②シレイとラベル
″岐阜トカーニバル開催″
″ 各人、《指令トラベル》による指令を解決されたし ″
″サモナクバ、闇ガアフレヨウ″
″残りの時は、台紙に映されん″
″デハ、マツリヲ楽シメ″
………
……
…
「と、いう訳さ。お二人さん」
唐突に話を纏め上げられ、伊藤と綾野の二人は思わず声を合わせる。
「ど、どういう訳?」
「え、ど、どういう?」
伊藤と綾野を岩の巨人から救った男は、新屋 格と名乗り、この世界の事と、今起きている事をかいつまんで説明した。
「要するに、簡単に、一言で言うと、ここは異世界って事だ」
新屋はどや顔で返す。
「えー、いやだから理解したよ。新屋さん」
伊藤は、新屋のテンションに驚いている。
「ちなみに、俺らは元の世界に帰れるんですか?」
綾野は話を次に進める為、新屋に尋ねた。
出来れば、怪物の居るような世界より、元の世界に帰りたい。
伊藤も綾野も俳優として更なる高みを目指していたのだから当然そう思った。
だが、返ってきたのは、やはりというような残酷な答えだった。
「俺は帰れないと思ってる」
返答を聞き、二人はため息をつく。
「可能性が無い訳じゃない。いくつか方法は考えられる」
新屋は次の様な可能性を話した。
①この世界で死ぬ。
②闇に呑まれる。
③″《層トラベル》″を解決し続ければ元の世界の層に重なるかもしれない。
どれも本当に可能性の話だ。
だが、新屋の話はそれで終わらなかった。
「そして、もう一つ可能性が残っている。この、ギフトカーニバルの賞品だ」
「賞品?」
伊藤が疑問の声を上げる。
「ああ、あくまで俺の推測だが、こんな楽しいイベントに賞品が無い訳が無い」
「楽しいって…死ぬかも知れないんですよね」
綾野は意気高揚している新屋に尋ねる。
そもそも、先程岩の巨人に殺されかけたばかりだ。
「どうするかは、あんた達次第だ。ここは一つ、稀代の俳優になってみる気はないかい?」
新屋は、凄く楽しんでいた。
新屋も勿論、二人を知っていた。
映画やドラマ、バラエティー番組で見たことがあった。
しかしこの世界には、テレビ機材はあっても電気及び通信環境が無い。
新屋は暗に、伊藤と綾野に演じろと言った。
今、ここで素を隠し。
元の世界を求め、この世界を生き抜く冒険者を演じろと。
伊藤と綾野は互いの顔を伺う。
どうやら、新屋の雰囲気に呑まれたようだ。
元の世界において、異世界を演じていた二人は、
異世界において、異世界を演じる事を決めた。
「新屋さん。分かりました。ここからは俺らも切り替えます」
「ええ、警棒の勇者くらい、見事演じて見せますよ」
新屋は満足そうに微笑む。
「よしっ、決まったな。丁度、順調なタイミングでお客さんが来たみたいだ」
ブォオンッ!ブオォォォオン!!
道の駅に迷惑な程大きなエンジン音が響き渡る。
漆黒のコート、フルフェイス、ライダースーツ、プロテクター。
ラベルライダーがバイクに跨がり出現していた。
″《二輪車トラベル》″
″《二輪車トラベル》″
″《二輪車トラベル》″
新屋は手早くバイクを3台出現させた。
そして、伊藤と綾野に1枚ずつラベルを配る。
「二人ともこのラベルを使ってくれ」
「これは?」
「《役トラベル》っていう、その役に成りきれるラベルさ。二人には不要かもしれないけどな」
「いや、有り難く使わせてもらうよ」
伊藤はラベルライダーの只ならぬ雰囲気に冷や汗をかいた。
伊藤と綾野は、そのラベルを台紙にセットし使用した。
″《役トラベル[ライダー]》″
″《役トラベル[ライダー]》″
新屋は、二人がバイクに乗ったところで、ラベルライダーに話しかける。
「ラベルライダー。丁度良かった」
″《役トラベル[侍/ライダー]》″
「たまには、お前とツーリングしたいと思っていたんだ」
″《武具トラベル[影籠手]》″
″《武技トラベル[影刃]》″
新屋はラベルライダーに向けて影の刃を飛ばすと、自身もバイクに跨がる。
「さぁ!俺の仲間も郡上へ向かってる。そこに俺が目指す指令がある!かっ飛ばすぞ!!」
「分かった!」
「了解!」
3人はバイクを走らせる。
ブォオンッ!
ラベルライダーも遅れて後を追う。
新屋格、伊藤英輝、綾野猛、ラベルライダーは国道256号を北上する。




