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我が転生  作者: アドルフ・ヒトラー
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第8話「酒場」

出監金を貰って門を出ると、外には既にヴォルクスブルク伍長が、傍に馬車を従えて待っていた。

恐らく私の出監を見越して手配してくれていたのだろう。

「おぉ、ヴォルクスブルク伍長か!久しぶりだ。感謝するよ。」

彼は唖然としていた。それもそうだろう、私はこの時、自分の後ろに34名の同志を引き連れて門から現れたのだ。

「あぁ、彼らか。彼らは皆私の同志だ。さて諸君、彼が私の最初の同志であるヴォルクスブルク伍長だ。」


私の紹介と共に、彼らは「宜しくお願いします!伍長!!」と挨拶した。

「よ、宜しくお願いします…」

伍長は戸惑いを隠せない。それもそうだろう。いきなり8名もの仲間を集めてきたのだ。訳が分からなくなって当然である。


「ヒトラーさん…彼ら、本当に仲間にして大丈夫なんですか?」

「あぁ大丈夫だとも。皆、勇敢な国家社会主義の戦士だ。」

「はぁ…」

「あぁそうだ伍長、私は決めたよ。」

「何をですか?」

彼は期待の眼差しを向けてくる。


「私は、アルティナ自治市の市長選に打って出るつもりだ。」

「おぉ…!!」

「地方の自治都市となれば、選挙制度は大選挙区制だな?」

「ダイセンキョクセイ…?ですか、すみません。無知なもので…」


あぁ、そうなのか。

私は今一度、自分の置かれている世界の文明の程度の低さを思い知らされた。

この程度の文明では政治のレベルもその程度という事であろう。中選挙区制も、比例代表も、更には政党ですらあるのかどうか怪しいものだ。


「あぁ、いや、なんでもない。気にしないでくれ。」

私は伍長にそう言うと、仲間の紹介に入った。

「伍長、紹介しよう。私の仲間達だ。」

「はぁ。」

「まず1人目を紹介しよう。このか細い青年はアルベルト。アルベルト・クロイツェル君だ。」

「宜しくお願いします。」

彼は伍長に挨拶をした。

彼は頭が冴えている。きっと良い参謀になってくれるだろう。


34名が次々と伍長に挨拶をしていく。

伍長は忙しそうに挨拶を交わした後、私を見た。

「これ、もう少し馬車を手配した方が良さそうですよね…」

「あぁ、無論だ。36人乗れるようにしたい。」

「わ、分かりました…」

伍長は急いで馬車業者に向かうと、残された我々は、待ちながら話した。


「市長選に出ると言っても、ヒトラーさん、あんたに勝つ算段はあるのかい?」

野暮ったく言ってきたこの男の名はカール・ヴェルス。

元社会学者で知識が豊富な人材だ。

よく居る、豊富な知識を保管しているが、余りに硬直した思考の為に、柔軟な考えを出す事は苦手な、参謀には向かないタイプの、初老の男だ。


「正直な所、分からない。アルティナ自治市に1歩も足を踏み入れた事が無いものでね。」

「はぁ」

「ただ、直ぐに選挙という事はないだろう。ゆっくり街を見て、改善点を見つけ出せば、自ずと戦略も見えてくる筈だ。」

彼は又、「はぁ」とだけ言って黙った。


暫くすると、6台の馬車を従えて、ヴォルフスブルク伍長が戻って来た。

「おぉ、済まない伍長。金がかかったろう。」

「いえ、まぁ、大丈夫ですよ。顔見知りの馬車業者なのでね、安くして貰ったんです。」

「そうか、済まない。6台という事は…」

「1台に6人まで乗れますので。」

「宜しい。諸君、乗りたまえ。」


我々は馬車に乗り込み、一路、アルティナ自治市を目指した。

我が逆襲の為に、私の再びの闘争のために。


乾いた蹄の音が、軋む木の音と共に、私の耳に入ってくる。

のどかな農村地帯を幾らか通り、出発からそろそろ2時間が経とうとしていた。

慣れとは恐ろしいもので、車という便利な文明の利器に慣れてしまった私でも、ここまで異世界生活を続けていると、馬車に慣れるようになってきた。


周りの仲間達も皆寝ている。

あぁ、あと何時間待てば着くのだろうか。

そう思った時、御者が言った。

「まもなく、到着致します。」

おお、やっとか!

私の念願の闘争の舞台だ!

未開人共に国家社会主義を教え、更なる闘争を開始するのだ!

この世界には幸運な事に、悪名高きユダヤ主義者(シオニスト)も、共産主義者(コミュニスト)のルンペン共も、まだ居ない!

