序
私の国家社会主義運動と、国家社会主義に殉じし、全ての同胞諸君に捧ぐ。
アドルフ・ヒトラー
1945年、4月30日…私はソヴィエトの魔の手が迫り来る総統地下壕の私の居間で自決した。
シュタイナー親衛隊大将は攻撃を実行せず、我が友、シュペーアもライヒ領域の破壊命令、即ち、『最終作戦』に最後まで反発した。…シュペーアまでもがこうだった。最早終局だったのである。
スターリンの手先共は我が神聖なるベルリンの土を踏みつけて、私の居た総統地下壕まで数キロの地点まで迫っていたのだ。
私は最高司令部総長のカイテル元帥、作戦部長ヨードル上級大将や、参謀総長のクレープス大将、人事局長のブルクドルフ大将らを集めて最後の防衛策を練ったが、奴らは、この大事に何も考える事が出来ず、その他の無能な陸軍の将軍共は何も言う事を聞かず、既に第12軍には戦闘能力その物が存在せず、最後に残された我がSSアドルフ・ヒトラー連隊も無様な戦闘を繰り返していた。
我が友、アルベルト・シュペーア軍需相と最後に会ったのはその1週間前の4月23日だったか…彼は最後まで私の出したライヒ領域破壊命令に反対して居た。我々の居なくなったドイツを復興させる為だと言っていたのだが、結局私は納得のつかぬまま、それを黙認してしまった。
しかし、どちらにせよベルリンは破壊し尽くされているのだろう。いや、その筈だ…その筈なのだ!どんなにシュペーアが反抗しようとも、ソ連軍の進撃で破壊し尽くされている筈なのだ。
最後は私に心からの敬意を表する者はほぼ居なくなっていた…私には愛するエヴァしか残されていなかったのだ。
私にはこれ以上の立て直しは不可能だった。後任の大統領にはデーニッツ元帥を当たらせた。職務に忠実で優秀な彼ならば、上手く切り抜けてくれるであろう!
そうだとも、彼は裏切り者のヒムラーや、モルヒネ中毒のゲーリング、或いは無能な陸軍の将軍共に比べれば、数百倍はましな男だ。
そして首相には、宣伝相ゲッペルス君だ。彼も又、我が忠実なるゲルマンの理想を体現する戦士だ。必ずや我がドイツにやって来たかの連合国の奴らに、我らがゲルマンの矜恃で以て応えてくれるだろう!
私はこの先のベルリンの運命を考えつつ、不安の入り混じる複雑な心境で自分に向けられたピストルの引き金を引いたのだ…
やるべき事はやった…ならば喜んで地獄にも行こう…そう、思っていた。
しかし…しかしである!
私は、生き返ったのである!しかも、遠い異世界で!