さよなら彼女・こんにちはおっさん①
神様は本殿に居座っているというイメージが強いと思う。
だがしかし、神様はそのようなイメージに縛られることなく常日頃から人の町にくり出している。
そう、僕の目の前にいる死んだ魚のような目をして浴衣を着崩して煙草を吸っているこのおっさんでさえ神様なのだから。
まぁ、おっさん曰く
「神様にもいろいろある」
だそうだ。
そもそも、僕がこのおっさn…じゃない神様に出会ったのは高校一年生の夏休み、たまたま勢いだけで告って出来た彼女と花火を見に行った日のことだった。
そして、彼女と別れた日のことだった。
そこそこ可愛いかった女の子との別れと引き換えに得たものがこのだらしない神様との出会いだなんて僕は信じたくなかった。それに、そこそこ可愛い女の子とだらしない神様なんて等価交換にもならないぜ。
僕が彼女と花火を見に行った日、僕は近道をしようと公園を横切ろうとしたら、あろうことか公園のベンチに座っていた着物を着崩したおっさんに声を掛けられた。
「おいおい、お前さん ずいぶんと気持ちが弾んでるじゃないか。これから彼女と花火デートか?」
そのおっさんは僕の心を読んだかのようなことを発した。
「……」
僕は急いでいたのでそのおっさんを無視して走って行った。
そして、おっさんは小さい声で
「…お前さん、今日彼女と別れるぞ」
そう発したのだが僕には聞こえなかった。
西本紗枝
僕の彼女だ。
まぁ、僕の彼女にしては可愛すぎると言ってもいいだろう。
おっと、美辞麗句じゃあないぜ。
今日は白い生地に錦鯉の柄の浴衣を着ている。
「ごめん、西本さん待った?」
「うん、少しね 私ちょっと早く来ちゃったっぽいから」
「まだ花火まで時間があるから屋台でも見た回ろうよ」
「うん」
西本さんとは付き合い始めて1ヶ月と5日だ
どうでもいいことだが僕の誕生日はTODAY。
つまり今日だ。
16歳の誕生日、今日は西本さんとの関係を一段階、いや二段階でも三段階でも行けるとこまで進んでやるぞ。
がんばれ僕、やればできる。
さぁ、いざ参ろ。
「西本さんは何食べるの?」
(さぁ、なんだ400円の焼きそばか?それとも500円の大判焼き×6個入りか?
今日の僕にはバイト代が入ったんだ金ならある)
西本さんは弾んだ声で10メートルくらい先の屋台を指差しながら 僕に言った。
「え、いいの? じゃあ、あっちの鮎の塩焼きが食べたい。」
(あ、鮎だと? 僕の親の故郷の山口県の某所じゃ2000円を払えば釣り放題の食い放題なのにこの地域じゃ一匹1000円以上するんだぞ。正気か僕の彼女?)
それでも彼女の笑顔が見たいから僕は1500円を払った。
「ありがとう。 吉永くん」
いい笑顔です。
おっと、西本さんから僕の名字が出たなそろそろ僕の紹介といこうじゃないか。
僕の名前は吉永利貞。
一般高校の一年生だ。
これと言った特徴はない。
あまり紹介になってない気もするが気にしないでくれ。
今はかき氷を食べながら隣に座る西本を見ている。
花火まではまだ時間があるから世間話をして時間を潰している。
30分ほど喋っただろう、辺りも暗くなりもうすぐ花火が打ち上がると思われる時間帯になった。
「西本さん、僕喉が乾いたから飲み物買ってくるよ。
西本さんも何か買ってこようか?」
なぜだろう、かき氷を食べたはずなのに唐突に喉が乾いたぞ。
近くの屋台に飲み物を売っているところがあったのでそこで買うことにした。
「いらっしゃい、何飲むかい?」
「お茶とコーヒーを」
僕は右手にコーヒー、左手にお茶を持ち西本さんの元へ戻った。
ちなみにコーヒーはめちゃくちゃ熱い、お茶は氷が多く入って超冷たい。
しかし、僕はここで取り返しのつかないことをしてしまった。
少しでも早く西本さんの元へ戻りたかったので小走りのなってしまったのだ。
ここで察する者もいるかもしてないが最後まで聞いてくれ。
恥ずかしながら小石につまずいたのだ。西本さんの目の前で。
そして、最初に西本さんに左手の冷たいお茶が降り注ぐ。続いて右手に持つ熱いコーヒーが西本さんを襲う。
西本さんはとっさに後ろへ迫り来る脅威から逃れようとしたが西本さんが座っていた石に背もたれがついており逃れることは出来ずそのままヘル(熱いコーヒー)&ヘヴン(超冷たいお茶)を連続で浴びることになった。
女の子の叫びを聞くのはこれが始めてだった。
そして、西本さんは無言でゆっくり立ち上がり
同時に花火が打ち上がった。
その花火が合図だったのかもしれない。
「ち、違うんだ わざとじゃぐふっ」
僕の鳩尾に体のひねりをフル活用した右ストレートが入った。
そして一本のメールが届いた。
西本さんからだった。
『 SHINE』
SHINE? 輝き?
もう一通届いた。
『 すみません誤字がありました 正しくは死ねです』
こうして、僕の儚い恋物語が終わった。
そして、倒れている僕に近づく足音が一つ。
「…ああ、やっぱりこうなったか」
近づいてきたのはおっさんだった。
「あんた誰だ?」
「神様」
とおっさんは言った。