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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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《番外編》年末だョ! 全員集合!(1)

今年最後の『風使い』更新。1年の締めくくりにショートショート集でお届けします。まずは1本目。

★1 虎の威を借る虎


虎走こばしってスポブラか?」


 ウォーミングアップを終えた僕は、後輩の背中にそう問いかけた。


「はい?」


 陸上部の後輩――虎走あぶみが振り向いて、大きな目をぱちくりさせながら、


「なんですか、やぶからスティックに?」

「スティックってなんだ。何語だよそれ」

「偉大なコメディアンが開発した、開明的でファンタスティックな言語です」


 自慢げに鼻を鳴らす虎走。

 いや、別にお前は偉くもなんともねえよ?


「それよりも、いきなりどうしたんですか。もしかして目覚めちゃいました? いいスポブラ紹介しましょうか?」

「いらねえよ。僕は変態か」

「え、変態ですよ?」


 今度こそ本当に驚いたように目を見開く、Aカップの後輩女子――その胸は、練習前のグラウンドよりも真っ平らだ。


「ったく。豚に真珠。お前の胸にブラだな」

「もはやセクハラを超えて人権侵害ですね」


 マネージャーからドリンクを受け取って、彼女はぐびりと喉を鳴らす。


「風見変態――じゃなかった先輩って」

「わざとだろお前」

「……変態って、いつか絶対訴えられますよね」

「言い直し直すなや。先輩って言え」


 虎走はコップをマネージャーに返し、荷物置き場へと歩いていく。


「裁判になっても僕は勝つけどな。弁護士も真っ青のトークテクニックで法廷を黙らせてやるぜ」

「火あぶりにされながらですけど、大丈夫です?」

「魔女裁判!?」


 気分はあれだな、ジャンヌダルクだな。いや、物理的なシチュエーション以外は全然違うけれども。


「大体だな。昨今は敏感すぎるんだよ、言葉に対してさ。あげ足とりに必死っつーか。ちゃんとその裏にあるニュアンスも読み取ってもらいたいもんだぜ。ジョークと本気の違いくらい、各自で判断しろっての」

「でも先輩は本気でしょ」

「まあな」

「ダメじゃないですか」

「…………」


 法廷に上がる前に、後輩に打ち負かされる僕がいた。


「っていうか先輩の場合」


 スパイクに履き替えながら虎走が言う。


「相手方に証人が多すぎて、絶対的に不利ですよね」

「証人? どういう意味だ?」

「だってほら――」


 虎走は周りを見渡して――堂島や、眉をひそめる他の女子を順に見てから、


「先輩って、周りを気にせず話すじゃないですか。みんな、聞きたくなくても聞こえちゃうんですよ」

「…………なんと」


 僕、絶句。

 そして虎走は、満面の笑みで言う。


「だから先輩。もっとスポブラの話をしましょう」



★2 おしどり夫婦のツンデレ妻 


「アンタって、なんでいっつもそうなのよ!」


 勢いよく箸を置いて、美山陽みやま・ひなたが僕をにらむ。


「そりゃあ、いつだって僕は僕だ! 僕のアイデンティティは、いつでもどこでも、少しだって揺るぎはしないのさ!」

「そんな小難しい話はしてないっての! アンタが馬鹿だって話をしてるだけ」


 和やかなランチタイムに、ぎゃあぎゃあわめく女子がひとり。優雅じゃねえなあ。机を挟んで言い合う僕らをよそに、蕨野わらびのは、


「けんかするほど仲がいい、って感じだね」


 のんびりした声で言う。僕の隣では穂々乃木(ほほのぎ)が不気味な笑みとともに、


「ふ、ふふ……ラブラブだよね。おしどり夫婦だね、二人とも……でも、きっと夜は、余計に燃え上がっちゃって……え、えへへ」

「あのな穂々乃木」


 小さな頭にチョップをかましながら僕は、


「夫婦じゃねえし。カップルですらねえし。それに妄想するのは自由だけど、口には出すんじゃねえよ。メシが不味くなる」

「うーん、でもおしどり夫婦って微妙だよね」


 ワンテンポ遅れて蕨野が、


「おしどりのオスってイメージされるほど誠実じゃなくって、実はシーズンごとにメスを取っ替え引っ替えしてるらしいよ。そう考えると『おしどり夫婦』って言い回し、ちょっと趣深いよね」


 ほんわかした笑顔で怖いことを言う。


「うわ……、かざみん、さいてい」


 穂々乃木は苦い顔で、小刻みに首を振る。


「ただの濡れ衣だろそれ――って、痛っ!」


 美山が僕のすねを蹴っ飛ばしてきた。スリッパの先端で、えぐるように、理不尽に。


「なにすんだこのビッグサイズおっぱい!」

「うっさい。なんとなくよ、なんとなく!」


 言って、そっぽを向く美山。なぜか耳たぶが赤い。何を妄想しているのか、ぶつぶつと呟いている。


「ホント、なんだよお前――」


 意味がわからない。情緒不安定だな。いや、感情は変わらず『怒』のままか。高止まりして、そのまま真っ直ぐ安定している。


 穂々乃木が身を乗り出して、ごく小さい声で蕨野に話しかける。


(……ひなちゃんって、かわいいよね)

(でしょ? 勝手にトラップに引っかかって、ひとりでテンパっちゃうタイプなの)


