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3節 採用試験2

「‥‥買い取れない?」

「おう、すまんな。兄ちゃん」


 試験への準備金に充てようとミスリル板金を鍛冶屋に持ち込んだ先でいきなり出鼻を挫かれた。


「理由を聞いても?」

「特別な理由でもなんでもないんだがな」


 スキンヘッドのマッチョな親方がホールのカウンターの上に板金を置いて答える。


「うちは鍛冶屋だからよ。純度のわからねぇ板金を渡されても鑑定できねぇし値段もつけれねぇよ」


 後頭部を手でかきながら申し訳なさそうに言う。


「これはお前さんに親切で言ってるんだぜ?どっかの貴族が大金出して高純度のミスリルナイフでも作れって依頼でもあれば別だがな、一般販売用は馴染みの製鉄屋から卸して貰ってるから僅かな板金を買い取っても使い道に困るわ」


「鑑定書でもあれば買い取れるんですか?」

「鑑定に金がかかるし、その分含めて買い取れって言われたら無理だな。ミスリルみたいな高級品なら特にな」


 がっくりと肩を落とし溜息をついた。


「この町には他に鍛冶屋も居ねぇしな。どうしてもと言うなら冒険者ギルドに持っていきな」

「ギルドなら買い取れるんですか?」

「そういう一点物を買い取ってその広い情報網で必要な人間に回すのが冒険者用のギルドってもんだろ」

「でも、ギルド利用するには登録が必要なんですよね?冒険者として」

「まぁ、身分を問わない代わりにギルドが身分を保証しているみたいなもんだからな。登録は必要だな」


 ・・・採用試験を受ける為に、資金が必要で。その資金を得る為に別の仕事に登録は必要と。


 いいのか?それ

 と言うか冒険者になりたくないからの事務仕事希望なんだが・・・遠のいてるよなぁ・・・

 修行時代と思えばいいのか?将来性に不安しかないんだが。

 頭の中ではあの怪しげな少女2人が思い浮かんでいた。


 ・・・でも、まぁ 他にないしな・・・最悪、受からなければそのまま冒険者稼業だ・・・


「・・・有難う御座います。ギルドで聞いてみます。」

「おう、行って来い。待ってるぞ」

「なんで待つんですか?」

「どうせ、戻ってくるだろ。鍛冶屋はここだけだぞ」


 親方は商品棚を親指で指さしながら言う。


「これから独り立ちしますって感じの顔してんぜ。農家だろうが、冒険者だろうが金物は必要だろ?それが剣でも鍬でもな」


 ニカっと笑った親方の笑顔がそこにあった。

 あぁいう人が上司にならんかな・・・・



 夕闇も迫る中、親方から場所を教えて貰った冒険者ギルドに人は少なかった。

 奥にカウンターがあり、手前のホールではテーブルに数人の強面が何やら話し合っている。

 カウンターで待ってる人は居なさそうなので用事を済ませてしまおう。


「すいません。買い取りをお願いできますか?」


 カウンター越しに座っていた、油で固めたかのような髪の職員はかけていた眼鏡を指で押し上げながら憮然と答えた。


「ギルドの登録はありますか?無いなら登録頂かないと買い取りは致しかねますが?」


 ・・・ですよねぇ・・・・


「いえ、ありません。必要であれば登録します」

「では、こちらに必要事項を記入下さい。字は書けますか?」

「はい、大丈夫です」


 もう、やるしかないよな・・・


「記入の間に査定をしましょうか?担当が今ならまだ残ってますので」

「あ、お願いします」


 そう言い板金を渡す。


「え?」

「え?」

「いや、なんでもありません。記入してお待ちください。ギルドとしての説明は後程しますので書き終わったらそのままお待ちください。不明な点は聞いて下さい」


 そう言うと職員は板金を布でくるみ、奥へと持って行った。

 なんだったんだ。一体・・・


 まぁいい。さっさと書いてしまおう。宿も探さないといけないしな。


 ・・・氏名・・・性別・・・歳・・・職業・・・特技・・・所属・・・在籍地・・・


「あのー、すいません」


 ちょうど戻って来た職に問い合わせる。


「職業って、自分はまだ学生なんですが?まぁもうすぐ卒業ですが」

