幕間 ときわの過去
――二見ときわ。
キメポーズは、左手をパーにして顔にかざすこと。得意技は、呪文の詠唱。好きな食べ物は、お饅頭。
いわゆる中二病という病に侵されてはいるが、本人は少しも気にせず、むしろ日々悪化させている。
ときわとて、最初からこんな性格だったわけではない。幼少期はただのアニメ好きだった。
そんな彼女が「冒険」と称して、一人である廃墟を探検していた時、見てしまったのだ。
モンスターと、それと戦う魔術師の姿を。
かっこよかった。ぴょんぴょん跳ねまわり、かざした手からは炎や風が巻き起こった。
まだ若く、女性としての魅力にもあふれていた。
整った顔立ちに、きれいな緑色の長い髪。胸は大きく盛り上がり、ミニスカートからは白い太もも。
魔法使いというよりは深夜アニメに出てきそうな感じだったが、そのころのときわはまだ純粋だった。
ときわ自身は物陰に隠れていただけで、何をしたというわけではないが、その体験は彼女の人生を塗り替えるのに十分の力を持っていた。
目撃しただけなら、悪い夢で終わっていたかもしれない。
しかし、彼女は拾ってしまった。手に入れてしまった。
緑水晶のナイフ。
魔術師が結界を張るために使用したうちの一本だった。
それは証拠となった。あの出来事は現実であり、魔法はあるのだ。
ときわが次に魔法に出会うのは、高校の入学式。
なにか飛んできて振り返るときわは、一人の男子生徒と目があった。
まるで女の子のような可愛らしい顔立ちの、細身の生徒。
目が合うとにっと笑いかけられ、そんな経験に乏しいときわは、思わず赤面した。
その生徒は指でっぽうを作り軽く打ち抜く真似をした。
最初は自分を狙ったのかと思った。しかし、ときわが反応するより先に、後ろで派手な音がしたのだ。
どんがらがっしゃん
ときわが目にしたのは、すっぱりと切断された椅子の脚。
皆は、椅子が古くなっていたのだろうとか言っていたが、あれは、新しい切り口だ。
そして、あの時の魔術師が使った魔法の跡に、そっくりだった。
ときわは凍り付いた。
すぐにトイレにでも立って、そのまま逃げようかと思ったのだが、即座に思い直す。
奴が襲ってこないのはなぜだ?
自分に気付いているのに、他の生徒を狙ったのは?
簡単だ。警告なのだ、これは。
お前などいつでも殺せる、もしくは殺す価値もない。ただ、黙っていろ。
おそらくはそういうことなのだろう。
となると、騒いだり逃げたりは逆効果になってしまう。
相手の正体?
そんなものはわかりきっている。あの時の魔術師か、その仲間だ。なぜ今になってかはわからないが。
なぜ自分を狙う? それもわかりきっている。
あの時、ときわは見てしまったのだ。ときわは、魔術師の重大な秘密を知っている。
魔術師が攻撃を受け、服がはだけた時に、あたりにパラパラと何かが散らばった。
慌ててかき集める魔術師。
魔法なんて詳しくなかった当時のときわでも、それが何かはすぐわかった。彼女の母も、同じものを使っていたからだ。
それは、山盛りに詰め込まれていた、ブラのパッドだった。