 ひそひそ声で蕨野も応じ、二人して美山の横顔を見た。僕も一緒に視線を送る。


「な、なによ!?」


 気づいた美山が、振り返って戸惑う。


「「「じー…………」」」

「だからなんなの? みんな揃って!?」


 しどろもどろになって彼女は、


「うう……風見のバカぁ!」


 照れ隠しに僕を殴った。


「ひ、ひでえ……」


 床の上で痙攣する僕の耳に、穂々乃木と蕨野の声が聞こえた。


「犬猿の仲……って感じだね……かざみんと、ひなちゃん」

「夫婦げんかは犬も食わない――とも言うよ?」


 絶対にこいつとは結婚しない。

 僕は胸に誓った。



★3 てへぺろりすと


 僕は体育館裏に呼び出された。

 そこでは、二人の女子がジャージ姿で僕を待ち構えていた。


 ……片方を女子と呼んでいいのかはともかく。


「待ってたわよ、風見くん」


 その人――僕のクラス担任、高座山史華こうざやま・ふみか先生は、準備運動をしながらそう言った。


「へえ、逃げずによく来たじゃん」


 と言うのは平実花穂たいら・みかほ。二年D組所属。ショートカットで男勝りな生徒会役員だ。


「いや逃げるっつーか、なんなの、これ」


 そう。高座山先生から『空手の稽古に付き合ってほしい』と言われ、僕はここにいる。先生と平は、空手教室の兄弟弟子きょうだいでしの関係にあるらしく、学外では拳を交える仲だ。


 その練習台になぜ僕が選ばれたのかは永遠の謎だが――普段の鬱憤うっぷん晴らしではないと信じたい。


「ちょっと待っててね。すぐに準備終わるから」


 言って高座山先生は座りこみ、ストレッチを始めた。隣で平も従う。


 僕はストレッチが好きだ。嵐谷高校のストレッチマンといえば僕のことだ。


 だって考えてもみてほしい。女子が股を大きく開いて、自らの手で――ときには他人の手を借りて――その女体の限界に挑むべく、適度な刺激をある一部分に与え続け、あまつさえ、切なげな表情で苦悶の吐息を漏らすのだ。


 そんな甘美な光景を、腕を組んで見下ろす僕。なにこれ最高。いいぞ、もっとやれ! もっと苦しめ、もっと悶えろ! この奴隷どもめ!


「よし。こんなものか」


 高座山先生が立ち上がった。すらっとした長身の彼女は、僕の前に立つと視線が同じ位置にある。


「じゃあ始めようか。よろしくね」

「あっ、はい。僕のほうこそ、どうぞよろしくお願いします」


 支配者たる僕の返事は、とても従順なものになる。だって、もはや彼女はか弱い奴隷などではないのだ。たったいまクラスチェンジを果たし、屈強な女戦士になってしまった。下手したてに出ておいて損はないのだ。


「安心していいよ。ちゃんと寸止めするから」

「あ、そうなんすか?」

「当たり前でしょう。あくまで稽古だし、あなたは素人なんだから。教師と生徒でもあるし、暴力は駄目だからね」

「はあ……」


 振るわれたことあるけどな、暴力。


「まあ信じますよ。じゃあ最初はどんな――って、うおっ!」


 高座山先生が、予備動作もなしに強烈な回し蹴りを放った。

 とっさに上半身を反らす僕。その鼻先をスニーカーの先端が通過する。ちょうど、今の今まで僕のこめかみがあった位置だ。


「あら、避けられちゃった」

「避けられた――じゃないっすよ! 寸止め? どこが! 思いっきり振り抜いてるじゃないっすか!」

「殺す気でいかないと練習にならないのよ」

「殺意!? 暴力は駄目なのに?」


 ムチャクチャだ。


「先生、言ってることが矛盾してますよ!」

「矛盾か……。私……、数学教師だから難しい言葉はわかんないや。てへぺろ☆」


 いやいやいやいや!

 そんな可愛らしいポーズで舌を出されても! っていうか無理がある(年齢的に)!


 しかし彼女は、そんなてへぺろポーズから、さらに激しい蹴りと、目にも止まらぬ突きを繰りだしてくる。僕は必死でかわしながら、


「分からないわけないでしょう! 仮にも高校教師が!」

「そうね。確かに、書けるし読めるわ。でも……その本質的な意味はわからないのよ。あまりに遠大なテーマだから。人生って、矛盾そのものじゃない?」

「そーゆー意味じゃなくて! 普通に辞書引いて、辞書! もしくはググって!」


 していると、沈黙を保っていた平が腰を落として、


「風見!」


 僕へと突進し、鋭い蹴りを放つ。


「あたしは『矛盾』、書けないし読めねーし! 意味もよくわからない!」

「それはなんとなく納得!」


 サイドステップで跳び蹴りをかわす。


「はあ!? 超失礼だし! ぶっ殺す!」

「ほら殺すって言った! 寸止めじゃなくて、殺すって言った!」


 僕は二方向からの猛攻をいなす。手のひらに『風』を生み出し、蹴りの軌道を変え、突きを制圧して、ギリギリの戦闘をこなす。


「やるわね、風見くん! さすが私の弟子ね!」

「弟子じゃありませんけど!?」

「私の可愛い生徒よ!」

「可愛い生徒を殺さないで!」


 もはや僕の声は悲鳴に近かった。二人の殺人空手家による嵐のような乱打は、一撃一撃が必殺の威力を持っている。フェイントなどない。マジで殺す気だ。


「きょ、教育委員会に訴えますよ!?」

「それは駄目よ!」


 後ろ回し蹴りを放った高座山先生が告げる。


「仕方ないわね! 明日の教育界のためにも、今、あなたをここで葬るわ!」

「それこそ何か矛盾してません!?」

「じゃあ試してみようかしら!?」


 戦闘行動を止めないまま、高座山先生が言う。


「私の最強の(けり)で、あなたの(ほね)穿うがてるかどうかを――!」

「それは勘弁! って……」


 知ってんじゃん! 矛盾の意味!

 僕の悲鳴は、体育館裏の闇に吸い込まれていった。


(つづく)

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