048 蛍さんの導き
すまない、げてもの太郎――
杖を構えて目をぐっと閉じる。
とそのとき、突然赤い影が私の前に割り込んだ。
驚きつつもすぐに構え直し、術を……って、あれ、蛍?
振り向くと、そこにはときわにダグザまで。
みんな、なんでここに?
ってやばっ、早くこいつを隠さなくては。
み、みんな、ここは危険だ、早く逃げろ。
そう言おうとした私を、蛍が遮った。
本当にもう、あんたが原因だったとは思わなかったわよ。
蛍はそう言って私の前に、いや、げてもの太郎の前に出た。
腰に手を当て、じっと彼を見つめている。
そして。
あんたが作ったんでしょ、この変な動物。
なんでわかったの? 私は聞く。
蛍は優しい笑顔を浮かべて言う。
だって、昔、紙ねんどで似たような人形作って、私にくれたじゃない。かっこいいとか言ってさ。
ああ、そうか。
げてもの太郎の正体を最初に見破ったのは、魔術に長けたダグザでもときわでもなかった。
子供のころからずっと長門青海を見てきた、蛍だった。
私の心の奥が、じんわりと温かくなってくる。
バカだな、私は。なんで隠したりしたんだろう。正直に紹介すればよかったのに。
今なら、この流れなら、すんなりと色々なことを告白できそうだった。
最初に言うべきことは決めている。大切なことは、一番に言うものなのだ。
「蛍」
「ん、なに?」
「こいつ、お前の家で飼ってくれないか」
「ムリ。キモイ、マジムリ」
その後、みんなを騒がせたことをこっぴどく怒られた。
横で見ているときわは笑っているし、ダグザはあきれたようにため息をついている。
そしてお説教している蛍はというと、なぜか嬉しそうだった。……なんだこいつ、ドSか。
結局げてもの太郎は、ダグザが引き取ることになった。
世話をちゃんとできるのか少々不安だったが、どうやら代わりに育ててくれそうな知り合いがいるらしい。
これで不安はすべて片付いた。
さ、そろそろ帰ろ。お腹すいたわ。
蛍が言う。
あ、待ってくれ。
私の中に残ったままの不安を、恐る恐る口に出す。
……ねえ、友達、やめたりしないよね?
それを聞いて反応したのは、隣にいたときわのほうだった。ときわはケタケタと腹を抱えて笑いながら言った。
何言ってるのさ、師匠。うひひ、へんなのー。そんなわけないじゃーん。
わざとらしいほど大げさに笑うときわを見て、私はむっとしたけれど、でも、すごく嬉しかった。
ときわの笑いの陰で、蛍も小さくつぶやいていた。
私は、別の意味で友達やめたいんだけどねー。
星明りの下、涼しげな風が、二人の間を吹き抜けていった。




