⑩ソレゾレノとラベル
【彩色の武器使い】
変幻自在の武器″《武器トラベル[彩色]》″
彩りを構築する武具″《武具トラベル[彩色のマトリックス]》″
その本領を余すこと無く発揮するラベル
″《終トラベル》[役彩図]″
βソード、γハンマー、Ζチェーン、Σスピア、双剣、棍、鎌……etc
様々な武器に形態を変化させながら、
神室は峯島を攻める。
時に、彩ボールを足場にして、空中でもう一段ジャンプをして峯島の上を取り、
「ピピッ」
時に、彩ボールに″光″を構築させ、熱線を放つ。
時に、彩ボールを攻撃の際に武器に透過させ、武器に″爆砕色″を付与して峯島を攻撃する。
″《武技トラベル[彩装]》″が峯島の認識を阻害させ、
峯島の禍々しいオーラや、銃弾は、その攻撃のタイミングに合わせて、
″《武技トラベル[断彩]》″を使用し、神室の周囲の彩りを断って防ぐ。
「クックック、殺りづれぇなぁ、神室ちゃん」
峯島もどれだけの異世界転移者を、その手に掛けて来たのだろうか。
″《最凶トラベル》″の効果を巧みに使いこなし、サブマシンガンとナイフ、その他仕込み武器を用いて神室と対等に渡り合う。
峯島は笑う。
「楽しんでるかい、神室ちゃん」
その眼に凶光が宿る。
「さぁ!もっと楽しんでくれ!!!」
″《終トラベル[凶悪]》″
…………
神室は戦いの最中、考えた。
一体なにが、この男をこうも駆り立てるのだろうか。
「これはどうだぁ?!カムロォ!」
″《伝達トラベル》″
″《恐怖トラベル》″
[役彩図]状態の神室でも気を抜けばたじろぐ様な恐慌が脳裏を迸った。
マナは、この戦いにおいて蚊帳の外であったが、その恐慌に耐えきれず気絶してしまう。
互いに決定打は無かった。
神室に残されている″《エクストララベル[再式]》″
これは、使用すれば峯島を打倒出来るであろうラベル。
同時に、誰か一人なら命を助けられるラベルであった。
神室は決めた。
残ったマナだけでも助ける事を。
峯島の隙を、[再式]を使うタイミングを伺う。
既に無駄な挑発は無く。ただただ凶悪であった。
「ジャマだ」
″《武技トラベル[悪霧]》″
峯島によって、タケルとコウスケの肉体が、悍ましい黒い霧に呑み込まれる。
峯島は、軽く手を振り、神室と倒れているサツキにも霧を向ける。
神室は、[断彩]によって霧を防ぐが、サツキは呑み込まれてしまった。
神室は歯噛みする。
そして……
峯島が大きく動いた。
「そろそろシんでくれよカムロォオオ!!!」
その時、
″《天転トラベル》″
″《錯覚トラベル》″
峯島が、すっ転んだ。
峯島は、見た。空間を破り。この二人の戦闘に邪魔しようと足を踏み入れる。
黒き戦士。ラベルライダーの錯覚を。
「今よ!神室くんっ!」
神室は突然響いた女性の声を聞き、この千載一遇のチャンスに突っ込んだ。
彩色のβソードが転んだ状態の峯島を貫き、峯島の体内で様々な形状の楔となって、平原に張り付けにした。
神室 対 峯島。二人の戦いに決着が着いた。
一瞬、ただの一瞬の不意打ちが明暗を分けた。
「ぐはっ、ガムロ″ォォ……」
峯島は、血を吐き出し神室の名を呼ぶ。
その顔は、自身の死の縁にあってもニヤついている。
仰向けのまま、神室に向かって腕を挙げようとするが、その腕は力無くただ震えるだけだった。
その後、峯島は息絶えた……
神室は、サツキと見知らぬ女性に駆け寄る。
マナも、その見知らぬ女性によって介抱されていた。
サツキは出血が酷く、重傷だった。
「サツキ!大丈夫か」
「神室さん……」
さつきは、力を振り絞って返事をする。
「あなたは」
神室はサツキの容態を確認し、正体不明の女性に声を掛ける。
「私の名前は今藤よ。私が″《複写トラベル》″を使ってサツキちゃんを助け出したの。けど、男の子二人は助けられ無かったわ……それにサツキちゃんもこの重傷じゃ……」
今藤は、サツキを助けた状況を手短に話した。
そこで神室は言う。
「ありがとうございます。まだ、サツキを助ける方法はあります」
神室はその方法を説明した。
″《エクストララベル[再式]》″は、簡単に言えば、復活を可能にするラベル。
使用すれば1度だけ、鮮やかな色彩の中から完全復活することが出来る。
神室は峯島に対して、自身の死を偽装し打倒しようとしていた。
その力を、サツキに使う事を神室は考えていた。
しかし、″《エクストララベル》″は具現化しての譲渡が出来ない。
魂に貼付されているとでも言おうか。
そこで、急いで最上階または他の階で、適当な箱を見つけ、神室が所持している″《ギフトラベル》″を使用し、それが可能となる手段を探す必要があった。
「それなら、これを使ってみて」
説明を受けた今藤は、ポケットから1枚のカードを取り出し、神室に手渡す。
「ある人から貰った、《ギフトカード》よ。GPの譲渡が可能なそのカードなら、《エクストララベル》の譲渡も可能かもしれないわ」
