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004 ときわさん、立ち向かう。

 

 私がこの世界に転生して、早くも三日が過ぎた。

 男の子の身体というやつに慣れるまで四苦八苦したが(何がとは言わない)、概ね問題なく毎日を過ごしている。


 おおむね、大きい胸……


 前言撤回。一番大きな問題は、依然棚上げのままだ。


 転生の術は、いろいろと追加で条件を設定する類の魔法だ。

 巻物(スクロール)では書き込まれている条件をそのまま発動することになるので(そもそも転生術の性質上、巻物(スクロール)など存在しないと思うが)、普通は魔法陣を使用する。


 正直、あのときの浮かれていた自分を張り倒したい。

 カビ臭い呪文書を片手に魔法陣を完成させた私は、ろくに確認もせずに起動した。

 そう、 メ モ も 取 ら ず に 。


 おぼろげな記憶を頼りに再現を試みたものの、どうも細部がはっきりしない。

 転生術は非常にデリケートなのだ。メガネ巨乳になろうとした魔術師がメガネウラになってしまったなんて事故も報告されている。

 もっともメモを取っていたところで、肝心のメモは遠いティルナノーグだ。いっそ過去の映像を映し出せるような術を開発したほうが早いかもしれないな。




 閑話休題。

 ただいまの時刻は午前二時。丑三つアワーというやつだ。

 私、レアリー・ホワイトウェルは、いなか町"旧"中央病院に来ています。旧です、旧。

 現在は使われていない、廃病院。


 理由はもちろん、今後のマナ補充場所の下見と、魔術師探し。


 ひゅるりらと、冷たい風が吹き抜ける。おっと、微妙なゴーストを一体発見。ひとにらみしたら、バク転しながら去っていった。


 他の場所よりは多少マシだが、やはりこの世界はマナが薄い。

 各地のパワースポットとかいうやつを巡ってみるか、こないだの見習い魔術師にこの世界なりのマナの集め方を聞くべきか。

 前途多難だ。ため息を吐く私。



 む、人の気配?

 耳を澄ますと足音が聞こえた。

 一応の警戒とともに、身構えて待つ。


 廊下を曲がり現れた少女は、まさにその見習い魔術師、二見ときわだった。


「やあ、二見ときわじゃないか。こんなところで出会うとは、やはり魔術師同士、惹かれ合うものだな」


 この場所は彼女の縄張りだったようだ。勝手に侵入してしまった謝罪も込めて、こちらから挨拶をする。

 が、うつむいて歩いていたときわは、こちらにまったく気付いていなかったようだ。

 突然の声に驚いたときわは、びっくぅぅぅーとたっぷり後ずさった後、がらがらどんと派手な音をたて、外れかけていたドアにぶつかった。

 ドアはそのまま派手な音をして倒れ、あたりにはほこりが舞い踊る。


「「げほっ、ごほ、うぐぅ」」

 思わず二人して咳き込む。

 何をするのだ、二見ときわ。……驚かせたのは悪かったが。


「あ、あわ、あの、まじゅ!」

「落ち着け、何を言っているのかわからん」


「こっこ、こここお、こっ!」

特牛港(こっといこう)(*)か? イカが有名らしいな」


 そこまで言うと、ときわはすーっと息を深く吸い、吐いた。きっとこちらをにらんだ。

 一瞬で精神のスイッチを切り替えたこの少女は、やはりただものではない。震えはすでに止まっており、その身からは戦いのオーラがあふれ出ている。


 ……って、あれ? 戦い?


「ここに何しに来た、魔術師!」

 カエルの様に飛び跳ねながら立ち上がるときわ。しゅばっと効果音を口で作り、どこからか金属の筒を取り出した。

 あれはたしか、すぷれー缶とかいう魔法道具(マジックアイテム)だな。両手を交差して巧妙に隠しているが、左手にも何か別の魔法道具を隠している。


「あわてるな、私は敵じゃあない」

「信じられるか! 喰らえ、永遠闇地獄(エターナルダークインフェルノ)っっ!!」


 言うが早いか、ときわは左手の魔法道具を起動する。

 シュッとかすれたような音が聞こえ、炎が一瞬で巻き起こる。


 ぶあちっ、ちょ、ぐはっ!


 炎は一瞬でおさまったが、その一瞬で、ときわは部屋の隅へと移動していた。


「牽制の隕石砲弾(アステロイドバレット)!」


 ときわが呪文を唱えながら、足元に落ちている石ころを拾って投げてきた。一見ただの石礫つぶて。飛んでくる石にも全く魔力は感じないが、何らかの魔術であることは明白だ。

 この世界の魔術師は、マナの隠ぺい技術に非常に優れている。先ほどの炎も今の石ころも、マナの残滓すら感じさせない。おそらく、マナの薄い環境に特化した、特別な技術が使われているのだろう。

 この年で、そこまでの技術を身に着けているとは。


 と、感心している場合ではない。ときわと争う気はないのだ、傷つけないようにしなくては。

 私は右手を突き出し、≪大気障壁(クブリール・アイレ)≫を唱えた。圧縮された気圧の壁がつぶてを弾く。


 目を見開き、驚愕するときわ。

「くっ、やはり効かぬか。やはり、魔力のこもったあの武器でないと……」


 ときわは覚悟を決めたのか、手をぶんと振ると、私めがけて突進してきた。

 青くきらめく刀身が一瞬見えた。ここにきて初めて感じる、強いマナの塊。


「くらえぇぇっ!」


「待て、ときわ!」

 とっさに、≪刀剣精製(クレア・エスパーダ)≫を唱える。右手に生まれた刃でそれを受け止め、払う。

 金属とは違う、硬い音がした。


 ときわが握っていたのは、緑水晶のナイフ。


 あれ、なんかこれ、見覚えがあるぞ。

 これは私が結界呪文などを使用するときに触媒にするナイフ、いや、正確に言うと私の魔力を結晶化させたものだ。


 なぜそんなものをときわが持っているのだ?



※特牛……難読地名として有名。特牛駅は角島への最寄り駅として紹介されることもあるが、マイカー以外の交通手段はお勧めできない。

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