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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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第36話 風使いと「ピアノ」(3)【七不思議編】

「ふむ。では小僧――いや、風見少年たちにも、『奴』の姿は見えていたということか……」

「そうなんだよ」


 風見は、数学の試験監督だった天川と親しいらしい。聞けば、生徒会の臨時顧問なのだそうだ。テスト終わり、解答用紙を運ぶ天川を廊下で捕まえて、話を聞いてみた。

 美山は、二人のやり取りを横で窺う。


「僕と美山、それに穂々乃木と蕨野にも見えたみたいだ」


 美山の背後で、穂々乃木たちは黙って頷く。

 風見は続ける。


「もちろん歌も聞こえた。あんたも見えてたんだろ」

「うむ。かつて校内を徘徊していた際にも、奴の気配はあった。我輩は人間以外に興味はないから放っておいたが……まあ、それはお互い様だったようだがな」

「あれって何なんだ? やっぱ幽霊?」

「大雑把にくくるなら、そうだろう。特に害を及ぼす類ではないと見える。気にしなければそれでいい」


 天川の発言に所々意味の分からない言葉が含まれていたが――今は気にすまい。美山は、二人の会話に割って入った。


「そういう訳にもいきません。テストにまったく集中できないんです。気味悪いし……それにあんな大声で歌われたんじゃ、たまったもんじゃありません」

「そうだぜ。テスト中に立ち上がってぶん殴る訳にもいかないし」

「……風見少年、幽霊を殴ろうとは中々の度胸だな」

「ともかくさ、あんた、曲がりなりにも教師なんだろ? 生徒がテストに集中できるように取り計らってくれてもいいんじゃねえの。あんたなら、できるだろ?」


 風見は挑戦的な視線を天川に向ける。

 天川はわずかに眉を吊り上げたが、


「そこまで言われては、牙を剥くのもやぶさかではないが……しかし残念ながら、次の時間は一年の教室に行かねばならんのでな。少年らが、自力でどうにかするしかあるまい。さすがに他の教員には『奴』は見えんし、干渉もできんだろうからな」


 天川の言葉に風見が唸る。

 後ろで、穂々乃木たちが囁き合う。


「ねえ、天川先生って除霊師か何かなのかな……」

「…………うん、きっと。鬼の手とか持ってるんだよ。バリバリ最強ナンバーワンなんだよ…………」

「私、赤いちゃんちゃんこはトラウマなんだよね……」


 私は『まくらがえし』が一番ショックだったな――と美山は思った。


「我輩はもう時間がない。相談には昼休みにでも乗ってやる……が、一応教師として撃退方法のヒントくらいは与えてやろう」


 そう言って天川は、モーツァルト対策について語り出した。どうにも理解しがたい内容だったし、実行できるようにも思えなかったが、風見は何故か自信満々に頷いていた。


 そして天川が去った後、風見とその実行方法について相談したが――――美山にとっては、随分と気の重い作戦になった。


 ■ ■ ■


 休み時間はあっという間に過ぎ、現代文のテストが始まった。

 今回の試験監督は、クラス担任でもある高座山こうざやまだ。慣れた様子で教室内を歩き回る。


 ……風見の前でだけ滞在時間が長いが――それはカンニングを警戒しているというより――風見のねっとりとした視線に対する、高座山からの抗議のように見えた。


 そんなおり、現れた。

 またしても唐突に、美山の視界にモーツァルトは現れた。

 

 教卓の上に土足で立っている。

 気づいたら、そこにいた。


 美山は思わず悲鳴を上げそうになって、慌てて飲み込んだ。

 前方の席にいる穂々乃木も似たようなリアクションだった。


 教卓には、くるくるカールの白髪に、赤いジャケットを羽織ったモーツァルト。両手を広げて、これから交響曲の指揮でも始めようか、といった風情だ。

 高座山は気づかない。視線は教卓の辺りを通過しているはずなのに、見えていない。


 ――もし見えていたら、高座山は問答無用で蹴り飛ばしているだろう。


 やはり、自分たちでやるしかない。美山は意を決して、手を挙げた。

 高座山が近づいて来る。美山はそれを待たずに立ち上がり、

 

