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【12・四~五日目、動きは静かに、確実に】


『まず一人。これで終わると思うな。グランディスの罪は子であるお前たちの血で償うのだ』

 カリーナの胸を貫いていた矢に結びつけられていた紙には、書き殴ったような字でそう書かれてあった。

「ふざけやがって!」

 紙を破り捨てようとしたフェリックスをスケイルが止めた。

「やめろ。そいつは後で衛士に渡さなければならない」

 彼は紙をセバスやベルダネウスに見せ

「ゼクスとか言う奴の字ですか?」

「彼の字がわかりませんからなんとも」

「奴は父と筆談していたんだろう。」

「紙はみんな持って帰ったみたいですから。一枚ぐらい風で飛ばされたかも知れませんが、それには敷地の外を調べないと」

「私が後で調べてみましょう」

 会釈するセバスが問題の紙を受け取った。

 冷たくなって横たわるカリーナは服を着込み、コートを羽織っていた。まるでこれから出かけようとしているように。遺体のそばには彼女の手提げ鞄が落ちている。そして彼女の遺体を取り囲むように他の参加者達が囲んでいた。

「まさか、夜中にここを逃げ出そうとして窓から出たところを狙われたのか?」

「誰か彼女が出て行くところを見なかったのか?」

「無理だわ。ゼクスが狙っているかも知れないから窓には近づかなかったし、そもそも雨戸を閉めていたから外は見えない。物音は聞こえなかったし、聞こえたとしても外を見ようとは思わない」

 皆がジェンヌの言葉に同意した。

 参加者達がカリーナを遺体を囲むようにして集まっている。

「エルティースもセバスも、カリーナが出て行くのに気がつかなかったのか?」

 スケイルの言葉には棘がある。

「申し訳ございません。気がつきませんでした」

「あたしもです」

「あなたたちは素人じゃないでしょう。セバスは父の秘書だけど警護も兼ねていたわけだし、エルティースも元衛士。しかも私たちを狙っているものの存在も知っていた。気がつかないではすまないわ」

「ジェンヌ、言い過ぎだ」

 ルーラをかばうようにロジックが立った。

「カリーナは自分から出て行こうとしたんだ。見つかったら止められると思ったのかこっそりと窓からな。エルティースさんが気づかなくても仕方がない!」

 続けて彼は周囲を見回しているベルダネウスの背中に

「あんたもあんただ。少しは彼女を擁護したらどうだ」

「少なくとも、ルーラがこれ以上の失態を繰り返さないよう気をつけているつもりです」

「何だって?」

「こんな外で皆さんがひとかたまりになっている。ゼクスにとってはチャンスだと思いまして」

 皆がハッとして周囲を見回した。ゼクスらしき姿は見えない。

「とにかく、一旦中へ。カリーナ様の亡骸は地下へ」

 セバスに促されて参加者達は別荘内に戻り始めた。またかと嘆くバルボケットを制し、唇を噛むヒュートロンがカリーナの遺体を抱き上げた。それが恋人としての義務であるかのように。


「昨夜、私がカリーナを部屋まで送った時、彼女は私にここを出ようと言いました。もう嫌だと」

 カリーナの遺体を運び、コレクションルームに集まった皆の前でヒュートロンが話し始めた。

「ただゲームに付き合わされるだけならともかく、命を狙われるとなると耐えられなかったんでしょう」

「それで、君はどう答えた?」

 オビヨンが聞いた。その口調はまるで尋問だった。

「それはできないと。私はここの厨房を任されている責任があります。ならば彼女は一人で出て行くと。無茶な話です。ここは彼女にとって知らない土地です。そこを夜中に一人で出ていくなんて。しかも外には命を狙う人がいるんです。せめてオビヨンさん達にことわってからと言ったんですが、認められるはずがないと」

「そんなことはない。ルールでもゲームからの退場は認められている。ただし、一ディルたりとも相続されることはなくなるがな」

 オビヨンの言葉にヨロメイが続ける。

「それでもその日のうちに出て行くのは止めたでしょうね。ヒュートロンさんの言った通り、夜中に出て行くのは危険すぎる」

 その通りだとヒュートロンは頷き

「とにかく、夜は駄目だ。朝になれば、せめて村までセバスさんかルーラさんに送ってもらうことができると説得して、一応納得はしてくれた……と思ったんですが」

「要するに、あんたはもうあてにならないと思われたわけだ」

 フェリックスがテーブルに置かれたサンドイッチに手を伸ばす。さすがにこんな状況ではヒュートロンもまともに料理することは出来ず、朝食はレミレやモームが作ったごく簡単なものになったが、誰からも文句は出なかった。

「そして、カリーナはこっそり一人で出ていこうとして、ゼクスにやられたわけだ。馬鹿だねえ。逃げるにもやり方ってもんがあるだろうに」

 唇を噛むヒュートロンの視線も気にしないどころか、フェリックスは彼の視線を楽しんでいるかのようにニヤニヤしている。そんな彼に

「お前は黙っていろ!」

 スケイルが怒鳴りつけた。その剣幕に一同の口が固まり、呆然とした。彼の視線は、商会幹部が伊達ではない強い力で皆を黙らせる。それは人の上に立つものの力とも言えた。

「カリーナがどういう過程で殺されたか。そんなことはどうでもいい。肝心なことは、このままこのゲームを続けるべきかどうかだ。

 参加者に殺意を持つ者が武器を手に潜み、犠牲者が出た。そいつは必要とあればサラのように本来は関係ない者まで手にかけている。

 オビヨン、これでもこのゲームを続ける気か。私は中止すべきだと思う。そして衛士を動員し、ゼクスを捕まえるべきだ」

「遺産はどうなります?」

「父には悪いが、遺産は遺言がなかった場合の分配法に従って分けるべきだ」

「確かに、それが一番無難なやり方ね」

「遺言がない場合はどう分配されるんです?」

 ベルダネウスが聞いた。

「財産の一/四は国に。残りを妻と子供達で分配することになる。妻がいない場合は子供達だけで分ける」

「ちなに女は男の倍もらえるんだぜ。いいよなぁ」

「珍しいですね。男子に優先権があるのはよく聞きますが。その逆は」

「家督の相続は男に優先権がある分、女は弱いものだ。だからこそ財産を多めに相続させて守ってやろうという趣旨だ。あと、長男も家督を相続するに当たっていろいろと義務も負うからと、次男以降より多めにもらえる」

「なるほど」

 自然と皆がスケイルとジェンヌを見た。法に従い分配するならば、彼がボーンヘッド家を継ぎ、彼女が一番多く遺産をもらうことになる。

「冗談じゃない。僕は反対だ。嫌ならスケイルもジェンヌも、権利を放棄して帰れば良い」

 ロジックの意見にフェリックスも右手を挙げる。

「俺も続ける。大金をつかむのに危険はつきものだからな」

 その言葉にスケイルが薄笑いで応えた。

「意外だな。五十万ディルより多くもらえるのに」

「まだ俺が鍵を見つける可能性があるからな。ベルダネウスはどうする? 一応お前さんも参加者の一人だ。もっとも、俺達と違ってゲームが無効になれば一ディルも入らねえけどな」

