⑤タタカイとラベル
「来るっすよ!」
アザス達にラベルライダーが差し迫る。
『《フラッシュトラベル》』
辺りに閃光が立ち込める。
″《大盾トラベル》″
ガコンッ!!
瞬間、何かがぶつかり合った音がした。
ホウライが《大盾トラベル》を使用し、ラベルライダーの剣撃を防いでみせた。
「上っす!!」
アザスも事前に気配を感じ、魔力を右手に込め真上へと跳躍する。
既に上空にいるラベルライダーは、下に居るアザス達に向かって銃口を構える。
そして、その銃口から魔力弾が放たれた。
アザスは跳びながら右手を魔力弾に向かって付きだす。
アザスの魔力と、ラベルライダーの魔力弾が反発しあう。
辺りに衝撃波が広がった。
″《役トラベル[騎士]》″
″《武具トラベル[風靴]》″
″《加速トラベル》″
すかさずホウライも跳躍し、
ラベルライダーにジャベリンで追撃を加える。
ガキィン!!
ぶつかり合う金属音。
ラベルライダーは体を捻り、銃とは反対の手に持っている剣で、ジャベリンを受け止めた。
『《ブーストトラベル》』
各自が空中で散開し、着地すると同時、ラベルライダーは速度を上げた。
これにはホウライが反応したが、アザスも魔力で身体強化を行い、ホウライに続く。
ホウライのジャベリンと、アザスの剣が、決定打は無いものの、ラベルライダーに反撃を許さない。
ラベルライダーは、二人の攻撃に押されている。
が、ここでタイルの床に銃を向け、魔力弾を放った。
アザス達とラベルライダーの間に距離が空く。
「やっぱ、コイツ相手に出し惜しみは駄目っすね」
「アザス、ちょっと時間を稼いで欲しいっす」
ホウライには何やら策があるらしい。
「ああ、分かった。だが、余り持ちそうに無いから早めに頼む」
「了解っす」
アザスはホウライに賭ける。
そして、目の前の相手を見つめ直す。強敵だ。
アースラブルに居た頃ならいざ知らず。この世界でのアザスの魔力はかなり制限されている。
アザスは更に内包する魔力を消費し、身体強化、剣の強化を行った。
アザスとラベルライダーの一騎討ちが始まる。
「今の内にっと……」
ホウライは、ホルダーからラベルを取り出し、メニュー画面を操作する。
《加速トラベル》の効果は消えているが、慣れた手つきで取り出したラベルを素早く貼付していく。
「よし」
ホウライは貼付が終え、ジャベリンを構えた。
「アザァァッス!、よっけるっす!!」
″《強化トラベル》″
″《暴風トラベル[ジャベリン]》″
″《終トラベル[投擲]》″
瞬時にアザスは転移し、更に跳躍をしてその場を離脱した。
激しい暴風がラベルライダーに押し迫り、後退りさせる。
暴風を纏ったジャベリンの勢いが競り勝ち、ラベルライダーを商店街の店ごと吹き飛ばした。
肩で息をするホウライ。
アザスも魔力が尽きかけており、二人とも満身創痍だ。
「まだ、終わって無いっす」
ホウライは立っているのがやっとの状態だが、近寄ってきたアザスに警告し、ラベルライダーを吹き飛ばした方向を見る。
吹き飛ばした先、土煙の中。
左肘から先を失ったラベルライダーが現れた。
残った腕には、剣も銃も持っていなかった。
ラベルライダーは、その左肘を前に突きだし、両足を肩幅に広げ、右腕を脇に構える。
『《ファイナルトラベル[チャージ]》』
『《グラビティトラベル[ナックル]》』
ラベルライダーの右腕に暗黒の重力球が成形され、膨張していく。
「やばいすね。アザス、これを持って逃げるっす」
ホウライは、アザスにラベルの入ったホルダーを投げた。
それをキャッチするアザス。
だが、アザスには逃げる気など無かった。
アースラブルで仲間を逃がした自分が、何故この状況から逃げられようか。
アザスは残りの魔力と生命力を振り絞った。
感覚を極限まで研ぎ澄まし、剣に炎を纏う。
アザスはホルダーからラベルを1枚取り出すと、
片手と口でラベルを剥がし、
見よう見まねでメニュー画面を操作し貼付した。
ラベルライダーが動く。助走をつけて跳躍し、拳をアザスとホウライに向け放ってきた。
刹那、文字通り命を絞り得た超感覚によって、ラベルライダーの拳が届く前にアザスは、カウンターを叩き込む。
しかし、このままでは威力が足らないのは必至。
そこでアザスは一か八か、ラベルによる威力増加を企んだ。
「ってやぁああ!!」
″《火トラベル》進化のバングル効果発動″
″進化《紅蓮トラベル》付加[アザスの剣]″
逆袈裟斬りを放ったアザスの剣は、更に紅蓮の焔を迸らせた。
その灼熱はラベルライダーの黒鎧を溶かし、切断するには十分であり、アザスの企みは想像以上の結果をもたらした。
ラベルライダーは膝をつき、重力球も縮小し消滅する。
やがてバランスを崩し、タイルの床に横倒しになったラベルライダーは、灰色の煙となって霧散した。
「ははっ、すげーすね。ホントに異世界の勇者様だ」
ホウライは、疲れながらも、あどけなく笑って見せた。
「いや、この通り、片手が使い物にならなくなってしまった」
余りの灼熱に、魔力で覆ってはいたもののアザスの手は酷い火傷を負っていた。
「魔力がすっからかんだ。暫くは回復魔法も使えない」
アザスはその場で床に腰掛けた。
「デザートはいるっすか?」
「いや、手を治してから頂いてもいいかな」
こうして、アザスとラベルライダーの一戦目は、
幕を閉じた。




