【14・五日目、語らい】
その日の夕食には寒さが厳しくなっていることもあり、暖かいものが並んだ。
「私がすべきことですから。もちろん毒味済みです」
ヒュートロンが自らスープを注いで回る。カリーナを殺したのがゼクスではなく、参加者の誰かだと信じている彼にとっては複雑な思いがあったが、それを料理にぶつけたらしい。出てくる料理はこれまでにないほど豪華なものが並んだ。デザートにカリーナの好きな苺のムースにしたのが彼のせめてもの犯人に対する怒りの表れだったかも知れない。
ただ、やはり心の乱れはあったのだろう。味付けに乱れがあるとスケイルに指摘された。
一方、食事の豪華さとは裏腹に、席につく人達の表情はぎこちなかった。
この場にジェンヌとルーラの姿はない。食事前にジェンヌが熱を出した。この季節にずぶ濡れになったまま地下砦を歩き、そのまま恥知らずの影響で苦しみ自殺を図るなど、肉体的にも精神的にもかなりのダメージを負ったせいらしい。今、彼女は自室のベッドで横になっており、参加者達の食事の世話をしなければならないレミレとモームに代わって、ルーラが彼女のそばについている。すでに恥知らずの効果は消えているはずだが、もうすこし男性との接触は避けた方が良いという配慮もあった。
ゼクスの行方は未だわからない。彼が逃亡に使ったと思われる塔の隠し通路は、地下砦の出入り口のすぐ横につながっていた。鍵はなかったが、巧みに誤魔化されており、皆が気がつかずに見過ごしていたのだ。塔への扉がすぐそばにあるというのも気がつかなかった一因である。
「みなさんどうしましたか? そんな心持ちではおいしい料理が台無しですよ」
しれっと言うベルダネウスを、フェリックスが睨み付けた。
「てめぇのせいだろうが」
すでに余裕がなくなったのだろうか。フェリックスの口調はすっかり柄が悪くなっていた。
「私が何かしましたか? 参加者としての権利を使おうとしただけです」
「てめえはもともとよそ者だろうが! よそ者らしく隅っこで小さくなっていればいいんだ」
「鍵の発見宣言のことでしたら、グランディスさんに言うことですね。私を参加者として連れてきたのは彼です。そして、参加者としての権利も私に与えてくれた。私に不満をぶつける力があるなら、私より早く鍵を見つけ、取り出すことです。ご自分が手にできなくても、権限のあるジェンヌさんやロジックさんに代わりに宣言してもらうという手もありますよ。
それに私の答えが正解かどうかはまだわかりません。スケイルさん達のように、自信満々で鍵を取り出したらハズレだったなんてこともあるかもしれません」
ヨロメイが肩をすくめた。先ほどの自分の反応が申し訳ないのだろう。
「本当にベルダネウスが耳打ちした鍵の場所は正解なのか?」
「……それを答えることは出来ません」
その申し訳ない返事が答えを表していた。
フェリックスは舌打ちすると、苛立つように席を立った。つづいてロジックも席を立つ。二人とも料理には半分も手をつけなかった。居心地が悪いのか、残った人達も一人、また一人と食堂を出て行く。
「もったいない」
ベルダネウスは二人が残した皿に手を伸ばした。
「おかわりでしたら新しいものを」
と言われるのをかまわず、残された料理を口に運ぶ。
その様子をスケイルはしばし眺めていたが
「どういうつもりだ?」
皿が空になり、片付けられたタイミングを見て声をかけた。
既にレミレたちは食器と共に退出し、食堂にはスケイルとベルダネウスしかいない。
「どういうつもりだというのは?」
「君にとって、自分が鍵の在処がわかったと皆に知らせることに意味があるのか? 他の者はともかく、フェリックスは何をしでかすかわからんぞ。それとも、自分の触れられたくない過去に触れられて腹が立ったか。とにかく、あの一件から君の様子は変だ、やたら自虐的で、挑発的に感じる」
「そうですね。あえて意味をつけるとするならば……待ちの姿勢ではなく、こちらからも仕掛けてみたいと言うことですか。私にとってこのゲームは、鍵が見つからなくて当たり前、鍵探しは皆さんに任せて、自分はお金がもらえる休暇だとのんびり構えていたんですが、そんな姿勢に甘えていた自分に腹が立ってきた」
「ゼクスの出現、サラやカリーナ、カーレが殺されたのは君のせいではない」
「自分のせいじゃないからいいや、なんて気軽に考えられたら良いんですけどね」
酒を一気に呷り、新たにグラスに継いだ。酒に弱い彼がこんな飲み方をするのは珍しい。
「それに、フェリックスさんを見ていると段々腹が立ってくるんですよ。昔の自分を見せつけられるようで」
「ほう」
スケイルも興味が湧いたようで、身を乗り出してきた。
