053 燃える砂浜
こうして私たちは2チームにわかれ、不死の霊薬をかけてスイカ割りで戦うことになった。
「じゃんけん、しょっ!」
「うし、勝った、先攻いただきっ」
先攻は私たち、青海+蛍チームだ。一番手は蛍。
なんか剣道の時を思い出すなー。私は言いながら、蛍に目隠しを付けてやる。
「はい、師匠。棒だよー」
ときわはひのきのぼうを差し出した。が、私はにやりと笑い、それを断る。
「ああ、結構だ。私たちは自前の棒を使うからな」
「え?」
不思議そうな顔をするときわの前で、私はどや顔でカタナを取り出した。蛍愛用の、例のカタナだ。いえ、もちろんサヤ付きですよ。”棒”だからね。
ふっふっふ、マナの力で感覚も力も強化されるのだ。例え目隠しをしても視覚以外は強化されるし、芯を外そうが、かすればきっと叩き割れるはずっ!
「えー、なにそれ、ずるっ! 師匠、ずるいー!」
ときわからめっちゃ非難の声が届く。
馬鹿を言うな、魔術師同士の勝負だぞ。すんなり行うと思っている方がどうかしている。
……あれ、蛍さん、なんであなたまで「うわ、せっこ!」とか言ってるんですか。
ええい、うるさい、ルールは守っているのだ。私はブーブー言う外野を無視して強引に進めていく。
蛍に棒を押し付けるように持たせると、公平を期すためにときわが蛍をぐるぐる回す。
くるくるー、くるくるー。
「あれ、ちょっとときわ、こんなに回すの? うえ、ちょっと、めっちゃくらくらするんだけどさあ」
「えー、でも最初に決めた通り、10回しかくるくるしてないよー?」
はい、どうぞ。
ときわが開始の合図をするが、蛍はそもそもまっすぐ立つことも難しいようで、よろけながら頭をぐあんぐあん回している。
あれ、なんでこんなに効いてるんだ?
そこで私は思い出した。……あ、もしかして、くるくるのダメージまで強化されてない?
しまったあああ!!
マズイ。非常にマズイ。
カタナの能力で、蛍の三半規管は、子育て中のドラゴンのように敏感になっていた。そこにあの10回くるくるのダメージがダイレクトにやってくる。
当然、スイカを割るどころではなかった。
「うう、きもちわるい、酔ったみたい……」
「頑張れ蛍、あと二歩左だ。あ、いや、そっちは右」
私は必死で指示を飛ばすが、とても頭に入っていなかった。
「もういい、早く座りたい……」
蛍は全然違うところで振りかぶると、砂浜に向かってばっこんとカタナを振り下ろす。
どぱあっと派手に砂が飛び散るが、当然スイカはそのままだ。
「何をやっとるんじゃ、お前ら」
楊貴妃が呆れたように言った。
「うふふ、青海ちゃん、策におぼれたわね。さて、次はわたしのばんですよー」
油谷先生は、ひょいっと背中から、……巨大な斧を取り出した。
「あのー、……ダグザ?」
「なーに? まさか、だめとは言わないわよねー?」
徐福はあごが外れそうなくらいあんぐりと大口を開け、呆れていた。
「お前ら、いったいどんな感覚しとるんじゃ」
「頼む相手を完全に間違った……」
楊貴妃も頭を抱えている。
「せんせー、もっと右、右ー! そこだー!」
ときわの声が響く。
「ねえ師匠、妨害しなくていいの?」
ルール上は、私がでたらめなことを言って惑わせても問題ない。それがスイカ割りのだいご味だからだ。
しかし私はそれをしない。する必要が無い。
ふん、せいぜいがんばるがいいさ。
「せーのっ!」
どばんっ!
振り下ろされた斧は、ビーチボールを跡形もなく粉砕した。
うわー、さすが脳筋王。すさまじい威力だ。
しかしこいつ、何考えているんだ? 本物だったら粉々になっているところだ。食べるとこなくなっちゃうじゃん!
「あれー、なんで? スイカどこいったのさー」
ときわは不思議そうに首をかしげる。目隠しを取ったダグザは、ブスっとした顔で私をにらむ。
そうだ、彼女が割ったのはただのビーチボール。100円だ。スイカはてんで別方向。
「レアリー、貴様、ときわに幻術をかけたな」
ふふん、バカ正直にときわの指示に従うからいかんのだ。
私を誰だと思っている、魔女だぞ。幻術を自分の専売特許だと思っているから、失敗するのだ。
さあ、二回戦だ。仕切り直しだ。
灼熱の太陽に負けないくらい、私たちの勝負は燃え上がっていた。




