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幕間 レアリーさんと長門市の旧支配者


 「やってきたぜ、センザキッチン!」


挿絵(By みてみん)


 本当に、ほんっとーに久しぶりの自分語りだ。しかし、私の心は曇り空。

 原因は言うまでもない。

 ときわと蛍は二人して瑠璃光寺というお寺に遊びに行き、私は一人仲間外れだった。

 何世紀単位でボッチだった私だが、ここ最近は二人の親友といつも一緒だったことで、いつの間にかセンチになってしまったようだ。


「べ、別に、寂しくなんかないんだからねっ!」

 強がったセリフが潮風にさらわれていく。

 私は少し後悔した。ダイヤくらい誘えばよかった。

 そう思ったのは、寂しいからというだけではない。ちょっと学校の課題について聞きたいことがあったからだ。


 センザキッチンに来たのは、別にヒマつぶしでも鯨カレー目当てでもない。

 金子みすゞ(*)という女流詩人を調べるために、金子みすゞ記念館というところに行ってみようかと思ったのだ。


「わざわざそんなところに行かなくとも、図書室の資料でもテキトーに切り貼りしておけば?」

 蛍にはそう言われたが、私は歴史や文化には直接触れて学ぶ主義なのだ。

 だいたい私を仲間外れにしておいて、そのセリフはないだろう。

 それでも何も言わずに我慢していたのは、ひとえにときわの覚悟を感じたからである。決して強がりではない。




 さて、実際に仙崎に来てみて驚いた。ここら一帯はただの港町ではなく、――聖地だった。


 一介の詩人をなぜ学校の授業で取り上げるのか不思議でならなかったが、この地に来てすぐに納得がいった。

 やはり、歴史と文化は、自分で触れなければならない。


 金子みすゞ通りに、金子みすゞロード。壁にはモザイクの壁画。そして、各地に残された呪詛の歌碑。

 歌碑にしても石碑だけでなく、茶屋の入り口に木製のものまで設置してある。

 そういえば、過去には彼女の名を関した汽車もあったそうだ。交通網を抑えるというのは、権力者なら当然だからな。


 そう、女流詩人というのはあくまでも仮の姿。金子みすゞという女性の正体は、このあたり一帯を強固に支配していた豪族だったのだ。


「なるほど。記念館を見るまでもなく、ここらの支配にどれだけ彼女が尽力したのか、容易に想像できるな」

 センザキッチンで買った鯨カツをほおばりながら、私はつぶやいた。もとい、歌碑を見ながらだ。呪いの効果は、お魚ぴちぴち大漁だ。

 おそらく権力者として道を整備した後、各地に詩という形で呪歌を残し、結界代わりにしたのだろう。

 この地の守護と繁栄のために。


挿絵(By みてみん)




 私は記念館を回り、数々の呪歌を書き記す。

 長い年月を経て、点在する石碑にはかすれる程度のマナしか残っていなかったが、その意志は今でも生きている。石だけに。……ごほん。

 それぞれの歌に私なりの解釈をくわえ、呪いの内容を推測する。


 ついでに残された歌碑のいくつかに、マナ流れの狂いを発見したので、ティルナノーグ流の添削を施した。

 歌は彼女の心そのものだ。いくら術としての効率が悪かったとしても、簡単に手を加えていいものではない。とはいえ、効果がねじ曲がった呪いをそのままにはしておくわけにもいかないので、最小限の部分のみにとどめておく。


 残りはノートに書き写し、先生に提出することにしよう。

 ……えーと、こっちの歌のほうが良いと思う、っと。

 私はノートに色ペンで書き足した。

 これでマナを効率的に運用することもでき、長くこの地が繁栄することになるだろう。




 さて、お勉強は終わりだ。ふふふ、松下先生め、見ていろ。もう歴史が苦手などと言わせない。

 私は明日の授業が待ち遠しくなり、ウキウキしながらバスに乗り込んだ。

 あ、忘れてた。


 途中で一度バスを降り、二人を待つ。

 ああ、次のバスは一時間半後か。

 心地良い疲れだ。私はバス停のベンチに腰掛けると、しばしの間、まどろんだ。



※金子みすゞ……山口県長門市仙崎出身の女流詩人。ちなみに中原中也も山口県出身であり、ほぼ同時期を生きた。

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