逆襲のP
バイト中に思いついたやつです。
「下野動物園パンダ舎より、アナウンサーのわたくし四里がお送りしております。
こちらでは先日産まれたばかりの赤ちゃんパンダを一目見ようと、多くの客が集まっています。
家族連れの他にも、幼稚園の遠足で来ているお子様も多くみられます。」
ぼく、きょうからひろーいおへやであそべるんだって!ママもいっしょだし、しいくいんさんもいるからあんしんなんだって!
「あっ、出てきました!赤ちゃんパンダです!見えますかっ?カメラ回せますかっ!?」
「わぁ~かわいい~」
「ぱんださーん!あかちゃーん!」
うわぁ、なんだかにんげんさんがいっぱいいるよ?あれみんなしいくいんさんなのかな?
「ご覧いただけますでしょうか、母親パンダに寄り添うように元気に動いています!」
みんなにこにこしてるねっ!いっしょにあそんでくれるかなぁー。
「ねぇ、せんせい。あかちゃんのおなまえよんであげようよ。」
「そうだね、じゃあみんな元気な声で呼んであげてね。せーのっ」
「ちー○ちーん‼」
「ねぇママ、ち○ちんってなあに」
「ぼうや、あなたのお名前よ。」
「…正気?」
~七年後~
「さぁ、私珍獣ハンターのネモトは今回なんと、ここヌホンの下野動物園に来ておりまーす!
ここにはなんと”世界一憎たらしいパンダ”がいるそうです!さっそく行ってみましょー!」
はぁ、またTVショーの連中か…。まいどまいどご苦労なこったね。
カメラの位置は…1カメ、2カメ、3カメと。カット割りもばっちり合わせちゃうぜ。
おぉっと、笹でもモグモグしてたほうが絵面が映えるかな?
「いました!あれが世界一憎たらしいパンダの…」
「はぁ~い、どーもー。ち○ちんでーす。」
食い気味に映り込んで出だしはばっちり。
「あ、どーも、珍獣ハンターの…」
「う~ん、ネモトちゃんね。見てるよ~テレビー。調子イイみたいじゃーん。」
「あはは、ええ、まぁ…」
今回はち○ちんこと俺様へのインタビューの企画だそうだ。よし、お蔵入りにしてやろう。
「えーと、それではち○ちんさんは…」
「ちがうちがうのよネモトちゃーん。」
「俺様の名前はもっとこう、まだ小さい子どもを可愛がるように…大きくなる前の息子を想像してみ?こう優しく愛らしく、ち・○・ち・n」
■□■音響トラブルです■□■
その後のインタビューもスムーズに進んだ。
「最近嬉しかったことは?」
子どもたちが元気よく男性器の名前を連呼していること。
あとそれを見た親御さんが苦笑いしていること。
「好きなものは何でしょうか。」
黒ギャル。ホットパンツ履いてたらなお良し。
「趣味は?」
俺様を背景に自撮りしてるヤツに向かって全力のアへ顔キメること。
「怖いものはありますか?」
飼育員。
「生活の上で不安なことは?」
この後のエサを減らされないかだけ心配。
「テレビの前のみなさんに一言。」
野生のパンダって肉食だって知ってた?牛とか狩って食べるんだぜ。
「はい、というわけでね、インタビューの方はここまでになりまs…」
「あとね!あとね!パンダの毛ってモッフモフに見えんじゃん!?実際全然違くて、毛はカチカチに固いわ、表面は油でギットギトでね!そんでn…」
突然首根っこを掴まれて裏まで引きずられた。あぁ、飼育員だ。
このあとめちゃくちゃ怒られた。
はぁ、世の中に対しては不満しかねぇ。
メシの話だ。
笹て。
さっきも言ったけどパンダはもともと肉食動物だ。漢字じゃ「大熊猫」って書いたりするけど、種類的にはクマの仲間だ。
逆でしょーよ。「大熊猫」じゃなくて「大猫熊」でしょーよ。ちなみにパンダって名前はレッサーパンダの方が先らしいぞ。
なんの話だったっけ…そう!肉食なんだから笹じゃなく肉食わせろっての!
笹て。
竹とは違うの?
竹じゃダメなの?なーんで?