「勤め先が決まっているならそこでもいいですが未定なら未記入でもいいですよ。情報として何ができるか、ギルドが必要な人材が誰なのかを整理する為のモノですから。ケガ人が大量に発生した時に治療できる人を呼ぶような場合に使ったりする部分です。後から変更もできますよ。特技や所属、在籍地もその為の項目です。初めて登録する人は未記入が多いですよ。自分が何ができるか自信を持って言える新人は少ないですからね。」

「逆にこれはどっかの治療院に所属しながらギルドへの登録も可能ということですか?」

「構いませんよ。ただしどこかに兼任で所属するならどちらを優先するかは決めておいてください」

「どういうことですか?」

「例えばですね・・・騎士団に所属して北方へ遠征する任務とギルドで南方の魔物討伐緊急強制呼集が同時にあったとして騎士団とギルドどっちを優先します?」

「それは流石に騎士団ですかね・・・・国が絡んでますし」

「その場合、ギルドとしての貴方への評価は低くなるということです。」

「なるほど」


 ・・・強制的に呼ばれる事があるのね・・・・


「あと1つ謝らないといけない事がありまして・・・」

「なんでしょう?」

「先程の買い取りなんですが、支払い金が実は今、足りませんでして・・・明日には用意するので明日の支払いではダメでしょうか?」

「・・・はい?」


 そんな事あるのか?


「そんな事って結構あるもんなんですか?」

「いえ、普段はそんな事はありません。ただ今回は日も落ちて今日の支払いが一通り終わった後に持ち込まれた上に余りにも高額だったもので・・・」

「・・・そ、そうですか」


 い、いくらだったんだろ・・・・

 

「自分としては今日の宿代位は頂きたいんですが・・・」

「それくらいであれば融通致します。よろしければ宿も決まってないならこちらで紹介致しますよ」

「い、いいんですか・・・そこまでして貰って・・・」

「えぇ、『その位」の事させて頂きます」


 ・・・マジで幾らになったんだよ・・・


 その後、簡単な説明を受けた。

 余り仕事しないと登録を消すとか緊急時には呼集するとかだ。


「あぁ、それと冒険者にはそれぞれランクが与えられます。」

「あぁ、BとかCとか・・・」

「そうです。ただAランク以上はギルド専門職だと思ってください」

「専門職?」

「先程の優先順位の話になりますがAランク以上はギルドを第一優先にして貰います」

「なるほど」


 最初から兼業を認める事で可能性と収入の兼ね合いを取るのね・・・

 冒険者として上手くいくならギルド専門職目指して。上手くいかないなら元手を稼いで別の職業の専門を目指せと。


「説明は以上になります。何か質問はありますか?」

「ギルドの仕組みについては分かりました。別の質問になりますが・・・」


 自分は書きかけの登録用の羊皮紙を指さした。


「特技とかは自分の判断でいいんですか?」

「基本、自主申告です。実際得意かどうかと言うのはギルドランクを見て信用すると思ってください。新人なら特技も新人と言う事です。所属が治療院とかなら新人でも信用するという人も中には居ますね」


 そうか、それなら・・・

 書きかけの書類を仕上げ。職員に渡す。

 職員は内容を確認し、準備すると告げると奥へと戻っていった。

 再度、出てきた時には手に書類やらズタ袋やらを持って出てきた。


「お待たせ致しました。まずはこちらがギルドへの登録書類になります。内容を確認して問題なければサインを」


 書類内容は先程の説明内容と自分の記載内容だ。サインして職員へと戻す。

 職員もサインを確認した後、頷いて書類を回収する。


「ではこちらが登録の証明書の控えです。そしてこちらが簡易カードですね」

「簡易カード?」


 そこには金属でできたカードが1枚。


「毎回ギルドの受付に証明書を持ってくるのが大変だと言う意見が寄せられましてね。私共としても雨やら返り血でぐしゃぐしゃになった物を確認したり再発行したりというのは手間なので簡易カードと言う物を作らせて頂きました。証明書はランクが上がったりした際に式典などで渡しますが普段はこのカードを出して頂ければ受け付けます。」