「私はご存じの通り、カブスさんの代理で参加しています。だからこういうときは彼の流儀に従いましょう」

 ベルダネウスはポケットから十ディル硬貨を取り出した。

「表なら参加を続けます。裏なら権利を放棄して帰りましょう」

 指で弾いた硬貨がテーブルに落ちた。それはくるくると回り続け、やがて表を上にして倒れた。

「続けさせていただきます」

 テーブルを滑らせるようにして硬貨を回収する。

「ですが、最終的に続けるかを決めるのは審判でしょう。彼らがゲームを中止と決めたならば、私たちはそれに従うしかありません」

 皆の視線がオビヨンに集まった。

「我々審判三名の意見は決まっている。ゲームは続ける。スケイルも言ったことだ」

「私が何を?」

「昨夜言ったはずだ。グランディスの遺産が正の遺産なら、ゼクスは負の遺産。どちらかだけを取ることは出来ない。確かにゼクスという殺意を持った存在は問題だ。だが奴は一人だ。決して防げぬ障害ではないと考える。ゼクスを突破し、正の遺産を手にするか、権利を放棄し負の遺産から逃れる代わりに正の遺産も諦めるか。少なくとも、ゲームをなしにして通常の遺産相続に基づいて分配するという選択はない」

「そういう考え方がカリーナを殺したんです!」

「カリーナ嬢を殺したのはゼクスであり私たちではない。彼女が死んだ原因の一端は、身を守ることを忘れた彼女自身にもある」

「それが役人の言うことですか!?」

 ヒュートロンの叫びもオビヨンには届かない。

「そりゃああんたらは良いよ。俺達が全員ゼクスに殺されたら、ボーンヘッド商会は丸ごと国のものになるんだからな。王族からいくらもらった?」

 カーレがむっとしてフェリックスを睨み付けた。

「審判に対する侮辱行為と見なしてペナルティをつけますよ」

「冗談だよ。けど、そう思いたくなる気持ちも察して欲しいね」

「ならば少しでも早く鍵を見つけることだ。本物の鍵が見つかれば、その時点でゲームは終わる」

「それがわかれば苦労しねえよ」

 フェリックスの呟きに、参加者達は小さく頷いた。


「ああいうときのザンって、ずるいよね」

 ルーラの部屋。熱い紫茶を挟んで、彼女とベルダネウスは一息入れていた。

「何がだ?」

「さっきのコイン。あれ、両方表でしょ」

「お前の目は確かだ」

 ベルダネウスはポケットからさっきの十ディル硬貨を取り出した。指に挟んで回してみせるそれは、確かに両面が表だった。

「あいにく私はカブスほど運に任せる気はない。参加料目当てにのんびりゲームに付き合うつもりだったが、こうなってはそうも言っていられない。私は私で調べて回る」

「ゼクスの居場所?」

「それもあるが……」

 そこへドアがノックされた。

 ドアを開けると、ヒュートロンが立っていた。

「ベルダネウスさんもご一緒でしたか、ちょうど良かった。お二人にお話しがあります」

「カリーナさんに関することでしたら、セバスさんも呼んだ方が」

「いえ、他の人達は信用できません」

 深刻な表情に、思わずルーラとベルダネウスは顔を見合わせた。

「実は、先ほどオビヨンさんの許可を得てカリーナの部屋を調べました。何か書き置きでもないかと思って」

「何かありましたか?」

「これがありました」

 そっと服の中から取りだしたのは一冊のノートだった。

 失礼と断ってベルダネウスがめくると

「これは……パンのレシピ?」

「はい。彼女の実家がパン屋なのは話しましたね。結婚後は私の店を手伝ってくれるということも。彼女は私の料理に合うパンをいろいろ考えてくれていました。仕事で別の都市に行った時も、珍しいパンがあると聞けばその店を訪れたものです。これはそれらをもとにした彼女なりのレシピ集です」

「これが彼女の部屋に?」

「そうです。だからおかしいんです。彼女が私に黙って出て行こうとしたのはまだわかります。私の立場を考慮してのことでしょう。書き置きもないのはそのせいだったかもしれません。でも、それでもこのノートを置いて帰るはずはありません。かならず持っていくはずです」

「よほど慌てていたんじゃないんですか」

「身支度を調える暇はあったのにですか」

「ヒュートロンさん、何を考えているんです?」

 ノートを閉じ、ベルダネウスはヒュートロンをじっと見据えた。

「カリーナはここを逃げようとして殺されたんじゃない。何者かに殺され、その後で偽装されたんじゃないかということです。しかし犯人はこのノートのことを知らなかった。だからこれは部屋に残ったままだった。エルティースさんやセバスさんが見張っていたとしても、つきっきりというわけじゃない。用足しに行く時でも狙って彼女の部屋に入り込むぐらいは出来たはずです。

 そしてカリーナを殺した後、窓から外に出し、やはり窓から自分の部屋に戻る。エルティースさん達は窓の外までは見ていません。みなさん、ゼクスを恐れて雨戸を閉めていましたから、見つかる心配もない。そして、それが出来るのはカリーナが素直に自室に招き入れる人です。だからゼクスでは有り得ない。別荘にいる誰かです」

 強く訴えるヒュートロンの目に、ベルダネウスは悲しげに首を振った。

「あなたは肝心なことを忘れている。カリーナさんを殺した矢は、昨夜ルーラを襲うのに使われたのと同じ種類です。だとしたら、昨夜地下砦からルーラを狙った人もゼクスではない、ここにいる誰かと言うことになりますが。あの時、ルーラが地下に降りた後、誰かが地下から上がってきた人がいましたか? みなさん部屋から出てきた。あの時、全員が二階の部屋にいたことを忘れたんですか? 本来一階の部屋にいるはずのあなたやメイド達も、あの時は二階の部屋にいた。みなさん部屋から出てきたんです。あなたも二階にいたはずです」

 ヒュートロンは黙り込んだ。

「今は守りに入りましょう。カリーナさんを殺したのがゼクスにしろ、他の誰かにしろ。これで目的が達せられたとは思えない。必ず次の行動に移すはずです。それを見定めるのが、今の私たちにとって最善の判断だと思います。

 そして私にとってあなたにとって欲しい最善の行動は、おいしい食事を作ってくれることです」

 納得はしていないようだが、反論することも出来ず、ヒュートロンは唇を噛んで出て行った。

「ザン、今の話をどう思う?」

「思い込みは禁物だ。ルーラ、参加者の動きに注意しろ」

「四人いるんだけど。バラバラに動かれたんじゃたまらないわよ」

「そこはお前の判断に任せる」

「ザンはどうするの?」

「外堀を埋める作業に入る」

 それだけ言うと、彼は部屋を出て行った。

 ルーラも見回りに出ようと廊下に出たところ

「ちょうど良いところへ。話がある。私の部屋に来てくれ」

 声をかけてきたのはスケイルだった。彼の部屋に入るが、間取りがベルダネウスの部屋と同じなのでルーラは少し戸惑った。

「見回りがあるので手短にお願いします」

「すぐに済む。ゼクスを見つけた時の対応だ」

「捕まえて衛視に渡します。それで良いんでしょう」

 しかし彼は首を横に振り

「その場で殺せ。奴も抵抗するはずだから、正当防衛になる。セバスにもそう言ってある」

「……口封じですか」

「話が早い。奴が捕まった後、父とのことをしゃべられるのはまずい」

「ボーンヘッド商会の資金のことですね」

「そうだ、ジェンヌは証拠もないし奴がしゃべってもどうにか出来ると思っているようだが、反商会派は徹底的に調べるだろう。沈んだ船が見つかったらことだ。証拠にならなくても商会に傷が付くのは避けられない。だからこそ、奴には何もしゃべらずに死んでもらいたい」

