009 部活へ入ろう! ~剣道編-2~
「だれのレベルが低いって?」
私のうかつなつぶやきは、ばっちりと先輩たちに聞かれていた。
「あ、いやー、あはは」
笑ってごまかそうとしたものの、遅かった。がっちりとした巨鬼のような先輩たち数人に、私はあっという間に囲まれる。
「別にほっとけよ、新入生だろ?」
「うるせえな、調子に乗ってんのがむかつくんだよ」
はぁ。まったく、困ったものだ。
適当にあしらって輪から抜け出したいのだが、こいつらはあくまでもただの生徒。こないだの不良とは違うので、暴力で解決するわけにはいかない。
どうしようか考えていた私は、奥にいる蛍と目が合った。
すると何を勘違いしたのか、蛍は笑顔で手をぶんぶんと振って駆け寄ってくる。
「おうみー、楽しんでるー? あれ、どうしたの、皆あつまって」
なんという呑気な声。あ、こら、腕を握るな。動きにくい。
そんな私たちを見て、オーガもどきたちの雰囲気が変わった。
……あれ?
この雰囲気は俗にいう、火に油を注ぐとかいうやつではないのだろうか。
「お前、蛍ちゃんの知り合いかよ?」
「マジか? あの中学で県大会まで行った可愛い子だろ?」
「ああ、可愛いし赤いから目立つんだよな」
どうやら蛍は有名人らしい。
誤解は早めに解いておくに限る。――解ければの話だが。
「ただの幼馴染だぞ」
その言葉を聞いて蛍は、むっとしたようにさらに私に身を寄せてくる。
「おい、あんまり引っ付くな」
マズイ。これではイザという時にお前を守れないではないか。私は仕方なく、半歩前に出て蛍を自分の体で隠す。
「幼馴染とかうらやましいこといってんじゃねえぞ」
「もしかして剣道やめたのは、お前が原因じゃないだろうな」
なんだか話がおかしくなってきた。
あーもう、面倒だ。
私はこういう時の、一番簡単な解決方法を選んだ。
「わかったよ、かかってこい! これで文句ないんだろ?」
別に魔術で眠らせてもいいのだが、乗りかかった船だ。こいつらに本物の剣術というやつを優しく教えてやるか。
「え? なにそれ、どうなってんの?」
ここに来て蛍は、ようやく様子がおかしいことに気付いたようだ。私の耳元に顔を寄せ、小声でささやく。
「ねえ青海、またあんた変なこと言ったんじゃないの? 今からでもちゃんと謝りなさいよ」
「別に。こいつら、お前と仲が良い私に嫉妬しているだけらしい」
「ぶー」
防具を付ける私の横で、むくれている蛍。
蛍はなんとか止めてくれようとしたのだが、結局押し切られるような形で練習試合をすることになった。
まあ、当の本人たちが止めるつもりはないので、仕方ないことなのだが。
「だいたい青海、あんた剣道したことないでしょうが。一人でいくら練習してたからって、勝てるわけないでしょ」
「大丈夫だ、あいつらの戦い方は最初に確認している。――おっと、難しいな、これ」
「それ、手ぬぐいのつけ方が違うもん。……かして、やったげる」
慣れない正座のまま、後ろから蛍に手ぬぐいを巻かれる。背中に何か当たるような気がするが、今は気にしないことにしておく。
「できたよ。行っといで、ケガしないように気を付けてね」
「あ、うん。ありがとう」
蛍は心配そうに私を見つめた。
試合前だというのに、なんだか調子が狂うな。
私は立ち上がり、模擬戦用の剣を受け取る。竹刀というらしいが、気持ち悪いくらいに軽い。
こんなので本当に練習になるのか? まあいいけど。