「へぇ・・・」

「加工とかは好きにして頂いても構いませんが記載内容の書き換えなどは行わないように」

「加工?」

「カードすら持ち歩くのが面倒な人や、逆に紛失する人が居ましてね・・・ブレスレットやペンダントに加工する事は目を瞑っています。」


 ・・・遠い目をしてるなぁ・・・多かったんだろうな紛失する人・・・


「後は、こちらがギルドで紹介する宿への地図と、本日の買い取り分の一部ですがお支払いします」


 机の上には地図が1枚とズタ袋が1袋。


「・・・これで一部ですか?」

「それで一部です。詳細は明日お知らせしますが鑑定した人間が未だに板金を調べています。念の為お聞きしますが盗んだりしたものではないですよね?」

「いやいやいや、貰い物ですよ」

「あぁ、やはり貴族の方でしたか。親類の方からの支度金代わりか何かですかね」

「・・・まぁ、そんな感じです」


 教えて。むしろ怖い。何に巻き込まれたの自分。


「なので今日は必ずその宿に泊まってください」

「・・・はい」


疑われてるんだよな。これ


「因みに中にはこれだけ入ってます。確認しますか?」


 職員はそういうと指を1本立てた。

 ・・・1枚?


「金貨1枚・・・・?」

「・・・もう2桁程」


 金貨100枚かよっ 全額でいくらいくんだよ・・・・


「よろしければ必要分以外はお預かりしますが・・・」

「ぜひに・・・」


 後ろの強面客が怖くなるわ。別の意味で。

 取り敢えず、金貨1枚を銀貨へ両替して残りの金貨は預かって貰った。

 銀貨が100枚だから袋の大きさは変わらないな・・・それでも大金だが。


「金額が金額なので、こちらでも手を回しますが明日の昼位までは時間が掛かると思って下さい」

「純粋に質問なんですが、なんでそんな金額に?」

「私では簡単な事しか分かりませんがそれでも良いですか?」

「えぇ、分かる範囲で構いません」

「1つは品質です。普通、産出されるミスリルは不純物が多いというかほとんどが鉄にミスリルが少量混じった状態でミスリルと言われていますが、先程持ち込まれた板金はほぼ純粋なミスリルです。あの軽さで気づかなかったですか?」


 ・・・あぁ、それなのね。渡した瞬間に驚いていたのは・・・・


「いえ、実物は初めてだったので・・・軽いと言う話しか知りませんでした」


 ・・・とんでもねぇもん渡してきやがったなあいつ等。


「2つ目は需要です」

「需要・・・?」

「最近、戦争やら魔物の討伐の話が絶えないでしょう?国が戦力強化に騎士団にミスリル製の武具を用意していると言う話があります。大量のミスリルが市場から消えて高騰してるんですよ」


 はい、正解ー!! 騎士団に行かなかった自分を褒めたいっ!


「なので、とんでもない金額になるんですよ。純度下げて使えばどれだけの量になるやら・・・」


 それを装備して何と戦うんでしょうね・・・・本当に。

 

「まぁ詳しい話は明日、担当者からお話します。早めに宿に言って大人しくしてる事を推奨します」

「・・・ご忠告有難う御座います」


 自分でも疲れた声を出しながら指定の宿へ行くことにした。

 変なのに絡まれるのも、もう精神的にいっぱいいっぱいだ。




 残されたギルド職員はサインの入った登録証明書の記載内容をを見ながら呟く。

「ヴァイト=クロウね・・・貴族のぼっちゃんが何しに来たんだか」

 


 特技:資料作成



「いや、本当に何しに来たんだよ・・・」

ヴァイト 残金:金貨100枚+α

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