神室は《ギフトカード》を受け取ると念を込めた。
すると、メニュー画面が現れ、選択肢が表示された。
″ギフトカードに贈答したい項目を選んで下さい″
″GP″
″エクストララベル″
通常であれば、″GP″の表示だけなのだろう。その下に目的の項目があった。
神室は[再式]を添付し、サツキに渡す。
カードを確認し、サツキに[再式]が譲渡された事を確認する。
これで一安心だと一行は最上階へ進むことにした。
今藤が、マナを支え。
神室が、重傷のサツキを背中におぶった。
「大丈夫だ、サツキ。安心してろ」
「はい、神室さん……」
一行は、平原の中から最上階への階段を見つけ、進む。
その途中でサツキは鮮やかな色彩に包まれた。
″《エクストララベル[再式]》″
″対象者の再構築を開始……″
″完了″
″対象者、復活します″
鮮やかな色彩の中から、サツキが帰ってきた。
傷は見当たらない。
「か、神室さん。ありがとうございました!それに今藤さんもありがとうございます」
「サツキちゃぁぁん!!」
マナはサツキに飛び付き、泣きじゃくる。
タケルとコウスケが死に。閉塞気味だったマナの心が、サツキという支えによって再び開かれたのだった。
サツキはマナを抱き締めていた手を離し、マナの肩を掴んだ。
「マナ……今は進まなければいけないの。だから、もう少し頑張りましょ。そうですよね、神室さん。今藤さん」
サツキは、おぶられている時に、
今藤が神室に、この世界の仕組みについて説明しているところを、辛うじて聞き取っていた。
つまりは、この世界で生き残るには″《層トラベル》″を見つけ続けなければいけないということを。
一行は最上階へ辿り着く。
最上階の展望台は、一面ガラス張りで岐阜の景色が一望出来るところだった。
美しく、太陽の明かりが展望台に射し込んでいる。
ここへ来て一行は朝を迎えた事を知った。
神室は塾の前でシティータワーを見上げた時に、[虎牛の眼]に映っていた黄色い光を見つけた。
それは、展望台の真ん中辺りに、金色の光球が浮かんでおり、その中にラベルが一枚漂う。
「見たことの無いラベルね。どうする?神室くん」
今藤は、神室から[虎牛の眼]について既に話を聞いており、自身の警戒が杞憂であったと確信していた。
そこで、もともとこの光を追ってシティータワーへ入った神室に判断を任せる事にした。
神室はサツキとマナ、今藤の顔を順に見る。
皆、頷いた。
「ピピッ」
彩ボールも反応する。
神室は金色の光球に手をいれた。
すると、どこからともなく、ファンファーレとクラッカーが鳴り響いた。
そして辺りにはサンバの音楽が大音量で流れ始めた。
展望台から見える景色には、その所々で花火が打ち上がっている。
それらは、岐阜の青空を美しく彩っていた。
″《カーニバルトラベル》が開放されました″
″これより、《岐阜トカーニバル》が開始されます″
皆が呆気に取られていると、神室の[虎牛の眼]に反応があった。
部屋全体が赤い光で埋め尽くされる。
「なっ!」
アハハハハヒヒヒハハハ
キヅイタ?
カーニバルガハジマルヨ
「ジョーカー!?」
今藤が、構えると同時に、突如現れた道化は消え、神室の目に映る部屋の明かりも元に戻った。
そして世界が、幾つもの層が重なり始める。
「そんな!″《層トラベル》″じゃないのに?!」
今藤は動揺するが、続けて言う。
「神室くん、サツキちゃん、マナちゃん、まだ試した事が無いんだけど……」
そういって、今藤は、3人に手を繋がせた。
「きっとこれで、君達なら次の層でも一緒にいられるわ。神室くん、二人を守ってあげてね。申し訳無いんだけど私はある人を探す為、別行動をとらせてもらうわ」
「分かりました。今藤さん、ありがとうございました」
「いいのよ、そんな事。次の層でもまた会いましょう。チャオ」
今藤は微笑んだ。
………
この時、全てのトラベラーの前に道化が現れていた。
………
「カーニバル……イベントか。順調に異世界だな」
………
「ジョーカー。次は必ず倒す!」
………
「カーニバル。また皆に会えるっすかね」
………
生き残ったトラベラー達は次なる舞台へと旅立つ。
ギフトカーニバルの舞台へと。
………
……
…
「………」
「………」
「………」
″《執念トラベル》″
「………」
「カハッ、……負けたかぁ」
「体内がズタボロだ。体が動かせねぇ。これじゃ何も出来ねぇな。完敗だ……また、直ぐに死んじまいそうだ……」
カーニバルガハジマルヨ
峯島の前に道化が現れ、一言残し、直ぐに消え去った。
そして世界が、幾つもの層が重なり始める。
「神室ちゃんが《層トラベル》を発動させたか……」
「カーニバルねぇ、岐阜の祭りか……」
「くっくっく……いいねぇ。楽しそうじゃねぇか…………」
………
……
…
遂に始まったギフトカーニバル。
トラベラー達は生き残れるか。




