③キズとラベル
この話は精神的にキツいです。そういったものが苦手な方は、お控え下さい。
雨が降っていた。全てが憎々しいと感じていた。
……
男は横たわって呻きを上げていた。
過積載だろう。辺りのアスファルトに轍が目立つ。
元の世界の仕組みには、矛盾が多々あった。
働けというのに働きづらい。
男は、ヒエラルキーで言えば、上流にいた。
だが、下請け、そのまた下請けと関わっていく内に、職業に貴賤は無いと、戦後100年も経っていない国が豪語する世間に疑問を感じていった。
男は優しい人間だったのだろう。
雨粒が全身を打ち続ける。
大分殺した。
老若男女ほとんどを。
男は殺してきた。
だが、過去500年、いや大量破壊兵器や戦争、それこそ国が出来上がるまでの過程を考えれば、男の殺戮なんて微々たるものだろう。
この世界に転移してくる人間。
この世界に現れる″《トラブルトラベル》″を考えると、男は吐き気がする。
男は、呼吸を整えようとするが、正常になる見込みは無い。
たまに口内に溜まった黒い血を吐く。
風前の灯火だ。
全て間違っている。男はそう思うようになっていた。
男はある時、少年に出会った。
心優しい少年だった。
元の世界には無い温もりを、男は感じていた。
″《トラブルトラベル》″を一緒に解決した。
解決後は、″《ビールトラベル[ヴァイツェン]》″
″《ジューストラベル[オレンジ]》″等で乾杯もした。
男は白エールが好きだった。
男と少年は、他のトラベラーに出会った。
男のレーベルも″《武器トラベル》″も強力だった。
頼り頼られ、持ちつ持たれつ、共に信じ信頼し合えている筈だった。
裏切られた。
そして、漆黒のラベルライダーに少年は殺された。
男は激情に駆られ、 自身のラベルの二段階目を発動させる。
ラベルを、更に捲った。
男の旅は続いた。
一人旅だった。
旅をする内に男は、この世界の成り立ちに予想を立てた。
その予想は、一人の男の出現によって、より確かなものへと変革を成した。
その時も、男は、ボロボロだった。
男は、二度目のラベルライダーとの遭遇を果たしていた。
どうしても歯が立たない。
そんな時だった。
刀を持った男が危機を救ってくれた。
男とは気が合った。
互いに、元の世界に未練は無かった。
その男は語ってくれた。
この世界について。
そこからだった。
男は考えた。そこから更に深く。
深く考えた末に至る答え。それは、
皆殺しだった。
一人は、人を生かす事で人を救い。
一人は、人を殺す事で人を救う。
男は、奴と俺は、光と闇。決して相容れぬ存在と悟り、その男に勝負を挑む。
結果は惨敗だった。
この世界に、きちんとした個人のレベルという概念があるのであれば、男とその男のレベル差は段違いであった。
その男は、光などでは無かった。
光在るところに生まれる影。
男はその男の正体をそう予想した。
奴は、この世界を、何処までも楽しんでいた。
自分の実力を隠し、ピンチを、その状況や展開を楽しんでいた。
男は、生かされた。
恐らく、自分が復讐しに来るのを、楽しみにしているのだろう。
闇よりも、光から生まれる影の方が質が悪いと感じた。
ただ……ただ、虚しかった。
いつしか、いつ死のうがどうでも良くなった。
男は、殺戮を始めた。
その結果が、現状だ。
雨粒が全身を打つ。
男はアスファルトの道路に倒れている。
「たっ、たいへん!大丈夫ですか!?いま手当てを」
……
「GPを沢山使ったんだけど」
″《回復トラベル》″
男の傷が、多少マシになる。
「まだ駄目か。じゃあこれは」
″《治癒トラベル》″
男の傷が先程よりも見た目が良くなった。
「最後にこれっ」
″《洗浄トラベル》″
男の茶色いトレンチコートに着いた血も綺麗に落とされた。
男は、少女を見て、かつての少年を思い出す。
自分を救ってくれた少女に、少年を重ね見た。
日本人らしい、献身的な姿勢。
少女は、苦しみが減ったであろう男を見て、軽く微笑んでいる。
感謝の言葉を期待しているのだろうか。
いや、純粋に、救えた事が嬉しいのだろう。
全く反吐がでる。
男は、異空間にしまっていた″《武器トラベル》″を右手に出現させる。
″《弾トラベル》″
残っていたラベルを発動して弾丸を補充する……
峯島は、この世界から少女を救う。
アスファルトの轍に出来た水溜まりに、峯島以外の血が混じる。
雨は止まない。
峯島は立ち上がる。
「世界ごときが、俺の運命を決めるんじゃねぇ!!」
……
峯島は笑う。
「俺は、好きなように殺らせて貰う」
……
「さぁ、祭だっ!!」
峯島、参戦。
やはり、強い。




