領主の仕事、アルテの戦い
結構な頻度でやってくる魔獣を討伐し、素材を売ってお金が儲かりました。ただ、ベルランゴ商会がパンク寸前です。
矢の在庫が減ってきたので、作成してください。
一部の民家の下水が詰まりました。水を流してもダメでした。臭いので可及的速やかに処置をお願いします。
アンドレさんに第三子が誕生しました。是非ともヴァン様に名付けをお願いします。
馬車が足りません。商会曰く、市販の馬車はセアト村の馬車よりかなり性能が悪いのに高価とのこと。出来たらヴァン様に作ってもらいたいです。
新たな住民がきました。人数は五十人ですが、その内十人は騎士団への入団希望です。面接をお願いします。
などなど、エスパーダの言っていた大量の仕事が執務室に山積みになっていた。
「……新しく住民になった人でベルランゴ商会で働ける人はいないか聞いてみて。いればその人も騎士団の面接と一緒に面接しよう。消耗品の作成の時についでに馬車も作ろうか。馬は足りる? トイレが臭いのは嫌だよね。一番に詰まりを解消しようか。アンドレさんのお子さんは……ヴァンダムでどうだろう。強そうでしょ?」
迅速に方針を決めていき、素早く現場に直行する僕。
何かがおかしい。
「あぁ、ヴァン様! 良くぞご無事で!」
「アミーさん、お久しぶり。お陰様で何とか無事だったよ。心配してくれてありがとう。あ、トイレ詰まったって? 何か変なの流した?」
「いや、お尻を拭く木の皮ぐらいしか……」
「……それだね。名探偵のヴァン君は一発で分かったよ。次からはベルランゴ商会でトイレットペーパーを買ってくれるかな? 生活用品は格安にしてるから、高くないよ」
「おぉ、ありがとうございます……! 今後はトイレトパーとやらを使わせてもらいます!」
「……よし、詰まりは解消したよ。下水管の大きさを拡げたから、多分今後は大丈夫かな? じゃあ、次の場所に行かないといけないから」
「あ、ありがとうございます! 流石はヴァン様! ヴァン様は迅速、丁寧、格安という評判通りでした!」
「どこかで聞いたキャッチフレーズ!?」
と、トイレや下水管のメンテナンスに奔走する頃には、本格的に領主の仕事というものに疑念を抱き始めた。
こんな水のトラブルを解決して回るのが領主の仕事だっただろうか。
まぁ、皆が喜んでるから良いか。
「はい、矢を千本ね。材料が減ってきたから、冒険者ギルドに資材調達依頼をお願い。あ、馬車は一応装甲馬車にしといたけど、大丈夫? 移動式バリスタを下ろせば荷物はいっぱい載るよ」
「ありがとうございます! そういえば、行商人がこちらの馬車を欲しいと言っていましたが……」
「一台白金貨一枚ね。今度来た時に聞いてみて」
「は、はい!」
物作りも領主の仕事……いや、もう何も考えるまい。ただただ物作り用機械として働くのみである。
と、そんな感じで様々な仕事をこなしたのち、領主の館でベルと会談をする。
「新たに魔獣の素材運搬用に知り合いの行商人に声をかけ、運搬の依頼を出していますが、もう限界です」
「ほう」
初っ端から疲弊した様子のベルに、僕も一応深刻な顔で頷いておく。
ベルは溜め息混じりに肩を落として口を開いた。
「この地はウルフスブルグ山脈に最も近い場所にありますから、魔獣が多いのは仕方がないと思います。しかし、通常なら追い払うことしか出来ないような大型の魔獣を相手に、セアト村は全て討伐して素材を回収しています。その上素材の状態は最高です」
「良いことじゃない?」
そう答えると、ベルは恨めしそうにこちらを見る。
「儲かるのは良いことです。今後従業員が増えた時のことを考えて格差を出さないように毎回一定以上の売り上げをあげたら特別報酬を出していますし、ヴァン様が言っていた村人達への還元として、日用品や食料を安く販売することが出来ています。しかし、明らかに目立ち過ぎました」
「目立つ?」
