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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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第47話 風使いと「噴水」(6)【七不思議編】

「ん……、ううん……?」


 神宮院が目を開けると、赤い空と友人の顔が見えた。どこかでカラスの鳴く声がする――。


「あ、玲奈ちゃんやっと起きた。お寝坊さんだなあ」

「……? 佐々川さん?」


 佐々川が神宮院のことを見下ろしている。後頭部には柔らかい感触があって、膝枕をされていることに気づいた。彼女の手が、神宮院の金色の髪をそっと撫でる。


「えへへ、おはようのチュー、してあげよっか?」

「い、いいい、要りませんわ!」


 神宮院が慌てて体を起こすと、


「――あだっ!?」

「んぎゃっ! も、もう、玲奈ちゃん、急に起きないでよお。冗談なのにぃ」


 佐々川が額をさすって涙目になる。


「す、すみませんわ……」


 神宮院も額に手を当てる。どうやらここは、中庭のベンチのようだった。


(……帰って来た、のでしょうか?)


 夢の中に居たような気分だ。ふわふわしたその感覚に、神宮院は酔ってしまいそうだった。しかし、悪夢の中では石になっていた友人も、こうして生身の人間に戻っている。……膝枕と頭突きの感触からも、それは間違いない。


「……ねえ、佐々川さん。その……、あれは、現実だったのでしょうか」


 神宮院は訊ねる。


「『あれ』? ああ、えりちゃんのこと? えりちゃんならほら、あっち」


 と、佐々川は隣のベンチを指差す。


「あっち?」


 神宮院が振り向くと、そこには風見と『えんきり女神』の姿があった。

 二人ともベンチに座っている――いや、風見はベンチに座っているのだが、女神像は風見の上に座っている。風見と向かい合う格好で、膝の上に(またが)り、腕は、彼の首に回されていた。


「えっと…………?」


 神宮院が戸惑っていると、風見が苦しそうな声を上げる。


「ふ、副会長……! た、助けて……」


 首だけこちらに向けて風見は、


「重いっ! 膝……、足の感覚がっ……!」


 抱き合うような姿勢なので、石像の重みが、風見の太ももから膝にかけ、すべて乗っかっている。彼の顔は苦しそうに歪んでいた。


「もう、そーちゃんったら。女の子に『重い』だなんて、失礼だよ。ねーっ、えり?」


 佐々川が笑って首を傾けると、女神像――えりも彼女の顔を見て、同じように顔を傾ける。……心が通じ合っているようだ。


「いやいや! あ、足が、死ぬっ!」


 風見の顔が更に面白いことになっている。ちなみに彼の手は、どこに置いていいか分からないのか、えりに触れてしまわないよう中途半端な位置でさまよっている。


「これは一体……、どんな状況ですの?」

「うーん、私もよく分からないんだけど――」


 佐々川が言うには、あの不思議な空間から脱出した後、神宮院は気絶したらしい。


「そーちゃんから聞いたんだけどね。私も『石化』? を解いてもらって、それで玲奈ちゃんの目が覚めるまで、よしよししてたの」

「よ、よしよし?」

「うん。玲奈ちゃんの寝顔、とっても可愛かったよ」

「――――っ!?」


 神宮院は口元を手で覆って、顔を赤くする。


「な、何を――! ……そ、それで、あちらは、何で……」


 もう一度風見たちを見る。あれは恋人同士の抱擁というより、ただの拷問だ。女神像に悪気はないのかもしれないが、風見の足が限界に達するのも、そう遠くない未来の話だろう。


「とにかく、女神像……えり、さん? 一度降りて差し上げたらいかがです? そのままでは風見くんの足、折れてしまいますわよ?」


 えりはしばらく考えていたようだったが、小さく頷くと、ゆっくりとした動作で彼の膝から腰を浮かし、立ち上がった。


「助かった……」


 風見はがっくりとうなだれる。

 えりは悪びれる様子もなく、無表情のまま神宮院のほうを見て、軽く首を傾げる。


「…………?」

「『これでいいの?』って()いてるみたいだよ」


 佐々川が解説する。


「え……、あ、ああ、なるほど。ええ、それでいいんですのよ、えりさん」


 神宮院がそう言うと、女神像は小刻みにうなずいた。喜んでいるようだ。神宮院はこめかみを指で擦りながら、頭の中で状況を整理する。


 どうやらあれら(、、、)の出来事は夢ではなかったようだ。あれこそが、七不思議。そして、女神像の説得には成功したようで、彼女はもう危害を加える気はないようだが……、これでいいのだろうか?


「あの、風見くん?」


 神宮院は訊ねる。


「これで解決、ということなのでしょうか?」

「えっと、僕にも分かりませんけど。まあでも、えりは分かってくれたみたいだし――」


 言いながら風見は、女神像のほうを見上げる。彼女は風見と視線を合わせると、大きくうなずいた。


「どうやらこいつも寂しかったみたいなんで。たまに中庭に来て話してあげればいいんじゃないっすかね」


 えりは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるが、その度に、ずしんずしんと地響きがする。彼女は風見の手を取り、もう一度膝に跨がろうと――


「いやおいお前! やっぱ分かってねえな!?」


 慌てて風見が立ち上がり、女神像から距離を取った。えりはしゅんと肩を落とした……ようだ。表情にも心なしか、変化がついたように見える。神宮院はそんな彼女の様子に小さく笑みを漏らして、