「君も恥知らずを使っていたんだったな。昔の君はスケイルのようなことをしていたのか?」
「あれよりも……ね。だからよけい腹が立つ」
「あんなことをして楽しかったか」
「ええ。自分のしたことで他人が動く。人を動かし、破滅する様を見るのは気分が良かったですよ。特にむかつく奴が自滅したり破滅したりする様を見るのはね。それをする度、人を人と見なくなっていきました」
「人でなければ何だ?」
「何でしょうね……奴隷ではなかったですね。駒でもない……ペット、虫……なんと言ったら良いか」
「何でも良い。だが、人だ」
「ええ、私はそれに全く気がつかなかった。自分の心が腐っていくことに。だから私は殺された」
「ならば口をきいている君は誰だ?」
「酔狂な女がいましてね。死んだ私を生の世界に引き戻してくれました。殺したのも女、生かしたのも女。男の運命を決めるのはいつも女。男なんて、所詮は女の作った舞台で踊る道化師に過ぎませんよ。それを悟られないために、女は時に自ら舞台に上がり、男の引き立て役を演じる」
「酔っているな。しかし、男が変わる時、そこには必ず女がいるのは確かだ」
「あなたも覚えがありますか?」
「ああ。先ほどフェリックスが言ったが、私の妻はフェリックスに遊ばれたんだ。散々もてあそばれて、捨てられて。それを私が口説き落としたんだ。
彼女もジェンヌの母親同様、没落貴族だったんだ。いや、王族へのつながりが完全になくなっていた点で、ジェンヌの家よりひどかった。彼女自身、自分の家が貴族だったことを忘れていたぐらいだ」
「結婚、反対されませんでしたか?」
「されたよ。特に父にはね。父は私の相手を大手の取引先か、貴族の娘か。要は政略結婚させるつもりだったらしい。それを私が本人も忘れているような没落貴族の娘、それも男にもてあそばれ、捨てられた女を妻にすると言いだしたのだからね。毎日が大喧嘩だ。これまで父とは多少意見の違いはあっても、最終的に私が折れた。
だが、こればかりは負けるわけにはいかなかった。彼女を妻にするためだったら、私は父だろうと王だろうと戦うさ。それほど私は妻に恋していた。今にして思えば、だからこそフェリックスは彼女に手を出したのかも知れない。
周囲に何も言わせないためにも、私は彼女を妻にした後、必死で働いた。私がいなければボーンヘッド商会はここまでになっていないと言わせてやるとね。だからこそ、このゲームを知って私はショックだった。これだけやっても、父は私を認めないのかと。妻となる女性を父の決定ではなく自分で決めたことがそんなに憎いかとね。
だから、鍵を見つけた君には悪いが、私はこのゲーム、勝って見せる。君の宣言より先に鍵を見つける。子供達のためにも、私はここで仕事を失うわけにはいかない」
「子供達? お子さんは一人と聞きましたが」
「妻のお腹に二人目がいる」
それを聞いて、ベルダネウスの頬がゆるんだ。グラスを手に取り、軽く差し上げ
「まだ見ぬあなたのお子さんのために」
「君の敗北のために」
笑いながら、二人は乾杯した。
「ところで、このゲームが終わったらエルティースはまた君の護衛兼使用人に戻るのか」
「ルーラが拒否しない限り、そのつもりですが」
「彼女は置いていってくれ」
「まさか愛人にしたいなどとおっしゃるんじゃないでしょうね」
スケイルは声を出さずに笑い
「私じゃない。ロジックだ。どうやら彼女がすっかりお気に入りらしい」
「そのようですね。わかりやすい男です」
「正直、私は奴をまったく買っていない。口先ばかりで、自分の力量も考えず仕事を抱え込み、結局出来ずに周囲に迷惑をかける。しかも自分の非を認めない。弟でなければたたき出しているところだ。
ところがここ数日、あいつの目が変わった。目から卑屈さが消えた。明らかにエルティースの影響だ」
「気持ちで商売がうまくいくなら苦労はしないんですけどね」
「気持ちが商売に影響を及ぼすのは事実だ。私たちが女で変わったように、ロジックもエルティースが身近にいることで変わるかも知れない。もちろん変わらないかも知れないし、変わってもそれは悪い方かも知れない。しかし、少なくともしばらく様子を見てもいいかと思う。そのためには」
「ルーラをロジックの目につく場所にいさせる必要がある」
「そうだ。精霊使いで衛視の経験ありというのは、それだけで雇う理由になる。彼女には商会の警備員の仕事を用意すればいい。ロジックが外出する時は護衛につける」
「それらの言葉は私ではなくルーラに言って欲しいですね」
ベルダネウスの言葉にはわずかに不快さが含まれていた。
「それにしても、あなたがそこまでロジックさんに肩入れするとは思いませんでした」