試しに二つ並べてみ。笹と竹。
んで友達呼んできて目ぇつぶらせてシャッフルしてみ。
「どっちが笹で、どっちが竹でしょーか♪」
ぜーったいわかんないもん。
あとね、一番大事なヤツ。
もうコレ全ての元凶。
「ち○ちんて‼」
わかるよ。餃子とチャーハンの国っぽくさ、短い言葉を二回繰り返す感じ?それはわかる。
けどよりによってそれかよ。もっとこう…あったでしょうに!
リンリンとか、ランランとか!
パンパンとかアンアンとか!
だって”モノ”があるじゃないっ!
ち○ちんって言われたらみんなまずそっちがクるじゃないっ!
「…ち○ちんのムスコさんは、お元気ですか?へへへ…」
やかましいわっ!!
この名前つけた飼育員もおかしいよ!?
でももっとおかしいのがいるよっ!
母親ァ!!
なんでそれでGOしちゃったの!?
よく言うじゃん、
「名前っていうのは、親から最初にもらうプレゼントなんだよ☆」
俺がもらったの、だーんせいきーッ!!
どう使うの!何に使うのこのプレゼント!
…スリスリ…
「…温い」
いやん気持ちわるぅい!!
と、この名前は俺様の心を蝕み続けている。
どんな異世界のどんな呪いよりはるかに重い。ちょっと分けてあげてもいいこの重さ。
そしてそれを許容した社会。
憐れそうな、でもどこかでバカにしたような顔で俺様の名前を呼ぶニュースキャスター。
「パンダ界のキラキラネームですかねぇ(笑)」
違います。チラチラネームです。見えそうです。そのうち顔を出すでしょう。
これがホントのパンチラってね。
全然うまくないわ。
もう十分だ。十分俺様は虐げられた。
他の子パンダに八つ当たりしては飼育員に首根っこ掴まれ。
脱走しては飼育員に首根っこ掴まれ。
スカートはいたお客さんをこう…下から覗いたら飼育員に首根っこ掴まれ。
白でフリフリがついてました。パンチラってね。
「だから今度は俺様が、お前らを虐げる番だ。」
パンダ舎の地下、ひそかに作り上げたコイツで…。
「臨時ニュースです。下野動物園を震源とした大規模な地震が発生しております。付近の市民の方は速やかに最寄りの避難所へ…」
搭載したテレビから女子アナウンサーの慌てた声が聞こえる。地下にいるのに電波良好、さすがは俺様。
どれ、ネットの荒れ具合も見とこう。
「すげえ揺れてる」
「友達あのへんにいるんだけど大丈夫かな」
「メディアに騙されるな!これは某国の兵器による攻撃で…」
「コロッケ買って来ればいいんだっけ?」
「↑それは台風のときだ。にわか乙」
「でもFPSやめられないんだけどwwwwwwwwwww」
おぉ、パニック、パニック。みんながあわててる。俺様はスゴイぞ天才的だゾ。
さぁて、そろそろ真打登場といきますか。
「こちら現場の四里です!ただいまさらに強い揺れが…、なんですかアレは!?」
コンクリートの大地を突き破り、鋼鉄の巨人が…もとい鋼鉄の大猫熊が姿を現す。
熱き血潮を力に変えて、クリクリおめめが輝き叫ぶ。
黒き両手が真っ赤に燃える。お肉をよこせと轟き叫ぶ。
―――ちなみにパンダは「ワンっ」って鳴く。
機動戦士パンダム、大地に立つ!!