「彼は口がきけませんけど」

「茶々を入れるな。そういうことだから、奴と会ったら遠慮はいらない。息の根を止めろ。もちろん、その時には臨時報酬を出そう」

「それをもってメルサからいなくなれと」

「君の口封じまではしたくないからな」

 そう言う彼は、グランディスと同じ目をしていた。

「意外です。あなたは先ほどゲームの中止を訴えのに。それともあれはただのポーズですか?」

「いや。衛士隊にはボーンヘッド商会の息のかかった者も多い。ここでするかファズでするかの違いだけだ」

「そうでない衛士もいるんじゃないですか?」

「もちろんだ。だがファズなら私たち自身の安全は高まる。中止を求めたのはボーズではない。何にしろ、決まった以上は決まった中での最善策を取ることだ」

 ルーラもそう言う考え方は嫌いじゃない。しかし、身の安全のために邪魔な情報を持っている人を殺すという考えは好きになれなかった。


「皆さんが来る前ですか?」

 庭の隅で洗濯をしているモームが顔をあげた。今日は冷えるが良い天気で、絶好の洗濯日和である。十人以上いるせいか、洗濯物はあっという間にたまってしまう。サラがいなくなった分、忙しいはずだが彼女はちっとも態度に見せない。汚れたシーツや下着を山にして、強大な敵に挑む勇者のごとき勇ましさで汚れを倒していく。洗濯用の石鹸と洗濯板が彼女の武器だ。ルーラが使っているムクロジの皮に比べて洗濯用の石鹸はさすがに攻撃力が違う。泡を立て、こする度に汚れが落ちていく。

 その戦いっぷりを見ながら、ベルダネウスは仕事の邪魔にならないように質問をしていた。

「はい。私さんが来た時にはここを建てた人達はみんな立ち去った後だったんですか?」

「そうです。レミレ様とサラ、そしてカーレ様とヨロメイ様の四人揃ってここに来ました。皆様が到着する三日前です」

「その時にはもうここに調度品は揃っていたんですか?」

 ベルダネウスの問いに、彼女は首を横に振った。

「あたし達が来た時には、ここはがらんとしていました。それからどんどんいろいろなものが運び込まれて。あたしたちが役人のお二人の指示に従って整えていったんです。指示をしてたのは主にカーレ様で、ヨロメイ様は力仕事が主でした。何しろ唯一の男手でしたから」

「彫像の向きとかもいちいち指図していたんですよね」

「いえ、彫像はすでにありました。スケイル様が鍵を見つけるのに彫像の向きをヒントにしていましたし、やっぱり大がかりなものは建てる際に一緒に設置したと思います」

「あの噴水の仕掛けは後で設置というわけにはいきませんしね。だからこそスケイルさんもあれが正解と思ったんでしょう。部屋については何か特別な指示はありませんでしたか? 私たち参加者は自由に選べましたけれど、他の人達の部屋は最初から決まっていたんですか?」

「そう言っていいと思います。ヒュートロン様とあたしたちメイドの部屋は決まっていましたし、オビヨン様の部屋も決められました。あの目録を入れた箱でしょうか、それを保管する金庫をいれるからと。あれは重いので。荷物を運んできた人達が四人がかりで運んでいったんです」

「それは大変だ。私は彼らの部屋に入ったことがないのでその金庫を見たことがありませんが、少々大げさですね。ただ目録の入った箱を入れるだけでしょう」

「その目録の箱が大事ですからね。勝手に持ち出されたら困るじゃないですか。そこのところは厳しいでしょう。打合せしやすいようにとかで、三人のお役人とセバス様の部屋は並ぶようになっていましたし」

「じゃあ、ここに来てから部屋が決まったのはルーラとバルボケットさんだけですか」

「ええ」

 なんで部屋を気にするのかわからないと、モームは訝しげな顔を向けて

「それよりも、サラを殺したゼクスって奴、まだ見つからないんですか?」

 さすがにゼクスを様付けする気はないらしく、奴呼ばわりである。

「ええ。敷地の外に出て行かれたら私どもでは見つけようがありませんし」

「でも、そいつは参加者を狙っているんでしょう。ここの様子がわかる場所にいるはずです」

「ええ、それを迎え撃つしかありません。ただ、いつ、どこに、どのようにして襲ってくるのかがわかりません。ご丁寧にこの別荘にはいろいろと仕掛けがあるみたいですし。何かご存じありませんか?」

「すみません。別荘はもちろん、この地方にも初めて来たので」

「初めて? サラさんはいろいろ知っていましたが。地下砦が近くの村の若者の度胸試しに使われていたとか」

「サラはローテム村の生まれなんです。三年前だか四年前だかまで、村に住んでいたそうです」

「それで詳しかったんですね。そういうことでしたら、もっといろいろと聞いておくんでした」

 そしてふと思いついたように

「ところで、モームさんはサラさんのように鍵は探さないんですか?」

「あたしが探して見つけられるとは思いません。それに、商会を左右するほどのお金もらっても困ります」

「欲のない人ですね。お金は欲しくないと」

「とんでもない」

 モームは泡だらけの手を振り

「あたしもお金は欲しいです。でも……そうですね、仕事があって、あたしや家族がそこそこ生活できて、たまに贅沢して美味しいもの食べに行く。それぐらいがちょうど良いです。お金がたくさんあっても、使い道に困って大変です。ありすぎず、足りなさすぎずの額が一番良いです。

 多すぎるお金はそんなあたしの欲には邪魔なだけです。あたしは欲張りですから、この欲望を守りたいんです」

 きっぱりと言い放つモームに、ベルダネウスは声を上げて笑った。

「良いですね。私たち自由商人にとってあなたのような女性は困ったお客だ。しかし、嫁にするには理想的だ」

「やだ、メイド相手にお世辞はいりませんよ」

「本当です。自由商人には『嫁は儲からなかった時に探し、儲かった時に手に入れろ』との心得があるぐらいです。儲かっていない時に、亭主の尻を叩いても決して見捨てない女性を好むものです」

「あたしはお尻を叩くより、お尻に敷く方が良いです」

「それこそ理想的だ。男はみんな、心のどこかで女房の尻に敷かれることを望んでいるんです」

「知ってます」

 二人は目を合わせ、声を殺して笑い合った。

 ベルダネウスは大きく息をつくと、意を決して

「個人的な見解で結構です。ゼクスについてどう考えますか?」

 突然の真面目な質問にモームは一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐに彼女自身真面目な顔をして

