表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/96

第43話 風使いと「噴水」(2)【七不思議編】

【20分前】


神宮院じんぐういん先輩から呼び出しなんて……いやあ、参っちゃいましたね。やっぱり、愛の告白っすか?」

「『やっぱり』――なワケないでしょう! そんな色っぽい話ではないことくらい、言われなくても察してくださいな……」


 部活前の風見を捕まえて中庭に呼び出した神宮院は、彼の言葉にがっくりと肩を落とした。


「女心を察するのが男の器量ってもんでしょう。悪いっすけど、僕はハーレム系ラブコメの主人公みたいに鈍感じゃないんすよ。ここぞというチャンスはのがしませんからね」

「……のがのがさない以前に、貴方にチャンスなんて訪れるのかしら」

「ありありっすよ。フラグ立てまくり、乱立しまくりで、高騰こうとうしまくりのバブル景気っす。僕はそのフラグに、いつでも敏感でありたい」

「…………」


 軽い。

 なんと軽い男だろうか。

 風が吹いたら飛んでいってしまうんじゃないか……そのくらい、ノリと勢いだけで生きているように思えた。

 

 胸を張って熱弁する風見への怒りは呑み込んで、神宮院は本題を切り出した。


「貴方を呼び出したのは、当然ながら七不思議の件ですわ」


 土岐司ときつかさと交わした協定。

 それは、風見の致命的な欠陥を押さえ、会長に報告するというものだ。彼の提案を受けて、神宮院は早速、風見による七不思議の解明に付き添うことにした。


 土岐司と神宮院――二人の副会長が次に選んだ七不思議――それがこの女神像だった。


 灰色の石像はどこかなまめかしく、そして気高けだかい美しさをたたえていた。肩に掲げた水瓶みずがめから足下の池へと、絶えず水がこぼれ落ちている。

 

 神宮院は、女神像にまつわる七不思議について説明しようと口を開いた。

 と、


「あー、玲奈れなちゃんにそーちゃん! なになに? 二人してどうしたの?」


 脳天気な声とともに、渡り廊下の方から佐々川(ささがわ)が駆け寄ってきた。左右のおさげがリズミカルに揺れている。


「おやおや、もしかして愛の告白かな? 玲奈ちゃんも隅に置けないねぇ」


 どこまで本気なのかまったく読めない明るい表情で、佐々川は二人の顔を見比べる。


「……佐々川さん。悪いのですが、いま取り込み中ですの。大事な生徒会のお仕事です。出来れば、ご遠慮願いたいのですけど――」

「あ、じゃあ私も手伝うね。何すればいい? 噴水のお掃除? デッキブラシ借りて来ようか? うん、ぞうきんも要るね!」


 ぐいぐい来る。ぐいぐい来すぎて、風見すら引いている。


 佐々川は早速行動を起こそうと『ダッシュ!』のポーズを取るので、神宮院は腕を伸ばして彼女の後ろえりを掴んだ。


「結構です。ちゃんと説明しますから、話をややこしくしないでくださいな……」

「およよ?」


 頭痛の種がひとつ増えて、神宮院は深いため息をついた。


「……実は風見君には、我が校の七不思議を解明してもらっているのです。私はその見届人みとどけにん。今日、風見君に取り組んでもらう七不思議は――」


 神宮院は、やや声を固くして言った。

 

「その名は、『えんきり女神』」



【再び15分前】


 二階のベランダから、中庭を見下ろす影があった。

 副会長の土岐司だ。


 聞こえてくる会話から察するに、どうやら予定外のメンバーが加わったものの、おおむね打ち合わせの通りに事態は進んでいるようだった。

 その『想定外の一人』も女子であることから、風見にボロを出させるにはむしろ好都合とも思えた。


「神宮院副会長、よろしくお願いしますよ……」


 土岐司は小さくこぼした。

 どうやら神宮院は、公平な目で風見を見定めようというつもりらしい。


 敢えて風見をおとしめるようなことはしない――

 それが土岐司の提案に乗るに当たって、彼女が出してきた条件だった。


 その条件は、土岐司にとっては想定内だったし、むしろありがたい話だった。


 なぜなら。

 これまでの七不思議においては、天馬てんま空良(そら)も、たいら実花穂みかほも――風見に敵対心てきたいしんを持って接していた。


 強すぎる感情は、むしろそれが覆されたときに、正反対の方向へと走り出す。


 つまり、熱狂的なファンが、ある出来事をきっかけに強烈なアンチファンになる可能性が高いのと同じように――

 強い敵対心を持って臨んでしまうと、一度ひとたび風見にかれてしまえば、彼の熱心な信奉者しんぽうしゃになってしまう恐れがある。


 そんな風に土岐司は考えていたのだった。


 だからこそ、フェアであろうとする神宮院のスタンスは、彼にとっても望むところだったのだ。


「さて、どう出るかな、風見……」


 土岐司は鼻を鳴らし、三人の背中を眺めた。



 

【5分前】


「でも、なんでだろうね」


 佐々川が首をかしげる。


「池の中に引きずり込むのと、縁切りって、何の関係があるんだろ」

「物理的に縁を切る――ということなのでは? 引きずり込んで、外界との交渉を完全に遮断してしまえば、ありとあらゆる縁を切断できるでしょう」

「でもさ、普通は縁切りって、嫌な人との縁を切ってくれるんじゃないの? 全部ぶった切っちゃうなんて、それは乱暴だよ」

「それは……」

 

