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✖妖刀  作者: @ハナミ
二章 長月との決戦
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十一話 八鳥 夜三郎

 宏次と小夜は長月城の中へ入り込む。木の壁に掛けられている蝋燭の灯りを頼りに、長い木の階段をひたすらに昇る。敵という敵が進路を阻むが、切り伏せては進んで行く。


「居たぞ! 白狼様の所へは近づけはさせん」


 目の前には長月の兵が五人、行く手を遮る。


「キリが無いな」


 宏次と小夜は刀を構える。


「――だが、この上に白狼がいる」

「根拠はあるのか?」

「感だ」


 宏次の言葉に、小夜は笑みを浮かべた。


「なら、その感に頼るとしようか」


 小夜は、目の前の長月兵の間合いに入り込み、瞬時に三人斬り伏せて突破口を開く。残った兵が、小夜に鍔迫り合いを持ち込んだ。


「先に行け! 邪魔者は足止めしておいてやる。存分にやって来い」

「任せたぞ」


 斬り開かれた道を、宏次は走り抜け、階段を進んだ。


「さて」


 鍔迫り合いに持ち込んでいた刀を更に押し、近付く間合いに足を掛ける。体勢を崩させ、追い打ちをかける様に一振り。最後に残った小夜の背後を狙う者も、ついでの二振り目で斬り伏せた。


「……そこで傍観していても暇であろう?」


 小夜の言葉が、静かな廊下に響く。


「気付いていたか」


 やがて木造の柱から一人の男が姿を現す——八鳥 夜三郎。


「ふむ、どうやら継魅の背を取ったのはお主の様だな」

「お前も忍か?」

「いかにも」

「残念だったな、既に主君が白狼の元へ行ってしまったぞ?」

「あの様な若造に、白狼様の首は取れん——それよりも」


 短刀手裏剣を一本、小夜に向かって投げつけられた。鞘で容易く弾き宙を浮く。——その浮いた短刀を掴み、目の前にやってくるのは隼だ。

 短刀の切っ先が小夜を狙う。冷静に、隼の動きを捉えて一閃を放つ——隼は床に落ちて、動かなくなった。


「このような子供騙しでは、私の首は取れんぞ?」

「やはり、お主の方が危険だな。のう? 戦鬼姫。私は八鳥 夜三郎。お主は?」

「時折 小夜」

「時折? 聞かぬ名だな? どこの流派だ?」

「私は流派を持たぬ」


 夜三郎は小夜の姿を見て考える。流派を持たぬ者が戦鬼と呼ばれるものか? 聞いていた話とは違う。それに若すぎる。継魅と変わらぬわっぱではないか? と。


「来ないのか? ならこちらから行くぞ」


 駆ける脚は、間合いに近付く。一閃が夜三郎の首を捉える。夜三郎は小太刀で、その一閃を受けた。

 小夜の刀を受け流し、互いの間に再び間合いが空く。


「その二腰の刀は、同時には抜かんのか?」

「生憎、私は一刀流だ」

「お主は戦鬼姫ではないのか?」

「お前達が勝手にそう呼んでいるだけだろう?」

「……まあ良い。不安要素である事には違いない」


 夜三郎は、大きく息を吸い上げる。——口から、ふくみ針が飛び出してきた。暗い部屋の中、風を切る音だけを頼りに、それを弾く。が、少し時間が足りなかった。小夜の手の甲にそれは突き刺さる。


「また毒か?」


 継魅との戦いで見た毒針。毒の量は多く、小夜の刀を持つ手が痺れて動かなくなった。


「安心しろ。神経を麻痺させる毒だ。死にはせん。もっとも不利なことには変わらないがな」


 声は小夜の背後から聞こえた。そして背中目掛けて、肘打ちを叩きつける。倒れ込んだ小夜を、追い打ちを掛ける様に、力強く腹を蹴りつけた。


「がはっ!」

「案外あっけないものだな。少々、過信過ぎていたか?」 


 刀を床に突き立てて、小夜は再び起き上がる。そして腰を落とし村雨を構える。震える手は、毒の痺れか恐怖故か。


「立ち上がるか……根性は認めよう」

「……私は」

「ん?」

「負けるわけにはいかない」


 ――村雨を抜き放つ。鋭利な水の刃が夜三郎を捉える。咄嗟に腕で防ぐが、天井を鮮血が染めた。


「驕っていたか。まだ、そんな技を持っていたとは」

「時間の掛けすぎだ。さっさとやらぬから、痺れも取れてきたぞ」


 小夜は納刀を終え、手を振りしっかり動く事を見せ付ける。


「……あなどれんな」


 夜三郎は二本の小太刀を構える。対して、小夜は腰を据えて村雨を構える。

 先に動いたのは夜三郎。木の床を走る足音が微かにも関わらず、小夜に目掛けて向かう。間合いが詰められるその手前、再び水の刃を放つ——が、水の刃を飛び越えて小夜の懐に入り込んだ。


 二本の小太刀が小夜の首を捉えている。村雨を収め、もう一本の刀でそれを受ける。鍔迫り合いから、夜三郎は足を掛けて、小夜の体勢を崩す。慌てて踏み止まるものの、袖から見える細い腕が、風を切る音と共に、赤い線を走らせていた。


 おかしい。夜三郎の攻撃、一手一手に小夜は違和感を感じていた。油断できる相手に違い無いが、対して強くは無い。にも関わらず、うまく事を運ばぬと。夜三郎との間に、見えない間合いがあるような……。


