1節 旅路にて
翌日、早朝から出掛ける事にした。
面談の後、夜の間に旅支度は済ませておいた。
修道院の学友には・・・・相談しなかった。
この修道院に在籍しているヤツに話をしても、「相談」にはならなかっただろう。
目標を持って来ている人達だ。まったく別の道を望む自分と、話が合わない事は今に始まったことじゃない。
それに元貴族と言う肩書のせいなのか、同年代からは腫物扱いだ。
現地の様子見とは言え、旅立ち前に自分から気分を悪くする必要もないだろう。
目的の場所までは、馬車で半日。
朝一の相乗り馬車に乗る事ができ、一息つく。
自分が住んでいるシディム王国は、小さな国土の小国家だ。
国自体が半島になっており、特にめぼしい特徴もないが海洋資源で繁栄して来た国だ。
北側に隣接国家との国境線があるが、自分が目指すのは東側。
自分が住んでいる王都と港町の中間にある、ようやく山村から抜け出れたという規模の町。
ルートと言われる田舎町だ。
早朝からなのか王都から離れる路線からなのか、馬車内に人は少なかった。
人の代わりに積まれている荷物のが多いくらいだ。
その割には御者の機嫌は良かった。人を乗せたほうのが儲けは多いと思うのだが。
「あの、すいません」
代わり映えしない田舎の景色を眺めるよりかは、時間が潰せると思った自分は御者に話かける。
鼻歌交じりに御者台で手綱を握っている口髭を生やした御者のおっさんが振り返る。
「んー、どうしたぃ? 兄さん」
「あ、いえ、えらく機嫌が良さそうでしたので何かあったのかなと」
「そらなぁ、ここ最近、街道には盗賊も魔物も出なくなったしなぁ。何より今日は乗っているのが「普通」だぁ」
・・・・普通?
「騎士団が急にやる気を出したのかねぇ?今まで南部で暴れてたネームドモンスターどころか王都周辺の治安維持すら手を回さずに周辺の国々へ戦争吹っかけてたのに、ここに来て急に盗賊や魔物を追っ払ってくれてなぁ。どっかの国に大きく勝ったのか、負けでもしたんかねぇ?噂話すら回ってこないのは不思議だがねぇ」
・・・いや、気になるのはそこじゃない。
「あの乗っているのが普通というのは・・・?」
「あぁ、いつもは荷物も人も乗せれんからなぁ 生きてるのは」
「・・・・は?」
おい、何て言った。
「いつもは身寄りのない戦死者の遺体をなぁ?運んでいるんだよぅ?王都には埋葬する場所も限られてるだろう?無縁仏さんは大抵、王都周辺にある山村近くの集団墓地に持っていくんさぁ」
無駄に通る声だなっ! 馬車や蹄の音が気にならねぇ位に通るから一緒に乗ってる人に聞こえちゃってるじゃねぇか。顔色悪くなってんだろっ!
「ほら、そこさぁ」
・・・・?
御者は自分の座ってる場所を指さす。
「そこに遺体の頭を合わせて重ねるんだぁ」
そんな所に座らせんなよ・・・
疫病とか大丈夫だろうな?・・・
「兄さん、修道院から来てたしそういうの大丈夫やろぅ?」
そういうのは先に言えっ!
自分の座ってた場所を『浄化』をしながら自分の体調を気遣う。
「わはは、そんな気にすんなぃ、流石にそんときゃ布位敷くさぁ」
それはジョークなのか、本気で言ってんのか・・・
だが、御者の言う通り、その後何事も無く昼過ぎにはルートの町へ到着した。
通用門でのチェックを受け、町の中に入ったところで我先に馬車から皆が下りた。
気分が悪いのは自分のせいじゃないので、睨むなら御者へお願いしたい。
さて、ついでだ。御者に聞いてみるか。
「御者さん、ついでに聞きたいんですが、この場所って分かります?」
古びた羊皮紙を彼に見せる。
「やっぱ修道院から来るって事はそっち系かぃ?」
「・・・・はい?」
何の事だ?
「そこは集団墓地の場所だよぅ」