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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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《番外編》年末だョ! 全員集合!(2)

 ★4 深く静かに戦闘せよ


「はい、あーーーん。うふふ、美味しい?」

「…………」


 昼休み、中庭でのこと。ベンチに二人並んで弁当の時間だ。


「その玉子焼き、自信作なんだー。あなたのことを想って、一生懸命つくったんだよ! きゃはっ☆」

「…………。あの、爽介くん」


 はしゃぐ僕――風見爽介に、天馬が眉をひそめる。天馬美津姫。透明感のかたまりのような、僕の天使だ。そんな天馬が怪訝そうな顔で、


「それって、私の台詞じゃない?」

「ん? 大丈夫大丈夫。文字だけ見てると、どうせどっちの発言か判断つかねえし」

「……ちょっと、なに言ってるか分からない。それに私って、そんなバカっぽい感じに見えてるのかな……」


 と。

 珍しく、僕は天馬をからかってみる。そんな平和な、よく晴れた秋の日だった。僕らが昼休みを過ごすこの中庭には円形の噴水があって、その中央に女神像が立っている。


『彼女』――女神像の『えり』は、頭にピンクのカチューシャを乗っけている。こんな石像は、他の高校にはなかなかないだろう。


 そこへ、三年の神宮院じんぐういん先輩がやってきた。金髪縦ロールの、生真面目な生徒会副会長だ。


 中庭の隅から台座つきの脚立を持ってきて、えりのカチューシャを交換する。


 ある事件以降、学校中の女子生徒が女神像によじ登ろうとして危険なもんだから、噴水をまたぐくらいに長い台座付きの脚立が、中庭に常置されることになった。『えり』の対応については、今では当番表も作成されているらしく、その取りまとめは当然のように神宮院先輩だった。


 よどみない手つきでカチューシャの交換を終えた神宮院先輩は、僕に気づくと、


「あら、風見くん」


 特に用事があるわけでもないらしいが、挨拶を交わすためだけに近づいてきてくれた。僕に好感を持っているふうはないのに、律儀な人だ。天馬とも軽く言葉を交わして彼女は、


「風見くんにも、まともなお友達がいらっしゃるのね」

「…………僕を何だと思ってるんですか」


 皮肉っぽく――ではなく、本心からの言葉らしかった。傷つくぞコラ。二人は初対面らしいが、天馬の弟である空良そらの話題などで盛り上がっていた。


「先輩もゆっくりしていきませんか?」


 天馬が言った。神宮院先輩はすこし首をかたむけて、


「いいんですの? その……お邪魔じゃないかしら?」


 僕らの顔を見て言う。


「いえ、どうぞ」


 天馬はやけに明るい笑顔で応じつつ、僕のほうへと、すりすりと身を寄せてくる。


「おい、待てよ天馬。こんな明るいうちから……イチャつくのは暗くなってからにしようぜ」

「……えっと、ただ単に詰めて欲しいだけなんだけど」


 微妙に天馬が冷たい。さっきのことをまだ根に持っているのだろうか。僕は軽く腰を浮かせて右へとずれる。天馬の向こう側に神宮院先輩が腰を下ろした。


「つーか先輩、今日、チカ姉ちゃんは?」

「ああ、佐々川(ささがわ)さんでしたら図書館に」

「いつも一緒ってわけじゃないんすね」

「当たり前よ。……私って、そんなイメージなのかしら」


 先輩が苦笑いを浮かべる。


「いっつも手を繋いでそうなイメージっすね。ラブラブな感じに」

「なっ、ち、違いますわよ!」


 あたふたと両手を振り回す。ちょっと可愛い。僕らに挟まれた天馬は、「あら^~」(誤字にあらず)とか、「キマシタワー」だのと呟いている。なんだ天馬、そっちの素養もあるのか。


 ただしそのあと、僕と先輩が話そうとすると、途中でインターセプトされることが多くなった。会話のキャッチボールに、必ず天馬が中継に入る。なんというか、先輩との間に、絶対に越えられない壁がある感じ。


 なんだこれ?


「…………。美津姫さんって、やっぱりそう(、、)なんですのね」


 ふいに先輩が、訳知り顔で笑った。


「ご安心くださいな。このように持って回った宣戦布告などしなくても、横槍なんて入れませんから。彼には興味ありませんし」


 先輩は肩をすくめる。


「まあでも……もしも私がその気になったなら、その程度の壁なんて、あっさり突破するでしょうけどね」

「ふふ。怖いですね」


 柔らかく微笑む天馬。しかし、なぜか僕の背中には冷たい汗がつーっと垂れる。え、なに? 一体なにが行われてんの? 


