第70話 風使いと『異世界』【七不思議編】(8)
短めの1話ですが、本日は3話まとめての更新です。(1/3話)
彼は窓のほうを向いていた。
生徒会室にただ一人、彼はたたずんでいた。
黒いマントのその背中に声をかける。
「つーか、もっとゴテゴテした部屋かと思ってたんだけどな」
王の部屋――生徒会室は、風見の見知っている『本物』と、なんら変わりない内装をしていた。
ただ、土岐司が見ている窓の向こうには黒々とした闇が広がっている。わずかにその様子と『魔王』の姿をしている彼だけが普段とは違う。
「何がしたいんだよ、土岐司」
「風見――」
振り向いた彼は、どことなく浮かない顔だった。黒い甲冑に黒いマントを羽織った生徒会副会長。
「あー、コスプレがしかたったとか、そういう感じなわけ?」
「…………」
「それにしちゃあ大がかりだよな」
「…………」
「――美山は?」
訊くと、土岐司は片方の眉をぴくりと動かした。風見は詰め寄る。
「無事なんだろうな?」
「――僕には彼女に危害を加えるつもりなど、ない」
「ふうん、『僕には』ねぇ……」
「これは僕のしわざではない」
「言い訳か?」
「いや……」
どうにも歯切れが悪かった。
言い訳めいているのはたしかだが、それだけではない、別の何かを隠している――いや、かばっているような空気が、魔王姿の土岐司からは漂ってくる。
事実、風見を前にしても、土岐司には学校で見せるほどの敵愾心は見せていない。
今は、美山の身を案じ、戦闘態勢にある風見のほうが殺気立っている。
かばう――誰を?
土岐司が遠慮する相手とは?
七不思議の関係者で、そして――
「まさか」
風見がひとつの仮説に行き着いたとき――
チャイムが鳴った。
ガンガンと頭にひびく大音量。
校舎が歪む。生徒会室が歪む。
「ぐっ……!?」
「風見!」
崩れる床に足を取られている風見に土岐司が右手を伸ばした。とっさにその手を取った瞬間、風見の身体はぐにゃりとねじ曲がった。
風見だけではない。
土岐司の身体もねじれて歪み、
「なっ、あああっ――!?」「ぐ、ううっ……!」
激しいめまいとともに、二人して歪みの渦に呑み込まれていった。
(第70話 風使いと『異世界』【七不思議編】(8)終わり)
(『異世界』編 了)