「まあ……、私たち、友達になったんですものね」


 立ち上がり、スカートの裾を払うと、えりに向かって右手を差し出した。


「改めてよろしくお願いしますわ、えりさん」


 女神像はぎこちなく、しかし確かに笑顔を浮かべた。


 ■ ■ ■


「ふっふっふ、ご苦労でしたね、皆さん」


 えりを元の噴水の位置に戻し、また明日、と別れを告げ、三人が中庭を後にしようとした――その時。行く手を阻むように土岐司(ときつかさ)が現れた。


「これで七不思議も四つ目。折り返し地点という訳ですが……」


 土岐司は三人の顔を見比べながら、


「……風見。君はやはり、どうにも女子にだらしないようだな? 先程も見ていたが、まさかあの化物まで籠絡(ろうらく)するとは――」

「見てたんなら手伝えよ」

 

 風見が言う。


「気が利かねえやつだなあ」

「な……、気が利かないだと!?」

「それからな、えりは化物じゃねーっつーの」


 風見は土岐司の横を通り抜けながら、彼の肩に手を置く。


「えりは女子だ、女子。……まあ、童貞の土岐司くんには、女子の扱いなんて分からないだろうけどさ?」

「な、なに!? お、お前だって童貞だろう!! ……って、あ」


 土岐司は引きつった笑みで神宮院と佐々川の顔を見る。


「い、いやその、何と言うか……」

「大丈夫だよ! 誰でもみんな初めは初めてなんだから! 恥ずかしくなんてないよ!」


 あっけらかんとした笑顔で佐々川は言う。


「……佐々川さん。フォローになってませんわよ」


 神宮院は首を振る。そして風見にならって、土岐司の肩に手を置き、小声で言う。


「土岐司副会長」

「ひゃ、ひゃいっ――!」

「今回、彼が行ったことは、また後日お伝えしますわ。ただ、あまり貴方の期待するような内容ではないかもしれませんが――」


 彼の横を通り過ぎながら、


「これからも監視は続けます。彼が要注意人物であるということに変わりはありませんから。……もちろん、えこひいきも、過剰に(おとし)めるようなこともしません。公平な目で彼を見定めて、私なりの答を出しますわ。それでは、また明日――」


 続いて佐々川も、

 

「じゃあね、ど……、えっと土岐司くんだっけ? バイバイ!」


 どうて――、もとい土岐司を一人残し、小走りに神宮院に並ぶ。


「ねえ玲奈ちゃん、明日の昼休みは、中庭でご飯食べようね」

「ええ。……えりさんと三人で、ですわね?」

「そのとーり!」


 やれやれ、と神宮院は肩をすくめるが、口元は笑っていた。


「ああ、それから――」


 佐々川が言葉を継ぐ。


「助けるよ」

「助ける? 何がですの?」


 聞き返すと、彼女の友人は神宮院の手を握り、満面の笑みで答えた。


「玲奈ちゃんがピンチのときだよ。どこかに連れ去られちゃって、危ない目に遭っちゃっても。私はすぐに駆けつけるよ」

「き、聞こえてましたの……!?」


 頬がぼうっと熱くなるのを感じた。神宮院は小さく呟いた。


「あ、ありがとうございますわ……」


 ■ ■ ■


 その後。『えんきり女神』の噂は嵐谷高校から消え去った。


 しかし代わりに、別の怪奇現象が目撃されるようになった。それはやはり中庭で、話題の中心もあの女神像だった。


 元々、人気のスポットだった中庭には、さらに人が増えた。昼休みや放課後にはベンチだけではなく、噴水の(ふち)に腰掛け、おしゃべりをする女子生徒の姿が目立つようになったのだ。不思議な事に、時折、女神像のほうを見上げて話し掛ける者もいた。


 女神像はいつの間にか『えり』という愛称が付けられ、生徒の間で広がっていった。


 またある時から、その女神像の髪の毛にはリボンが取り付けられていた。それもほとんど日替わりだ――ピンクだったり、水玉模様だったり。誰かのイタズラのようだったが、何故か注意を受けることなく、毎日彼女の髪を彩っている。


 それから、これが一番の『不思議』なのだが……彼女の表情はころころ変わる。笑顔だったり、むくれてみたり。ポーズも微妙に変わっていたりするのだが――寛容な嵐谷高校の生徒たちは、大して気にしなかった。


 特に女子は、スマホで彼女を撮影して教室に持ち帰り、こんな会話を交わすのだった――。


「今日の『えり』って、こんな顔してたよ」

「ああ、このリボン気に入らないんだね。次の休み時間にでも、違うのに付け替えてあげよっか」

「そーだね。何色がいいかなあ……」


 今日も女神は中庭で、にっこりと笑う。

 

 

(第47話 風使いと「噴水」(6)【七不思議編】 終わり)

(「噴水」編 了)


《あとがき》


「噴水」編、ラストまでお読み頂きありがとうございました。


 今回は……というか、毎度のことなんですけど、当初決めていた展開が、書きながら変わっていくことが多かったです。特に神宮院の身の振り方とか。彼女をどっぷりと書いたのは初めてだったので、作者自身がまだ人物像を掴めていなかったのかもしれませんね。


 女子同士の友情って、実際どうなんでしょうか。何だか、粘土みたいなイメージがあります。(悪い意味ではなく)粘っこいというか、触れ合う時の面積は広くてしっかり繋がるんだけど、切り離すとなったらスッパリと切れてしまう……でも、必要に応じて前と同じようにくっつく、変幻自在な粘土の友情。……うーん、男目線で見ると、捉えどころがなくてよく分かんないですね。


 さてさて、そんなこんなで、次回は男同士のお話。……こう書くと、一気に萎えますけども、女子も出ますよ、女子も。完全にコメディに吹っ切っていこうと思いますので、また来週もお付き合い頂ければうれしいです。


 それでは!


 

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