012 部活へ入ろう! ~魔術部編-2~
――かくして、我が高校に魔術研究部が発足した。
後に魔術研究の権威として裏社会に広く知られることになる魔研部だが、当初はこのような職業魔術師ですらない、一介の学生たちが始めた小さな集まりであった。
帰り道の夕焼けは、いつもよりも強く目に刺さった。……っと。
「ときわ、お前、一体何を書いているのだ?」
「あひゃあ、ま、師匠、見えましたか?」
「……いや、別に」
ときわは歩きながらノートに何やら記入していた。器用なやつだ。
「じゃあときわ、また明日だな」
「ばいばい、二見さん。明日からよろしくね」
ときわは何も言わずに、じっとこちらを見ていた。
よく見ると、ペンを持った手がプルプルと小刻みに震えていた。
「あっ、あのっ! あ、ありがとうございましたっ!」
いきなり深々と頭を下げるときわ。
「本当にありがとう、師匠、豊田さん。特に豊田さんは、友達でもないのに勢いで引き込んじゃってゴメン。でも、あなたがいなかったら、たぶん部活なんて作れなかったと思う」
蛍は、照れくさそうに返した。
「蛍よ。蛍でいいわ。だって、友達だし」
「ありがとう、蛍さん」
「ほ・た・る。 呼び捨てでいいよ」
「……ほたる。 ほたるー。 えへへ、えへへへー」
ときわはにへらと、湿っぽい笑いを浮かべた。感動のシーンが台無しだぞ。
「ねえ、あの、 ときわ……さん。
せっかくだし、私にも魔術を教えてよ。こないだ青海に火の玉を出すやつを見せてもらったんだけど、あれ、ときわも、できるの?」
「い、いいよ、できる。 じゃ明日の午後ね。部活のときに」
蛍は蛍でぎこちない。まったく、見てられないな。
そうだ、本当にまぶしくて、見ていられなかった。いいなあ、青春って。
私は二人を優しく抱きしめてやりたくて、仕方がなかった。
実は、ときわの過去のことについては、本人と少し話したことがある。こんな性格のため、昔から友達がいなかったらしい。
蛍のほうは性格自体に問題はないのだが、近くに住んでいる友達が私くらいしかいなかったためか、新しい友達と仲良くなるのに時間がかかるタイプだ。
要するに二人とも、こうやって放課後に友達と何かするなんてこと自体、今までめったになかったのだ。
二人には今度、友達の作り方や付き合い方を教えてやろう。
ぼっちの彼女らとは違い、私にはたくさんの親友がいた。驚け、なんと3人。いや、4人はいた。こいつらを合わせると6人もだ。
これは魔術師としては破格の多さと言ってよいだろう。
もっとも数百年生きてきた私と、たかだか10年ちょっとのこいつらを比べるのはかわいそうだが、人生の先輩として温かく見守ることにする。
一番星を見ながら、ティルナノーグに残してきた親友たちを想う。
懐かしいな。どうしてるかな、あいつらは。
もう会うこともないだろうが、心は繋がっている。ズッ友だ。
別れ際、ときわは蛍に向かって小声で聞く。
「ねえ豊田さん。 あ、ちがった、蛍。あなたって師匠の彼女なの?」
「っ、ばっ、ちがっ! ただの幼馴染よ!」
「ふーん」
ときわはじっとりとした瞳で、蛍を見つめていた。