「どぎゃあぁぁーん。」
効果音は用意できなかった。
「テレビの前の皆様、ご覧いただけているでしょうか。」
ふふっ、驚くのも無理はない。全高約30mの巨大ロボだ。しかも外観を俺様に似せてあるからキュートなルックスからあふれ出るダンディズムに、全国の女子高生はメロメロっちゅう寸法よ。先に女子アナがホの字になっちまったみてぇだがな。
「見てください皆様…
おおきなち○ちんですっ!!」
「バカヤロォーッ!!」
俺様はすぐさまパンダムを稼働させ、街を破壊しにかかる。
「あぁっ、なんということでしょう、
おおきなち○ちんが暴れていますっ!!」
「お前はっ!もうしゃべるなぁー!!」
操縦桿を握る手が熱くなる。こうなったら手加減なしだ。徹底的にやってやる。
「たった今入ってきた情報です。ついに助けが来てくれました!」
うん?助けだと?ヒーローでも来たってのかい。
ウル虎マンか?仮免ライダーか?スーパー変態ならワンチャンあるかもだぜ。
不意にレーダーが警告音を発する。
「どこだッ、どこから来やがるッ!!」
敵の姿は見つけられない。
「見えないッ!私には敵が見えないぞッ!」
狼狽えていたその瞬間、頭上に黒い影がよぎった。
「ええい、上かっ!」
繰り出されたカウンターの右アッパーは空を切る。
しかし、ヤツを地に降ろしたのは確かだ。
風圧で砂煙が舞っている。それが晴れれば見えるはずだ。
さぁ、見てやる。どんな顔だ…。
「バカなっ!その姿はっ!?」
その姿は奴らに似ていた。俺様が唯一恐れる、かの者たちに…。
「ご紹介いたしましょう。そのヒーローの名は…
汎用ヒト型調教兵器・C-Queen!!」
やられた。まさか奴らも巨大ロボを配備していたとは。笹のみで作ったパンダムよりも明らかに向こうのほうがハイスペックだろう。
だがな、
「乗せるパーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないことを教えてやるッ!」
赤いのが3倍強いと聞いた。なら白と黒なら…1.5倍くらいにはなるだろう。
駆け出して速攻を仕掛ける俺様に奴はバズーカのような火器を放った。
よけきれない!
「あぁ!ち○ちんにタマが当たりました!これは痛い!」
砲撃は頭をかすめ、目の部分を破壊していった。
「確かに痛いが…、やれるな、パンダアアアァァァム!!」
幸い、砲撃で舞い上がった土煙でヤツからはこちらが見えていない。
やるなら今しかない!!
「なんと!おおきいち○ちんが立ち上がりました!!」
煙幕をまっすぐに突っ切り、拳をヤツに直接ぶつけてやる!!
「たかがメインカメラをやられただけだーっ!!」
全てをかけた最後の一撃は…
切なくも届かずに終わった。
C-Queenはパンダムの攻撃を避け、その機能を完全に停止させていた。
「首根っこです!首根っこを掴まれています!!」
なぜ奴は首根っこにパンダムの停止スイッチがあることを知っていたんだ?
「動け、動け!動いてよ!今動かなきゃ、今やらなきゃめちゃくちゃ怒られちゃうんだ!もうそんなのは嫌なんだよ!だから動いてよ!止まるんじゃねえぞ!!」
俺様は必至にレバーを操作するが何の反応も起きない。
「おおきいち○ちん、C-Queenに引きずられていきます。今回もこっぴどくシゴかれるようです。街の平和は守られました。」
もうだめだ、なすすべ無し。やはり飼育員には勝てなかったよ。
「俺様が…パンダムだ…」
最後の言葉を残し、俺様は気を失った。
目覚めたらパンダ舎に戻っていて、すぐそばで待っていた飼育員にめっちゃくちゃ怒られた。
なんだよ、そっちだってひとの寝顔じーっとみてたくせに。
ロボでさんざん暴れたから、土が掘り返されて、木の根っこがたくさん出てきたらしい。
その日からこの街は下野じゃなく下根多という名前に変わった。
その日のエサは減らされるか、最悪おあずけかと思ったけどむしろいつもより多く、ほんの小さなやつだけど、チャーシューがついてた。
次の日来たお客さんはいつにも増して子どもが多かった。また名前をバカにされるんだろうと暗い気持ちでいたが、なぜかガラス越しにロボごっこをしたがる子ばっかりだった。親御さんも嬉しそうにしてくれた。
俺様を背景に自撮りを取ろうとしたカップルがいたので、近くまで寄って行って満面の笑顔をお見舞いしてやった。どーいうわけか気分がいいんだぜ。
一日たった今日のエサにもチャーシューがついてた。あとはいつもの笹。
今まで檻のなかでいじけてたけど、反抗してみたら飼育員も俺様の怖さに気づいたかな?
「まぁいいや。どれ、昨日と同じように笹からいただくかな。
俺様は好きなものは最後にとっておくタイp…ブフォオッ」
竹だわコレ