「グランディス様への恨みを子供達にぶつけようとしているんですよね」

「そういうことになっています。本人に確認できないので、推測ですが」

「迷惑な方です……でも……」

「でも?」

「最初にメイドの仕事に就いた時、言われました。この仕事は不愉快になる時も多い。つらい時もある。そういうときには、まず仕事に専念しろ、仕事以外のことを忘れるぐらい」

 彼女の洗濯する手に力がこもる。

「そうすれば、仕事が一段落付いて一息つけた時、その不愉快なことを冷静になって受け止められると」

「似たようなことは私も聞いたことがあります。つらすぎる時は、あえてそれに背を向けるのも一つの手だと」

「何があったのかは知りませんけれど、お子様達が誰も知らないのですから、きっと何十年も昔のことでしょう。それで恨むなんて……もしかして、復讐にきたんじゃなくて、復讐をすることで、つらいことを忘れたいだけなのかも知れません」

「なるほど」

「あたしの勝手な想像ですけど、きっと彼自身、この復讐がただの妬み、逆恨み、八つ当たりだってことはわかっているんだと思います。でも、自分が全てを失って、逃げるようにして失う前の時間と場所に戻ろうとメルサに戻ってきたら、かつての仲間が成功を収めて、家族もいて。自分が失ったものを全て持っている。それを見た時、自分がどれだけ惨めでいるかを思い、この幸せを自分も持ちたいと思ったんじゃ無いんでしょうか」

「それが出来なければ、せめて相手を自分と同じ不幸にしてやる。いや、しなければならない、ですか」

「すみません。あたしの勝手な妄想です。決めつけです」

「とんでもない。誰だって他人の心はわかりません。しかし、相手はどんな気持ちだろうと考えることは大事です」

 ベルダネウスは恐縮して何度も頭を下げ続けるモームをなだめ

「特にあなたのように、心地良い場を作るのを仕事とする人は特に。私などは心得てはいても時々相手を怒らせてしまいます」

「そんな、あたしたちはお相手が決まっていますから。ベルダネウス様は仕事の度に違う人と接しているのでしょう。あたしたちとは大変さが違います」

「ありがとうございます。それでは、厚かましくももうひとつ聞かせてください。ゼクスは何を望んでいると思いますか?」

 相手が何を望んでいるか。それは相手の望むものを適した価格で用意するという商人の基本的な考えだった。

 問われたモームは悲しげにうつむき

「止めてもらいたい……いえ、返り討ちに遭いたいんだと思います。返り討ちに遭って、家族のところに行きたいんだと思います」

 ベルダネウスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに物静かな顔に戻り

「そうかも知れませんね」

「でも、そうだとしたら、あたしはゼクスを許しません。そのためにサラとカリーナ様が殺されたのだとしたら、二人がかわいそうすぎます!」

 それほど大きくはないが、強い叫びだった。

 彼女が固く握りしめたシーツから、泡混じりの水がしたたり落ちた。


 モームと別れ、馬小屋に入ったベルダネウスをグラッシェが身を震わせて出迎えた。すっかり冬毛に覆われたグラッシェは文字通り毛の塊に見える。毛が黒いせいかなかなかの威圧感だ。

「遅くなってすまなかったな」

 マントを脱ぎ、腕まくりをしてグラッシェに水と飼い葉を与えた。遅い食事にグラッシェがむさぼるように飼い葉を口にする。

 ベルダネウスがブラシで毛繕いをしてやると、気持ちいいのか、グラッシェは物静かに身を委ねてくる。ただ、傍目からは巨大な毛の固まりが彼を飲み込もうとしているように見える。

「いつもあなた自身が馬の世話をしているの?」

 少し距離をおいてジェンヌが立っていた。疲れ気味なのか髪にいつもの光沢がない。

「ルーラと交代でですよ。人に任せられるほどの余裕がありませんから。それより大丈夫ですか、ずいぶんとお疲れのようですけど」

「仕事に追われている方が楽だわ」

 彼女は隣に止めてあるベルダネウスの馬車を見た。まるで値踏みをするように。

「鍵の場所、わかった?」

「いくつか心当たりは。しかし私は九日目まで発見宣言しないと約束しましたから。それまでは皆さんの観察をさせてもらいますよ」

「律儀なことね」

「商人として約束は守らないと。例え口約束でもね」

 グラッシェの世話をしているベルダネウスを、ジェンヌは黙って見ていた。

「何かご用があるんじゃないですか?」

 言われて彼女は諦めたように一息つき

「ちょっと付き合ってもらえないかしら」

 怪訝な顔をするベルダネウスにかまわず、彼女が指さしたのは庭の花壇の迷路だった。やれやれとばかりに、彼はマントに手を伸ばした。


 迷路とは言っても、そう複雑なものでもないし、既に何度も足を踏み入れているので道はすっかり解っている。それでもいくらか不安なのは、迷路を作っている花の壁が自分よりも高いからだろう。空は見えても道は見えないのだ。

 花の壁の作る道を、ベルダネウスは荷物を抱えてジェンヌに付いていく。なんてことはない。付き合うというのは、荷物持ちとしてなのだ。

「こんなところでゼクスに襲われたくはないわね」

「ゼクスが賢明ならば襲いませんよ。少なくとも昼間は。相手もですが、しくじった場合、自分も逃げ場がない。中からはともかく、別荘からは中の様子が見えますからね」

「そんなことを気にしないとしたら」

「だったらとっくに正面から私たちを襲っています」

「予め待ち伏せていたら?」

「待ち伏せというのは、相手がそこに来ることが事前にわかっていてこそ出来るものですよ。」

 二人は中央の噴水にたどり着いた。先日スケイルが鍵を取り出したグランディスの胸像は元の向きに直され、再び水が噴き出している。凍結をふせぐために一日中出しっ放しなのだ。

「荷物持ちでしたら、他の人に頼んでも良かったんじゃ」

 一息ついて荷物を下ろす。噴水横の椅子に腰を下ろして別荘を見上げた。

「みんな忙しいのよ。あなたなら暇でしょう」

「私だって鍵を争う敵ですよ」

「武器を向け合うだけが敵との戦いじゃないわ。それより本題に入るわ。ここが迷路になっているのはわかっているわね」

「ええ、とは言ってもそれほど広くないし作りも単純です。すぐに道順は覚えますよ」

「そうね。最初を右に、次は左に二回、右に二回、左に一回……」

 確認するようにジェンヌは今し方二人が通って来た道順を口にする。

「この迷路、鍵の場所への道順を示しているんじゃないかと思って」

「なるほど、でも地下砦の出入り口は三つ、いや、最下層の船着き場を入れると四つありますよ。道順だって別荘側からなのか、中央噴水側からなのか。片道なのか往復なのか。意地の悪いことを言えば、全てを逆に進むということもあります」

「ちゃんと確かめたわ。地下砦の図面と合わせてみたところ、最後まで行けるのがいくつかあったわ。それでどれが正解かを実際に確かめたいの。図面に記入漏れがあるかも知れないし」

「なるほど」

 噴水そばのベンチの横に小さな箱形の花壇がある。それを動かすと、噴水の脇の床が斜めに下がった。地下砦の出入り口である。他の入り口に比べて小さめだが、それでも二人並んで通れるぐらいの幅がある。ここから建物で三階分ほど降りる階段が有り、そこを抜けると地下砦だ。つながる先が地下一階ではないため、見つめるのが遅れた出入り口だった。

