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「高校2年2学期」の風使い

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第71話 風使いと「学校」【七不思議編】(1)

短めの1話ですが、本日は3話まとめての更新です。(3/3話)

 夕陽が床を照らしている。

 ひどく痛む頭をかかえて風見が身体を起こすと、視線のすぐ先に土岐司(ときつかさ)が倒れていた。


「おい」


 這うようにして近づき肩を揺すると、小さなうめき声をあげて土岐司が顔をあげた。 


「う……風見? ここは」

「さあ。僕が聞きたいくらいだね。冴えた僕の推理によると、嵐谷(あらしだに)高校の図書室――的なところ、だろうと思うけど」

「……的な?」

「僕らの嵐谷高校に戻って来たのか、まだあの『変な世界』にいるのか、判断がつかないってこと」


 風見の言うことが分からず、土岐司は、床に手を突いて身を起こし、まだおぼろげな頭をかしげる。


 周囲を見てみると、なるほど見覚えのある部屋だ。

 本棚のレイアウトも、カウンターの位置にも見覚えがある。


 床や天井も石造りなどではない。

 ここは嵐谷高校の図書室であることは間違いない。だが、たしかに強い違和感がある。


「……夕陽?」


 土岐司はつぶやいた。

 そう、十一月の夕陽が窓から差し込んでいる――


 ただし、東西両側(、、、、)の窓から。


 嵐谷高校の図書室は、校舎の四階にあり、南側に向いた入口がひとつで、入ると左右に壁に窓がある。つまり、東側と西側に。


 いま、その両方の窓から西日(、、)が、均等の強さで室内に陰影をつくっているのだ。


 だから影は一方向には伸びていない。まるで左右からスポットライトを受けた舞台上に放り出されたような、おぼつかない気分だ。


「まだ、あの続きなのか……」

「今度こそ答えてもらうぜ」


 風見が言った。土岐司はよろよろと立ち上がりながら、

 

「なんのことだ」

「あの『異世界』は誰のしわざなんだ? おまえじゃないとすれば――」

「…………」


 土岐司は口をつぐんだ。


「まただんまりかよ。……いいよ、僕は美山を探しにいく」

「――美山。B組の美山さんか」

「ああ、僕と一緒にあれに巻き込まれたんだよ。で、魔王城ではぐれた。あの廊下がうねうねするやつ、本当におまえがやったんじゃないのか?」

「……違う」


 土岐司は断言した。


「あのとき、あの世界はもう僕の制御下を離れていた。いや、もっと早くから僕は、あの世界の『主人』ではなかった」

「おまえも巻き込まれただけ、なのか?」

「それは……分からない」

「なんだそりゃ」


 呆れたように肩をすくめて、風見は図書室を出て行こうとする。


「待て、何が起こっているのか分からないんだぞ!?」


 やはり彼には躊躇(ちゅうちょ)や熟考という概念はないようだ。

 仕方なく土岐司は風見の背を追う。


 こうなったのが自分の――そして『彼』のせいであるならば、放ってはおけないと考えたからだ。


 図書室を出るとまっすぐに廊下が延びている。

 左側には移動教室用の部屋が三つ続きで並んでいて、西側に窓があり、そこから正しく(、、、)西日が注いでおり、リノリウムの床を赤く塗らしている。


 と。

 ひたひたと、小さい足音が近づいてきた。

 小さなシルエット。

 人間ではない。

 あれは――


「い、犬……?」


 校舎四階の廊下に、犬が歩いていた。

 そして、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


「あれは……例の『挑む犬』か?」


 土岐司が困惑しているあいだにも、風見は何の気負いもなく、ひょいと片手を挙げて、


「よう、天川」


 と言って近寄っていく。


「なんなんだよこれ。これが最後の、七つ目の七不思議なのか?」


 生徒会臨時顧問の天川銀牙(てんかわ・ぎんが)が、第一の七不思議『挑む犬』と知っているのは、生徒会の中でも風見を含む一部の生徒だけだ。


 犬の姿に気軽に声をかける風見に、土岐司が動揺したのもやむを得ないことだったが、多くの『不思議』の話を聞き、先ほどまで自身も巻き込まれていた生徒会副会長は、ようやくその事実に気づいた。


