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ギフトラベル 改札通ったら異世界だった  作者: 三千百六
新屋格編
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⑧ギジンとラベル

俺は岐阜駅北側のデッキを渡り、問屋町側の地上へ下りた。

そう、地上へ。


岐阜駅北側、デッキの架かっている道路。

デッキの上から駅前の道路を見たとき、そこには、《死トラベル》でも在るかの様に闇が溢れていた。


取り返しのつかなくなるような底無しの深淵では無く、まるでそこに闇という物体があるかのような死を具現化した光景。

問題を後回しにするつもりは無いが、こんなもの、どうしようもない。


実に異世界らしい演出。

順調だ。


ともあれ、どうしようもないので問屋街へ入ろう。

問屋街は、その名の通り、衣服を卸す問屋の集まっている所だ。


古き良き街と言っても、やはり戦後に建てられた建造物が多く、古すぎず、新しくは無いという。何とも中途半端な街だと俺は思う。

今に始まった事ではないが、地方の不景気がその中途半端な年期が入った建造物に対し、老朽化に拍車をかけている。


若者は大きなショッピングモールや都市部に出かける。

人の集まり方も時代によって変わるものだ。

コスト削減の為に駐車場代をケチった路上駐車も増え、いい迷惑。


辺りは一層暗さが増しており、問屋街の狭い通路が月明かりを遮る。

俺はその問屋街の屋根のあるエリアへ足を踏み入れる。


そこは、またも電気系統が活きていて、点滅する蛍光灯の明るすぎない明るさが、この街の侘しさを際立てている。


暫く、コツコツとタイルの床を革靴で鳴らし歩いていた。

すると、遠方に人影が見えた。


まさかと思い。その人影に向かって進んで行く。

勿論ここは、異世界だ。


人じゃ無い場合に備えて警戒は怠らない。いや、例え人であっても敵の可能性もあるから、不意討ちに合わないよう気を抜くつもりはない。


ただ、何故だろうか。

問屋街に入ってからというものの、何だかイライラするというか、負の感情が落ち着かない。


腹が減ってきたからだろうか。

違う。

だが、何故だろう。


人影に近づいて行く。

本当にここは、寂れている。


元の世界でも。

夜中、帰宅途中に通れば心霊スポットよりも....そうだ。


軍艦島の様な、非現実感を与えてくれる。

そんな古すぎない、栄枯盛衰の衰の状態の街。


!!?


人影は、人間では無かった。

白い粘土の様なモノで出来たマネキンに、赤い血管が浮き出て脈打っている。

非常に気持ちが悪い見た目だ。


人影を目指して来たが、正しくは人影どもだった。

マネキン達は、まるで、実際に働いているかのように、各々の店の前で動いている。


同じく粘土で出来た衣服を店先に立ち並べ、みすぼらしくも商売ゴッコをしている。


今すぐ、斬り捨てたい。

だが、害が無い。俺を襲ってくる気配が無い。

だから、日本人としての理性が、美徳が無闇に暴力を振るわせない。


いや、ただ単に無抵抗の人形を斬るという後ろめたさが在るから斬れないのだろう。


嫌になる。そんな甘さ。明らかに人外のインプは斬れたのに。

世間はそんなに甘くない。

元の世界では派遣で、ボーナスや残業代も無かった。

この世界において、我慢は不要と分かっている。


だが斬れない。人並みの生活を模倣している気持ちの悪い人形どもを。


そして、俺は居てもたってもいられず走り出した。問屋街の狭い通路を。


走る。走る。


気持ちの悪い人形を掻き分け。油断をすればぶつかり際に、すみませんと言ってしまいそうだ。


イライラする。


まるで、苦手なモノにでも挑戦しているかのようだ。


安全と分かっていてもスリルを感じるジェットコースター。

はたまた、生死を身近に感じるロッククライミング。

自転車をパクられた。

商談を賭けた人付き合い。


本当に死を感じる位の憎悪が湧き出てくる。


「何っなんだここは!!」


自然と涙が出てきた。全てが嫌になる。

走るのを止め、俯いて黄昏歩く。


そんな時に見つけた。

一番イラッとした。


この上無く。


それは、あまりにも拍子抜けな光景だった。


「はぁっ?!コレかよっ!」


俺は直ぐにそれらを剥がす。

見つけられたのは偶然か、必然か。

必然だろう、余韻も含めてイライラさせてくる。


このラベルは....いや、このラベル達は......


″《悪意トラベル》を解決しました″

″《擬人トラベル》を解決しました″

″DPを60pt獲得しました″

″GPを40pt獲得しました″


一度に二つのトラブルトラベルを解決したようだ。

やはり、精神に働きかける″《トラブルトラベル》″もあったか。


先程までの情けない自分は置いといて、キリッと今回の顛末を考察する。

気分にもどかしさも残っているが、

むしろ″《役トラベル》″を使わずに置けて良かったのだろう。


粘土人形も消えた。罪悪感は無い。

だって、人じゃなかったし。


ただ、物凄く疲れた。

「トラップ、スイッチときて、精神系か」


精神系のトラブルトラベルはヤバイな。

″《役トラベル》″を使っていれば、もう少し精神を保てたかもしれない。


とりあえず、解決したんだ。

ホテルへ向かおう。

″《役トラベル》″は、台紙に貼付してある。


ホテルでポイント分配も考えよう。

というか、またギフトボックスは無かったな。


あ~疲れた。


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