第三の手
僕がセアト村に戻ると、そこそこ交戦した形跡はあった。だが、大したものではない。
「お帰りなさいませ」
エスパーダを筆頭にメイドや兵士達が頭を下げつつ出迎えてくれる。ディーは嬉しそうに笑いながら何度か頷いていた。
「ただいまー! スクデットを取り返したから一足先に帰ってきたよ!」
そう答えると、あのエスパーダが僅かに目を見開いた。
「もう、ですか。流石はヴァン様。あの鉄壁の要塞を奪われたと聞き、攻城戦に数ヶ月は掛かるものと思っておりましたが……いや、愚問でしたな」
言いつつ、エスパーダは僕の後ろにある装甲馬車を見て勝手に納得した。それにディーが笑い、ふと、僕たちの人数が少ないことに気がつく。
「ボーラ隊長達はどうされました?」
「あぁ、ボーラさん達は一度パナメラ子爵の騎士団に組み込まれたからね。だいぶ遅れて帰ってくると思う」
「ふむ。それは良い経験になりそうですな。我が騎士団は他からは考えられないほど緩い規律と空気となっています。これを機に、他の騎士団でそういったものを学んでくると良いでしょうな」
そんなことを言って呵呵大笑するディーに、騎士団の者達は苦笑いを浮かべる。
まぁ、規律と空気は緩くても訓練内容は鬼のようだからね。これで雰囲気まで張り詰めたら皆泣いちゃうんじゃないかな。
と、そんなこんなで笑いながら我が領地たる村に戻り、領主の館に帰る。
「え、ウニモグ兄さんが捕まってるの? じゃあ、ここはまさかフェルティオ侯爵領の端の村……?」
領主の館に着いて、更に情報を引き出すためにフレイトライナを馬車から降ろして軽く状況を説明したのだが、村の景色を見回して怪訝な顔をされた。
「そう、今は僕の領地になったセアト村だよ」
「へ、へぇ。ここがあのウニモグ兄さんでも楽に制圧出来ると言われた極貧の村……って、違う違う違う違う! ぜったい嘘! ちょこっとしか見えなかったけど、スクデットより力の入った城壁まであったよ!? というか、どの建物も知らない建築様式だし、凄い塔まである!」
と、フレイトライナは目を見開いて叫び回った。左右からは兵士が剣を構えているのだが、完全に意識の外だ。
「あれ、良いでしょう? 左右に高い塔を作って、しっかり周囲を監視してるんだ。城壁は多分だけど王都より頑丈だし、防衛設備はドラゴンを討伐した実績もあるからね。この村の自慢の設備だよ」
「すっげぇっ!? いや、違う違う! それは凄過ぎるけど、これの何処が村!? うちで手にしてた情報とかけ離れ過ぎてて目眩がするよ!?」
フレイトライナは頭を両手で押さえながらワァワァと騒ぐ。
むぅ。なかなか良いリアクションだ。ヴァン君の好みである。他に驚くものなんかなかったかな。
そんなことを考えながら領主の館に入り、皆の出迎えに返事をしながら執務室に向かった。
執務室に入るやいなや、椅子に縛り付けられるフレイトライナ。左右にはアーブとロウが立ち、背後にはディーが仁王立ち。対して、正面のソファーに座る僕とアルテ。左右にはティルとカムシンが立っている。
完全包囲された状態で、フレイトライナは青い顔でガタガタと震えている。
「……さて、フレイトライナ君。分かっているとは思うが、知っている情報は全て吐いたほうが身の為だよ。吐かなければ、生まれてきたことを後悔することになる……」
「は、はい! なんでも喋ります! 殺さないでください!」
即答するフレイトライナに、僕は首を左右に振った。
「……そうか。なかなか強情な奴だ。王族としては見上げた根性だけど、この場では愚かと言う他ないね。まずは小手調べに指の爪から始めよう。次に歯、耳……目は最後にしてあげようか」