「それでこの荷物ですか」

 彼は自分が持ってきた荷物を見直した。ランプが八つと予備の油。そして頑丈そうな四本の棒で作られた井型のもの。

「でも、灯りが必要ならルーラかバルボケットさんの方が」

「ルーラはセバスと周囲の監視があるし、バルボケットはカリーナが殺されてからすっかりビビっちゃって」

「準備万端ですか。でもこの棒は何ですか?」

「決まっているでしょ」

 ジェンヌはランプに明かりを灯すと、次々と井型の棒のそれぞれの先端にくくりつけていく。全部で八つのランプが取り付けられると、潜り込んで中央の穴に首を通す。

「これなら一度に八つのランプを持って移動できるわ。って、何笑っているのよ!」

「失礼しました。お許しを。しかし……」

 改めてジェンヌを見ると、体の前後左右に二つずつ。計八つのランプをぶら下げた形になっており、まるでランプの行商人である。

「ジェンヌさんがこれほどお茶目とは知りませんでした」

「失礼ですよ。私は大真面目です」

 だからこそおかしみがある。

「行きますよ。あなた、鞭は持ってきているのでしょう。ゼクスや潮トカゲが出た時にすぐ対応できるようにしなさい」

 そして入り口に向かって歩き出したが、

「……重い……」

 ふらふらしていかにも危なっかしい。無理もない。何しろ油を一杯に入れたランプが八つにその重さに耐えられる頑丈な棒が四本。予備の油を入れた瓶もある。

「ランプの数は半分で良いでしょう。油瓶は私が持ちます」

 それでなんとかジェンヌも歩けるようになった。それでも横にした棒は通路の幅一杯である。

 地下砦に入った二人は、四つのランプで照らす中、図面に間違いがないかを確かめながら迷路の示した道順に従って進んでいく。これだけ明るいとジェンヌも平気である。しかし、

「ゼクスはここに潜んでいると思う?」

 それだけゼクスも二人を狙いやすいということでもある。暖を取るためにもここにゼクスが潜んでいる可能性は高い。自然と歩みは注意深くなる。

「わかりません。根城の一つをここに設けている可能性はありますが、安全を第一に考えるなら、敷地の外に潜むでしょう。しかし、それだと寒さが応えますし、なにより参加者達の動きを見張れない」

「ゲームが終わる前に私たちを殺さなければならないわけでもあるし。ゲーム終了が鍵の発見である以上、もしかしたら今日にでも終わる可能性がある。そうでないにしろ、カリーナの時は継続になったけれど、一人殺すごとに恐怖からゲームを中止にされる可能性は高くなる」

「ええ、私もいれて残りの参加者は五人。これであと二人も殺され、残りの参加者が中止を強く望んだら、いくらオビヨンさんでも中止を余儀なくされるでしょう。へたに続行してさらに犠牲者が増えたら、今度はオビヨンさんの責任問題になる」

「それに、残った参加者達も遺言の無効を訴えるでしょうね。そう考えると、不利なのはむしろゼクスの方なのかも知れないわ」

「はい。彼が次に襲ってくる時は、一人一人ではなくみんなまとめて殺す手段をとるでしょう」

「そうなると、気をつけるのはやはり食事ね。ヒュートロンはかわいそうだけど」

 そのヒュートロンはカリーナを殺したのはゼクスではなく他の参加者だと考えている。それについては、ベルダネウスは堅く口を閉ざしていた。

 道順に従い、二人が最初にたどりついたのは兵士達の仮眠室だった。しかし、一通り部屋を調べても何も見つからなかった。

「最初は外れね。次に行きましょう」

 最初の出入り口に戻る途中、

「ところで、あなたはどこに鍵があると思うの?」

 ジェンヌが聞いた。

「それは勘弁してください。うっかり口にして間違いだったら恥ずかしいですから。何しろこの敷地内にはそれっぽいところがいくつもあります。というより、意図的にそれっぽいところを作っています。先日、スケイルさんが宣言した彫像を結ぶという方法。あれをわざわざ作ったことには驚きを過ぎて呆れました」

「同感だわ。正直、噴水から鍵が出てきた時、私は負けたと思った。それが偽物なんだから。父様も悪趣味よ。本物の鍵の隠し場所を誤魔化すために他にニセの隠し場所を山ほど作るなんて」

「木を隠すために森を作るようなものですね。あるいは、いかにもそれっぽい場所を目の前に並べることにより、本物の場所から目を逸らさせるというもの」

「つまり、本物の隠し場所は全然それっぽくない?」

「わかりません。けれども、本物を隠してある場所には、何らかの意味を持たせていると考えます」

「鍵発見宣言の際には、どうしてそこに隠されているかを説明することになっていたから」

「適当に探したら偶然見つかりました。じゃ駄目ということですね。いままでの宣言は、どれもそれっぽい意味がある。

 ジェンヌさんのグランディスさんの腹の中というのは、我の腹を探れといういう意味。

 ロジックさんの地下砦の中というのは、誰も踏み入れてない場所に真っ先に入れというメッセージ。塔のお姫様を救うことになぞられた鍵は、自分という悪い魔法使いから姫という未来を捕まえ、解放しろという思い。

 スケイルさんのグランディスの輪は商売の流れを創り出す輪とするのは仕事観。肖像画は自分の顔をつぶしてでも欲しいものを手に入れろという姿勢。

 正直、鍵の隠し場所を示す意味としてはどれも説得力があります。ロジックさんの解釈は少々浅いようにも思えますが、それでも筋は通っている」

「でも、みんな間違っていた」

「これは私の勝手な推測ですが、本物の鍵の場所は明らかに他とは違う理由があると思います。あれでもいいじゃないか、これでもいいじゃないかというものではない。明らかにこれだという理由。そしてもうひとつ」

「もうひとつ?」

「私はこの地下砦に鍵はないと考えています」

「なぜ?」

「最初、参加者達に部屋を選ばせました。あれは特定の参加者を有利にはさせないという考えでしょう。それは同時に、特定の参加者を不利にはさせないということ。あなたが暗闇を恐怖する以上、ここに鍵を隠すことはあなたを不利にするということ。だからここにはない。と考えます」

「私は逆。鍵の隠し場所に意味を持たせてあるからこそ、ここにあるのではと考えているわ。暗闇に対する恐怖を乗り越えて見つけ出すという意味が」

「でも、それはジェンヌさんにしか意味ないことです。それはこのゲームであなたを特別扱いすることを意味する」

「それでも私はここを調べるわ。少なくとも自分を納得させたい」

「もちろんです。人が道を進む時、大事なのはその道が正しいかどうかではなく、その道を進むことを自分が納得しているかどうかですから。私の今言った考えが、ただの独りよがりということもありますし。

 カブスさんにも言われました。私は理屈っぽすぎる。人は理屈で動くものじゃないって」

 ちようど砦の外に通じる穴に出たので一息入れた。ジェンヌはランプをおろし、石弩の台座に腰を下ろす。空気は冷たいが風は治まっており、波の音と海鳥の声が耳に心地よかった。

