表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/66

015 レアリーさん、女湯をのぞく


 宿泊場所である、自然の家 in 秋吉台。

 残念ながら、我が家のほうがよっぽど自然の家だった。


 班にわかれてカレーを作ったりレクリエーションをしたのだが、例の黒マナのことばかり考えていて、少しも楽しめなかった。心配や悩みで胸が膨らむのなら、転生もしなくて済んだというのに。

 ちなみにカレーを作るために火を起こすとき、ときわのせいで危うく火事になりかけた。ばかめ。


 さて、冗談抜きに言うと、割と真面目に警戒をしていたのだ。

 攻撃的ではないといっても、範囲内に入る獲物を静かに捕らえて捕食するモンスターなどいくらでもいる。

 どこに敵が潜んでいるのか。数は、攻撃方法は。そしてその攻撃範囲は。

 蛍とときわ、二人のそばだけは離れないようにしつつも、薄く広くマナを広げてクラス全体をカバーする。けっこう神経を使う作業をしていたのだ。


「おい長門、お前どこ行くんだよ、すけべー」

「え?」

 考え事をしていると、急に山田に声をかけられた。


 ときわと蛍の後ろをついていただけだが。私が上を向くとそこには大きく『女湯』の文字。

「なにか変か?」


 たっぷり考えた後、私は「おおう」と変な声を上げた。


 そうだ、忘れかけていたが、今の私は男の子だったのだ。


「はぁ、まったくなにやってんのよ」

「じゃあ、またあとでですね、師匠(マスター)


「あ、うん」


 しょんぼりした私の背中を山田が叩く。

「そんな落ち込むなよ。ほら、お約束だろ。いこうぜ、のぞきに」

 山田の鼻の下は伸び切っていた。


 そんなことをしている場合ではないのだが。私が呆れていると、山田は勝手に話を進める。

「行かないのか? まあ、お前はトヨタと仲がいいからなー。 あー、うらやましい。あいつ、たぶんクラスで一番でかいぜ」

「ふむ。確かにむかつくな、あいつの胸は」

「だろ? しかしお前、二見とも仲がいいじゃねえか、うらやましい。まあ、あいつはどうでもいいけど」

「そうか? あいつはあいつで良いやつだぞ」

「小学生みたいじゃん」


 貴様、それはレアリー・ホワイトウェルに対する挑戦と受け取るぞ。


 そういえばこの世界では、男女で風呂の入り方が違うようだ。

 女は普通に湯船に入り、男は女性から湯をかけてもらうのが決まりらしい。女風呂の壁側から入り、最初に見つけた女性に湯をかけられるのだ。

 ずいぶん難儀な入浴方法もあったものだが、郷に入っては郷に従うことにする。私は空気が読める大人だからな。


 嘘だ。私も年頃の女性だったので、それがお約束だということくらいは知っている。


「はあ、まったく。ばか言ってないでさっさと入るぞ」


 私はガラリと戸をあけて、――固まった。そこにいたのは無数の幼体(チビ)蛇人間(ゴルゴン)たち。

 やつらの石化呪文に対し、私のガラスのハートは抵抗(レジスト)することもできず、木っ端みじんになった。


 は、はじめてみる、たくさん。 うひいぃぃ。


 おお、もうだめだ。

 私はよろけたあと、もたれかかるように風呂の戸を閉める。


「ん、長門、どうした?」

「うう、具合が……、そうだ、体調が悪い。今日は風呂はやめておこう」

 

 私の言葉ににたーっと笑みを浮かべる山田。

「ああ、やっぱりな。信じてたぜ、お前ならついてきてくれると」


 そのまま肩を掴み、引きずられる。おい、ちょっと! 私は別に!

 心がへし折られた直後の私は抵抗することもできず、そのままなし崩し的に連行されていった。




 そのあとか?

 お約束だと言っただろう。お湯を浴びて終わっただけだ。

 ちなみに山田へ≪暗闇(オスクーロ)≫をかけておくのは忘れなかった。蛍とときわは、まだ嫁入り前だしな。

 まったく、守ってやった私まで、なんでこんな目に。 ぶつぶつ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