「ちょ、ちょちょちょっ!? ちょっと待って! 喋りますから! いや、もう王族とかどうでも良いんで、ヴァン様に心から忠誠を誓います!」
「ふふふ……その強がりがいつまで持つのか。楽しみだね」
「話を聞いて!? 強がってないです! むしろ全力で服従してますからね!?」
うむ、面白い。なかなかの逸材じゃないか。
僕が期待の新人のリアクションを楽しんでいると、ティルとアルテが眉をハの字にしてこちらを見ていた。
流石にイジメ過ぎただろうか。
「分かったよ。仕方ないな。残念だけど、拷問はまたの機会にしようか」
「いずれ拷問されるっ!?」
震度七くらいの勢いで震えるフレイトライナに、僕は苦笑しつつ口を開く。
「冗談だよ。それじゃ、今後は僕の味方になってもらうということで、聞かれたことは全部答えるように」
「は、はい!」
フレイトライナはこれまでで最も良い返事をし、背筋を伸ばした。
それから一時間ほどだろうか。フレイトライナは見事なまでにぺらぺらと語った。
そして、今は皆でその内容について確認している。
「……つまり、イェリネッタ王国は三ヶ所から攻め込む計画をしており、これまでの状況からここセアト村とスクデット侵攻は失敗している、と」
合流したエスパーダがそう告げると、ディーが歯を見せて笑う。
「イェリネッタ王国も大した作戦を立てたものですが、頼みのワイバーンも黒色玉も防がれて大敗。これら全てヴァン様の手柄ですな」
笑いながらそう言うディーに、カムシンも嬉しそうに頷く。
だが、エスパーダとアルテは違った。特にアルテは深刻な顔で肩を震わせている。エスパーダはそれを横目に、低い声で唸った。
「……そのどちらもヴァン様の兵器がありましたが、最後の一ヶ所、フェルディナット伯爵領にはそれがありません。主力はスクデットに向けられたようですが、かなり苦戦していることかと」
エスパーダがそう言うと、皆がアルテを見た。アルテ・オン・フェルディナット。フェルディナット伯爵領の末娘なのだ。
冷遇されてしまったとはいえ、やはり心配だろうか。
そう思っていると、アルテは決意を滲ませた顔で僕に向き直った。僅かに目を潤ませつつ、凛とした顔で口を開く。
「……ヴァン様。恐らく、イェリネッタ王国の軍がスクデット侵攻に次ぐ規模であったとしても、フェルディナット伯爵領は数ヶ月は持ち堪えることが出来ると思います。そうなれば、パナメラ様とボーラさんをお待ちして……」
早口にそう言うアルテに、僕は片手をあげて言葉を遮った。
「今すぐ援軍の準備をしよう。新しく移動式バリスタやカタパルトを作らないといけないから、すぐに出発とはいかないけど、出来る限り早く助けにいくよ」
答えると、アルテの目に涙が浮かんできた。堪えようとするアルテの顔から視線を外し、エスパーダを見る。
「材料を準備出来るかな? 人手も欲しい。騎士団から何人連れていって良いかな?」
尋ねると、エスパーダは思案顔で顎を引き、数秒沈黙した。
「……そうですな。一時的に二つの騎士団を合併し、そこから二十名選抜しましょう。後は冒険者を三十名雇うくらいでしょうな。数は少ないですが、ヴァン様の兵器を活用して遠距離からの援護ならば十分可能でしょう。フレイトライナ氏の情報から推測するに、フェルディナット伯爵領に向かう一軍はまだそのことを知りません。資材は掻き集めれば足りますので、二日後には出発出来ることでしょう」
答えて立ち上がるエスパーダに、ディー達が合わせて立ち上がる。
「アルテの故郷だからね。絶対に僕達で助けるよ」
そう言って僕も立ち上がる。しかし、そこへアルテが待ったをかけた。
「……いえ、ヴァン様。フェルディナット伯爵領のことまで、ヴァン様に頼りきるわけにはまいりません。人形をいただけたら、冒険者の方々と私が向かいます」




