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ギフトラベル 改札通ったら異世界だった  作者: 三千百六
神室迅編
29/53

⑨ツイオクとラベル

《運命トラベル》にて世界は更に、歪に動く。

彼女は、偽りを生きてきた。

自分の気持ちを隠し親の言いなりに。

時には友人に濡れ衣を被せられる事もあった。


……


彼女は、岐阜駅内の図書館に居た。

ロングヘアーをポニーテールに纏め、ハンチング帽を深く被り、眼鏡を掛けて、椅子に座り本を読んでいると、気付いた時には、辺りから人が消えていた。

係員も居なくなっていた為、気味が悪くなり図書館を出ようとする。


図書館の自動扉が開かず、焦っている所へそれらは現れた。


浮かび、小動物の様に動き回る活字の群れ。

立体化した浮世絵も彼女を見つめ、皆笑っている。

絵本から出てきた鳥が、羽ばたきもせずに宙を舞う。


カシャリ

カシャリ


そんな幻想空間の中へ、現実染みた音が入り雑じる。


しばらく混乱して居た彼女だが、それを見て青ざめ、命の危機を感じ、正気に戻る。

剥き出しになった刀身を構えた鎧武者が、彼女を目掛けゆっくりと歩み寄ってきていた。


彼女は鎧武者に向かって本を粗末に投げる。しかし、鎧武者はそれを非情にも斬って見せる。


彼女は図書館の中を走って逃げた。

″《複写(コピー)トラベル》″


鎧武者もそれを追う。

いや、追ったはずだった。


「やっぱり、″《トラブルトラベル》″も騙されるのね」

″《声トラベル》″


鎧武者は、後方からの声に振り向いた。

が、そこには人は居なく。


「私はこっちよ。チャオ」

彼女は、鎧武者が最初に歩いて来た位置に立っていた。


「大抵こういう所にあるのよね」

彼女はそう言って本棚に貼られていた″《トラブルトラベル》″を剥がす。


″《お伽トラベル》を解決しました″


この世界での彼女の名前は、今藤(こんどう) (かおり)


レーベルは、【詐欺(ペテン)師】


今藤は複数の″《層トラベル》″発見者だ。

生き残る為、様々な人とを、時に協力し、騙し、利用してきた。

だが裏切る事は無かった。裏切りは元の世界で彼女のもっとも忌避するもの。


今藤のレーベル【詐欺師】は、この世界を生き抜く為、自分の長所である、偽ることを最大限発揮出来るレーベルだった。


今藤は、この世界でも協力者を探す。


岐阜駅内の図書館から、北口へ出たところ、辺りは暗く。

岐阜駅近くの大手塾のビルに灯りが点いていた。


1階の玄関口に人だかりが出来ている。

どうやら、大人数で異世界転移してきたばかりらしい。


と、そこへ。鉈を持ち武装したゴブリンも大量に現れた。

塾の講師や生徒は一斉に襲われ始める。


「そんな、転移してきたばかりなのに高Lvの″《ゴブリントラベル》″だなんて」


今藤は、かつて自分を助けてくれ、共に闘い″《層トラベル》″を発見した新屋格から聞いた話を思い出す。


層が上がった先で出会う転移してきたばかりの人々。

それは、異世界ストーリーに有りがちな、自分達が前回の層で解決した″《トラブルトラベル》″だった人々かもしれなく。


″《トラブルトラベル》″の解決は、現世に寄与するものもあれば、それに囚われていた人々を開放するものもあり、

自分達は、御札がラベルに変わった、現代版の陰陽師なのかもしれないと。


今藤も新屋格に惚れ込んだ1人である。

新屋格の様に1人でも多く助けたいと思った。


しかし、今藤の【詐欺師】には、ゴブリンを直接倒す力は無い。

今藤は、″《トラブルトラベル》″を探し剥がす為、慎重に近付く。


襲われている講師や生徒は次第に塾の中へ逃げ戻ろうとしている。


今藤は塾まで一定の距離に近付いたが、これ以上は遮蔽が無く、近付くに近付けなかった。

″《偽装トラベル》″を使ってゴブリンに化ける事も可能だが、集団に混じって一匹だけ″《トラブルトラベル》″を探していれば不審がられるだろう。


そう思っているうちに、ほぼほぼ事は済んでしまっていた。


そして……


塾の二階より、少年が1人下りてきた。

その少年の顔は、ゴブリンに挑もうと覚悟を決めた顔だった。


そして、その少年は何かに気付いたかの様に視線を脇に逸らす。

少年は突如、全力で走り出し、出入り口付近に沢山飾られている観葉植物に飛び付く。


すると、ゴブリンの群れが灰色の煙となって霧散した。


今藤は身が震えた。

少年は、″《トラブルトラベル》″の位置を見抜いたのだ。


今藤は塾へと向かった。

助けられ無かった人々の死体に罪悪感を感じていた。


塾のロビーに入った出入り口付近で、少年は眠っていた。


今藤が少年をソファーに運ぼうとした時に、塾の上階から複数の、階段を下る足音がした。


″《偽装トラベル》″


今藤はこの、自分だけ無傷の状況を見られれば、いらぬ誤解を招きかねないと思い。

自分の格好を生徒の死体に偽装し、隠れた。


下りてきたのはやはり、塾の生徒のようだった。

死体に反応し、悲鳴をあげる女子がいた。


今藤が半目を開けて確認すると、四人の少年少女が見えた。

そこに眠っている少年よりも更に若そうだった。


少年達は、口を抑え一目散に塾の外へ駆けていく。

眠っている少年には気付く余裕は無いようだ。


死体に扮したまま、今藤は考えていた。

この眠っている少年の正体について。


本当に″《トラブルトラベル》″を見抜く力を持っているのだとしたら、相当な戦力になる。

しかし、黒幕側の駒である可能性も高い。


新屋格からも″《トラブルトラベル》″を見抜く力の存在は聞いていなかった。


今出ていった少年達の反応が、本来有るべき未成年の反応では無いだろうかと。


今藤は、このまま死体に扮し。

眠っている少年の行動をしばらく観察することにした。


格は、もしかしたら順調にハーレムルートを進んでいるのかも知れない。

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