「あいつには黙っていて欲しいが、実は娘があいつをお気に入りでね。聞いたかも知れないが、あいつは今は無きフライトという国の王族の血を引いているらしい。本人がそう言っているだけなんだが、娘はロジックを王子様だと思っている」
「そういえば、娘さんは王子様物語のファンでしたね」
「あの中には王国が滅び、流浪の民となった王子の話があってね、それをロジックと重ねているらしい。奴の話が出る度に助けてくれと娘に言われるんだ。我ながら親馬鹿だと思うが、娘のお願いに振り回されるのも悪い気がしないから困る」
苦笑いするスケイルは、どこか楽しそうだった。
フェリックスの提案を聞いて、ロジックは息を飲んだ。
「本気か?」
「もちろんさ。それともお前、このままベルダネウスに商会の財産のほとんどを取られていいのか?」
「いいわけないだろ。けど、仕方がないだろう。僕は未だに鍵の場所がわからない。それとも、フェリックスはわかっているのか?」
「わかってたらとっくに宣言しているよ」
別荘、フェリックスの部屋である。食事が終わり次第、彼はロジックを部屋に引き入れ、ある提案をしたのだ。
「けど、いくら何でもそれはやり過ぎじゃ」
「じゃあ、お前は良いんだな。五十万ディルぽっちで放り出されて、みんなから馬鹿にされ、仕事もなく惨めな思いするのは。兄貴や姉貴はいいさ。すでに商会内で派閥を持っているし、実績もある。ベルダネウスだっておいそれと追い出せやしない。これからも幹部として雇い続けるかも知れねえ。けど俺とお前は違うぜ。お前、これだっていう実績あるか? ねえだろ」
「しかし」
「何ためらってんだよ。それによ、ベルダネウスがいなくなりゃ、エルティースはどうなる。行き場所がないから、商会で雇うことだって出来る。お前の秘書として雇うことだって出来るんだぞ。ずっと彼女と一緒にいられるんだ」
「彼女は関係ないだろう」
「おめでたい奴だな。お前があの精霊使いに惚れているってのはみんなわかっているぜ。わかりやすいからな、お前は。
俺達にはもう選択肢はねえんだ。お前も腹をくくりな」
堅く握った拳を振るわせながら、ロジックは決断を迫られていた。
窓を開けると、冷たいが新鮮な空気が流れ込んでくる。肌を刺すような冷たさが、今のルーラには心地よかった。
「やっと期限の半分か」
精霊の槍を手にルーラが夜空を見上げた。窓の外には風の精霊に来てもらっているので、仮に矢が射掛けられても防ぐことが出来る。
空は晴れ渡り、月と満天の星が広がっている。その光に照らされ、庭は思いの外明るい。
ルーラは大きく深呼吸した。
「ん」
瞬間、緩やかな刺激が波のように流れてきた。太ももを、女の秘部を撫で、臍を触り乳房を愛撫、唇を刺激して通り過ぎる。
堅く目を閉じ、それが過ぎるのを待ってからルーラは息をついた。既に自分の体からは恥知らずの毒素が抜けているはずなのに、時々こんな感覚が来る。気持ち次第で耐えられる程度なので残り香みたいなものだろう。明日にはもうないだろうと思ってはいるが、落ち着かない。
恥知らずのことは先ほどレミレから聞かされた。ルーラも知識として淫靡薬の存在は知っていたし、衛士時代にそれにかかわる事件も手がけた。が、実際にその影響を受けたのは初めてだった。話では、とてつもなく強力なもので、今までこれに耐えられた女性はいないというが、だからといって気が楽になるものではない。
泣きたくなるのをぐっと堪える。あの時のことを思い出したくないのに体が思い出させる。
「なんなのよ、あれ」
つい言葉が漏れる。恐ろしい。塔でのことはハッキリ覚えている。何か甘い香りがしたと思ったら、それが体に染みこんでいく。いや、染みこんでいくと言うより、侵略されていく。体が別物のようにうずき出し、心が飲み込まれた。意識はハッキリしているのに、それが自分のものだという自覚がなかった。体が芯からうずき始め、自分の中に男を迎え入れたいという欲求が吹き出すように溢れだし……
目の前にいたロジックに飛びついて彼の唇にむしゃぶりついていた。彼でなくても、目の前にいたのが男ならば誰でも同じことをしただろう。そう、たとえそれがあのフェリックスであっても。とにかく男の愛撫を求め、彼の唇をむさぼり、手を自分の胸に導き、服越しでは我慢できず、全てを脱ぎ捨てようと皮鎧に手をかけた途端、セバスの腕が首に回り、意識が途切れた。
もしも彼に落とされなければ、あのまま自分は裸になってロジックに襲いかかっただろう。それがどうしようもなく恥ずかしく、屈辱で、訳がわからなかった。
身を震わせたのは、外からの空気が冷たいせいだけではなかった。
窓を閉め、ベッドに振り向くと、ジェンヌが真っ青になって半身を起こしていた。
ここはジェンヌの部屋なのだ。
「大丈夫ですか、水、持ってきましょうか?」