 答えにきゅうして、神宮院はうなった。

 しかし、それを解明することこそが任務タスクなのだ。そして、それは風見の役目なのである。


「では風見君、早速始めてくださいな」

「いやいや、そう言われても。僕、その『質問』っていうの、知らないんだけど」

「……七不思議の究明に当たっているのに、そのくらいリサーチしてないんですか?」

「僕はライブ感を大切にしてるんで。出たトコ勝負、当たって砕けろ――いや、当たっても砕けないのが僕なんです」

「よく、分かりませんわ……」


 神宮院は腕を組み、顔をしかめる。こめかみに青筋を浮かべ、いらだちを隠そうともせず、


「では、教えて差し上げますから、現場主義の風見君が実践してくださいな」


 そう言って、ポケットからスマートフォンを取り出し、質問の文面を打ち始める――それはもちろん、質問を口にすることで万が一、七不思議が発動してしまうのを防ぐためだ。


 そこに、佐々川が割って入った。


「じゃあ、私が質問してみるね」

「駄目よ、もしかしたら本当に危険なのかもしれないのよ?」

「でもさ、私って頭脳労働苦手だから。私が当たって砕けても、後のことは二人が何とかしてくれるでしょ」


 この根拠のない蛮勇ばんゆうは一体どこから湧いてくるのだろうか。

 神宮院が唖然あぜんとしていると、風見が佐々川の肩を掴んで、


「チカ姉ちゃんにそんな危ない真似はさせられないって。危ないことは僕がやるからさ」

「そーちゃんは、縁を切りたい相手はいる?」

「ん? えーっと……」

「私にはいないよ」


 ケロリとした声で佐々川は言い切る。


「だからほら、そんな人が女神さんに語りかけてみたら、どうなるか実験してみるのもいいんじゃない?」

「…………」

 

 佐々川の勢いに、風見も神宮院も閉口した。

 

「それじゃ、後はよろしく。何かあったとしても、骨は拾ってね」

「佐々川さん、そんな物騒な……」


 神宮院が言い終わらないうちに、佐々川は『質問』を始めた。



 ――女神様、女神様、あなたは誰が好きですか



 しんとした静寂が中庭に満ちた。

 先ほどまで響いていた部活動の声も今は消え去り、聞こえるのはただ噴水の落ちる音だけだった。


「何も、起きませんわね……」

「何も起きないっすね」


 佐々川の先走りを止められなかった二人だったが、顔を見合わせ、異口同音に安堵あんどの声を漏らした。

 ところが――


「そ、そーちゃん、あれ!」


 佐々川が指さした女神像は、ギギギ――という異音とともに、首を回して三人を見据えた。水瓶を小脇に抱え、池の中へと一歩、足を踏み出したのだ。

 動き出した石像は、三人に近づいてくる。決して俊敏な動作ではないが、石像が動くという事実だけで、十分な威圧感があった。


 それに、いざ動き出してみると、女神はかなりの大柄であることに三人は気づいた。身長は、平均的な男子である風見よりも高い。


「う、うそ……」


 後ずさる佐々川の眼前に、風見がおどり出た。躊躇ちゅうちょはまったく感じられない、すばやい動きだった。

 曲がりなりにも、これまで奇怪な現象を相手に立ち回って来ただけはある。


 風見は両手を広げ、


「ちょっと待った。僕の幼なじみに勝手な真似はさせねぇよ。チカ姉ちゃんを連れていくなら、まず僕を倒してからにしろ」

「そーちゃん……」

 

 女神像は無機質な表情のまま、歩みを止めずに風見の前までやって来ると……水瓶を抱えるのとは反対の手で風見の頭を抱きかかえた。


「んむっ!? んん……!」


 そしてそのまま、自らの胸に、風見の顔面を沈めたのだ。豊かな双丘そうきゅうは、石で造られていて、堅いはずなのだが――


「や、やわらかい! ……ん、んぐぐ」


 喜びとも、戸惑いともつかない風見のうめき声が中庭に響いた。


「そ、そーちゃん!」


 ――ここで物語は冒頭に戻る。


 ■ ■ ■


 佐々川の悲鳴がこだまする――

 神宮院は目の前の異変に思考が追いつかず、目を白黒させていたが、風見がそのまま池のほうへと引きずられて行くのを見て、ようやく気を取り直した。


「と、止まりなさい!」


 女神像に駆け寄り、風見の頭をがっちりとホールドする腕に組み付く――不思議なことに、確かに人肌のように柔らかかった。しかし、体温は感じられない。それが不気味さに輪をかけていた。


 佐々川も同じようにして石像にすがるが……止まらない!


 二人分――いや、三人分の体重などお構いなしに、女神像は池のほとりまでゆっくりとしたペースで歩き続け、へりまたぎ、池へと沈んでいく(、、、、、)


 池はひざの深さ程度しかないはずだが、女神像はもう腰までその身を沈めており、風見を抱えたまま、なおも深みを目指す。


「佐々川さん、これ以上はっ!」


 このままでは全員引き込まれてしまう――そう判断した神宮院は、しがみつく佐々川の腕をはがして、引き倒した。

 その勢いで、二人して尻餅をつく。


 見ると、女神像は後頭部だけになっており――じきに全身を池の中へと沈めてしまった。


「な、なんで……!」


 慌てて佐々川が池を覗き込むが、水面には彼女の顔が映り込むだけで、どこにも風見の姿は見当たらない。


「そんな、どうしてそーちゃんが……」


 佐々川は膝から崩れ落ち、がくりと項垂うなだれた。



(第43話 風使いと「噴水」(2)【七不思議編】 終わり)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