表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が転生  作者: アドルフ・ヒトラー
8/9

第7話「同志」

夕食の時間、刻限は午後6時、と言ったところか。

夕食喇叭の合図と共に各官房で食べるのである。

再び乾パン、水、焼いた鶏肉が出てくる。

それを食べ終わったらしばしの休憩時間が訪れる。


皆それぞれ話し合ったり、簡単なゲームをしたりして楽しんでいた。

私は考えた。彼らを導くにしてもどう導くものか。

最早勤労意欲すら捨てた人間達を奮い上がらせるものは…

その時私はボソリと呟いた自分の声を聞いた。

「どうやって…」

それでは無いか!声だ。私には演説という武器がある。

かつてのドイツ国民にアーリア人たる自覚を促し、民族の誇りを取り戻した演説という最大の武器がある!

私は早速行動した。


私は深夜に行動を起こした。


看守も寝静まった深夜2時頃か。私は起き上がって叫んだ。

「諸君!目覚めよ!!」

私の監房だけではなく多くの官房の囚人が飛び起きたのか、口々に叫んだ。

どうした、何があったのか、と。


私はその声が沈黙に変わるのをじっと待った。


私の監房の仲間たちは私を驚きの目で見つめている。

彼らは沈黙の力を知らない。なればこそ驚くのだ。

口々に聞こえる文句や怒号が済んだところで、私は大きく息を吸い、そして話し始めた。


「今此処に収監されている者の多くは、帝国政府の政策に呆れて惰眠を貪り、国民の血税によって賄われているパンを食べ、勤労の義務をも碌に果たすこと無く、ただ、怠けているだけの社会の最底辺のクズ共である。」


怒号が聞こえてきた。

この野郎、何言ってやがる、貴様も同類だ等と喚いている声が収まったところでもう一度話始める。


「道路工事の時にはサボタージュを起こし、その癖国民の血税によって賄われているパンには平気な顔をして齧り付く。どこまでも傲慢で、愚かで、醜い、社会の寄生虫の集りに過ぎない。」


さらに怒号が聞こえる。アルベルトも叫んできた。

「おい!おっさん!いい加減にしろよ!!てめぇ何が言いたい!!!」

その声すら無視していると、怒号が小さくなる。

私は再び続ける。


「しかし、こんな社会の最底辺のクズ共にも同情の余地が無い訳では無い。

元はと言えば、帝国政府の無益な穀物増産政策が招いた不況が原因である。」


そうだ、そうだとの声も怒号に交じって聞こえてくる。


「しかし!我々は社会のみのせいにして泣き寝入りをするしか無いのだろうか!?我々はそれ以外に何か打つ手は無いのだろうか!?


いや、道は、ある。


何が道なのか?其れは、即ち選挙である!

選挙を使えばよろしい。聞く所によるとこの国には選挙を行っている自治体もあるそうだ。


私は諸君らに提案したい!!諸君は自らの境遇を変えたいと思わないか!?此処にいて惰眠を貪り、天井を向いて、ただ一生を終える、そんな無駄な人生を送りたいか!?それとも、再び世に出て活躍し、満足行く死に方をしてみたいとは思わないか!?」


怒号は全く聞こえない。


「諸君!頑張ってこの監獄の次の試験に合格し、出監しよう!!我々は新たな人生を踏み出そうでは無いか!!


世界は広く、我々の未知の世界が広がっている!

諸君!!私は諸君らに期待する!!私はこの監獄を出て、選挙に出る!!そして、理想的な政治を、理想的な世の仕組みを、理想的な社会を!

作り上げてゆく所存である!!!


私のこの考えに同調する者は、これより心を入れ替えて、勤勉に努力に励み、勤労意欲を絶やすこと無く、勤労の義務に励んで頂きたい!!

そして次の試験に合格し、社会への1歩を、共に踏み出してゆこうでは無いか!!!


私の名はアドルフ・ヒトラー、3階4列2号房の8番、囚人番号3428である!!