もらった水を一気に飲み干すと、やっとジェンヌは大きく息をつく。
「おかわりは?」
「いえ。もう変なことはしないから安心して」
しかし、そう言うジェンヌの目にはまだ力がない。汗だらけの顔を拭き、手伝ってもらって乾いた服に着替えると
「ありがとう。だいぶ楽になったわ」
とは言うものの、まだだるそうに見えた。幸いにも熱はかなり下がっている。
「……なんなのよ、あれ」
ルーラと同じ言葉を漏らした。ルーラは知る限り恥知らずについて説明した。
「あの馬鹿、そんなものを使っていたの」
「ですから、あたし達があんな風になったのを気にする必要はないそうです」
「あなた、気にしないでいられるの?!」
真っ直ぐ見つめられ、ルーラはたじろいだ。
「あなた、自分があんな風になって、薬のせいですから気にしない気にしない。そんな気持ちでいられるの。私は嫌、女にとって、体を許して男と交わるってどういう事なのか知らないわけじゃないでしょう。それなのに自分の気持ちを消し飛ばされて、目の前の男を、ただ男と言うだけで求めて、しかもそれがおかしいことだと気がつかない。そんなことになって平気なの?!」
「平気なわけないでしょう!」
怒鳴り返され、ジェンヌの口が固まった。
「自分の体が勝手にうずいて、好きでもない男に体でせまって平気なはずないでしょう」
その時、ドアの向こうで微かに物音がしたが、二人は気がつかなかった。
「でも、だからっていつまでもそれをわめき散らして良いとも思いません。少なくとも、周りが理解してくれている場合は」
言いながら、必死でお腹の奥から噴き出しそうなものを堪える。
それをジェンヌも理解したのか、何か言い返そうと口を開いたが、言葉を出すのを止めた。
「……」
「……」
睨み合うような、困ったような沈黙。
「そうね。ごめんなさい」
先に折れたのはジェンヌだった。
「……でも……」
そっと自分の唇に指先を当てる。それを見て、ルーラに中にもやっとしたものが生まれた。あの時、ジェンヌはベルダネウスに迫り、キスしたのだ。
恥知らずのせいだと言うことはわかっている。しかし、それでもルーラに生まれたモヤモヤ感は消えなかった。ベルダネウスが娼婦を買っての朝帰りを出迎えた時に感じるものと同じ、だけどずっと強い。
「気にしないでください」
「ええ、わかっているわ」
そう答えたジェンヌが微かに頬を染めるのをも見て、ルーラは自分と彼女の中のものが似て異なるものだと知った。
好きでもない男に迫って平気なはずがない。でも、あの時迫ったのが好きな男だったら……。
「そうそう、フェリックスさんの処罰ですけど」
胸の内をモヤモヤを振り払うように、ルーラは話題を変えた。コレクションルームで繰り広げられたフェリックスとスケイルののことと二人の処罰。そしてベルダネウスが可能になり次第、鍵の発見宣言をすることなど。
「彼は鍵の場所がわかったって言うの!?」
「少なくともザンはそう言っています」
「そう……何か悔しいわね」
その口調はどこか諦めきったようだ。
「父を知らない彼よりも私たちの方が有利のはずなのに」
「……グランディスさんって、どんな人だったんですか?」
「あなたはどんな風に見えた?」
ルーラはこれまでのグランディスの姿を思い出した。ファズの店で誕生日の食事の時にいきなり現れた時、別荘に来るよう言ってきた時、そして馬車の中での尋問のようなやりとり。
「周りは自分に合わせるのが当たり前って考えている人。でも、それは絶対の自信とそれを裏付ける実績がなければ出来ませんよね。実際、ボーンヘッド商会がその実績なんでしょうけど」
「そうね。商会を立ち上げた頃はもっと腰が低かったそうだけど。メルサでは歴史のある分王族の特権意識が強いのよ。王族だけでなく、国民も王族は特別なものとして扱っている。それを打ち破って進むには強引なぐらい押しが強くなければ駄目だったみたい。
それに、周りが動かないのよ。まるで変わるのを怖がっているみたい。だからこそ父様はよけい強引になった。この国ではね、優れた血筋を持たないものは強引でなければ前に進めないのよ」
「そっか。ジェンヌさんも商会の幹部でしたっけ」
「商会に反発する人達は多いし、中にはこちらも頷いてしまうような、考えさせられる理由で反対する人達もいるけれど、未だに変わるのを恐れて反対する人が多いわ。特に王族関係にね」
その声には苛立ちが含まれていた。
「だからね。父様の強引な姿勢を私は支持しているの。そしてそれは成功している。今のところはね」
「今のところは?」
「そう、今は段々とね。商会自体が王族化しているような気がするわ。よく言うでしょ。戦いで一番怖いのは、戦っているうちに自分が段々敵と同じになっていくことだって」