宜しい。思う存分、私の腕を振るうとしよう。


前方に壁に囲まれた集落らしき物が見える。

あぁ、あれか。あれが待ちに待った、闘争の街の火だ。

前は1923年に一揆を起こしたミュンヘンだったが、今回はこの、アルティナだ。


6台の馬車は関門に着き、止まった。

周りは塀で囲まれており、門の両端には松明が置かれて、黄金色に輝いている。その下には衛兵が見張りをしていた。

起きたヴォルフスブルク伍長は1人馬車から降りて、関門の衛兵に対して事情を説明してくれている。

その後、門が開かれ、我々はアルティナ自治市へと入城した。

この時既に、空は暗くなっていた。


驚いた。中央の通りは、正にミュンヘンのビア・ガーデンの如く賑わい、酒場や宿が軒を連ね、暗闇の街に店の中から黄金の光を出していた。

私は見慣れた景色の有り難さに感涙を禁じえなかった。

「あぁ、これぞまさにミュンヘンだ…」

「ヒトラーさん?」

「あぁ、そうだったな、伍長、ありがとう。まずは感謝する。」

「泣いてます?」

「いや、目に埃が入っただけの事だ。」

「なるほど…で、アルティナに着きましたけど、どうします?

我々は住居も、宿もなく、夕食もまだですが…私の金もあまりありません。」

「そうだな、とりあえず明日までに全員が職場を見つけなければならん。」

「はい。」

「今は、ひとまず出監金を使ってそこの酒場に入るとしよう。」

「はい、分かりました。」


こうしてその酒場、「戦士の泉(クリィーガー・クェレ)」には、我々36名がぞろぞろと押し寄せたのである。

「これは大変!あんた達、団体さんだよ!」

飲み屋の女主人と思しき女性が声を張り上げる。

オレンジ色の髪をしているうら若き女性だ。気の強そうな顔をしている。

三つ編みにした髪型が特徴的とも言えるだろう。

彼女の号令一下、奥から多くの男、女、獣人、色んな種族の従業員が出てくる。

そしていそいそと此方に向かって来て、ヴォルフスブルク伍長の所までやって来た。

「これはこれは、団体様、よくぞいらしてくれました。」

「あの、すまんが36名、住むところにも、食うところにも困っていてな、金は皆一律の50ディナールだ。」

「あ〜、えっと、50ディナール…そういう事ね…」

「あぁ、私を除く全員が無実の政治犯、思想犯上がりだ。」

気が強そうな女主人は困った顔で愛想笑いをしている。


私は前に進み出た。

「はじめまして…えぇ、夫は?」

「居ません。」

「では、えぇ、はじめまして、フロイライン。」

「ええ。はじめまして。」

「私は、アドルフ・ヒトラー。どうか、御安心なさって、危害を加える様な事は致しません。」

「あたしは…カ、カモミール…で、です…えぇ、そうね、危害を加え無いという事は見ていれば分かりますわ。」

「突然押しかけて済みませんが、我々は皆無実の政治犯上がりの人間です。

食う物にも困り、宿にも泊まれない。どうか哀れな我々を助けてはくれないでしょうか?」

「…」

「フロイライン・カモミール、私の頼みを聞いてはくれませんか?」

「な、なんですか…?」

「今この国は、無実の人々がこんなにも逮捕され、善良な市民が辛き憂き目にあっている。

これではいかん。やはり社会の抜本的改革が必要だ。違うでしょうか?」

「ま、まぁ、思わない事も無いけど…」

「では、行動あるのみです。我々はこの状況を変革したい!社会を変えてゆく大潮流を巻き起こしたいのです!

その為にフロイライン、貴方の力を貸して頂きたいのです。」

「う…わ、分かったよ、ちょっと待ってな!」


交渉は成功した。

私はここで住み込みで雇い入れて貰える事になり、他の同志達は、ここ1週間の間に宿と職場を見つける事になった。

それまでは閉店後の夜に店のスペースを好きに使って寝泊まりしても良いとの事。

我々はフロイライン・カモミールという力強い味方を手に入れた。


酒場という所は情報の宝庫だ。

多くの人間が酔って情報を漏らしてゆく。

私はフロイライン・カモミールと話をして行くうちに、その情報、知識の多さに感銘を受けた。

この程度の文明に、ここまで知識を持った女性が居ようとは!

正に驚嘆に値する事実である。

正直な所、情報を引き出す相手は男性が好ましいが、この際私はカモミール女史(・・)と話す他無かった。

女性にあまり知性は要求しないし、政治にも関与させたくは無かったが、別に全ての状況に於いてそれを貫徹する必要は無いのである。


こうして私は、酒場の従業員として働き、情報収集をする事となった。

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