 ベルダネウスがマントの裏ポケットから小瓶を取り出し口をつける。

「お酒?」

「紫茶です。酒は強くないので」

「それでいいわ。私にもちょうだい」

 飲みかけの小瓶を受け取ると、ジェンヌは一気に残りを飲み干した。

「答えたくなければ答えなくてかまいませんが。グランディスさんが何を求めていたかご存じですか?」

「鍵の在処に関係しているの?」

 ベルダネウスは大きく頷いた。

「人は常に欲を満たすために生きるというのが私の考えです。グランディスさんはこのゲームで何の欲を満たそうとしていたのかと思いまして」

「難しいわね。父様が生きていればともかく、ゲーム開始と同時に死を選んだんだから」

「でも、最初から死を予定していて。その上でこれだけの時間と予算をかけてこの舞台を作ったんです。明確な欲があるはずです」

「私たちを困らせるためじゃないかしら。偽物の充実ぶりを見るとそう思えるわ」

「グランディスさんは、人を困らせ、嫌がらせをするのにお金と努力を惜しまない人だったんですか?」

「……」

 口を閉じ、ジェンヌはベルダネウスを探るように目を向けた。

「あなたは、それが鍵を見つけるヒントだと言いたいの?」

「わかりません。しかし、それを考えず鍵を見つけることは出来ない気がします」

 彼は丁寧な言い方をしたつもりだったが、彼女はわずかに唇を尖らせた。グランディスに関しては他人の彼が、家族の自分たちよりわかっているような言い回しが気に障ったのだ。

 そのせいでもないが、彼女はかるい反撃を試みた。

「ところで、一つ確認したいんだけど。エルティースはあなたの愛人?」

「違います。よく勘違いされますが」

「うそ。使用人が雇い主を名前で呼び捨てにするなんて考えられないわ」

「気分の問題ですよ。長いこと一緒にいるのに、他人行儀のままだと堅苦しくて」

「あなたはそういうつもりかも知れないけど、彼女の方はあなたの愛人になりたがっているようだけど。妻の座かしら」

 ベルダネウスは答えなかった。ただ、困ったような寂しいような顔をしていた。

「ねぇ」

 ジェンヌはさらに言葉を続ける。

「あなた、本当にザン・ベルダネウス?」

「どういう意味ですか?」

「父様があなたについて調べた報告書、私も読んだけど、正直、混乱しているわ。あそこに書かれたザン・ベルダネウス。前半と後半とで同一人物とは思えない変わりよう。まるで、あなたが本物のベルダネウスを殺して入れかわったと思えるぐらい」

「それはありませんよ。あなたの言う前半と後半は同じ人達から聞き取ったものでしょう。別人に入れかわっていたらすぐにバレます」

「冗談よ。私も本気で入れかわりを考えているわけじゃないわ。でも、そう思いたくなるわ。あの報告じゃ」

「人間は、何かのきっかけでそれまでとは真逆の生き方をすることがあるんですよ」

「そのきっかけが、女に殺されかけたということ?」

「殺されたんです。それまでの私は、あの時、彼女に殺されたんです」

「詭弁ね。そんなことを言っても、それまであなたが犯した数々の罪が消えるわけじゃない。それに、どんな理屈をこねてもあなたはこうして生きている」

「ええ。私は生きている。死んで罪を償う度胸もない。格好つけながら逃げているだけです。格好つけなきゃ、押しつぶされそうで」

「ルーラからも? 彼女が慕ってくれるのを良いことに、答えを先延ばしにしているだけじゃない。それどころか、過去の罪を忘れない自分が格好良いって酔っているとか」

 ベルダネウスは黙り込んだ。

 二人の周囲の空気が冷たく、重いのは季節のせいだけではなかった。

「……言い過ぎたわ。ごめんなさい」

「こちらこそ。ありがとうございます」

「何を? ありがとうと言われるようなことを口にしたかしら?」

「私を信用してくださった。だからこそ、こんな人気のない場所を二人っきりで探索しているのでしょう」

「そうね。どうしてあなたを信用しているのかしら? 暇な時にでも考えてみるわ」

 探索を再開した二人に、先ほどの重苦しい雰囲気はない。負の感情をいつまでも引きずるほど、二人は馬鹿ではなかった。

「確認したいんだけど、あなたは本当にここに来るまで父様のことは知らなかったの?」

「そうです。メルサにすら足を踏み入れたことはありませんでした。失礼ながら、ボーンヘッド商会はメルサ以外の国ではあまり知られていないようで」

「あまりじゃなく全然よ。正直、アクティブに支部ぐらい出したいんだけど」

「商売敵も多いし大変ですよ。へたに進出すると袋だたきにあいます」

「そうね。話を戻すけど、あなた、以前ボーンヘッド商会と何かの形で関わったことはある?」

「いえ。少なくとも私自身は気がついていません。どうしてそんなことを?」

「ふと思ったのよ。父様が鍵を隠した場所のヒント。もしかしたら、あなたを参加させたことじゃないかって」

 興味深げにベルダネウスが足を止めた。

「どうしてそのようなことを?」

「父様があなたを気に入ったらしいことは前に話したわよね。でも、今、落ち着いて考えるとどうもわざとらしいのよ」

「そうですね。私もどうして気に入られたのか未だわかりません」

「だから、父様はあなたをこのゲームに参加させたかった。そのためにあなたを気に入ったふりをした。なぜそんなことをしたのか。あなたが参加することが鍵の発見に重要なヒントになっているから。突拍子過ぎるかしら」

「いえ。十分考えられると思います。でも、そのなぜがわからなければ」

「ええ、意味がないわ」

 二人は目を合わせ、小さく笑った。


 花壇の出入り口から、迷路を逆に曲がった先にそれはあった。

 そこはどう見てもトイレだった。ただし、使われなくなって数十年。匂いは全くない。便を落とす穴からは水の流れる音がする。当時から炊事用などに近くの川から引いてきた水が流れているのだ。いわば天然の水洗便所である。その奥にある、備品用らしき棚にグランディスの胸像があった。胸像には古びた鍵が細い紐で結びつけられていたが、これがジェンヌ達が探している鍵でないのは明らかだ。あまりにも形状が違いすぎる。いくつもの溝が掘られた細長い板状の鍵である。

 そして胸像の胸の部分には、この鍵が合いそうな細長い穴があった。

「この鍵に意味があるんでしょうね」

「普通に見つけられる可能性がありますからね。いや、既にもう誰かが見つけた後かも知れない。ただ、鍵の使い方がわからなかっただけで。とすると、この鍵はここが正しい道筋で見つけられたかの確認のため。いいですか?」

 最後の言葉はジェンヌに対し、勝手に鍵を入れて良いですかという意味である。彼女が頷いたので、ベルダネウスは鍵を胸像の胸の穴に差し込んだ。鍵は綺麗に収まり、左右に回すことも出来る。