声が高ぶってくる彼女の手を、ルーラはそっと押さえた。
「あの……あたしは難しいことはわからないけど……ザンもそうだけど、力を入れて理屈を語る人って、みんな怖い顔します。自分は正しい、だから反対する奴は間違っているってみたいで、何だか怖いです」
言われてジェンヌは軽く自分の頬を叩き
「そんなに怖い顔してた?」
頷かれて彼女はしょげた顔を返す。
「ごめんなさい。私ね、時々思うの。鍵を探すために父様の考えを探ろうとしているうちに、私も父様になってしまうんじゃないかって。
もしかして、このゲームは父様が私たちにどれだけ自分になれるかを試しているのかもしれない。父様と全く同じ考えを持ってこそ鍵が見つけられる。
けれど、私はそんなのは嫌。確かに父様はすごい人だった。でも、尊敬できるかは別」
「でも、ザンは見つけたって言っています」
「そうね……なんで他人のあいつがわかるの。いっそのこと、彼が商会の新会長になったほうがいいかもしれない」
苦々しい彼女の顔をルーラはじっと見つめていたが、やがて意を決して
「ジェンヌさん、一つ教えてあげます。ザンは諦めの悪い人が好きなんです。だから諦めないで」
きょとんとするジェンヌにさらに詰め寄って
「最悪でも、フェリックスが鍵を手に入れるのだけは阻止してください」
「それは私も嫌だわ。あいつの下で働くぐらいなら、商会をやめて……今あるお金を元手に自由商人にでもなろうかしら。しばらくベルダネウスと一緒にいてコツを習って」
「え?」
「いっそのこと、そのまま彼の奥さんになろうかしら。二人のお金と合わせれば、そこそこ良い場所に店を持てると思うから」
「ええっ!」
「冗談よ」
真っ青になるルーラを前にくすくす笑う。
その笑顔からは、ルーラはとても今の言葉が冗談だとは思えなかった。
月と星の照らす中、ルーラはこっそり別荘を出た。周囲の人の気配を確かめ、人の姿を探す。目の良さが自慢のルーラは夜目も利く。まして明るい今夜は木々の影まで見える。
人の姿が見えないのを確認して、ルーラは馬小屋まで駆けていった。光の精霊の力は借りていないため、暗い馬小屋に入ると、気がついたグラッシェが体を揺らした。
「ごめんねグラッシェ、ちょっと静かにしていて」
「体の具合は大丈夫か?」
馬車の陰からベルダネウスが姿を見せた。
「……何とか」
彼を前にしても、塔の時のような疼きがないのでほっとする反面、どこか残念な気持ちもするルーラだった。
「本当か。今回ばかりはやせ我慢は困るぞ」
ルーラに詰め寄ると、ベルダネウスはいきなり彼女を抱きしめた。
冷たい空気の中、ベルダネウスのぬくもりが
(……あったかい……)
ルーラを暖める。
(もうちょいこのまま……)
と考えたルーラははたと気がついた。夜、人気がない、男と女が二人っきりで抱き合っている。危険な状況で、お互い助け合う。信じられるのはお互いのみ。
ふと顔をあげるとベルダネウスがじっと自分を見つめている。
(これはもしかして!)
「大丈夫なようだな。吸った時間が短かったのが良かったな。ジェンヌさんより神経が太いのも良かった」
あっさりルーラを放した。
「神経が太いはないでしょ」
表情に出すことなくルーラは泣いた。
「ここに来るのは見つからなかったろうな」
「大丈夫だと思うけど、なんでわざわざこんなところで? ザンの部屋で良いんじゃない」
夜に皆が利用するトイレは、今はベルダネウスの部屋ではなくカリーナの部屋のものを使うことになっている。だから話の最中、誰かがいきなり入ってくることはない。
「あまりおおっぴらに話したくなくてな。あの部屋では聞かれるかもしれない」
「あの部屋、壁が厚いから、よほど大きな声を出さない限り大丈夫よ」
馬車の陰からそっと別荘を見る。時間が遅いせいで、闇を恐れるジェンヌの部屋以外は明かりが消えている。廊下からも微かな明かりが見えるが、あれはセバスが見張っているからだ。
「参加者の各部屋にはトイレと洗面台がある。壁や天井、床には水道管と、それを整備するために人が入る空間があるはずだ。モームから聞いたが、オビヨンの部屋は予め決められていた。彼の部屋からそこに入れる出入り口が作られていても不思議じゃない。
少なくとも私がグランディスならそれを作る。
フェリックスがカーレとの逢い引きを塔でしたのは、自分たちの部屋が見張られていると判断したんだろう。自分で考えたのか、カーレが教えたのかは知らないが。何にせよ、オビヨンやヨロメイが私たちに隠していることはまだあるはずだ」
「こんなときまで」
「彼らは忠実に自分の役目をしているだけとも言えるがな。それはともかく、ルーラ、とりあえずお前の意見を聞きたい。ゼクスをどう思う?」
