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2節 採用試験1

 周囲には打ち捨てられたかの様に倒れた墓石に生した苔が繁殖しており、遠慮なく成長した草がそれを覆うかのごとく伸びている。辛うじて敷地の中にある礼拝堂に続く石畳の隙間から伸びた草を刈って歩けるようになっている。


 ・・・少なからず人の出入りはあるようだ。


 目的地である場所まで地図を頼りに来てみたが、自分の期待を裏切る事なく墓地であった。願わくば、あのおっちゃんの勘違いであって欲しかったが。

 目の前に見える礼拝堂も色ガラスが割れ、外壁も一部崩れ落ち中の構造材が見えている。

 

 ・・・廃屋かな・・・・?


 これ、中に普通に人が居ても、居なくてもホラーな案件じゃないか?

 

 ・・・・

 ・・・・

 ・・・・


 な、中を見て人が居なければ帰ろう。

 多分、きっと、募集なんてない。


 扉の取れかかった取っ手を引く。

 扉を壊さないようにゆっくり開けた隙間から見えたのは、外周と同じように朽ち果てた礼拝堂の内装とそこには場違いな綺麗な丸テーブル。そしてセットで拵えたような3つの椅子とそこに座る2人の少女だった。


 ・・・そっと扉を閉じた。


 深呼吸をして考える。



 可能性1.今のはゴースト系の魔物である。 ここで倒して魔物の素材を得る。 墓地に良し。町によし。私に良し。



 可能性2.今のは迷い出た死者である。 ・・・魔物と何が違うんだ・・・・何を怖がっていたんだ?




 可能性3.実は生きている。もしかしたらここは職場かもしれない。人として挨拶すべきである。



「・・・浄化魔法ぶっぱなして生きてれば人。消えたら魔物。 挨拶は忘れずに。良し」

「何が良しだ。挨拶しながら突貫する気か貴方は」


 気づけば扉を開けて先程の少女がこちらを見ていた。

 黒髪と同じ色のドレスを着た少女は自分を一瞥する。


「貴方がヴァイト?話は聞いているからさっさと中に入って。・・・間違っても攻撃しないように」

「話?今日、ここに来ることは誰にも言ってないぞ?」

「・・・いいから入れ。扉開けとくと虫が入るんだ中に」


 それだけ告げるとさっさと中に戻ってしまった。


 ・・・取り敢えずは魔物の類ではないみたいだ。それにしても誰が連絡したんだ?タイミング的にも連絡が早すぎる。

 考え事しながら中に入るか迷っていたらさっさと扉を閉めろと怒鳴られた。

 

 こちらに敵意はないようだし、話だけでも聞くかと中に入った。

 

