⑤天晴るる門と札1
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傷口には薬草を貼り。
自信がある時には胸を張る。
他人にはレッテルを貼って評価をし。
時に見栄を張って挑戦する。
明日の天気は晴れるかな......
.........
......
...
輝助、カゲロウ、アリス。そして白鳥のセバスを含めた3人と1羽は、協力順調に疫災と札を解決していた。
その最後に、疫災と札を解決した際に現れた"《門と札》"によって、岐阜と関ケ原の間にある大垣へとやって来ていた。
道すがら茶屋の長椅子に3人並んで腰かけ休憩し、カゲロウは札を使ってお茶のセットを出す。
"《団子と札》"
"《茶と札》"
輝助は団子をまとめて頬張り、カゲロウはその様子をみて笑う。
アリスもジャパニーズティーを手に、青空に流れる雲を見ながら一服する。
セバスは陽気に当てられ、首を上下してうたた寝していた。
「ふぅ~、いい天気ね。って、何やってんのよ!!」
アリスは飲み終えた湯呑みを勢いよく椅子に置くと顔を上げ、誰も居ない正面に向かって突っ込みを入れた。
直ぐに隣を振り返り、輝助とカゲロウに食い掛かる。
「私たちは層を超え続け、終着を目指さなければいけないのよ。早く末之門鍵を手に入れないと。こんなところで油売ってる場合じゃないわ」
アリスの怒号によってセバスが飛び起きた。
「しかしのう、休憩も大事じゃぞ。ほれ、次の目的地はそこの大垣城な訳じゃし」
「そうだよアリス。この頃連戦しっぱなしだから気持ちを休めないと」
彼らの目と鼻の先には、大垣城が佇んでいた。
「だからこそよ。目の前に目的地があって、何で和んでるのかって聞いてるのよ。ああもう、行くわよ。さあ立って立って!!」
アリスに捲し立てられ、輝助とカゲロウは渋々立ち上がり、立ち寄った無人の茶屋を後にしたのだった。
水の都、大垣。
進む脇道。町の至る所に生活水路が流れ、店の軒先には決まって鹿威しが設置されている。
それを苔が彩り、より自然との調和を印象付ける。
大垣城へと辿り着いた3人と1羽。
彼らは堂々と、外堀に架けられた橋を渡り、正面の門から入場する。
「気張って行くんじゃぞ」
「私は大丈夫よ!輝助、あんた大丈夫なの!?いっつもどこか抜けてるんだから」
「キツイなアリス。俺は大丈夫だって」
「クワッ(仲の良いこって)」
二の丸の月見櫓を越え、本丸へと足を踏み入れた。
全員が敷居を超え、天守を視界に見据えた時、天守の四階屋根が爆発したかのように崩れる。
オオオォォオー!!!!
辺りに獣の大きな鳴き声が響き空気が震えた。
天守の爆発と共に、四階から人影が飛び出し、カゲロウの横へと着地する。
「あなた達は?」
「えらいべっぴんさんじゃのぉ」
カゲロウは、突然現れたくノ一の出で立ちの女性を高評価した。
輝助とアリスも大して驚いた素振りは無く、余裕の態度である。
だからだろうか、現れたくノ一は視線を天守に向け言った。
「悪いことは言わないわ。この世界に来たばかりなのなら、早くここから逃げなさい。恐らくあの魔物の領域は、この城内一帯。外までは追って来ないはず」
屋根の崩れた天守四階、煙が晴れ、むき出しになった部屋から2mは超す巨大な鹿が姿を覗かせる。
巨鹿の角も1m程度。靡く茶色の体毛が雄々しさを際立たせる。
「魔物か、妖怪ってことじゃな。で、あんのデカい巨鹿が魔物か?」
「侮っちゃ駄目よ。ただの巨鹿じゃないわ。ほら」