 暗い部屋はやがて夜の目が開いてきて視界が広くなってくる。小太刀で打ち込んで来る夜三郎の動きとは、一鼓動早く風を切る音が耳に入る。


「そうか、解ったぞ」


 小太刀を持つ夜三郎の右手を鞘で打ち込む。小太刀を封じたまま刀を抜き、背を向け大きく夜三郎の胸元を切り裂いた。


「ほう、鸚鵡おうむの術を見破るとは」

「貴様の攻撃は普通の者と、なんら変わらん。風を切る音や足音を口で作り、感覚を誤魔化しているのだな?」

「ご名答。鸚鵡の術は、物音を真似る技だ」


 ふと、小夜は鼻に掛けた笑みを零す。


「八鳥は本当に口だけだな? その様な戦い方しかできんのか?」

「我に挑発は通用せん」

「爺ちゃんも言ってたぞ。『鳥』は小細工ばかりで大した事は無い。とな」

「……上等だ。その口車に乗ってやろう。童がぁ!!」


 夜三郎の激昂を見て、なんと単純な男だと小夜は思った。


「八鳥とは、八羽の鳥を戦術に代々受け継がれてきた」


 夜三郎は飛び天井を蹴り小夜の頭上に落下してくる。


「八鳥の奥義——見切れるか?」


 二つの小太刀の刃を確実に小夜の首を捉える。


鳶刈とびかり――『梅雨明つゆあけ!』」


 天井に向かって小夜の刀が抜かれると同時に、縦一閃が夜三郎の懐に走った。

 握られていた小太刀は宙を浮き、床に刺さる。夜三郎はしゃがみ込むように着地をした。


「……見事だ」


 そう言い終えて、夜三郎は床へと倒れ込み息絶えた。


「宏次は無事か?」


 夜三郎を背にして、小夜は階段を駆け上がっていった。


◇◇


 ――白狼の間

 宏次は階段を駆け上がると、蝋燭の灯りと正座をしている白狼の姿があった。


「来たな。宏政のせがれよ」

「白狼。一つ問いたい、墓川と長月は長く争いが続いていると聞く。何故こうも争わなくてはならない?」

「お前は宏政から何も聞いてはおらんのか?」

「ああ、白狼。そなたの口から聞きたい」

「……120年程前にあたる。当時、墓川と長月は友の間柄だったとは聞く。だが、墓川の持つ不老の刀。つまり、お前の持つその妖刀が原因だ」


 血を吸い、若さを食らう妖刀。本来は八頭の龍を打ち破る為の神器『神戌』。


「この妖刀がか?」

「左様。俺の曽祖父にあたる者が、宏政の父を殺し、その者の血を啜っていた事が事の始まりだ。信じていたのだろうな。その血を飲めば、不老になれると」

「其方も、不老を望むのか?」

「そんなものに興味は無い。長く生き続けるだけの人生など生き地獄。宏政を見てそう思わぬか?」

「——では何故争いが収まらない?」

「俺は長月の人間だ。曽祖父が宏政の父を殺し、宏政が俺の父を殺し、そしてお前も俺の息子を殺した。我が血筋を絶やされ黙っていられる程、懐が広く無いものでな」


 白狼は刀を抜いた。それは黒の刀身を持った細身の刀であった。


「長き系譜から続く怨嗟えんさは、お前が思っている程、容易くは断ち切れぬ。さて虎白の弔いと行こうか。宏政の倅よ……参れ!」


 宏次は太刀を強く握り締め、白狼 目掛けて大きく振り落とす。白狼は切っ先と柄を持って、真っ向から宏次の太刀を頭上で受け止めた。


師走しわすの構え」


 刀を斜めに傾け、宏次の太刀が滑る。思わず、木の床を叩きつけていた。すかさず宏次の肩に、細身の刃が甲冑を突き抜けて刺さっていた。


「――がぁッッ!」

「長月流剣術は、代々より《《突き》》を得意とする」


 宏次の目の前に立っている燭台の蝋燭を斬り、炎と共に畳の上に落とす。灯りが一暗くなると白狼が視界から消える。


「新月」


 灯りが消えた暗い部屋で、黒い刀身は見るに困難だった。再度、宏次の肩に刃が突き刺さっている。

 悲鳴を抑えて、傷みを堪える。だが白狼は、傷口を抉る様に刀を弄りまわす。


「こんなものなのか?」


 白狼の問いに、応えるかのように白狼の刃を掴む。そして白狼は、宏次の腹に向けて蹴りを入れる。肩から剣は抜け、再び太刀を構える宏次に、白狼の突きが襲いかかる。

 太刀で突きを弾き、また突きを弾く。弾く事ができなければ死ぬ。刺し抜かれた肩は、振り続ける太刀に重みと痛みが増した。


「もう終わりか?」


 白狼は問う。宏次は足を震わせ、恐怖に飲み込まれそうだった。それを拭う様に気丈に立ち上がった。


「……ここからだ!」困憊した息を吐き、太刀を両手で構える。

「否。ここまでだ」


 白狼の言葉を否定するかの様に、宏次は太刀を振るう。白狼は黒い刀で受け流し、隙があれば突く。長月の剣術は受けては攻撃するという剣術であった。

 今度は宏次の太腿に細見の刀は突き刺さる。思わず宏次は、膝を床についてしまった。

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