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我が転生  作者: アドルフ・ヒトラー
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第5話「決意」

孤児院から歩いて30分ほど、屯所に戻った我々は、次の作業に移った。ヴォルクスブルク伍長は難なく書類を書き上げてゆく。

屯所の石造りの部屋の中で、伍長は書類を書きながら話した。

「ヒトラーさん、あんた、やっぱり怖いかい?」

「何がだ。」

「監獄だよ。」

「いや全くもって恐れてなどいない。第一、命を取られる訳でもあるまいのに、何を恐れる必要がある。それに私は服役経験もあると話したでは無いか。」


そう、その通りだ。1924年の4月1日から12月20日まで、私はランツベルク要塞刑務所に於いて収監されていたのだ。ミュンヘンでの一揆が原因だった。あの当時私は自決をも考えたが、周りに阻止された。生き長らえるものである。その後全ドイツの指導者になる事を考えれば尚更だ。


「少々居心地は悪いだろうが、案じては居ない。きっと、いい成功を掴んで見せよう。」

「信じています。ヒトラーさん。」

そうしているうちに書類が出来た。


私は伍長に特別に緩く縛ってもらって、監獄へ向かう事になった。

その後伍長が一旦外に出て、監獄へ向かう為の馬車を手配した。木で造られた荷台に元気の無さそうなポニーの様なずんぐりとした馬に引かれる、所謂農民の馬車であった。

「さぁヒトラーさん、これに乗ってくださ…いや、乗りたまえ。」

御者の面前の手前、下手に馴れ馴れしく言う事は鳴らんのだろう。私は素直に馬車に乗った。

伍長はそれを見てから私と同じように荷台へ乗って、御者へ叫んだ。

「ゲーニヒカ監獄へ!」


音を立てて馬車は動き出した。久しぶりの感覚だ。総統になってから、馬車に乗ったことは無かったような気もする。親衛隊(SS)のエーリヒ・ケンプカの運転する1939年式ベンツ770Kグロッサー。この素晴らしき車に乗ってパレードもした。偉大なるアーリア人の開発したベンツのエンジン音は静かで、スピードも滞りなく出す事が出来る。ゲルマン民族と大変相性が良かった。乗っても揺れる事は無い。


それが、荒波に揉まれる小さな小舟のように揺れる、木で造られたこの馬車に乗っていては、木の椅子に変わってあのクッション付きの柔らかな椅子や、馬のように気紛れで無く、全て従順に動く静かで優秀なあのエンジンや、頑丈にして揺れの無い車体が懐かしく、そして恋しく感じる。木の車体を見れば、あの黒く輝く愛車の姿が目に浮かぶ様だ。


周りの景色を見ると、珍しい古い様式の建物が所狭しと並んでいる。様々な種族が暮らす様を私は見つめた。私がいずれこの世界を導いてゆくのだ…!!再びの闘争を、この街から、今日この日より開始するのだ…!!!

どのくらい時間が経っただろうか。森を抜け、村を通り越して進んでゆくと、巨大な城郭が見え始めた

「あれが、監獄か…」

「はいその通りです。政治犯、精神病者の収容されるゲーニヒカ監獄…。」

「なるほど。これは立派だ。」

広さは憎きユダヤ共を封じ込めたアウシュヴィッツより一回りは小さいか。しかし高さがあった。石造りの立派な中世様式の城郭だ。


大きな城門の前で私と伍長は馬車を降り、監獄へと向かった。城門の左右には衛兵が立ち、垂直に立っている。

しかしこの2人だけというのは…私に対しての出迎えの少なさに、少々の寂しさも感じる。


かつては私が何処へ行こうとも、大勢のドイツ国民が出てきては、「ヒトラー万歳(ハイル・ヒトラー)」を合言葉に敬礼をしたものだ。

それが、敬礼も、合言葉も、まして大勢の出迎えも無く、2人とぼとぼと衛兵の元まで向かうという事になろうとは、私は相当の違和感を感じずには居られなかった。


衛兵達の元まで来ると、伍長は敬礼し、向こうも答礼する。この時私は自然と右手が動いて答礼をしようとしてしまう。そして、縄で自由の利かなくなった手の感覚で、漸く此処が異世界である事を再認識するのだ。

敬礼の後の答礼は、先の戦争から続いてきた私の半ば癖のような習慣である。


「彼か。おかしな男というのは。」

衛兵は言った。

「その通りです。」と、伍長。

「宜しい、入りたまえ。」

衛兵に案内されて、我々はその右側の小さな戸から中へと入った。


塀の内側に監獄はある。巨大な石造りの中世風の城塞は、見るものを圧倒する。私の世界に於いては、アーリア人が発明したものだ。

此処に於いても、アーリア人の発明の才が感じられる。なんと、感動的な事か。世界を超えて、我がアーリア人の才覚が光るのだ。


監獄そのものにも巨大な門が設置されており、その左右に小さな出入口が付けられていた。

門の衛兵が、監獄の入口の衛兵と二言三言話して、業務を引き継ぐ。

我々は右側の小さな門から、薄暗い監獄へと入った。


なるほど、中世の石造りの城塞は、その中も荘厳な雰囲気に包まれている。

天井は高く、松明の点ったその灰色1色の空間は、私を不思議な気分にさせた。

そして私と伍長とは、ある大きな部屋の入口に通された。

入口には屋内にしては大きめな木の扉が設置され、ただならぬ部屋である事が分かる。本来であるならば完成する筈であった総統宮殿にも、この様な立派な扉を付ける予定であったことを思い出すものだ。


