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落語風小説「たべろく」  作者: 鈴木KAZ
1/2

前半

「うんめぇな~~~!」

「だろう?」

六兵衛は向かいの席でうどんに夢中になっている熊五郎をながめて目を細めた。



「うどんなんざどこで食っても同じと思ってたが、近くにこんなうまいのを食わすところがあったとはねぇ」

「腹をふくらすだけならどこでも構やしねえが、同じ銭払うんなら そりゃうめえ方がいいに決まってら」

「そうだな。お前さんに教えてもらってよかったよ」

「おうよ、何だって聞いてくれ。

 江戸にいりゃあ そばにうどんに寿司てんぷら、甘えもんだって勘定にいれりゃ選び放題だ。

 どれにしようか迷ってる間に日が暮れちまうからな」



得意げに熱弁をふるう六兵衛に近づいてきたのはうどん屋の主人だ。

「おう、六さん。いつも助かるよ」

他の客に見えないようにさりげなく漬物を一品置いていった。客を連れてきてくれた六兵衛へのサービスである。



「日本橋で飯を食うなら六兵衛に聞け」

店という店、屋台という屋台を食い歩き、天秤棒を担いだ物売りまで呼び止めて味を確かめる。歩く食のデータベース、それが六兵衛だ。

ただの食道楽が高じて、いつの頃からか道行く人に呼び止められては飯屋の案内を求められるようになっていた。



うどん屋を出て楊枝をくわえながら通りを歩く六兵衛と熊五郎。


「しかしまあ、お前さんそんなに食い物に詳しいんなら、店でも出したらどうだい」

「いやあ、釘は打っても蕎麦は打たねえ。おいらは食い専門だ」

「なんかその才能を商売にできないもんかね」

「食い物屋に詳しいだけで商売になるわけがねえだろ」

「本でも出したらどうだ。『六兵衛の食べ歩き指南書』とかどうだい」

「ずいぶんエラそうな題目だな」

「短くして『六食べ』にしてみるか」

「何の本だかわからねえよ」

「じゃ『食べ六』」

「逆さにしたって同じだろ」


心地よい秋の風に吹かれながら冗談のような会話を楽しむ六兵衛であったが、熊五郎は彼が未来の成功者になる気がしてならなかった。


「よく飯屋を案内してやってるじゃねえか。あれで手間賃でももらえば」

「日の稼ぎがいくらになるんだよ。それこそこっちが食えなくなっちまう」

「う~ん、人を雇って手広くやれば・・・」

「タダで雇えるわけじゃねえだろ。その金はどうするんだ」


ふたりは立ち止まって空を見上げた。秋のうろこ雲が遠くまで続いている。

「雲の上から天狗でも下りてきて、この金どうぞってめぐんでくんねえかな」

「そんなムシのいい話あるわけねえよなあ」




「あ、あちらにおられます」

遠くの方で六兵衛たちを指さす女。そのとなりには立派な身なりの役人とその他数名がやはりこちらを見ている。



「おっ、時間だ。それじゃあな」

左腕を突き出して時刻を確認する振りをした熊五郎は小走りで去っていった。危機回避能力は高いに越したことはない。


ひとりになった六兵衛に役人たちが近づいてきた。

「その方、六兵衛であるな」

「へい、左様でございやす」

落ちた小銭を拾いでもするように身体をくの字に曲げた六兵衛はそのまま厄介ごとが頭の上を通り過ぎるよう祈った。


「うまい飯屋を知っておると聞いたが」

「あーーー、まあ、どうでしょうねーーー。知ってるというか、知っちゃってるというか」

「この辺りで一番うまいうどんを食わせる店を探しておる」

「あーーー、うどんでございますか。 それでしたらあちらへ すーーっと行って、右に曲がって ぎゅーっと行って・・・」

「全然わからぬ。案内いたせ」

「ですよねーー」


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