「回すと一/四回転ごとに何やら手応えがあります。回し方が本当の鍵なのでしょう。ロジックさんが見つけたものは、グランディスさんの誕生日が鍵でしたけど」

「ならば、この開け方は正しい道順でここに来たことを証明するものね」

「ならば」

 ベルダネウスは鍵を、ここに来た通りに回し始めた。花壇の出入り口からここに来るまで右に左に進む順に合わせて、鍵を右に左に回していく。

 最後の一回しと共に、カチリと音がした。胸像の微かに開いた口から細長い棒が飛び出す。引き抜いてみると鍵だった。

「本物だと思いますか?」

 ジェンヌは鍵を手にじっと見つめていたが……。

「違うわ。確証はないけど、違う気がする」

 軽く首を振って鍵を像の口に戻す。少し押すと、鍵はひとりでに口の中に戻った。

「ジェンヌさんの推測した場所にあったものですよ」

「それでもよ。なんて言うのか……この鍵には意思が感じられない。メッセージと言えば良いかしら。あなた、さっきこれまで発見された鍵にの場所にはどれも意味があるみたいなことを言っていたわね。でも、これには何の意味もない。

 父様が自分の財産を継ぐものの資格を持つものとしての証という性質を持たない、ただのパズルの景品」

 しんみりとした彼女の姿は、首に駆けた井型のランプ台のせいでどこかまぬけに見えた。

 そのしんみりとした空気のせいだろうか、二人の耳に微かな水音が届いた。

「何の音?」

 最初はトイレの奥を流れる水かと思ったが、それはもっと上から聞こえてくる。

 ベルダネウスとジェンヌは何となく危険を感じ取り、逃げ出そうとしたが遅かった。壁の一角が割れるように開くと、大量の水が二人に襲いかかる。

 水が二人を押し倒した。ランプが投げ出され、水に飲まれた。中の火が消え、周囲が闇に包まれる。

 ジェンヌの悲鳴が響き渡った。

「落ち着いて!」

 声を頼りに駆け寄ったベルダネウスの顔面を、見事なまでにジェンヌの蹴りが決まる。

「いやぁ、やめて! 触らないで!」

「おとなしくして、抵抗すると怪我します。いて、いてて……暴れるな! 死にたくなければおとなしくしてろ!」

 声だけ聞くと誤解されそうだが、実際は何とかジェンヌから井型のランプ台を抜いたベルダネウスが、彼女を抱きかかえてこの場から離れようとしているのだ。

「目を閉じて! ここは闇じゃない。ただ目を閉じているだけだ」

 まだ暴れる彼女を抱き上げたベルダネウスは、記憶を頼りに外に出ようとする。ランプ台に蹴躓いたり、壁に激突したり暴れるジェンヌに殴られたりしながらも何とか通路に出て外に向かう。

「もう目を開けて大丈夫です。外の光があります」

 言われて床に下ろされたジェンヌが目を開けると、そこは先ほど休憩したのとは別の見張り台、石弩のある場所から少し離れたところだった。明るいとは言えないが、外から入ってくる光のためそう暗くもない。

 ほっと息をついた彼女はベルダネウスの顔を見て驚いた。目元に痣があり、鼻血で真っ赤になっている。そして自分の拳に血がついているのを見て、それが自分が彼を殴りつけた結果であることに気がつく。

「ご、ごめんなさい」

 言ってジェンヌは顔をしかめた。

「どうしました?」

「首が痛い……」

 手で首を軽く押さえて揉む。水に押し倒された際、首にかけた井型のランプ台でしこたま首を打ってしまったようだ。

 さらに吹き込む風の冷たさに二人が身を震わせた。暗いところから逃げることばかり考えていたが、二人ともずぶ濡れなのだ。冬の冷たい海風は応える。

 ベルダネウスはマントとシャツを脱ぐと水を絞った。ジェンヌはさすがに脱ぐわけにはいかないので、裾の部分を絞るに止める。

「とにかく、一度別荘に戻りましょう。このままじゃ風邪を引くし、バルボケットさんに首へ治癒魔導をかけてもらいましょう。場所が場所だけに用心に越したことはない」

「同感だわ。でも……」

 地下砦の奥の闇を見てジェンヌの足が止まる。階段のある場所までは外の光は届いていない。

「少し待ってください。ランプを拾ってきます。乾いた毛布か何かあれば……」

 ベルダネウスは壁のランプに火を灯しながら先ほどの場所に戻ると、壊れていないランプを二つ拾って戻ってきた。さすがに毛布は見つからなかったようだ。

「水が入っちゃっています。使えると良いけれど」

 予備の油を入れ、苦戦しながらも何とか火を灯す。二つのランプが周囲を夕暮れなみに明るくする。

「不十分かも知れませんが、何とか頑張ってください。ここからなら塔の出入り口が近い。そこから戻りましょう」

 彼女に自分のマントを羽織らせる。水を絞ったとはいえマントはまだ重かったが風よけにはなる。

 周囲の気配を伺いながら二人は進み始めた。ベルダネウスはランプと鞭を手に先を歩く。ジェンヌはランプを持ち、空いた手で彼のシャツの裾をしっかりとつかんでいた。


 乾いた毛布に身を包ませて、ルーラは別荘の屋根にいた。やはり見張りなら高いところが一番である。スケイルのこともあり、少し一人で考えたかったこともある。

「口封じか。確かに一番確実だけど」

 どこか釈然としない。スケイルに言われたゼクスの処置である。

 彼がサラやカリーナを殺したのだとすれば、死刑になるかもしれない。だったら、自分たちの災いにならないうちにここで殺してしまえと言うのは、理屈の上ではわかる。だが、それを当然のやり方であるかのような言い草がひっかかるのだ。

 しかし、生かしたまま衛士に引き渡され、そこで商会の始まりの資金問題になったら。商会と王族の間でスキャンダル合戦になり、どれだけ傷つけ合うかわからない。

「迷った時には……最悪を防げ、か」

 衛士隊時代に言われたことだ。ただ、最悪とは何にとって最悪なのかが問題だが。

「考えたってしようがない。ゼクスが襲撃した時に、その場のノリで決めよう!

 何であれ、方針が決まるとすこしすっきりした。

 簡単に昼食を取ろうと屋根を降り、厨房に行くと、ちょうどセバスが食事を終えたところだった。

「お疲れ様です。変わったことはありませんでしたか?」

「今のところはありません。みなさん用心して、二人以上で行動するようにしていますし」

 セバスの話では、スケイルはヨロメイと、フェリックスはカーレと一緒にいるらしい。ロジックは朝から図書室でグランディスの残した本を読みあさっているという。念のためバルボケットがついている。

「ザンは?」

「ジェンヌ様と地下砦に向かわれたようです。どうやら、ジェンヌ様はベルダネウス様が気になられるようで」

 唇を尖らせるルーラに

「ゲーム終了まであなたの雇い主はボーンヘッド家であることをお忘れなく」

「わかってます。けれど、せめて衛士隊に連絡して別荘周辺を調べて守ってもらうってことはできないんですか? 別荘にさえ立ち入らなければゲームには関係ないし、その分あたし達は別荘内の警備に専念できます」

「連絡方法がありません」

「バルボケットさんに飛んでいってもらえば」

「聞いていませんか。彼は飛行魔導は使えません。以前挑戦した時に壁に激突、百日起き上がることが出来ず、以後、飛行魔導を使っていません。使えなくなったと言うべきですか」

