⑩対極と札
男は一人、白い空間の中で腰を下ろしていた。
目の前には、夥しい数の札が貼られている箱。
その男は今、箱に入っていた手紙を読んでいる。
「鬼門、丑寅の門を閉めれるとか、そういうのじゃないのか。やっぱり。パンドラの箱も無いか。いやー、真理ってのは難しいね。哲学者が傍に居てくれればよかったんだけど。いや、驚嘆の知識と驚嘆の国が無いとどうにも無理ゲーじゃないか?」
男は嘆息した。
「無数の運命、無数の世界か。ありきたりっちゃ、ありきたりだな」
男は手紙を畳むことなく地面へ置き、よいしょと立ち上がって歩きだす。
何処へ向かってという目的地は無い。
ただ、ひたすらに白い空間を歩く。
どれだけ歩いても男は汗をかいていない。
やがて男の視界に、ターバンを被り、仮面を付け、外套を羽織った人物が現れる。
それは、高周波の様に男の耳に届いた。
或いは直接脳内に響き渡ったかの様。
″《あ×Åあぁじゃの》《困っ∨♪いいい》《お%&りぁあば》″
男には不快な音としてしか聞き取れず、怪訝な顔を浮かべる。
すると次は男の認識出来る言葉として音が発せられた。
それでも声が重なり被っているかの様だった。
″《お困りの様じゃの》《困ってるみたいだね》《お困りかしら》″
「パッシブでほんやく○ンニャクか、有難いな。別に困ってなんかいないさ。この状況が楽しくてしょうがないんだ。俺の冒険心を良く擽ってくれている」
男は刀を鞘から抜こうと手に掛けた。
″《無駄じゃよ》《無理だよ》《無駄よ》″
仮面の者の声が響き渡る。
「なに、ほんの挨拶代わりさ。自己紹介がまだだと思ってね。俺の名は……」
″《エクストララベル[自動添付]》″
″《役トラベル[影之救世主]》″
″《武具トラベル[影籠手]》″
″《添装トラベル[武具/武装]》″
″《面トラベル[陰の顔]》″
″《終トラベル[必殺の型]》″
″《武技トラベル[影円の斬]》″
「新屋…格だっ!!」
新屋から放たれた攻撃の衝撃と、影の礫が白い空間に立ち込める。
″《来おったか》《来たんだね》《来なくても良かったのよ》″
影の礫が収まったとき、新屋の前に現れたのは、
右腕を前に出し、その手に留める重力球によって新屋の攻撃を防いだラベルライダー。
「ったく。何回現れれば気が済むんだ……。そんでもってお前、カゲロウだろ」
新屋は箱の中の手紙から、ラベルライダーの正体を、輝助と行動を共にしていたカゲロウと踏んでいた。
ラベルライダーは答えない。そのまま、突き出していた右腕を下げる。
″《無駄じゃよ》《無理だよ》《無駄よ》″
「なるほどね。こういうのも込み込みって訳ね。で、戦えばいいのか」
ラベルライダーは答えられないらしい。もとより喋った事など一度もなく、ひたすらトラベラーに害を為すだけの存在であった。
新屋は幾度となくラベルライダーと戦い、つい先程も郡上で戦ったばかりだ。
目の前の仮面の者は、黒幕の一味だろうと当たりを付けている新屋は、自分とラベルライダーの連戦を見て楽しいのかと、自分達の戦いにエンターテイメント性があることに賭けてみた。
″《不要じゃ》《そんな予定は無いよ》《流石に連戦は飽きるわ》″
「だろうな。じゃあ次のステージへ、進ませてくれるよな」
新屋が賭けに勝ち、茶化す様に仮面の者へ問うと、その意に反するようにラベルライダーは攻撃の姿勢を取った。
″《仕方がないのう》《しょうがないね》《まあ、良いでしょう》″
仮面の者もラベルライダーの攻撃姿勢を了承した様だ。
1拍おいて、仮面の者から波動が迸る。
新屋もラベルライダーも一切動じない。
両者とも、仮面の者の意図を理解しているかの様だ。
新屋の周りに、黒い空間の歪みが複数現れる。
「面白い趣向だな。丁度、一人で寂しかったところだ」
新屋がそう言うと、その歪みの中から、次々とトラベラーが足を踏み入れてきた。
「おっと、ここは……あっ、ニイヤンじゃないっすか!」
ホウライが現れ、最初訳分からず頭を掻いていたが、新屋に気付き笑顔になる。
「異様な魔力を感じる……あのラベルライダー、随分と強くなってるな。それに、新屋さんも」
異世界の英雄アザスは、目の前に佇むラベルライダーと新屋の潜在能力を敏感に感じとり、直ぐに気合いを入れた。
「ピピッ!」
「あれ、白い空間?」
「神室さん、他にもトラベラーがいるわ」
「神室さんとサツキちゃんは、私が守る」
彩色の勇者神室 仁、彩ボール、二井宮 五月、百蔵 愛奈。
3人は手を繋ぎながら一緒に現れ、彩ボールが警戒音を鳴らすと愛奈が何時でも防御を取れるよう構えた。
「あら、結構な面子が揃ってるわね」
「いよいよ大詰めってことか」
サク、クラゲと続いて現れる。
二人とも、新屋やその他の面子を見て、これから何が起こるのか楽しみといった表情をしている。流石、新屋と同じ異世界フェチだ。
「あ″あ″?、バトルロワイヤルか。新屋、ラベルライダー、神室ちゃん。決着をつけようか」
そして、峯島竜介。
その狂気に満ちた目には、トラベラーもラベルライダーも敵に映っている。
″《ブラフマーの化身よ》《ブラフマンの犬よ》《ブラフマーの一端よ》″
アハハハハハッ、ヒヒヒヒヒ
ヒーヒッヒヒヒヒ、ハッハッー!!
ヨンダッ?ヨンダッ?
仮面の者の呼び掛けに、どこからともなくピエロの笑い声が木霊し、ジョーカーが姿を現す。
″《カーニバルの主役共よ》″
″《ヒーローさん達》″
″《切り抜けられるかしら》″
″《さぁ!!》《さぁ!》《さぁ!》″
″《フィナーレじゃ!》《フィナーレだ!》《フィナーレよ!》″
一際大きく、場を盛り上げる様に仮面の者の声がトラベラー達へ響きわたった。
あれ?信長とか出て来ないね。今日は岐阜の長良川で全国花火大会!!何はともあれ、戦国時代編もなんとか書かせて頂けました。ひとえに閲覧下さる皆様のお陰です。ありがとうございます。