巨鹿は、その体躯に緑色のオーラを纏う。オーラは液状に変質していき、二つの塊が飛び出た。
緑色の塊は空中で弧を描き地面にべちゃりと音をたて着地する。
それぞれの塊から3匹ずつ、巨鹿を模ったスライムの様な魔物が這い出てきた。
「早く逃げなさいって。あの魔物は今私を狙ってるの!あなた達はただ私に巻き込まれただけなのよ!!」
「儂の名は、カゲロウ。お主はなんと申す」
「えっ、こんな時に何?彩女よ。早く...」
彩女の言葉を制するように、カゲロウは後方を振り向く。
「ほうか彩女。童どもがやる気を出しとるもんでな」
彩女の後方では、輝助とアリスが戦闘準備を済ませていた。
輝助は異空間から大筆を。アリスは驚嘆とランプを構えている。
「この子達が戦うっていうの?」
「まぁ見ておれ。強いぞ」
彩女の疑問をよそに、カゲロウはニヤリと笑って見せた。
最初に動いたのは輝助。
"《加速と札》"
"《墨と札》"
輝助は二枚の札を使用し、瞬く間に3体の巨鹿の分身体を、墨で地面に描いた円で囲む。
"《墨渦と札》"
輝助が札を更に一枚使用すると、描かれた円の中で地面が歪んでいき渦を巻き始めた。
3体の巨鹿の分身体は、渦に抗い脱出を試みたが、直ぐに渦に吸い込まれ消滅した。
次にアリスが動く。
空間をなぞってトランプカードを一枚引き、驚嘆とランプに放り込む。
″《ハート[8]》″
「やるじゃない輝助。ハートの8、愛狂う女王の絨毯」
アリスに狙われた3体の巨鹿の分身体は、突如足元に金の刺繍の施された赤い絨毯が現れ、飛び引こうとする。
その様子を見てアリスは、驚嘆とランプを持っていない左手を自分の右頬へ運び笑う。
「女王の前からは逃げられないのよ」
オホホホとアリスが声を上げると、絨毯から繊維が巨鹿の分身体へと延び、一瞬で全身を包む。
まるで食虫植物が捕食をしているかの様であった。
捉えられた巨鹿の分身体は、ずるずると絨毯に引き込まれていった。
彩女は驚いていた。
「凄いわね......」
「言ったじゃろう。強いと」
そこへ、分身体を倒された巨鹿が地上へと飛び降りて来た。
重量感のある着地の衝撃音がし、砂ぼこりが立つ。
ブルォオオオオ!
砂ぼこりは、まるでそれが邪魔だと言わんばかりの巨鹿の雄叫びによって払われた。
そして、巨鹿の目が鋭くカゲロウ達を睨む。
カゲロウは、巨鹿が攻撃を仕掛けて来るのを察して名を叫ぶ。
「輝助ぇぇぇえ!!!」
名を呼ばれた輝助も直ぐにカゲロウの意図を悟り、行動に移す。
"《加速と札》"
"《墨と札》"
"《墨壁と札》"
4人と1羽を庇う様にして、空中に太い線を描き殴り壁を作る。
″《鋼と札》″
それをカゲロウが札を使って補強した。
次の瞬間、補強された墨の壁が爆破される。
「っく、やはりあの魔物は別格。けど、あなた達となら倒せるかも知れないわ」
彩女は、カゲロウ達の実力に一縷の希望を見出していた。
「いんや、儂が行く。輝助、ここで皆を守っとれ。アリスも手出し不要じゃ」
「うん、分かった」
「はいはい、分かったわよ」
「クワ(今回は出番無しか......)」
彩女の目論見に反してカゲロウは一人で戦うと言った。
彩女は反対する。
「ちょっと、今の攻撃も見たでしょ。あいつは一人じゃ勝てないわ!」
「まぁ、見とれ」
カゲロウは一言言い残し、三度傘を深く被り、一歩前へでた。
「さぁ、巨鹿よ。儂が相手じゃ」
某ししがみ様ではありません。大垣城は別名に巨鹿城と呼ばれているらしいです。大垣は水餅が美味しいですよ。