首を傾げて聞き返すと、ベルは大きく頷いた。
「一応、王都以外の大きな街にも分散して素材を売りに行っていましたが、やはりこれだけ貴重な魔獣の素材が連続して出回るのは異常事態です。結果、どうやら近々にでも商業ギルドの立ち入り調査が行われることが分かりました」
「前も来てなかった?」
「メアリ商会の商人達と王国、冒険者ギルドの調査だけです。この国の各商会も商業ギルドに加入していますが、商業ギルドから調査を受けることはまずありませんでした。こんな辺境の小さな領地が調査を受けるなんて、異例中の異例ですよ!」
さらっとディスられた気がするが、そこは気にしてはならない。ベルが冗談を言う空気にしてくれないのだ。
「あ、商業ギルドって、隣の大陸に本拠地を構える世界最大のギルドの……」
「そう、それですよ! こっちの大陸ではあまり派手な動きはまだしていませんが、隣の大陸では名実ともに最大のギルドとなっています」
「その商業ギルドが、何故こんな場所まで……」
溜め息を吐きながらそう言うと、ベルは恨めしそうな目で僕を見た。
「そりゃ、メアリ商会や王国とかと裏で結託してる可能性を考えてるんですよ。商業ギルドというのは加盟者を増やすために極端に規模の小さい商会からは入会料以外取らないですからね。これが大きな商会だったら、売上の一部を取られてしまいます」
「成る程。それは調査に来るだろうね。ついでに、メアリ商会の人も一緒に来るかな?」
そう確認すると、ベルは頷く。
「勿論です。もっとも怪しまれているのはメアリ商会でしょう。小さな領地にある小さな商会がたまたま巨額の富を稼ぎ出したということにして、メアリ商会が全て利益を持っていく。そう疑われている筈です」
「疑惑が確かなら問題だったけど、別に悪いことしてないから大丈夫じゃないかな?」
答えると、ベルが嫌そうな顔で唸る。
「いや、そう簡単な話ではありません。商業ギルドの調査は相当細かい部分までされるそうです。それこそ、領主の共犯も疑われます。つまり」
「僕も……?」
首を傾げると、ベルは深く頷いたのだった。
【アルテ】
街道を進んでいくと、懐かしい景色が広がってきた。
麦畑と、二足歩行の亜竜を使った竜車。町や村との間が比較的離れていないフェルディナット伯爵領では、馬車よりも鈍足だが、頑丈な竜車が多く使われている。
だが、今は普段に比べると様子が違った。
普段なら、行商人や冒険者なども多く、街道はもう少し賑やかな筈なのに。
「……やっぱり、フレイトライナが言った通り伯爵様の不在を狙って侵攻してきてんですかねぇ」
オルトさんがそう口にすると、プルリエルさんが眉根を寄せる。
「そういうことをアルテ様の前で言わない」
苛立たしげな様子で注意するプルリエルさんに、クサラさんが腕を組んで頷いた。
「そうでさぁ、オルトの旦那。細やかな気遣いがモテる秘訣、ですぜ?」
「ぬぐぐ……超美人の嫁さん手に入れたからって調子に乗りやがって……」
そんな会話を聞いて、私も思わず笑ってしまう。
イェリネッタ王国の侵略は気になるけど、焦っても仕方ない。ヴァン様なら、絶対に焦らない。冗談を言ったりして、周りの人を和ませる。
最初は、ヴァン様がただただ揺るがない鉄の様な心を持っているのだと思ったけれど、そんなことはない。
ヴァン様が焦ったり、怯えたり、泣いたりしないのは、貴族としての心、誇りがあるからだ。
皆を率いるヴァン様が揺るがず、余裕を見せることで、部下の方々も迷わずに実力を発揮することが出来る。
「……お気遣いありがとうございます。まずは、情報を集めながら真っ直ぐ向かいましょう。城下町は城壁に囲まれています。焦らずとも、必ず間に合います」
そう言って微笑むと、オルトさん達は目を瞬かせた後、感心したように笑い、頷いたのだった。
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