかり心が荒んでしまったベルは人間不信的発言をした。


 いくら忙しくても、人間こうはなってはいけない。


「それで、儲けに儲けているベルランゴ商会は、かなりの売り上げを誤魔化している、と」


「誤魔化していませんよ!? だから、間に合っていないだけなんです! 聞いてましたか!?」


 と、ベルは興奮した様子で弁明した。


 僕は笑いながら「ごめんごめん」と謝り、素材を指さす。


「じゃあ、この素材は報告予定です、みたいに言えば良いんじゃないかな?」


 答えると、ベルは腕を組んで唸り出した。


「う〜ん……量があまりにも多いですからねぇ……信じてもらえるかどうか……実は、商業ギルドの調査は初めてなんですよ。と言うより、対面して話したこともありません」


「え、そうなの? それだけ珍しいってこと?」


「いえ、メアリ商会にも毎年調査員が来てたと思うのですが、商会の上の者達が対応するので、私たちは全く……」


 と、難しい顔でベルが言った。確かに、考えてみれば当たり前である。いわば税務署が調査に来るみたいなものなのだ。きちんと説明出来る、組織の中核の人間が相手をせねばなるまい。


「……まぁ、なるようになるでしょ」


 初めてのことならば、考えてみても分からない。僕は早々に諦めることにした。


 すると、ベルはまた泣きそうになりながら、深く溜め息を吐く。


「私はもうちょっと悪足掻きしますよ。報告する予定だと証明出来るように、素材の帳簿を完成させます。まだ、半分も出来てませんがね……」


「大変だね。なら、こっちでもベルランゴ商会の忙しさが分かるように書類集めておこうか。毎月上がる商会からの税収と採用報告の書類、後は僕が作った武器や防具の売上報告書とかまとめてもらうよ」


 そう告げると、ベルが「あ……」と嫌な声を出した。


 冷や汗を流しながら顔色を失っていくベルを見て、僕は半眼になって呟く。


「まさか、脱税してたり……」


「い、いえ……逆です」


「逆?」


 何を言ってるのかと首を傾げると、ベルは乾いた笑い声を発しつつ、こちらを見た。


「多めに、税金を納めてました……」


「え、本当? どうもありがとう」


 内緒でそんなことしてくれてたなんて。今度ベルに新しい武器や防具を卸してあげよう。もっと儲かって嬉し泣きするかもしれないね。


 そんなことを考えていたが、ふと、重要なことに気がつく。


「あれ? じゃあ、疑われるのは僕のほう?」


 聞き返すと、ベルは神妙な顔となった。


「……一番はヴァン様。二番は癒着しているとして私達が……」


「君、なんてことをしてくれたのかね」


「も、申し訳ありません!」


 一転して文句を言うと、ベルが深く頭を下げた。僕は苦笑しつつ、片手を振る。


「冗談だよ。僕の為にやってくれたんだから怒れないよね。でも、次からは税金は普通の代金で良いからね? もう十分過ぎるくらいお金貰ってるから」


 そう言って笑うと、ベルは涙を堪えて頷いた。


 実際、我がセアト村の収益はハンパない。ベルランゴ商会から上がってくる税金は確かに大きいが、それでも一部だ。正直、村を防衛していてセアト騎士団やエスパ騎士団が討伐する魔獣をベルランゴ商会に売った利益の方が遥かに大きい。


 ちなみに、僕の販売する武器や防具、バリスタと矢なども凄い利益になっていた。


 支出としては、村の中の必需品や消耗品はベルランゴ商会に言って赤字価格で提供してもらっており、その足りない部分は僕の資金で補っているし、アプカルル達の食費や日用品、雑貨も僕が支払っている。


 騎士団の運営費用や割高に設定した騎士達の給与。エスパーダ達の給与。他にも収入が低めになりがちな農家の人の補助もある。ちなみに、まだ領民全員の人頭税を代わりに払っているが、これは請求するつもりもない。


 そういうことで、他の領地よりも遥かに福利厚生の充実した領地だが、それでも圧倒的黒字経営だ。


 これこそヴァン君の素晴らしき領地経営の手腕と言いたいところだが、実は違う。


 他の領地が最も苦労している道や城壁、建物の建設、更にはインフラ整備まで費用が掛かっていないからだ。


 これは物凄く大きい。城壁作りなど、何ヶ月も掛かって大人数の労働力を投入せねばならない。


 故に、我が領地は他の追随を許さぬ程の純利益を上げているのだ。


「……ん? ということは、このセアト村の運営状況をしっかり説明すれば、何とかなるんじゃない?」


「な、なりますか?」


 僕の結論にベルは不安そうに聞き返してきた。


 いやいや、ヴァン君の計算は完璧な筈である。


「任せてよ。領主として、僕が商業ギルドの調査員さんを相手にしようじゃないか」


 そう言って胸を叩いてみせると、ベルはようやくホッとした顔つきになった。


 そんなやり取りをして、僅か二日後、もう商業ギルドの調査員が到着するという先触れがセアト村に到着したのだった。


 商業ギルドの調査員が到着するまでに、ベルランゴ商会の事務員やエスパーダ、ティルとカムシンも協力し、連日夜中まで書類作成とファイリングに追われた。


 まったく、こんな苦労は予想外である。


 緊張しながら商業ギルドの調査員を迎えに出向く。


 まだ便りはないけれど、アルテは元気にしているだろうか。無理をしていないと良いのだけれど。





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