「……正直に言って良い?」
「もちろん。真実を知るには、いつでも複数の視点が必要だ」
「ゼクスって人がつかめない。衛士をしていた頃、いろいろな犯人を追いかけたけど、誰が犯人かわからない時を除いて、いつもどういう人かってイメージが出来てたの。今頃、奴はああいうことをしているだろう、こんなことをしているに違いないって」
「正しいかはともかく、頭の中で、犯人のイメージが一つの形としてできあがっていた」
「そう。でも、ゼクスに対しては違うの。彼が理由はどうあれ、グランディスさんを恨んで、そればかりを考えてここまで来た。お金と食料で済まそうにされてよけい腹が立って、しかし、グランディスさんが死んだため、怒りのやり場を失って彼の死体を傷つけまくった。
ここまではわかるの。でもその後、彼の子供達に対しても同じぐらい憎むっていうのがね。それに、カーレさんはなんで殺されたのかわからない。サラさんはグランディスさんの子供じゃないけど、自分の存在を秘密にしたいためやむなく口を封じた。けどカーレさんは違う。カリーナさんの時にあんなメッセージを残したんだから、もう存在は知られている。彼女を殺すんなら執拗にフェリックスさんを追うだろうし。扉が開かず、追えないと判断したなら、すぐに逃げ出すだろうし」
「それならば想像はつく。カーレさんが恥知らずの影響下にあったからだ」
言われてルーラは理解した。頭でではない、体としてだ。恥知らずの影響下にあった以上、体は目の前の男を執拗に求める。理性を踏みにじり、性の欲望が全てを支配する。
カーレは目の前にいる男、つまりゼクスを求めたのかも知れない。だが彼にとって、彼女のそんな行動は邪魔でしかない。
「……逃げるのに邪魔だから殺したの?」
それがルーラの結論だった。
「少なくともそれが一番可能性のある殺害動機と私は思う」
「それって……カーレさんはフェリックスに殺されたようなものじゃない」
直接手を下したのがゼクスだとしても、恥知らずさえ使われなければ彼女は殺されずに済んだかもしれない。
「話を戻す。ルーラはゼクスのイメージがつかめないと言ったな」
「うん。正直、初日に自分が会ってなくて、グランディスさん自身の説明がなかったら存在を疑うところよ」
「疑って良いかもしれない」
「どういうこと?」
「私たちが会ったゼクスは、グランディスさんの遺体を傷つけて満足はしなくても、諦めがついてここから立ち去った。しかし、それから誰かが彼の存在を利用しようと考えたとしたら。
今なら他の参加者を殺しても、ゼクスの仕業に出来る。
それに、ゼクスの姿を直接見たのはグランディスさんを除けば私たちだけだ。粗末な服を纏って、喉に傷らしき跡さえつければ、目撃されてもゼクスと思わせられる」
「じゃあ、三人を殺したのはゼクスじゃない?」
「そう考えれば、ゼクスとイメージが合わなくても不思議じゃないだろう」
「そりゃそうだけど。それでもおかしいんじゃない。ルール上は自分以外の参加者をみんな殺しても勝ちにはならないんだから、参加者がみんなを殺す意味がないし、参加者以外の人だとすると、矢を用意したり、ボロの服を用意したり、地下砦と塔の通路を知っていたり、ゼクスのことを知ってから始めたとするには不自然よ。そもそも、そんなことをする人ならグランディスさんの調査でひっかかるわ」
途端、ルーラはある人物がひらめいた。
「セバスさん! セバスさんなら調査報告を誤魔化せるし、この別荘の造りとか知っていてもおかしくない。それに、最初ここに来た時にはまだセバスさんはいなかった。ゼクスに変装してここを訪れることができるわ」
「……それは難しいかも知れない。グランディスさんはセバスさんをよく知っているはずだ。変装しても気がつく可能性が高い。お前だって、人の判別は見た目だけでないことは知っているだろう」
人は相手を判別するのに意識していない部分を多く使う。個々の部分より、その人の持つ体的な印象のほうが判別理由として大きいのだ。だからこそ服装、髪型を変えてもその人とわかるし、後ろ姿や遠目、ちらと見えただけでも「あの人だ」とわかる。
「それに、お前を矢で射ったり、フェリックスたちが襲われたりした時、彼はお前と一緒じゃなかったか」
問われてルーラは首を傾げた。ベルダネウスの言う通りだ。彼にはアリバイがある。
「それで本題に入る。出来る範囲でいい、ゼクスのことは探すふりだけして他の連中を探れ。特にフェリックスの動きに気をつけろ」
フェリックスの名に、ルーラが小さく震えた。
「でも、あの男がゼクスであるはずが」
「ないだろう。しかし、奴がこのまま何もせずにいるとは思えない。だが無理はするな。あいつは必ず、まだ恥知らずを残している」
