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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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第16話 風使いと「生徒会」(5)【七不思議編】

『ではさらばだ――』


 銀色の犬はそう言って――少なくとも空良(そら)にはそう聞こえた――背を向けた。

 空良はリフティングで敗北した精神的ダメージが抜けきっていなかったものの、辛うじて、窓を開けて中庭に向かって叫んだ。


「先輩! 二階です! 早く――」


 そしてすぐさま『挑む犬』を追いかけた。

 階段を風のように下る。

 先ほど校舎内を回っていたとき、一階には一年生がたむろしているのを確認していた。つまり、『挑む犬』が逃げこむなら二階だろうと、空良はそう判断した。


 その予測は的中し、二階の廊下へと折れ曲がる犬。

 見事なフットワークで追跡する空良。

 廊下の向こう側には――


「うわっ! こ、こいつか……?」


 息を切らし、目を丸くする風見の姿があった。

 空良の思惑どおり、『挑む犬』を挟む形になった。


「先輩! こいつです!」


 空良の性格ゆえなのか、それともチームスポーツで培われた習性なのか、毛嫌いしていたはずの風見との連携も、今の彼にとっては『得意科目』である。

 

『ふん――やるではないか、小僧』


 銀色の犬の『声』が響く。


「うえ? な、なんか言ったか? 空良?」

「……先輩、信じられないでしょうけど、その犬、……しゃべるみたいです」


 言いながらも空良は、自分の発言に自信が持てずにいる。

 犬はチラリとこちらを窺う。


『小僧ども、いいだろう。もう一度戦ってやろう』


『挑む犬』などと言いながらも、その態度は王者の風格。

 若輩どもの挑戦を受けて立つ、歴戦の勇者。

 相手の土俵で戦うことを決めた真の(おとこ)が放つ、威風堂々たるオーラだ。


「まじでしゃべるな、こいつ。つーか、テレパシー? 頭の中に響くぜ……。はは、いいね! 燃えてきた」

『ふん――』


 風見のテンションは、本当に上っているようだった。

 睨み合う二人(一人と一匹)の間に、『ゴゴゴゴゴ……』という謎の効果音が湧き上がる。

 しかし冷静に見れば、校舎内に迷い込んだ野良犬を捕獲する図でしかない。


『貴様の得手とするものは……何? 貴様、何者だ』


 初めて犬が戸惑い――訝しげな表情をする。

 いや、空良の側からは顔は見えないのだが、そんな声と仕草だ。


「へぇ――まじじゃん。まじで妖怪変化かよ。いいぜ、やってやる。八つ裂きになっても知らねぇぜ。風使いに挑んだことを後悔しな……」


(な、なんだこれ――?)


 風見の方向から、熱風が吹いてきたような気がした。これも空良の錯覚だろうか。


『ふむ、良いだろう。我輩、人間のメスに興味はないが、それが貴様の得意とするところであるならば――』

「ん?」


 空良と風見の疑問が重なる。


『よかろう! スカートめくり勝負だ!』


 世にもおぞましい勝負が始まった。


 ■ ■ ■


 銀色の犬は、何かを叫ぶと、一瞬で空良の脇をすり抜け、階段へと走った。


「ちょ、待て!」


 慌てて空良が振り向く。と、同時に、風見が空良を追い抜いていく。

 信じられない速さだ、いくら陸上部員とはいえ、まるで風に乗っている(、、、、、、、)かのような俊足。


 この点においては、空良は風見のことを早くも見直した。


「――って、感心してる場合か!」


 すぐさま空良も二人の後を追う。

 一階に下りたようだ。

 しかし、一階には他の生徒が……

 いや!

 もし本当に『スカートめくり』勝負であるのなら、生徒が居なければダメなのか!

 しかも女子生徒が――


 空良の血の気がさあっと引く。


 ■ ■ ■


「でさー、まじでヤバイって、相手大学生だよ?」

「うわー、リサよく無事だったよね」

「まあねー」


 一階では一年女子が三名、廊下でダベっていた。

 制服をやや着崩し、髪の色も明るめだが、三者三様、美人と言っていい相貌の持ち主だった。

 そこに、銀色の疾風が吹き荒れる。


『――犬怒重来(けんどちょうらい)!』


 彼女たちは、そう耳にした気がした。

 捲土重来? 授業で習ったような……

 見た目と裏腹に、彼女たちの授業態度は良好だ。


「くっそ――ってうわ!」


 廊下の向こうから、そんな声が聞こえた。

 彼女たちの動体視力で捉えられたのは、走り来る変態――じゃなくて先輩。

『セクハラ大魔王』の名でお馴染み、二年の風見爽介だった。

 彼の視線の先には――彼女たちのめくれたスカート。


「っ、きゃああ!」

「へ、へんたい!!」

「ひゃあ!」


 順番としては、本来、『犬、スカートめくれる、風見』という順番なので、これは風見のせいではないのだが、彼女たちは知る由もない。

 彼女たちには、例の先輩がすさまじい勢いで駆けて来て、三人のスカートをめくったようにしか見えない。


「いや、違う! 僕は……」


 風見は走りながら何か言っていたが、もはや無意味だった。


「このっ――変態!」


 三人の内、浮気した彼氏をたった一撃で撃沈した経験のあるアリサが、風見に対してカウンター気味にラリアットを繰り出す。


「ん、げふっっ――!」


 首のあたりにアリサ・ラリアットが直撃し、まさに『犬も歩けば棒に当たる』状態の風見がダウンしかかる。

 しかし、風見の後ろから空良が駆けて来て、その肩を抱きかかえる。


「先輩! しっかり!」

「……お、おおう。あ、あの犬野郎! いくぞ空良!」

「はいっ!」


 驚異的な回復力を見せる風見。それもそのはず、彼の家庭における苦難は、この程度ではないのだから。

 姉の暴力という名の凶器に比べれば、この程度、風見にとっては運動会のゴールテープに等しい!


「な、なにあいつら……」


 仲よさげに走り去る男子二人組を、アリサたちは呆然と見送った。

 ちなみに、空良は風見の舎弟だという噂が一年生の間でまことしやかに伝わり、彼が艱難辛苦を味わったのは、また別のお話。

 

(第16話 風使いと「生徒会」(5)【七不思議編】 終わり)

※次話、『挑む犬』完結編は6/1(月)更新予定です!

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