 中は、さっき見た通りに朽ち果てたような礼拝堂だった。少女達の居るテーブルを除いて。

 彼女達は埃一つないテーブルの上にある書類を目を通していた。

 丁度、向かいにある椅子に座るように促され、相対するように座った。


「さて、改めて。初めまして、ヴァイト=クロウさん。人員募集の応募でよろしいですか?」


 書類に向けていた目線を上げ、そう話し始めた。


「・・・初めまして。そのつもりだったがもう帰ろうかと思っている。それに今更、丁寧な言葉使いに変えてもイメージは変わらないからな」


 黒髪の少女は笑みで引き上げた頬をピクピクさせながら書類に目を落とす。


「そんな事より、なんで自分がここに来る事を知っていた?名前もだ」


書類を見ながら黒髪の少女が答えた。


「えーと、・・・・ここは情報を集める仕事をしている場所なので貴方が来る事も調べました。」


 書類の上で目線が動いている。カンペかそれ。


「自分は誰にもここに来る事は言っていない。何より、ここの話を紹介されて翌日の早朝には出発したんだ。先に連絡が来るのはおかしいだろう?」


「・・・」


 カンペに書いてなかったのか、無言の彼女は書類から目を上げニコリと笑う。

 さっきまでの鋭い目つきが嘘のようだ。


「クーちゃん、私が話すよ」

「お願い・・・」


 机に突っ伏した黒髪の少女とは対照的に髪もドレスも白い少女が話始める。


「初めまして、ヴァイトさん。私はアリシア。そちらの突っ伏してるのがクーデルカと言います。お見知りおきを」

「短い関係で終わりそうだが、ヴァイトだ。よろしく」

「まず、先程の質問ですが貴方の事は私達の上司が調べました。方法は現段階でお教えできませんが」

「それはいつか教えてくれるのか?」

「まぁ、採用されればお教えしますよ」


 白い少女・・・アリシアはクーデルカのような作り笑いではない笑顔で淡々と話す。


「まぁ、上司が貴方を大層、気に入りまして。ここに来るようなら我々の仲間にと」

「あんな昔の募集でよく来ると思ったな?」

「来なければ別に来ないで問題はないので」

「こんな所でわざわざ机や椅子まで用意してか?」

「上司の指示ですから」


 ・・・なんだろうな。この見透かされてるような感覚は。


「まぁ、ここまで来たのですからお仕事の話を聞いていったら如何です?」

「・・・そうだな」

「因みに、私達は上司から司書長に任命されています。採用されたら貴方の上司になりますね」

「・・・・・・お話をお聞かせ頂けますか?」


アリシア「さん」の笑顔が少し明るくなったようだった。


「とは言っても上司から貴方宛に伝えるようにと色々仰せつかってまして」


そういって彼女は机の上に1枚の板金を置いた。


「それは?」

「貴方への報酬と聞いています」

「は?」

「つまりお給金です。一月分の」

「通貨じゃない?」

「通貨じゃないですね。でも、売るなり使うなり好きにして良いそうですよ」

「見せて頂いても?」

「どうぞどうぞ」


 机の上の板金を手に取る。

 両手で持ち上げようとしたがあまりの軽さにバランスを崩しそうになる。


「軽っ・・・ミスリル!?」

「・・・まぁ判断は任せます」


 なんだよ、その曖昧な答えは。

 ミスリルと言うのは軽さと魔力への親和性が高いのが特徴の金属だ。

 本物なら結構高額で取引される物だが・・・


「これを毎月?この大きさで?」


 彼女は無言で頷く。


「・・・高給取りなんてもんじゃないぞ・・・騎士団長並じゃないのか」

「まぁ、諸事情で現金でお渡しするのが難しいのですよ。換金する手間を含めてという事じゃないですかね」

「・・・何者だよ。貴方の上司・・・」

「変わり者なのは確かですね」


やばいな、自分でちょっと心が動いてるのが分かる。


「それで仕事の内容なんですが」


 本題だ。


「資料作りと書いてありましたが・・・」

「まぁ作るだけでなく集めても貰います。と言うよりも暫くは回収ですかね」

「回収?」

「先程も言いましたが、私達は『司書長』です」

「はぁ」

「つまり、私達の下に司書がいます」

「つまり自分は司書になると?」

「いや、見習いですね」

「・・・すいません、要点が分かりません」

「つまり、貴方は私達の部下と言うよりは部下の部下になります。」

「はぁ」

「そして貴方の直属の上司が超現場主義なんですよ・・・」


 彼女は遠い目をしてた。


「集めるだけで持ってこないんですよね・・・」

「あぁ、それで『回収』なんですね・・・」

「えぇ・・・まぁそんなに頻度が有る訳ではないので我々が指示したら取りに行って貰う程度ですけどれどね。ただ、ここ最近の分は溜まってるでしょうね」

「では、それ以外の時間は?」

「貴方自身に集めても貰ったり、作って貰ったり」

「資料を?」

「死霊を」

「なるほど」

「まぁ、必要な仕事道具は支給しますよ。館長が」

「館長って上司の?」

「まぁ、うちのTOPですね」


 資料作り。偶に上司の元へ出張。報酬は高額。上司は美人・・・美少女?

 結構、いい話なんじゃないか?これ。怪しくなければ完璧なんだが。

 

