白い空間と札
長かった。
ここが世界と世界の間なのか。
この何も無い一面白い空間が。
いつか、アリスが言っていた。
ここは、隣人の様な世界だと。
幾多に分岐した世界が、この空間に面している。
正夢や予知夢も、
たまたま繋がる無数の可能性を見ているんだと。
何千、何万、何億と繰り返し夢を見たところで、
今の自分と比較し、最高に恵まれた人生を歩んでいる自分の夢を見たり、
身近な幸運に出会う自分の夢を見たりってのは、
分母が多すぎて、
それこそ決まってはいないのだけれども。
中々見れるものでは無いらしい。
解は無く、運命というものも個人に対しては無い。
運命の本流。
各々の、細胞の様に決められた人生を歩み、決められたストレスを感じ、愛し、星に還元する。
星ではないのかもしれない。星は星だが、その星さえもただの装置。
ここは狭間。
世界の。
末之門鍵が存在する空間。
星の真を開く鍵。
目の前に相対するは、仮面の者。
仮面の者達は消えない。死なないのではなく、消えない。
倒しても倒しても、空気の様に補充される。
だがそれは、星から空気が逃げない様に、オゾン層や重力が在るように、そういった摂理が働いているからに過ぎない。
この空間でなら、それを破れる。
せめて、一矢報いる。
今まで散った、同じく異界に巻き込まれた仲間の為にも。
何時ものように筆を構える。
中々に、紡げる字数が少ないが、俺の筆はアカシックレコードへの加筆修正を可能とする。
例え一文字でも、それは不具合の元となる。
この加筆修正が、運命の改変が、ある時代では地殻変動を、天変地異を起こす要因になってしまうかもしれない。
人が人の運命を変える。運命に抗う。
危険を伴ってでも、俺は成し遂げたい。
幸不幸がシステム的に定められいるような世界が、そうでなくなっても。
未来は、人間の営みは変わらないのかもしれない。
答えなんて無い。
だからこれは、復讐を兼ねた俺の、世間様に対する迷惑な俺の一人強がりなのかもしれない。
けど、それがどうした。
運命なんて皆変えていけば良い。
苦しいまま、我慢している必要は無いんだ。
コイツらの思い通りにはさせない。
…………
………
……
…
ついにやった。
例えコレが氷山の一角だとしても。
この余波は、世界を変える。
俺が倒した仮面の者は、傍で生々しく横たわっている。
所詮は依代だったのかもしれないが、手応えがあった。書き換えは済んだんだ。
仮面の下が気になるが、戦闘中に外せなかった仮面を剥ぐという、そんな愚行は起こさない。
戦闘用の札も使い果たした。
あとは未来に、後世に託すのみ。
……
俺は、床という概念も無いようなその白い空間で倒れた。
カゲロウやアリス。仲間達との思い出が駆け巡る。
俺の生に意味はあったのだろうか。
現世よりも、異界を長く生きた俺の生に。
けど、輝助に会えた。アリスに会えた。皆に会えた。
例え俺の生に意味が無くとも、俺の生き方に、俺の生きたこれまでの道程には意味があった。
意識が遠退いてきた。
最後の仕上げをしなければ。
俺は道具袋から箱を取り出す。
大垣城に残った封印の箱を。
いつか、ここへ、偶然でも何でも、辿り着いた者へ託す為。
この次へ繋げる為。
俺の名は、輝助。
未来を、輝かしい未来を助ける者……




