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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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第55話 風使いと「マッチ」(1)【七不思議編】

 国府村凛こうむら・りんは悩んでいた。

 地味な自分に――ではなく、『なぜ生徒会の役員を務めているのか』ということに。


 いまの境遇に不満はない。生徒会のメンバーは善良な人々ばかりだし、見習うべき部分も大いにある。会長の那名崎ななさきがいれてくれる紅茶を、皆ですすりながら過ごす時間は楽しみですらある。


 しかしそもそも、どうして役員に立候補したのか、いまとなってはハッキリしない。那名崎の人柄に惹かれた、というのがいちばんもっともらしい動機ではあるが、本当にそれだけだったろうか?


 国府村には薬剤師になるという夢がある。けれど、進学校のピリピリとした空気よりも、嵐谷あらしだに高校ののんびりした雰囲気に身を置くことを好んだ。夢を叶えるための勉強は、放課後に自宅でしっかりとやる。それでいいと思ったし、実際、生徒会に所属する現在も、そうした努力は怠っていない。


 ただ、生徒会の業務で自分の時間が削られていることは事実だ。昼休みにしても、クラスメイトで中学からの友人である虎走こばしあぶみの誘いを断って、生徒会室で昼食をとることもしばしばだ。


 そうまでして生徒会室へ通う理由はなんだったろうか――


 明確な答えが出ないことに漠然とした不安を抱きながら、国府村は、休み時間の廊下を歩いていた。


 目的地は二年B組である。


 ■ ■ ■


 風見爽介かざみ・そうすけが、クラスメイトと本日発売のマンガ雑誌のグラビアページをためつすがめつしていたところ、教室の入り口に見知った後輩があらわれた。


「風見さん」


 目が合うと、その後輩――生徒会書記の国府村凛が、そこに立ったまま彼の名を呼んだ。


 どことなく無気力そうな顔。黒髪おかっぱ、なで肩、スカートは膝丈。以前、彼女の友人である虎走が、そのルックスと性格を評して『火の付かないマッチ棒』と言っていた。国府村本人も立ち会った場での発言だったが――彼女は、さして気にしたふうもなかった。それくらいは許してしまえるような間柄らしい。


「おっす、国府村。どうした? ――ん、その紙袋」


 彼女は小さな袋を手に提げていた。


「お、もしかしてハロウィンか? トリック・オア・トリートか? よしわかった。先輩がイタズラしてあげよう」

「違いますけど……冗談は顔だけにしてください」

「きつっ! ツッコミがきつすぎる……!」

「ウィットに富んだジョークです」

「悪意に満ちた誹謗ひぼうだよ、それ」


 大人しい後輩からの思わぬ反撃に戸惑いながら、


「お前、そんな毒舌だっけ?」

「いえ。これはあっちゃんから――えっと、あぶみからのアドバイスなんですけど」

「あいつ……」

「まあ正確には――


風見先輩は、女子と見ればまずセクハラだろうから、『先輩の存在って冗談みたいですよね』って言うといいんじゃないかな!


――というアドバイスだったんですけど。さすがにアイデンティティそのものを否定するような発言は、やめておいたほうが無難かなと思って。それほど親しい間柄でもありませんし。それでベタですけど、顔から入ってみました」

「それはお気遣いどうも……」


 風見は肩を落とした。


「お前と虎走って、よく友達付き合いが成り立つよな」

「というと?」

「性格ずいぶん違うし。あいつはあんな感じでアクセル全開だし、お前はなんつーか常識人っつーか、ニュートラルっつーか」

「あぶみは――あっちゃんは、意外と常識的ですよ。風見さんが絡むと暴走しちゃいますけど」


 ふうん、と風見はいぶかしげに眉をひそめた。国府村は小首をかしげて、


「まあ確かに、周りが見えなくなっちゃうことも多いですけど。でも特に、お二人が揃うと化学反応というか……色々と悪化しますよね。そういうあっちゃんを見てるのも楽しいです」

「そんなもんかね」

「それに、違うタイプのほうが友人になりやすい、というのもあると思います。自分に持ってないものを持っている人には自然と惹かれるんじゃないですかね」

「……二人とも、『持たざる者』なのにな」

「? なんですか、それは?」


 風見はすっと視線を下げて、


「うーん、きわどいけど……なんとかBだな、国府村。虎走には勝ってる」

「さて先輩、本題なんですけれど――」

「スルーした!」


 大げさなリアクションでおののく風見をよそに、国府村は、


「次の七不思議ですが」

「お、おう」

「化学室のポルターガイストって知ってますか?」

「授業中にフラスコが勝手に動くとか、どこからかうめき声が聞こえてくるとか……ま、定番っちゃあ定番の怪談だよな」

「ええ」


 彼女は、紙袋に手を突っ込みながら言った。


神宮院じんぐういん副会長の采配で、その七不思議を任されたんですけど――」

「いいぜ。僕も一緒に行ってやるよ。女子ひとりで相手にするには、ちょっとヤバそうな話だもんな。今日の放課後でいいか?」

「あ、結構です」


 にべもなく言って、国府村は袋の中からガラス瓶を取りだした。


「もう、捕まえましたから」


 風見の鼻先にそれを掲げてみせた。


「ん――?」


 中には、『こびと』が入っていた。



(第55話 風使いと「マッチ」(1)【七不思議編】終わり)

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