「正直、司書がちゃんと管理しないから私達がこんな所へ来る事に・・・」


 それが本音かっ。

 つまり、この荒廃の原因はそいつな訳ね。


「あぁ、それと」

「?」

「・・・あー、いや、やっぱいいです」

「・・・気になりますよ」

「貴方が採用されたらの話なので」

「え?なんかもう採用されたかのような話の流れじゃなかったです?」

「まぁ、書類審査は館長推薦って事でいいんですが」

「他になにか?」

「まぁ、仕事自体は後から教えるからいいんですが。最低でも自分の身は自分で守る必要があるのでね?」


 ・・・なんか物騒な事言い出したぞ。


「俗に言う実技試験です」

「・・・事務方の仕事に必要なんです?」

「なくても別にいいですが貴方を守る程暇な人もいないので、実力を見ておきたいんですよ」

「襲われるのが前提なんですか・・・」

「まぁ、回収作業も単独なので遠出する時もありますよ」


 ・・・前線に出ないような事務方も無いって事ね・・・


「どうします?受けます?」

「それは今日行うんですか?」

「都合が悪いなら別の日でもいいですが?」

「・・・この板金が本物のミスリルか確認しても?」

「あぁ、そういうことですか。いいですよ。そのままお持ちいただいて」

「は?」

「それは差し上げるので鍛冶屋に持ち込むなりどっかの冒険者のギルドに持ち込むなり好きなように。盗賊ギルドはお勧めしませんよ?目を付けられると面倒ですからね」

「まだ、採用じゃないんですよね?いいんですか?」

「逆に、それで準備を整えてください」

「は?」

「実技試験の準備費用として差し上げます」

「試験を受けないと言ったら?」

「ここまでご足労頂いた交通費という事にして下さい」


 ・・・貰いすぎじゃないか?


「そして試験内容ですが」

「はい」

「館長に会って採用許可を貰って下さい」

「・・・は?」

「具体的には館長と握手できれば合格です」

「・・・それが試験なんですか?」

「はい」


 そういうと彼女は立ち上がり、礼拝堂の壁際で懐から出したベルを鳴らした。

 その瞬間、まるで両扉のように壁が開いた。


「館長はこの扉から3ブロック・・・大きな講堂が3部屋ありますがその先にいます」


 状況についていけない自分を他所に説明は続く。


「館長に会って採用され握手できれば合格です。試験官として後ろからクーデルカが付いていきますが、貴方から頼ったりはしてはいけません」


 机の上では体を起こしたクーデルカが所帯なさげにこちらを見ていた。


「試しに覗いてみてもいいですよ」


 そう言われて、中を覗いた自分は眉をしかめた。

 中は下り階段になっており、奥の方には日の光が届かなく暗闇だ。

 だがそれより目を引いたのが内壁だった。

 壁一面に、大人の腰ほどの高さで空洞が作られており、そこに棺桶が入れられている。


「地下墓地・・・?」


 まぁ、地上の埋葬場所では最近、埋葬された人の分でも足りないとは思っていたからあるとは思ってたが。


「この先に館長が?」

「ええ」

「一人で?」

「そうですね」

「・・・何してるんです?」

「それはご自分で確認してきたらいいのでは?」


 なんかはぐらかされるな。


「ここは・・・出ます?」

「何がですか?」

「ゴースト的な・・・?」

「そりゃ出ますよ。出なくてどうするんですか」

「はぁ!?」

「じゃないと試験にもなりませんし」


まぁ、実技っていうくらいだからそうなんだろうな。

試験官が付く位だから何かあれば最悪助けてはくれるだろう。


「でも、まぁ無期限ってのも待つ身としては困りますからね。7日以内としましょう」

「・・・7日」


 それだけしっかり準備しろって事か


「食料や衣服、松明など内容はお任せします。獲物はこちらで用意しましょう。希望があれば聞きますが。無ければ見繕っておきます。防具が必要ならそれはご自分でご用意ください。ご質問はありますか?」


「採用されなかったらこの板金は返した方がいいんですか?」

「それは結構ですよ、遠慮なくお使いください」

「途中で出直しするのは可能ですか?」

「自力で戻ってこれて7日間以内であれば」


 失敗してもデメリットがないのなら・・・受けてみるのも有りか・・・?


「わかりました。試験を受けます」

「頑張ってくださいね。では期限は明日を1日目として7日間です」


 まぁ、やるだけやってみよう。

 まずは換金と暫く滞在する宿の確保だな。

 やる事が決まった私は、礼拝堂を後にする前に最後に1つ気になる事を聞いた。


「最後に質問なのですが?」

「なんでしょう?」

「『司書』と言う事は、ここに図書館が?」

「それも採用されたらお教えしましょう」


 結局、全て採用されたらか

 別れを告げ、扉から出るとまだ夕暮れにもなっていなかった。

 これなら、今日からが起こせそうだ。

 そう思い、私は足早に行動に移った。








「良かったの?」

「何が?」


 ヴァイトの居なくなった礼拝堂で少女達が話す。


「あいつ絶対勘違いしてるぞ」

「まぁ、館長のやる事だからね」

「あれだけ色々ヒント出してたと思うが、気づかねぇもんかね」

「館長が目を付けた人だからね」

「まぁ、いいや。採用されたらせいぜい頑張って貰おう」


 司書長達は笑いながら言う。


「「楽しい死霊作りをね」」


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