「あたしが行きます」

「ただでさえ少ない護衛役をこれ以上減らすわけにはいきません。それに見知らぬ精霊使いが言っても信じてもらえないでしょう?」

「手紙を書いてください。あたしが駄目ならカーレさんかヨロメイさんに行ってもらえば。村まで行けば馬があるはずです」

 まっすぐ見つめるルーラに、セバスは困ったように入り口を見た。

「エルティース、君の意見は正しい」

 オビヨンがいた。

「常識で考えれば、君の言う通り助けを呼ぶべきだろう。だが、昨夜も言った通り、私たちはできる限りこのゲームを続けたい。ゼクスの出現は想定外だが、スケイルも言ったように彼の存在はグランディスの正の遺産を手にするには避けられない負の遺産のようなもの。むしろ、彼の襲撃を退けた上で鍵を手に入れるべきではないか」

「確かに、二度目はないんだし、ちょっとした障害ならゲームを面白くする要素として受け入れられますけれど、人が死んでいるんですよ」

「君こそ、何のために君がここにいるのは考えるべきだ。君がしっかり参加者を守れば問題ない」

「わかりました」

 これ以上は無駄と言いたいのをこらえてルーラは厨房を出ようとした。空腹なのはすっかり忘れている。

「ところで、どなたか鍵を見つけましたか?」

「いや、今日は誰も宣言していない」

 それを聞いてルーラは

(どうもザンの考えはハズレてるみたいね)

 さすがに特定の参加者に遺産を相続させるためのなれ合いゲームという説は違う気がしてきた。すでに人が二人が殺されているのだ。なれ合いゲームだったらさすがに終わりにしているだろうからだ。

(だとすると、一番早く対処できる方法は、誰かがさっさと鍵を見つけること。どうしてザンは八日間発見宣言しないなんて言ったのよ、これ以上犠牲者が出たらどうするのよ)

 彼女は、ベルダネウスならばとっくに鍵を見つけていると決めつけていた。

 そこへ疲れた顔のロジックとバルボケットが入ってきた。

「紫茶をくれ。あと、何か甘いものを」

「お疲れ様」

「まいった。グランディスの冒険を読み終えたけど、それらしいシーンもセリフもない」

「お話としてはどうでした?」

「世界を闇の力で支配しようとする魔王に、勇者グランディスと仲間達が挑む。最後は力を合わせて魔王を倒す。ありきたりの内容だ。本が何かのヒントだと思っていたのに、違うらしい。時間の無駄だった」

 すでに二回失敗しているロジックは後がない。その口調には焦りが感じられた。


 別荘の北西にぽつんと立っている塔。「悪い魔法使いがお姫様を閉じ込めている塔」をイメージしている四階建て。

 先日、ここでロジックが鍵を見つけたものの偽物だったのはご存じの通りである。それ以後、ここで鍵を発見したと宣言した者はいない。ここに鍵はないのか? 誰も見つけてはいないのか? 見つけても、地下砦で鍵を見つけたジェンヌたちのように偽物と判断したのか?

 最上階でもある四階、姫が閉じ込められているという設定の部屋は、スケイル曰く「いい年した男が乏しい想像力を振り絞って作った少女趣味の部屋」だった。

 その部屋の甘い香りの中、ベッドで全裸のカーレが汗ばんだ体で眠っているのを、やはり全裸のフェリックスがうんざりした顔で見下ろした。

(うまく行かねえもんだな)

 コップに生ぬるくなった紫茶を注ぎ、一気に喉に流し込む。疲れた体に水分が行き渡るのを感じて、彼は大きく息をついた。

 彼がカーレの体をモノにしたのは一昨日だった。ルールの確認をしたいという名目で彼女を自室に連れ込み、そのまま手をつけたのだ。もちろん失敗したらその場で失格、ゲームから追い出されるのは確実なだけに万全の準備をした。参加者の部屋の壁は厚く、少しぐらいの音は漏れないことを確認し、しばらく戻らなくても誰も怪しまないタイミングを見計らい。最後に奥の手を使った。

 あるルートから手に入れた淫靡薬である。薬を使った直後こそ抵抗が見られたが、彼の愛撫を受けるとたちまち理性が剥がれ落ち、男と交わるのは初めてとは思えない淫乱ぶりを見せた。

 その乱れっぷりは、プライドと恥じらいが入り交じった記憶となってしっかりと彼女に刻み込まれた。これを告発することは、同時に自分の恥もさらすことになる。彼の思惑通り、彼女は誰にもこのことは話していないらしく、今のところ問題になっていない。

 それから彼は時間を見つけては彼女と関係を持った。もちろんバレないように気をつけて。今も一階の扉と地下砦への出入り口に鍵をかけたり心張り棒をかけたりして開かなくしてある。

 彼が彼女に手を出したのは、彼女が好みだからではない。彼女から、鍵の場所を聞き出すつもりである。だが、

(さすがに親父が選んだだけはあるな)

 それだけはと堅く口を閉ざしていた。肌を合わせているときですらそれだけは口にせず、かろうじて彼が密かに見つけ出した二つの鍵が本物かどうかを確認できただけだった。二つとも偽物だった。

 他にも別荘の仕掛けをいくつか聞き出すことは出来た。別荘には隠し通路が存在し、三人の審判は交代でそこに潜り、六名の参加者を観察していたのだ。何か良からぬことを企んでいないか見張るためである。とはいっても常に誰かが潜んでいるわけではない。むしろ潜んでいない時の方が多い。カリーナが殺された時も、誰もいない時に抜け出したらしく何もつかめなかったという。フェリックスがカーレに手をつけた時もそうらしい。これに関しては彼にとって運が良かった。

 だが、彼にはもうひとつ不安があった。薬を使う度、効果が薄れているような気がするのだ。理性が強くなって、このことをオビヨンに報告されたら。

(そうなる前に手を打って、別の方法を考えた方がいいかな。特に惜しい体ってわけでもなし。ゼクスの仕業ってことにすれば問題ないし)

 ベッドに横たわる彼女を改めて眺める。彼が今まで関係を持った女性と比べても、特に素晴らしいと呼べるプロポーションではない。

 彼は決断するかのように頷くと、カーテンを止める紐を手にした。何度かしごくと、それを手にしたまま彼女に近づく。彼の視線は真っ白な彼女の首筋に向けられていた。

 素早く首に巻き付け、一気に締め上げる。一分とかからないだろう。

 静かに彼女に近づく彼の背後で、衣装箪笥が静かに開く。その隙間から人間の姿が見えた。

 みすぼらしい服にボロの革鎧、襟元からのぞく喉には醜い傷跡がある。そしてその手には、切れ味の良さそうな小剣。

 音もなく開いた衣装箪笥から出ると、紐を手にカーレに近づくフェリックスの背後に小剣を向けた。


(続く)


次回更新予告「五日目、恥知らず」

四人目の死者がでる。

ルーラとジェンヌが淫靡薬の効果で苦しむ。

ベルダネウスが過去の悪事の一端を口にし、淫靡薬の説明をする。

ジェンヌが自ら命を絶とうとし、ベルダネウスは自分が鍵の場所を見つけたことを明らかにする。


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