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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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第68話 風使いと『異世界』【七不思議編】(6)

 眼下を山肌が流れていく。

 風使いとしての能力を駆使して、風見は山頂を目指す。


「な、なんなのコレ……」


 お姫様だっこの腕の中で、美山陽(、、、)が暴れる。


「離せ! 離しなさいよ」

「……落ちるぞ?」


 現在、高速飛行中なのである。

 ほとんど樹木の生えていない地面に生身で落下してはひとたまりもないだろう。


「う、うう……じゃあせめて左手! 横乳さわるな!」

「おっとゴメンゴメン、わざとなんだ」

「わざとじゃん!」


 カスパルたちは置いてきた。

 山頂で待つ魔王リバイスバールに会うべきは、きっと彼らではなく、風見と美山だからだ。


「どうやって空を……なんであんたが魔法使えるのよ?」

「細かいことはいいだろ」

「細かくないし!」

「じゃあ小さいことだ。そんなことより、お前は『村娘』なのか、『女子高生』なのか――今ってどんな認識なんだよ」

「え、それは」


 美山は言い詰まる。


「わ、分かんない。私は確かにあの村で生まれ育って、でも、そうじゃなくて私は嵐谷高校の二年生で……」

「記憶が混在してる?」

「……うん、そんな感じかも。気持ち悪い」

「そっか――」

「風見に抱かれてるから、気持ち悪さは更に50倍」

「落とすぞコラ」


 村娘の『ヒナタ』――

 同級生の『美山陽』――

 そのどちらでもあるという彼女。


「どこまで思い出せる?」

「へ?」

「僕は下校中だったんだ」


 風見は自身の記憶を語る。

 下級生の国府村凜こうむら・りんとともに第5の七不思議『化学室のポルターガイスト』を解決し、下校途中にトラックに衝突した、という話だ。


「あ!」


 思い出したように――というか、明確にいま思い出したのだろうが――美山が眉を吊り上げる。


「風見! やっぱクラスの準備忘れてたんでしょ!」

「はい?」

「文化祭の準備! 放課後にみんなで集まるって話だったでしょ」

「そう、だっけ?」


 そういえば、そんな話を前日に聞いた気もする。

 だが国府村に七不思議の話を持ちかけられて右往左往しているうちに、すっかり頭から飛んでいた。


『こびと』を退治したことを那名崎ななさき会長に報告し、そのあとはクラスのことなど考えもせずに帰路に就いた。


「あー、悪い。すっかり忘れてた」

「勘弁してよね。おかげで雪絵と私で……」


 そこで美山ははっとなる。


「雪絵……! 雪絵は大丈夫かな!? あの村に残してきて――」


 この『ヒナタ』が『美山陽』であるなら、村で会った『ユキエ』は、ほぼ間違いなくクラスメイトで美山の親友である『蕨野雪絵わらびの・ゆきえ』本人だ。


 美山とは違い、至って平凡で善良な女子である蕨野は、この物騒な世界で一人で生きていけるとは思えないが――


「まあでも、僕らが悪魔と魔王の注意を引きつけてるわけだし。今から戻るにしても、何日かかるか分からないし。ともかく今は魔王のところへ向かうしかないだろ」

「……うん、それはそうだけど」


 そう言いながらも、美山は心配の色を濃くする。


「魔王リバイスバール……ってさ、『トキツカサ』って名乗ったんだよね?」

「だよな」

「あの『土岐司』くん? 同級生で堅物の――」

「生徒会副会長だ」

「生徒会、か……」

「なんだ? なにか気になるのか?」

「いや、別に――」


 言いよどむ美山。

 彼女自身、なにが引っかかっているのか分からない、といったふうだ。


「ま、とにかく本人に会ってみないとな」


 風見は着地する。


「――さあお待ちかね、魔王城だ」


 岩山のいただきにそれはあった。

 灰色の巨大な城――魔王の居城。


 その目の前で風見たちは足を止めて顔を見合わせる。


 門番はいない。

 彼らを阻むものはない。


 だが――


「これって……」


『門』そのものの異様に、二人の足は止まった。


「僕、これに見覚えがあるんだけど」

「そうね……」


 石造りの巨城には似つかわしくない門扉。

 いや、扉というべきかは怪しい。それは左右に開閉させられる金属製の柵。その気になればよじ登って上から越えることも出来るだろう。