衛兵は、その大きな扉の青銅のノッカーを3回、コン、コン、コンと叩いた。金属のぶつかり合う音が、巨大な石造りの廊下に木霊する。そして大きな声で言った。「長官殿、入ります!!!」

返事は直ぐにノッカーを通じて帰ってきた。

蝶番の軋む音が重々しく鳴り響き、白い壁と金の装飾の施された豪華な部屋が姿を見せる。

一番奥に、中世の宮廷服の出で立ちをしている、山羊の様に痩せこけてモノクルを付けた老人が、大きなオークの机に手を組んで座っている。

私はその男の前に引っ張られて行った。

中にもやはり入口の両側に番兵が居る。

伍長と私とがその男の前まで行くと、男は静かに話し出した。


「君か。架空の世界の“絵空事”…いや、“大法螺話”を語り出した変人と言うのは…」

何!?架空の世界の大法螺話だと!?我がゲルマンの闘争を!?冗談では無い!貴様なんぞに分かってたまるか!!…が、仕方がない。今の私は孤児院出のみすぼらしい狂人なのだ。

「あぁ、その通りだとも。」

「ほぅ、素直に認めるか、狂人にしては関心だな…」

「…」


「自己紹介が遅れた。私は本監獄の典獄、ヨアヒム・フォン・フルンゼだ。」

敬礼して伍長が自己紹介を始める。

「第6軍管区第5警備中隊、ヴォルフスブルク・シュヴァーベン伍長であります、閣下。そして、こちらが…」

「あぁ、言わずとも構わな…いません。エーベン・グラッペ村のアヴィルック孤児院出身、アドルフ・ヒトラー…です。」

「ふむ…君、どうも精神異常者には見えぬが…しかし、伍長、本当なのか?彼が架空の絵空事を語り始めたというのは…」

「はい…ですが、彼は回復傾向にあります。故に、小官は彼の早期出監を望むものであります。」

「なるほど…考慮しよう。」

「では、アドルフ。君の囚人番号を教えよう。3428番だ。囚人番号の意味は…分かるな?」

「ええ。無論です。」

「宜しい。3階4列の2号房が君の牢だ。」

「なるほど。」

「君はそこの8番、という事になる。牢は1つに付き10名収容可能なのでな。」

「分かりました。」


「1ヶ月に1度の精神病健康診断に合格すれば、翌日の出監が認められる。君の場合軽度の精神異常だ。恐らく直ぐに出監できるであろう。」

「はい。」

「では、行きたまえ。」

「はい。…では伍長…」

私が言ったのに対し、彼はアイコンタクトを返してきただけであった。


私を牢まで引っ張ってゆく看守は、がっしりとした大男で、名前をゲオルグ・バルツァーと言った。

私の牢のある階に向かう階段で彼は私の前を行きながら言った。


「俺はこの通りの力持ちで、熊男の2つ名があってな。ワイン瓶三本を夜に開けて飲んでいたら、4、5人の集団脱走が出た事がある。その時俺はどうしたと思う?全員をひとひねりしたのさ。元山賊の連中だったが、俺の前には虫けらも同じよ。」

こういう頭の悪い力任せの獣崩れ共には、その気にさせて、よく使ってやるのが1番だ。ドイツ国防軍では、前線の突撃兵の英雄にならなれる様な人間だ。

とてもでは無いが、この様な人間が後方の将軍になるのは不可能に近い。この様な獣崩れの脳みそは、あっても無いに等しいからだ。

ルントシュテット元帥やクレープス上級大将等と同等には一生かかってもなる事は出来ない。


「ガハハハ、どうだ、凄いか?凄いだろう?この髭ジジイ。俺から逃げようったってそうは行かないんだぜ?ンガハハハ!!!」

髭ジジイだと!?今が私の治世で無くて良かったなと私は心の中で言ってやった。もしハイドリヒの保安警察(SiPo)に聞かれたなら、奴なんぞ翌日には銃殺刑だ。


「おい、此処だ。」

「うぬぅ…これは…」

堕落しきった世界がそこにはあった。この集団牢には政治犯や、軽度の精神異常者と呼ばれる人間が集められていたが、どうも彼らは異常者には見えない。しかし、堕落していた。希望の灯った眼をしていない。地べたに座り込んで天井を見上げ、何を為すでも無く、無為に時間を過ごしていた。

なんという事だ!けしからん連中だ。これぞまさしく精神の堕落だ。こんな事だから牢なんぞに放り込まれるのだ。

彼らは私の方をゆっくりと見てきた。そして、私と目が合うなり、哀れな目で私を見つめた。


「ほら、早く入れ。髭ジジイ。」

紐を解かれるなり、私は後ろから押されて牢に入れられた。

この有様はなんだ。この有様は。何たる無様では無いか。私の心にある熱情が芽生えた。それは、この愚民共を、私の出監する1ヶ月間で、1人残らず更生させ、党員として戦力にするという熱情であった。

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