 たしかにおかしな時期に、それも教育実習生が生徒会の顧問に()くものだといぶかしがってはいたが――。


「で、僕、美山を探してるんだけど。あいつの匂いとかたどれないかな?」


 風見の問いかけに、しかし犬は答えない。反応すら見せない。


 ――何かがおかしい。

 そう感じた次の瞬間、土岐司は叫んでいた。


「風見! よけろ!」


 風見の背中に飛びかかり、廊下の脇に彼を押し倒した。


「って! なにすんだよ――」


 非難の声をあげる風見と土岐司の頭上を、狂犬の爪がかすめていった。


「な……!?」


 充分に近づいたところで、挑む犬は敵意を剥き出しにし、風見の顔面めがけて飛びついてきたのだ。


 猛犬は振り向き、低くうなってこちらを睨んだ。

 風見と土岐司が身構えたとき、


「だあぁあああっ――!」


 階段から駆け上がってきた影があった。その男子生徒は、飛びかかってきた犬の横腹を蹴り飛ばす。容赦のない、体重をたっぷりのせた跳び蹴りだ。


「な……、空良(そら)!?」

「風見先輩、土岐司副会長、こっちです!」


 男子生徒は――生徒会書記の天馬空良は、そう叫ぶと反転して、階段を駆け下りていく。


 混乱しながらも二人は後輩につづいて階下を目指す。


「おい、どこに――」


 風見が言ったとき、空良は目的地である職員室に飛び込んだ。


「早く!」


 三人で駆け込み、ドアを閉めたところで挑む犬が追いついてきた。

 ドアに体当たりを試みるが、やがて諦めたのかドアの向こうの気配が遠ざかっていく……。


「いやホント、何なんだよ……」

  

 ぼやきながら風見が振り向く。


「あ」


 職員室には数名の見知った顔がそろっていた。


 数名――

 生徒会顧問の天川銀牙。

 生徒会副会長で三年生の神宮院玲奈(じんぐういん・れな)

 日本史教諭の花木(はなき)

 クラスメイトの蕨野雪絵(わらびの・ゆきえ)


 そして……


「美山!」


 異世界ではぐれた美山陽(みやま・ひなた)の姿もあった。

 村娘の格好ではなく、見慣れた制服姿だ。


「風見、アンタも無事だったのね――って、ちょっと!?」


 風見は美山に駆けより、きつく抱きしめた。


「え? ええっ!? なに、風見……!?」

「良かった……無事で良かった……」

「う……」


 風見の腕のなかで抵抗を見せていた美山だったが、彼の逼迫(ひっぱく)した声色に気圧(けお)されて、困惑したままなされるがままになっている。


「そ、そんな、大げさよ……」


 衆人環視(しゅうじんかんし)のなかで狼狽する美山は、しかし少しだけ照れたように目を泳がせる。


「…………」

「………………」


 ――いや、長くない? 感動の抱擁(ほうよう)、ちょっと長すぎじゃない?


 と美山は思った。

 あの無茶苦茶な世界から互いに帰還できて、再開を喜ぶ気持ちも分からないではないが、しかしあの風見爽介にしてはあまりにしおらしい……。


 ぎゅう、っと抱きしめられている……。


「ね、ねえ風見?」

「……黙ってろ。お前がちゃんと生きてるか確認してるんだ」

「い、生きてる、って?」


 風見はさらに腕に力を込める。ハグなので、無論体は密着している。肩を抱きしめられ、胸と胸を密着させて――


「僕は今おまえの心音を確かめてるんだ。だから黙ってろ。うん、なかなか伝わってこないな。胸部用の下着が僕らの邪魔してるに違いない。ほら、もっと僕に身をゆだねろ。リラックスして、そう目を閉じて。いいか、1、2の3でブラのホックを外してやるから大きく息を吐いて胸を差し出すんだぞって痛ててててて!」


 美山は風見の足を思いっきり踏んづけて、


「このっ、セクハラ魔王!!」


 膝で股間を蹴り上げた。


「んぐっ??!!」


 くぐもった悲鳴とともに変態が床に転がる。


「死ねぇっ!」


 近くにあったパイプ椅子で風見を殴りつけるが、その場にいた誰も――

 同級生も、先輩も、後輩も、あまつさえ教師陣ですら美山のことを止めようとはしなかった。

 クラスメイトの蕨野でさえ「よかった、二人ともいつも通りだね」なんて、しんみりほほ笑むだけであったのだった。

  

(第71話 風使いと「学校」【七不思議編】(1)終わり)

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