 日常的に(、、、、)風見たちが目にする構造物。

 しかし彼らの登下校時にそれは開きっぱなしになっているので、こうして閉じている姿はやや新鮮ではある。


 そう――

 魔王城への侵入を拒絶するその門は、嵐谷高校の校門(、、)と瓜二つだった。



 ■ ■ ■


 身構えた風見たちを迎えるものはなかった。

 罠もなく、悪魔もおらず、人の気配すらない。


 校門めいた門をくぐり城の内部へ。

 だだっ広いエントランスへと足を踏み入れる。


 壁では燭台に頼りない火がともされ、はるか高い天井からは仰々しいシャンデリアがぶら下がり、広大な空間をぼんやりと照らしている。


 しんとした空気が満たす空間。

 香のにおいこそしないものの、寺院の堂で感じるような、静謐せいひつで、どこか不安になる気配が漂っている。


「…………」

「…………」


 だが、二人をもっとも不安にさせるのは、巨城の威容さではなく、その内装の異様さのほうであった。


「は、あはは、意味わかんない――」


 美山から乾いた笑い声が漏れる。


「なにこれ」

「……学校、だよな」


 外観は、中世風の城郭をしていた。それは間違いない。だが内側は、見慣れた建材と、見慣れた景色を備えていた。


 ひとことで言うなら『ちぐはぐ』だ。

 床の素材も、壁も、現代風の――高校でよく見る床や壁の材質で造られてある。


 向こうに見える部屋の扉はスライド式で、まるで教室のドアだ。

 ご丁寧に『1-A』などの表札すらあった。


 部屋や階段の配置は西洋風の城を彷彿とさせるもので、しかしそれでいて細部は校舎そのもので構成されている。だというのに所々に燭台が埋め込まれていたりと――まさにちぐはぐ(、、、、)であり、つぎはぎ(、、、、)だらけである。


 風見の隣で、美山は額に手を添えて青ざめる。


 気分だって悪くなるだろう。

 こんな、日常と非日常のパッチワークを見せつけられてしまっては。


「……ま、でも土岐司本人だってことはこれで確定かな」


『こちらの世界』の人間がいくら想像力を働かせたところで――風見たちにとっての――現代的な校舎の内装を再現できるとは思えない。


 これを想像し、創造することができるとするなら、それは風見たちと『同じ世界』の人間でなくてはならない。この不思議を創造できるのは――。


「あ」


 唐突に美山が声をあげる。


「思い出した」

「――なにを?」

「私、荷物を運んでた」

「荷物? 文化祭のか?」

「そう、雪絵と一緒に。荷物、っていうかゴミだけど。ゴミを捨てに行こうとして、両手で抱えて――そこに花木先生が通りかかったの。それで手伝ってくれて」

「花木先生、か」


 風見は『聖王様』の顔を思い出していた。

 おそらく美山も同じだろう。


「それで、二階の渡り廊下を歩いてて。向こうのほうに、誰かが立ってた」

「土岐司か?」

「……分かんない。二人ともむこう向いてたし」

「二人?」

「うん。男子が二人。あの後ろ姿は――見たことあるような、ないような」

「はっきりしないな」

「――その光景ははっきり思い出したの。間違いない。でも、その」


 美山にしては珍しく、自信なさげに口ごもる。


「誰だろう――あれ」

「おまえ大丈夫か? 唇まで青いぞ。ちょっと休憩して――」


 言いかけたそのときだった。


 チャイムが鳴った。


 複数の方向から、同時に。

 聞き慣れたはずのチャイム。しかし、その音にはノイズが混ざっている。それが別々の方向から、わずかにタイミングがずれて聞こえてくるため、何とも言えない不協和音を奏でていた。


「なに、なんでチャイムが……」

「音が、大きくなっていく?」


 不穏な鐘の音は、まるで二人を包囲するかのように鳴り響く。

 

 次の瞬間、がこんと床に亀裂が入った。分割された床が、それぞれ上下に、左右に動く。ズレていく。


 異変はそれだけに留まらない。


 床のすき間から壁が生えて(、、、)、天井まで伸びていく。不規則な動きで異変は続き、その激しさに二人は対応できない。


「や、ちょっとっ……!」

「美山!」


 傾いた床に足を取られ、美山が転倒する。


『風』で彼女を引き寄せようとしたが、壁に阻まれ失敗に終わる。


「か、風見――あれは、あのとき見たのは……!」

「――――っ!?」


 何かを伝えようとした美山の叫び声は、壁の向こう側へと消えていった。



(第68話 風使いと『異世界』【七不思議編】(6)終わり)

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