表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/66

034 女子高生 in the ジャー


 ときわと蛍は、廊下を走っていた。


 あの後すぐに、ダグザが教室に入ってきた。ダグザはあっという間に兵士を真っ二つにすると、他の生徒たちに幻術をかけて落ち着かせた。


 ダグザは二人に釘を刺す。

「ここにいろ。いいな、目立つような行動はとるな。オレとレアリーで何とかしてやる」


 蛍は思った。

 確かに大人しくしていれば、自分たちは安全かもしれない。そんなことはわかっている。

 けれど、戦っている青海は本当に大丈夫なのか? 他のクラスの友達は、先生たちは? 学校全体が襲われているというのに、みんな無事なんてことはあり得るの?

 あちこちで爆発音が聞こえてくるたび、不安は大きくなるばかりだった。


 不安げな顔の蛍に対し、ときわはのんきだった。のんきだが、彼女は彼女で、やれることを探していた。

「蛍、携帯持ってたよね。警察にー、でも駐在所のおいちゃんはちょっとなー。じえーたいに連絡とれないかな。岩国基地とか」

「ムリよ、つながらないわ」

「なんでだ? はっ、そうか、奴ら妨害電波をっ!」

「ばか。知ってるでしょ、この高校は山の陰だから、そもそも普段から電波入らないじゃない」

「あー、そうだった」

 ときわは財布に入れてあるテレホンカードを取り出し、恨めし気に眺める。残数は残っているけれど、入り口付近に設置してある公衆電話まですんなり行けるとは、とても思えない。


 中庭方面で、轟音とともに派手な閃光が走った。蛍がそーっと廊下の窓からのぞくと、青海がのそのそと這いずって逃げていた。

 蛍は、もう限界だった。


 蛍は教室に戻り、ときわに言う。

「ごめん、ときわ。ちょっと青海を助けてくる」

「危ないよ、師匠(マスター)も油谷先生も、ここで待てって言ってた」

「わかってる。けど、だからってあいつが安全ってわけじゃないんだよ。これじゃ青海に押し付けてるだけじゃん」

「そう、だけど……。 でも、私たちが行っても、何もできないよ」


 ときわは考えた。蛍はきっと、一人ででも行くだろう。それだけはだめだ。師匠(マスター)と約束したんだ。蛍は絶対に守る。


「わかったよ。私も行く。水晶もあるし、少しは戦える」

「だめ、危ないわ」

「でも、……友達、でしょ」

 ときわは、蛍が断りにくいように、あえて友達という言葉を使った。ときわの心はぐじっとした鈍い痛みを感じた。

 師匠に怒られるだろうなあという心配はあったけれど、親友の命には代えられなかったし、蛍がもしやられるときには盾になってもいいとさえ思っていた。




 二人はダグザの消えた方向へと走った。遠回りになるのは承知の上だが、その選択は間違っていなかった。

 廊下には胴体のちぎれた兵士が倒れていたり、血だかオイルだかを引きずったような跡があった。何度も卒倒しかけたものの、基本的に静かで、戦闘は無かった。


 美術室前の廊下を曲がった時だ。足音に気付いたのだろうか、壁にもたれていた兵士が、びくりと動いた。

『たす、たすけ……』

 兵士は倒れたまま、こちらに向かって手を伸ばす。言葉はわからないが、容易に想像はできた。


 蛍は散々迷ったが、結局兵士に近寄る。


「あ、蛍、危ないよ!」

 ときわの声を無視して、体をゆっくりと揺する。

「ねえ。あなた、大丈夫? 生きてる?」


 銀色の衣服は青紫の血で染まっていた。ごろん、と転がった拍子に割れた黒いマスクが外れ、顔が明らかになる。灰色の肌にバカでかい黒目。細い顎。爬虫類に似ていた。


「ふぎゃっ……」

 自分でも驚くほどの強靭な精神力で、叫び声を飲み込んだ。驚きで心臓が止まるかと思ったのは、初めてだ。

 こないだの幽霊事件がなければ、こらえきれずに大声を出していたかもしれない。

 あるいは、彼?の瞳の端に溜まった涙に気付かなければ。



「……蛍、回復術ヒールをかけてみようか?」

 ときわが心配そうに言った。


「治せるの?」

「たぶん無理。傷がひどすぎる。でも、痛みをなくすことくらいなら」

「ごめん、お願いできる?」


 ときわが水晶(クリスタル)を掲げる。集中すると、やわらかいオレンジ色の光が、ぼんやりと患部を包んだ。


 瞬間、ばちばちという放電音が響き、二人の視界が黒く染まった。




 その部屋は、全面を白い壁に囲まれていた。継ぎ目もドアも見えない。目がちかちかするほどに強い、白色のライトが天井に設置されている。

 その部屋は、手術室を連想させた。


 ときわと蛍は、ふらふらしながら立ち上がった。目の前に一人の化け物がいた。

 銀色の衣服の上に乗っかった頭部は、不自然なほどに大きい。おそらく別人なのだろうが、特徴の少ないその顔は、あの兵士と見分けがつかなかった。


「ああ、気付いたか。言葉はわかるね?」

 目の前にいる男が呼びかける。翻訳機による合成音声だった。

「初めまして、原住民。私はバイロンというものだ」


「うおお、宇宙人!? グレイだ! すげえ! 初めて見た」

 ときわが思わず駆け寄ろうとした、その時。

「あぎゃあっ!」

 ときわは透明な壁にぶつかり、ごうぅん、と低い鐘のような音が響いた。二人はまるで瓶詰のように、ガラスの牢獄に閉じ込められていたのだ。


 ドタバタを笑うこともなく、バイロンはその大きな瞳で、二人を見つめていた。

 彼女らが自分たちを知っていることに、少し驚いていた。

「なんと、意外だね、我々を知っているとは。どこからの情報かな?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