⑧ドウケとラベル
前世の妹と、今世の妹。
アザスは、その両方を一度に、目の前で失った。
激昂するアザス。
「ジンジデダノニ。ボォーライッ!!」
アザスは魔力が尽きていた。
ただただ、己の剣を強く握りしめる。
ホウライに飛び掛かり、力任せに剣を振りおろす。
″《武技トラベル[影縛り]》″
アザスの後から現れた影の糸が、アザスの動きを封じた。
「ホウライっ!!俺が動きを止めてる間にやれ!」
「了解っす」
アザスは、歯噛みし唸る。
「ガアァァアーッ」
「お前は、或いは大切な人達を、同時に救ったのかもしれないな」
「だがな、良く見ていろ」
「そこっす!」
″武具トラベル[風靴]″
ホウライは高く跳躍し、何も無い空間へ攻撃を仕掛ける。
″武技トラベル[四重槍]″
ホウライの狙ったポイントを囲むように三つのジャベリンが現れ、手持ちのジャベリンと共に、その何も無い空間を串刺しにする。
アハハハハヒヒハハハッ
そこに、ジャベリンによって串刺しになったピエロが笑いながら現れた。
ボンッ
ピエロは笑い終えると一旦煙となって消え、別の場所に現れた。デッキの上だ。
アザスを見つめるピエロ。
プフーッ、フッフッフ
ピエロはアザスを指差し笑う。
「ジョォーカァー!」
空中から降ってきたホウライが、ジャベリンでピエロを頭から串刺しにする。
ピエロは串刺しになりながら、しまったと思ったかのような表情を作り出し、掌で口を覆う。
再び、ボンッと音と煙をたて、別の場所へ出現する。
影の糸でアザスを押さえている男が口を開く。
「おい、もう大丈夫だろ。異世界人なら精神異常をレジストして、周囲を良く見てみな」
アザスは混乱していた。
妹二人が殺されたと思ったら、ピエロに嘲笑われる。
アザスは、思い出す。
アースラブルの魔王軍にも、こういう姑息な手段を使う下衆が居たことを。
言われた通り精神を落ち着かせ周囲を見る。
そこには、白い粘土の様なもので出来たマネキンが倒れており、痙攣していた。
つまりは、幻覚であったとアザスは悟った。
冷静さを取り戻したアザスは、ホウライを探す。
ホウライは、ピエロに攻撃を続けていた。
アザスとピエロの目が合う。
アーララ
ピエロはアザスを見て、つまらなさそうな顔をしてみせた。
ホウライのジャベリンがピエロを貫く。
マタネーバイバイ……ボンッ
ピエロは消え去った。
「大丈夫っすか?アザス」
ピエロを追い払ったホウライがアザスに近付く。
影の糸は消えていた。
「あぁ、大丈夫だ。それよりも、すまなかった」
「いーんすよ。ジョーカーはトラブルトラベルを振り撒く、ラベルライダーより最悪な奴っすからね。もちろんポイントも手に入らないっす」
「そうなのか。そういえば、あなたもありがとう」
アザスが振り返ると、スーツの男も居なくなっていた。
「ニイヤンなら、ジョーカーの気配を追って行ったんだと思うっす」
「ニイヤンは、人助けや困難な展開が大好きな変態。異世界フェチっすから」
そんな人も居るんだなとアザスは思う。
「闇が溢れるギリギリまで人助けか。素晴らしい人だな」
「ちょっと違うっすね。ニイヤンは層トラベルが発動する度に、いつか元の世界に戻ってしまうのではと考えているっす。だから楽しめる内に楽しみたいっていう、変態なんす」
「ニイヤンは、元の世界には、帰りたくないらしいっすからね」
「ははっ、そうなのか」
苦笑するアザス。
だがこの時、アザスは考えてしまった。
この時代の日本は、アザスの前世と、余りにも時代の差が無い。
もしかしたら、本当に会えるのかもしれない。
アザスは、前世の家族とは不慮の事故で別れてしまった。
繰り返し層トラベルを見付ける事で地球に戻れるのなら。
一目、前世の家族に会ってみたいと。