「先生! 先生って彼氏はいるんですか?」


 と、大声で問いかけた。クラス中の視線が向けられる。高座山は呆気にとられたように立ち尽くしていたが、目を鋭くして声を張り上げた。


「――な、美山さん、何を――今はテスト中ですよ!」

「そ、そうですよねえ……」

 

 秋真っ盛りだというのに、美山の顔面には滝のように汗が流れる。

 ……いくら風見から目を逸らさせるためとはいえ、あまりにも失うものが大きいのではないだろうか。今更ながら、酷く後悔した。


 高座山が更に口を開いたところで――美山の後方に座る、蕨野からも援護射撃が放たれた。


「わ、私も先生の恋バナ、聞いてみたいです!」


 続いて、廊下際の席で穂々乃木も立ち上がる。


「……せ、先生は、小野田くん派ですか、御堂筋くん派ですか? そ、それとも巻島さん派ですか……ッショ。私は断然、荒北さん派です……!」


 慣れない大声を出したせいなのか、言っていることがよく分からない。

 しかし、少年漫画にも造詣ぞうけいが深い美山は、辛うじてロードレース漫画の話題であることに気づくことができた。ちなみに、美山は手島さん派だ。


 ……ともかく。

 謎の連携プレーに、高座山は目を白黒させ、静かだった教室は途端にざわめき始め、教卓のモーツァルトも、突然の不協和音に怪訝な表情を浮かべる。


 いまこの時、クラスの注目は右半分――つまり廊下側に傾いており、反対側は完全に死角となっていた。


 ――そして美山は視界の隅で、窓を背景に立ち上がる風見の姿を捉えた。


(よくやった、美山!)


 口角を吊り上げて、そんなメッセージを送って来たように思えた。

 風見はそのまま、両手をモーツァルトの方向へとかざす。




『幽霊とは霊波の集合体だ。電気信号に置き換えられることもあるが、乱暴に言えば、分子の波の塊だ』


 先刻の、天川の説明が思い浮かぶ。


『故に、その波を中和してやればよい。例えば、逆相ぎゃくそうの波をぶつける……などだな。退治とはいかずとも、存在を揺らしてやるくらいはできるだろう。』


 疑問符ばかりが浮かぶ説明だったし、仮に『波を中和』という行為が幽霊の撃退に有効だったとして――何の仕掛けもないこの教室で、どのように実行すればいいのか見当がつかなかった。


 だから、美山たちは首を傾げた。

 ……唯一、風見以外は。




 教卓に手のひらを向け、風見は言った。


「僕らの教室は僕らが守る。時代遅れ(クラシック)なあんたには、悪いがご退場願うぜ……!」


 そして一際ひときわ大きな声で叫んだ。


「――『凪草の旋律(ノイズキャンセラー)』!!」


 ぶわっと。

 風もなく空間が揺れた――気がした。

 廊下側に注がれていた目線が、一斉に風見のほうへと向きを変えた。


 しかし美山はその波には乗らず、立ち上がり、教卓を見やる。


『オ、オオオヲオーー!』


 モーツァルトの姿は、揺らめく陽炎かげろうに飲み込まれ大きく歪んだかと思うと、悲鳴とともに、虚空に消えた。


「「よっしゃあ!」」


 その様子を見届けた風見と美山は、揃ってガッツポーズを決めた。


「――――あ」


 そして美山は見た。

 目の前で、こめかみに青筋を浮かべ、マグマのような怒りを抑えこんでいるらしい高座山の顔色に気づき、戦慄した。


「……四人とも。後で職員室に来なさい。それまでに、人体には骨が何本あるのか予想しておいて。ネットは禁止。生物の先生に聞くのもダメ。……誤差の分だけ折ってあげる」


 もはや美山は、えへへ、と引きつった笑いを浮かべるしかできなかった。


(第36話 風使いと「ピアノ」(3)【七不思議編】 終わり)

まだ続きます。

今回は6部構成くらいで収まる……はずです!

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