028 死人を視認
「さて、ゴーストがいないことも確認できたし、適当におやつを食べて解散だな」
ところが蛍が静かにつぶやいた。
「このばか青海、……なんで幽霊居るのに教えてくれなかったのよ」
ぴったりと背中に体を押し付けてくる。おい、そんなにくっつくと動きづらい。
「いや、ゴースト探しと言ったのは蛍じゃないか。これは霊体であり、霊体とゴーストとは明確に区別されると、学会でも論文が……」
「あんたの区分けなんかしらないわよ!」
目が完全に殺気立っている。またひとつ蛍の一面を知ってしまった。
「なあ、幽霊とかうそだよな? 長門、ギャグで言ってんだろ?」
「残念だけど本物よ。冗談とか非科学的とかプラズマとかそんなの抜きで、マジのマジ」
「師匠、何か見つけたんですか?」
もめる私たちに、きょとんとするときわ。
霊体がおずおずと手をあげ、発言を求めていた。
『あのー、もしかして、私のこと見えてます?』
「ああ、もちろんだ」
「そこ、一人で会話しないで!」
……まったく、何を騒いでいるんだ。
だいたい、見えない触れないというのなら、いてもいなくても同じことではないか。
結局私が納得したのは、蛍に詳しい説明をされてからだ。
いやー、まさか皆が探していたのがこいつだったなんて。まあ、ゴーストを見慣れていないなら、間違えるのも無理はないのかもしれないけれど。
「師匠、その人を私たちにも見えるようにできますか?」
「できるよ。すぐやろうか?」
右手をすっと伸ばしかけたところで、蛍からのストップが入った
「あーっとちょいまち! その人、あーその、血だらけだったり包丁持ってたりしてない? 体がボロボロにくずれてたりしない? 目は血走ってない?」
私はじっくり女性を観察する。
年のころは20代くらいか。別に体調が悪そうには見えない。
特別美人というわけではないが、優しそうな顔立ちをしている。
白い服に装飾品はつけていない。薄青く見える髪。透けるような肌。まあ、本当に透けてるが。
胸はB。やせ型。友達になれそうだ。
うむ、問題ないぞ。
「おっけ、やって。ただし、驚かないようにゆっくりよ。あ、骨とか肉が見えていくとかダメだから。ちゃんと人間の見た目で、怖くないように」
……全く注文の多いやつだ。
「お前はいいのか?」
私は一応幽霊に確認を取る。
『はい、痛くしないなら』
大丈夫だ、問題ない。
じゃあやるか。
私は彼女の体の位置に、手を突っ込んだ。ひんやりとした感触が伝わる。
『あっ、……えっ、あ……」
ゆっくりと自分のマナを相手に流し込んでいくと、じわじわと幽霊が姿を現していく。
『……あっ、いや、そこ……。 だめ、です……』
「霊体が見えないのは、単にマナの濃度の関係だ。こうして補助してやれば、視認できる程度の濃さにはすぐなるさ。死人を視認、なんちゃって」
蛍がじょじょに険しい顔になっていく。そのまま非常に冷たい視線を私に向けた。
ギャグが滑ったからって、そこまで突き放した目で見なくてもいいじゃないか。私だって頑張っているのに。
「……青海」
「なに?」
「いつまでおっぱい触ってんのよ、このスケベ!」
地の底から響くような声だった。
ふと見ると、私の右手は、はっきり見えるようになった幽霊の胸元へと当てられていた。むにむに。
肩を掴む蛍の手に、やけに力が入っている。あいた、いたいって!
「ふおー、すげー! 幽霊だー!」
言葉を発することもなく石化していた外郎くん。対照的にときわは、はしゃぎつつも油断なく、水晶をびっと左手で前にかざしていた。