恥知らずという名前にルーラがまた青ざめ、震えた。
「没収されたはずじゃ」
「賭けてもいい。あいつはいくらか残している。人間、一度手にした力、それも使うことで相手より優位に立てる力は決して手放さないものだ。だからこそ出来る範囲でと言ったんだ。恥知らずは女性の天敵みたいなものだからな。出来れば私が調べたいが、私はあいつに警戒されているだろう」
「そうそう。それ!」
今まで聞くタイミングを逃していた質問をルーラは口にする。
「ザン、本当に鍵の場所がわかったの? 参加者たちがわからないのに」
「正解かはまだわからないがな」
「魔導人の時みたいに、参加者達は知らない何かを知っていたとか?」
「いや、今回はそれはない。参加者全員はもちろん、ルーラだってわかるはずだ。その材料はお前も既に見聞きしている。今、別荘いる者全員がわかるはずだ」
「へ?」
まさかとばかりにルーラは目をぱちくりさせた。
「でも、どうしてそれを自分からバラしたの?」
「事態を引っかき回したくてな。犯人を動かしてその首根っこを押さえる」
「自分を餌にして?」
「私に食いつくかも知れない。私が引っかき回すのに乗じて、本来の餌を食らおうとするかも知れない。何にしろ、私が鍵の発見宣言が可能になるまでが勝負だ。三人を殺したのはゼクスか、ゼクスのふりをした誰かなのかわからない以上、誰が敵になるかわからない」
「わかったわ」
「それに、今となってはほとんど可能性がなくなったが、このゲームがグランディスさん目当ての人物を後継者とするためのものならば、これで動かないわけにはいかないだろう。……それにしても」
ベルダネウスは大きく息をつき
「私が目をつけた場所が本当に正解だとしたら、グランディスさんはとことんいい性格をしているとしか思えないな」
どういう事と聞きたげなルーラの顔に、ベルダネウスは苦笑いで返し
「そこはな、私にとって見つけることは出来ても、鍵を取り出すことは非常に困難な場所なんだ。ほぼ不可能と思えるほどにな」
「まさか、誰か参加者の部屋の中とか?」
「いや、誰でも行ける場所だ。お前も既に何度も訪れているし、隠し場所を見ている」
ルーラは何度もこれまでのことを思い出してみようとした時、いきなりグラッシェが嘶いた。
考えるより先に二人の体が飛び退くと、馬車の陰から何者かが飛び出して小剣を振るう。それは先ほどまでベルダネウスのいた空間を走った。
顔を黒い布で覆い、襟もしっかり閉じているため判別は出来ないが、ボロ服を着て猫背気味に小剣を振るう男は
「ゼクス!?」
一刀を躱されたものの、流れるようにゼクスは次の攻撃をベルダネウスに向ける。鞭を取り出す余裕を与えない。小剣を振るう手首をとっさに押さえたベルダネウスの腹に、ゼクスの膝蹴りが決まる。二度、三度と決まり、たまらず手を放し、腹を押さえて後ずさるベルダネウス。
この狭さでは槍は使いづらい。ルーラはとっさに腰から小剣を抜くとベルダネウスに追い打ちをかけようとするゼクスに挑む。倒そうとは思わない。ベルダネウスを守ることが先決だ。
ゼクスの攻撃を数度受ける。
(強い?!)
ゼクスの空拳、小剣の扱いはウブ衛士隊にいた師範代レベルに思えた。ルーラよりも上だし、基本や受け技を一通り習った程度のベルダネウスでは相手にならない。それでも彼女は必死に攻撃を受け流し、時間を作る。その間にベルダネウスは馬車の裏側に逃げる。
それに気がついたゼクスは身を翻し、場所を回り込む。明らかに彼の狙いはベルダネウスだ。
しかしベルダネウスもただ逃げる気はない。
マントの裏から愛用の鞭を取り出すと、馬車を回り込んできたゼクスを迎え撃つものの、苦もなく躱される。
踏み込もうとするゼクスを、ベルダネウスの二本の鞭が牽制、後ずさるように馬小屋の外ら出る。その間に、馬車を回り込んだルーラが精霊の槍を構えてゼクスの背後を攻める。
馬小屋の中ならともかく、庭に出れば鞭も槍も力を発揮する。さすがに使い慣れた武器を手にした二人を同時に相手にするのは不利とみたのか、セグスは別荘に向かって走り出した。
追うルーラにゼクスは腰に止めてあった小型の石弓で牽制する。矢は外れるが、彼女の足を一瞬止めることは出来た。
思っているよりゼクスの足は早い。ルーラは精霊の槍の穂先を地面につけると
(逃がさないで!)
ルーラは大地の精霊にお願いする。ゼクスの足下に穴を開けて彼を落とし、即、地面を戻すことにより相手の半身を生き埋め、自由を奪う。ボーンヘッド家前でフェリックスにも用いた彼女の得意戦法だ。
だが、地面に穴が開く寸前、ゼクスは飛び跳ねるようにそれを避け、別荘の陰に駆け込んだ。
(読まれた?!)