諸君が私の同志となり、我が選挙戦を共に戦ってくれる事を期待する!!」


どっと大歓声が湧き出た。

いいぞ、頑張れ、応援する、と当初とは打って変わっての肯定的な声が聞こえてきた。

驚いた看守が上がってきて怒鳴った。

「貴様らァ!!!何があったァ!!!静かにせい!!!」


水を打ったように静かになった時、私は横たわりながら

この先の事を考えていた。

私はこの時点で既に「勝利した」のである。


翌日からの囚人達の勤労意欲は見違える物になっていた。私は道行く囚人達から握手を求められ、色んな情報が入るようになっていた。

どうやら選挙制を敷いている自治体は「アルティナ自治市」と呼ばれる自治体である事、そこの長は市長であり、選挙で選ばれること、この国の政治体制や経済、様々な情報が入って来ていた。


これで私の目的は明確に定まった。


「アルティナ自治市」に於いて、私が「市長」になるというものである。


翌日には既に目標を発表し、仲間も30人以上に増えた。

皆真剣に勉学を重ねて、勤労に励んだ。

そして、1ヶ月が過ぎ、精神病健康診断の日がやってきた。


面接室の前に一人一人看守に呼ばれて連れてゆかれる。一人一人を5つの面接室を全て使って審査するのである。

アルベルトの次に私の番だ。


3番面接室で私を担当するのは、面接官はフランツという、金髪で中肉中背の眼鏡をかけた気弱そうな官吏だった。

「あぁ、あなたがアドルフさん…」

そのなよなよとした高めの声で彼は言った。

「さぁ早く終わらせてくださいねぇ…私は嫌なんですよ、貴方方のような凶暴な人種を相手にするのは…」

顔に似合わず言いたい事を言う人間だ。

大抵口下手で相手を無自覚に怒らせてしまうタイプの人間であろう。こういう手の人間も数多く見てきている私にとって、その対処法は簡単な事だった。


「ほう、言いたい事を言う人だな。」

「いえ…まぁ、その…貴方は他の囚人共よりは話が通じると聞いてますが、どうやら本当のようだ…」

臆病にも恐る恐る話している感がひしひしと伝わって来る。この手の事にも慣れたものだ。


「いえいえ、まぁ確かにそうかもしれません。貴方は私の事を棍棒を持って殴る様な蛮族と同等に捉えているかも知れませんが、私はそんな事は無い。ご安心して頂けるかな?」

的確な受け答えをすると相手は落ち着きを取り戻す。

こういう時に回りくどい言い回しは適切ではない。

なので詩人や科学者はこういった手の人間とは分かり合えんのだ。

「どうやらまともな人のようだ。安心しました。」

「そうか、それは何より。それでは、始めて下さい。」

「えぇ。えーでは、第1問目…」


これから約30分程で試験は終了した。

何、簡単な面接試験である。この手の面接にはウィーン美術アカデミーへの受験等で何度も通ってきている道だ。簡単な事である。私は彼へ労いの言葉をかけてやった。


「ありがとうございました。大変だったでしょう、私の父も官吏でしたからな、苦労も少しは分かるのですよ。」

「おぉ、貴方の様に私を気遣ってくれる方など居なかった。合格は確実でしょう、お元気で。」

「えぇ。そちらこそ、お元気で。」


…これは布石である。彼の様な官吏が仲間に居れば様々な事が上手く行きやすかったりするものである。

政治とは如何に上手く官吏を使いこなすか、にかかっていると言っても過言ではない。


又、私は嘘をついている訳では無い。事実、私の父アロイス・ヒトラーはオーストラリア=ハンガリー帝国で税関の役人であった。

家父長的な父によって私は酷く暴行を受けて育てられたが、当時の情勢下に於いて、それ相応の苦労があったことも知っている。

彼に対しての同情は嘘では無いのである。


一通り試験が終わったのは翌日の昼であった。

そこから全員が屋外広場に集合させられ、合格者発表という事になる訳である。

一通り静かになった所で式典の開始である。

フルンゼ典獄が演説台へと上がった。

「これより、合格者を読み上げる!番号を呼ばれた者は返事をする様に!!」

補佐官の声と同時に沸き立つ囚人の群衆。

そして番号が読み上げられ始めた。

「1111番、」「はッ!」「1112番」「はッ!」「1115番!」「はッ!」…「3426番!」「はッ!」「3427番!」「はッ!」「3428番!」

私の番号が呼ばれる。私は即座に返事をした。

「はッ!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まるで本人かの様な凄い演説で最高に面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