「いいですわね。あなたみたいに真っ直ぐな人、私は好きよ」

「やっぱり先輩って、そっちなんですか?」

「あら、言うじゃありませんか。いいでしょう、その気になったら、二人まとめて頂いて差し上げますわ」


 …………?

 僕にはよく分からない空中戦が繰り広げられている。


 そのあと、二、三言しゃべったあと、先輩は笑顔で去っていった。


「…………なんだったんだ? 今のって」


 僕がたずねると天馬は、


「縄張り争いって大事なの。女の子にとっては、特に」

「ふうん?」


 やっぱよく分かんねえや。

 ま、別に僕には関係ない話なんだろうし。


「私って、浮気は別に、許しちゃうと思うんだ」


 天馬はぽつりと言う。


「でも、私のもとに帰って来なかったら、殺しに行くタイプだと思うの。うん」


 なにかに対して、勝手にひとりで納得していた。急に冷たい風が吹いて、冬が近づいていることを知らせた。


「うおっ、寒っ。天馬、そろそろ行こうぜ」

「うん」


 二人して校舎へと戻る。天馬が肩をすりすりと寄せてきた。


「なに? もっと右を歩けって?」

「んーん。マーキング」


 天馬は天使みたいな笑顔で言う。

 …………よく分かんねえな、女心って。



 ★5 天敵てきめん


美鳥みどりさん! お久しぶりです」


 佐々川千花(ささがわ・ちか)――チカ姉ちゃんは、我が家のリビングで、朗らかな笑顔とともに敬礼の姿勢をとった。黒髪のふたつおさげ。運動部だというのに真っ白な肌に、華奢な体格の、黙っていれば美少女な先輩だ。


「あれ、チカ? どうしたの?」


 ソファの定位置で美鳥姉さんは怪訝な顔をする。


 僕ら姉弟とチカ姉ちゃんとは幼なじみだ。そして、この二人はソフトボール部の先輩後輩でもあった。美鳥姉さんが大学に進学して以来、あまり会うことはなかったらしいので、今日は久しぶりの再会ということになる。


「そーちゃんのお手伝い。家庭教師としてお邪魔しました」

「は? どういうこと? 爽介、説明しろ」


 刺すような視線を受けて、僕も敬礼のポーズ。


「はっ! 定期テストが近く、僕が軽く愚痴っていたら、チカ姉ちゃんが家庭教師を買って出てくれたのであります!」

「ふうん。迷惑かけんじゃないわよ? チカだって受験生なんだから」

「アイ・マム!」

「よし、行け」


 姉さんは手のひらを、しっしっと振って、僕を追い払うようにする。弟の扱いが雑すぎる。


 しかし、チカ姉ちゃんが、


「あ、リビングでやってもいいですか、勉強」


 言って、カーペットの上に座り込む。やたらと大きなボストンバッグから、教科書や参考書を取り出した。


「いやチカ、私はいまテレビを――」

「騒がないから大丈夫ですよ。それに美鳥さんって、どうせ適当に流し見してるだけじゃないですか」

「ああん? ケンカ売ってんの?」


 後輩に向かって、ヤクザの三下さんしたみたいなメンチを切る姉。それでもチカ姉ちゃんはまったく動じず、


「もう、駄目ですよ。シワが増えちゃいますよ? スマイルスマイル! にっこー☆ ほら、美鳥さんも一緒に!」

「や、やらないわよ! 殴るわよ!?」

「仕方ありませんね。……んっ」


 と、目を閉じて頬を差し出す。ついでに唇も尖らせているので、なんだかキス待ち顔みたいだった。


「本気で殴るわけないじゃない……! ふん、勝手にしなさいよ」


 なんと美鳥姉さんが折れた。すげえなチカ姉ちゃん。そうか、あれか。姉さんとチカ姉ちゃんって、僕と虎走こばしみたいなもんか。メインにしているコミュニケーションツールがまったく通じない関係性だ。