裏に回った彼女は、別荘の通用口が開かれっぱなしなのを見た。しかし、中に入ったのか、そう見せかけて裏に回ったのかがわからない。
「セバスさん!」
別荘の中に声をかけると、セバスとレミレが階段を小走りで下りてきた。地下への階段からは洗い物でもしていたのだろう。ヒュートロンとモームが手をタオルで拭きながら上がってくる。
「どうされました?」
簡単に事情を話すと、ゼクスが別荘内に逃げ込んだ可能性があることを告げた。屋内は絨毯が敷かれ、足跡の痕跡らしきものはいくつも見られ、ゼクスが逃げ込んだ証拠にはならない。
「私は見ませんでしたが、私と入れ違いに別の階段から上がった可能性はございます」
「あるいは一階を通り抜けたか」
一同はオビヨンとヨロメイを伴って各部屋を調べたが、ゼクスは発見できなかった。地下の地下砦への扉も閉まったままだ。
「やはり別荘への扉が開いていたのは、中に注意を向けさせるためだったのかな」
「では、塔か庭のどこかに隠れているのかもしれません」
「敷地の外かも知れないし、疑えばきりが無いわ」
騒ぎを聞きつけて他の人達も部屋から出てきた。皆もゼクスがベルダネウス達を狙ってきたと聞かされ驚いた。
ジェンヌの顔色が悪いのは、まだ体調が万全ではないだけではなさそうだった。
「グラッシェのおかげで助かりましたよ」
「どういうことだ? 私たちを狙うならわかるが、彼は参加者ではあってもボーンヘッド家の者ではない」
スケイルが首を傾げた。
「初日ならともかく、ここ数日、私たちを観察していれば彼のことはわかりそうなものだが」
不安げにルーラはベルダネウスを見た。彼の先ほどの考えでは、今、彼らを狙うゼクスと最初にここを訪れたゼクスは別人のはずである。
(でも……)
ある考えがルーラの頭をよぎる。
(あたし達を襲ったゼクスは、本当にゼクスだったのかな? 誰かがゼクスのふりをして鍵を手に入れる前のザンを襲ってきたのだとしたら?)
ベルダネウスを見ると、彼は壁にもたれながら、黙って腕を組み唇を噛みしめていた。
安堵と不安の入り交じる中、皆が自室へ戻った後、ルーラはセバスに聞いてみた。
「ここにいる中で空拳の使い手ですか?」
もちろんセバス自身、容疑の濃い一人である。彼が先ほどゼクスのふりをして二人を襲ってきた可能性もある。が、ここにいる面子を一番詳しく知っているのも彼である。
「そうですね。まず私自身、空拳を会得しております。役目上、グランディス様の護衛も兼ねておりましたので。あとはフェリックス様も結構な腕前です」
「お二人のことは知っています。他の人は?」
「スケイル様は牧場育ちゆえ、体力はありますが格闘の心得があるとは聞いておりません。ジェンヌ様は空拳は学んでおりませんが、小剣をたしなんでおります」
「小剣を?」
自分たちを襲ってきたゼクスが小剣を使っていたのを思いだした。
「ただ、実戦の経験はあまりないようです。ご自身、道場剣術だと申しておられます」
「ロジックさんは?」
「空拳の他、武術は一通り学んでおります。一時は魔導師の勉強もされておいででした。ただ、どれも長続きしません。あちこちに手を出してはすぐにやめてしまいます。素質は悪いとは思えませんので、しばらく辛抱して続けていれば、それなりの腕にはなっていたと思うのですが」
「他の人は?」
「オビヨン様とヨロメイ様に空拳の心得はありません。ヒュートロン様とバルボケット様もです」
「レミレさんは?」
この手の質問に例外は作るべきではないと、なおもルーラは質問を続ける。
「レミレ様は先日のピアノでもおわかりのようにかなり器用な方ですし、空拳も学んでいると聞いております」
「それは初耳だわ」
「はい、護衛とまでは行かなくても、お屋敷内のトラブルに対応できると思われる力は、できるだけ学んでおくべきだというのが彼女の考えのようです。ただ、どれほどの実力かは存じません。モームは家事全般をこなしますが、空拳の心得はありません。
この質問に何か意味が?」
「いえ、ゼクスが襲ってきた時、誰が戦力になるかを確認しておきたかっただけ」
と説明したものの、セバスは本当の意味に気づいているだろうとルーラは思った。
(あたし達を襲ったゼクスは、かなりの使い手だった。ロジックは器用貧乏みたいだし、師範代クラスどころか、基本すら満足に身につけていないかも知れない。レミレさんはもう少し上だとしても、あれだけの実力を持っているとは考えにくい。
となれば、可能性の高いのはやはりセバスさんかフェリックス……そして、二人の内、ザンを襲う動機のある人は……)
考えれば考えるほど、フェリックスの顔が思い浮かんでくる。
ただ、どちらがあのゼクスの正体だったとしても、ゼクスに変装するための服などをどこで調達したのかがわからない。
確実なのは、鍵を見つけたことを明らかにしたことにより、ベルダネウスもまた命を狙われる対象に含まれたということだ。
精霊の槍を握る手に力がこもる。
恥知らずによる疼きも不安も、彼女の中からすっかり消えていた。
(続く)
次回更新「五~六日目、爆薬と取引」
ベルダネウスは悪夢にうなされる。
地下砦から爆薬が見つかる。この世界にも爆薬はある。ただし、私たちの世界で言えば原始的なダイナマイトレベルである。
スケイルがベルダネウスに取引を持ちかける。
ルーラが一服盛られる。