 姉さんの場合は脅しと暴力。

 僕はセクハラとボケ。ときどきツッコミ。


 ……ひでえ姉弟だな。


 ともかく、そのコミュニケーション方法を完全に相殺キャンセルしてしまう相手が、姉さんの場合はチカ姉ちゃんで、僕にとっては後輩の虎走なのだ。


「爽介もさっさと教科書広げなさい」


 姉さんの矛が僕に向いた。


「チカが教えてくれるっつってんでしょうが。さっさとしないとシャーペン握れない体にしてあげるわよ?」


 八つ当たりすんなや。


「は? なに? 口答え?」

「しません! してません!」


 僕はいそいそと正座し、テーブルについた。ソファの対面だ。美鳥姉さんに見下ろさせて、チカ姉ちゃんと隣り合う格好。絶対にサボれねえ。プレッシャー半端ねえ。


 そんな状況で、手取り足取りのお勉強が始まった――そのときだった。



 ★6 強弱のバランス


 玄関のチャイムが鳴った。姉の許可を得て出迎えると……なんとも不思議な取り合わせだった。


「よっす、爽介」

「やあ、爽介君」

「…………なんで?」


 僕は首をかしげた。一人は僕の幼なじみの沙南渡さなみ・わたる。もう一人は、美鳥姉さんの恋人の駒瀬こませさんだった。ちなみに、むかつくことにどっちもイケメンだ。


 声を聞きつけたのか、リビングから姉さんが顔を出して、


「なんで駒瀬くんが? あ……、わたぴょ――ワタルくんも」


 珍しく動揺した顔を見せた。なんだその、本命と浮気相手が同時に訪ねてきたときみたいな表情は。やめろ、お前とワタルはなんの関係もない。……ないはずだ。そうだよな?


 ついでにチカ姉ちゃんもひょっこり玄関に現れて、


「あ、わたぴょん! ひっさしぶり!」


 笑顔で手を振った。


「あれ? チカ姉ちゃん? ホントにひさしぶりじゃん。何でここに?」

「待て、ワタル。その前にお前のほうこそどうしたんだよ」

「ああ、借りてたゲーム返そうとフラッと家の前を通ったら、ばったり駒瀬さんと会って」

「お前らって知り合いなの?」

「いや。さっき初めて会った」


 その割に、二人はなんだか自然な感じだ。ちょっと顔も似てるから兄弟っぽい。……ん? 美鳥姉さんの趣味って、こういう顔か?


 その姉さんと言えば……


「こ、駒瀬くんも、ど、どどどどどどどうしたの?」


 ええー? なにその狼狽うろたえっぷり。初めて見るんだけど。


「ああ、僕はね」


 余裕たっぷりな感じで駒瀬さんは、


「なんだか、面白そうなことが起こりそうな気配がしたから、来ちゃったよ。みーちゃんに黙ってね」

「ちょ、駒瀬くん!?」


 姉さんが慌てて止めようとするが、


「「みーちゃん?」」


 ワタルとチカ姉ちゃんが、異口同音に疑問の声を上げる。うん、以前の僕と同じようなリアクションだ。姉さんは壊れたラジオみたいに意味不明な音声を発しながら、目をぐるぐるさせる。いい気味だ。


「で、チカ姉ちゃんはなんで?」


 ワタルがたずねる。


「うん、私はね――」


 彼女は、ぎゅっと僕の腕に抱きついて、


「そーちゃんのお嫁さんになろうと思って。今日から泊まりがけ」

「はい!?」


 これには僕が驚いた。


「いや、勉強を教えてもらうだけって――」

「ああ、あれは嘘」


 あっけらかんと言う。


「これを口実に家に上がり込んで、今晩のうちに既成事実を作ろうかなって。バッグには着替えもたっぷり。……そーちゃんって、意外と競争率高そうだから」


 ワタルは「おお」と感嘆の声を上げて、


「よかったじゃん爽介。優しくしてもらえよ」

「いやされねーし! つーか、しねーし!」

「え……そーちゃん、私のこと、嫌い?」


 突然、チカ姉ちゃんが涙目になる。


「そういうわけじゃ……ああほら、泣くなって!」

「うう、ぐす。……じゃあ、落ち着くまでそーちゃんの部屋に行ってもいい?」

「はい?」


 涙を拭う指の隙間から、チカ姉ちゃんは僕を見あげて、


「添い寝してくれれば、きっと落ち着くと思うんだ。あ、そーちゃんは眠ってていいよ。あとは私がするから」

「怖えって! 初体験くらいはちゃんと経験させてくれません!?」

「ん……仕方ないな。じゃあ行こ!」

「え?」


 悪魔の奸計かんけいにハメられた僕は、これからまさにハメさせられようと、腕を引っ張られて連行されそうになる。


「爽介、グッドラック!」

「うっせえワタル!」

「さあみーちゃん、僕らもみーちゃんの部屋に行こうか」

「え、ええええええ!?」

「ふんふんふん♪ そーちゃんのおっへやー」


 そんなふうに玄関で騒ぐ僕ら。

 ふいに、奥の部屋のドアが開いて、


「あなたたち!」


 母さんが現れた。


「うるさい! 人んの玄関で騒がない! 静かにしないと、ケツの穴から指つっこんで奥歯ガタガタ言わせて脳みそグルグルかき回すわよ!」


 夜勤明けの睡眠を邪魔された母は、鬼の形相だった。


 そのあと僕らは、風見家の廊下で三時間ほどバケツを持たされて、立たされた。


 それからしばらくの間、チカ姉ちゃんは「嫁に入りたい」などと言い出すことはなかった。母は偉大だ。



(つづく)

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